宇多丸さんが2020年9月23日放送のTBSラジオ『ACTION』に出演。DJ松永さんとヒップホップと価値観のアップデートについて話していました。
本日はゲストコーナーに、 #RHYMESTER #宇多丸 さんをお迎えしてお送りしております。いつもとは違って真面目な話を…#action954 pic.twitter.com/bvHlvoegnz
— ACTION (@action_tbs) September 23, 2020
(DJ松永)でも俺はあと、宇多丸さんを見ていて思うのは、ヒップホップって、いろいろ言い方は難しいけど。結構倫理観とかから外れたところとかが魅力的な部分だったりするじゃないですか。暴力性みたいなところって。で、それこそMCバトルとかも元々、ギャング同士の抗争が言葉の戦いになって……みたいな経緯とかを踏まえると、元々そういう結構暴力的なものだったりするじゃないですか。でも、このヒップホップの魅力と、なんだろうな? この価値観も昨今の価値観のアップデートぶりとどんどん乖離が激しくなってるなