(バカリズム)だってもう、『オードリーのオールナイトニッポン』って『北の国から』じゃないですか。もう長い年月をかけていく中で変わっていく、その成長が見られるっていう。仕事の移り変わりだったりとか、どんどん増えていったりとか。だから「ああ、すごいいいやり方だな」と思って。僕、もうやったのが30代半ばとかだったから。
(佐久間宣行)でも実はですけど。俺、升野さんの仕事ぶりを見てると、絶対升野さんもそういう風に悩んでるじゃないですか。だって悩んでなかったら、年間単独ライブを6本とか、やらないですよ(笑)。頭おかしいよ、あれ(笑)。一時期、単独ライブを4本から5本、年にやっていたじゃないですか。だから2ヶ月に1回、10本ネタ書いて。だから普通のピンの単独、『バカリズムV』っていうVTRを見せる単独、『バカリズム案』っていう案を見せる単独っていうのがあって。
それがさ、年に3、4本あるなと思っていたら、『バカリズム THE MOVIE』っていう映画のやつをやっていて(笑)。で、それって実は、悩んでいなきゃやらないじゃないですか。あの数。要は「テレビバラエティの中でちゃんとした着地を自分はなかなか取らないだろうから、とにかく筋肉をつけてやるぞ!」っていう。
(バカリズム)そうですね。ライブをしっかりやってるからこそ、バラエティでもやっていけるみたいな、ありました。なんか自分の軸足の部分ですよね。
(佐久間宣行)そうですよね。それが明らかに過剰な時期があったじゃないですか。で、その過剰な時期に俺とかオークラさんは正直……これ、言えなかった俺たちが悪いんだけど。心配してたわけですよ(笑)。「えっ、ちょっとなんか肩の筋肉だけつきすぎじゃね?」っていう(笑)。
(バカリズム)明らかにバランスが悪くなるっていう(笑)。「それ、バット振りづらいぞ?」みたいな(笑)。
(佐久間宣行)そうそう(笑)。「逆にあのスイングの人になっちゃうから、俺たちは呼びづらい」みたいな。というのはあったけど。でも、いつの間にかそのバランスを取りながら、升野さんなりの番組の回し方があって。ピンで司会とかやるようになって。そしたら今度、ドラマの脚本に踏み出すわけじゃないですか。2014年かな? 『素敵な選TAXI 』っていう。その時も本当だったら、悩みながら選んだ道の1個でしょう。きっと。
(バカリズム)そうですね。
(佐久間宣行)あの頃って今よりも全然お笑いブームじゃないから、ネタが全然できない時期でしょう?
(バカリズム)できないですね。うん。ネタ番組もそんなにないし。やらせてもらってはいるけど……でも本当、単独はずっと年に4本やっていきたかったんですけど。なかなかそれもできないし、事務所に負担をかけちゃうから。
(佐久間宣行)そうですよね。あと、やっぱその時期ってテレビバラエティとか仕事的にできなくなりますもんね。
(バカリズム)で、やっぱり同世代にたくさん競争を相手もいるし。なんかで自分のオリジナリティーを出さなきゃいけないってなって。そんな中で「脚本、やりませんか?」って。「ああ、まだ誰もやってないから。これは1個、芸人の付加価値としていいな。ありがたい」と思って始めたのがきっかけなんで。やっぱり芸人である自分のためにやったから。元々、別にドラマをすごい見てたわけでもないし。
(佐久間宣行)わかります。あれは、そんな話はあんまりしてないですけど。「ここだったら長尺でお笑いとかコントを見せられる」っていうものからスタートですもんね。
(バカリズム)「もうコントバラエティはなかなか今のテレビでは難しいな」って思っていた時期でもあって。で、スタジオコントも結構やり尽くされてるっていうのがあったから、何か新しい見せ方ないかな?って。「ああ、ドラマっていうフォーマットがあるじゃん!」みたいなのは自分の中にありましたよね。
(佐久間宣行)で、それは、だから升野さんって実はその単独をすごいやってる時期もそうだし、ドラマに踏み出した時期もそうだし。アイドリング!!!とか朝日奈央との関わり方も言うと、これは人一倍考えるからめちゃくちゃ悩んでるんだよ。でも、しゃべんないだけ(笑)。
(バカリズム)九州男児だから(笑)。そうなの。歯を食いしばってこらえちゃうっていう。
(佐久間宣行)歯を食いしばって知らねえふりをして。それで、もう完成させた状態でしか世の中に出さないぞと。だから……っていうだけですよね。
(バカリズム)これが自分の生い立ちも関係してて。やっぱりこう、なんていうんですかね? 本当に『北斗の拳』の世界みたいなところで育ってきてるから。田川という血気盛んなところで育っていて。もう小学校1年からクラスで喧嘩のランキングがあって。それで全ての序列が決まる。もう強いやつが偉いっていうようなところで。だからもう、小学校の喧嘩だから涙を見せたら負けなんですよ。だから「自分の弱いところを見せたら、明日から自分は最下層に行ってしまう」っていうのがあるから。どんなつらいことがあっても平気な顔をしているっていうのが小学校の時は身についているんですね。
「弱いところを見せたら負け」の世界で育つ
(佐久間宣行)なるほどね。じゃあ芸人になってからも、だからその悩んでる時期とかがもしあっても、それはもう見せない?
(バカリズム)見せない。「そうしたらすぐに俺はもう仕事が全部減ってしまう。終わってしまう。消えてしまう」みたいな。
(佐久間宣行)「ちょっとで俺は弱みを見せたら、誰からも慕われなくなる」みたいな。
(バカリズム)そうです(笑)。自ら、いばらの道を歩んでしまったっていうことですよね。
(佐久間宣行)だからもう本当に結構に結果……まあ「結果」というのはいろんな結果あるだろうけど。升野さんの場合は「ネタの面白さ、ネタの新しさ。それを続けない限り、俺は干される」と思いながら働いているっていう?(笑)。
(バカリズム)もういらねえ。存在価値はないっていう。ライブに来てもらったら「なんか奇抜なことやってるな」とか「ああ、そんな角度があったんだ」って常に思わせなきゃいけない。でも、そんな新しい角度、もうないじゃない?(笑)。
(佐久間宣行)フハハハハハハハハッ! いや、ないですよ。そりゃないですよ(笑)。
(バカリズム)ないんですよ(笑)。
(佐久間宣行)ないけど毎回、だってコントも1個ずつ……言ってみれば升野さんのコントって基本、切り口を毎回。
(バカリズム)そうしなきゃいけないなって思いながらも……そうですよね(笑)。どこかちょっと、なんかもうちょっと、滑らかにしていかなきゃいけないなと思っているんですよ。もう、そうもいかなくなってくると思うし。もしかしたら、もういかなくなっているのかもしれないし。そういうのはもう10年ぐらい前から思っているんですよ。
(佐久間宣行)なるほど。その自分の考えるシステムとか自分の考えた、脳みそから出てくるものが完全に毎回新しいとは限らないっていうね。
(バカリズム)そうです。「古い」と思っておいた方がいい。その代わり、ちゃんと笑いさえ取っていればいいみたいな。そこはもう、そうですね。そういう風に考えてますね。
(佐久間宣行)そういう意味で言うと、だって若林くんがラジオの中でネタのことで言っていることとか。若林くんの場合は要は「春日」っていう人がいるから。春日を使ってやれることの限界とかも話しながら。だから、おじさんになるにつれて楽になっていくっていう話とか、あるじゃないすか。
(バカリズム)ありますよね。
(佐久間宣行)で、東京03は逆に言うと、おじさんになってからの方がどんどん面白くなっている感じ、しません?
(バカリズム)そうですね。どんどんどんどん味が出てくる。
(佐久間宣行)それで今となってはもはや、角田絶好調みたいな(笑)。
(バカリズム)絶好調。もうどんどんと脂が乗ってきて(笑)。なんか、あんまりもういじれなくなっているじゃないですか。
おじさんになるにつれて開放される人たち
(佐久間宣行)いじれなくなってくる。あんなに……要は03の中でも「ダセえ」とか、そういういじり方をしてたのが、なんだったら一番芸人で演技が面白い人とかになってきているから。ああいう、ずっと一緒にやってきた人が歳を取って開放されていく様とか、どうやって見ているんですか?
(バカリズム)いやー、「いいな」って思いながら。「ああいう出し方、上手いな」とか。でも、あれはもっと10年、15年前に最初に種を植えておくべきだったんですよ。
(佐久間宣行)「弱さを見せられる」っていうね。
(バカリズム)そうそうそう。それが今、花開いている感じじゃないですか。俺はなんにも植えてなかったから。
(佐久間宣行)要は、その「弱さを見せる」だったり「自分の素を見せる」っていうことに関してはね。
(バカリズム)そうそうそう。俺はそこにアスファルトを敷いちゃったもんだから。ガチガチに固めちゃったもんだから(笑)。だからもう、どうしようもないですよね。「どうしようもないですよね」って言っちゃった……(笑)。
(佐久間宣行)フハハハハハハハハッ! 悩み相談じゃないんだから(笑)。
<書き起こしおわり>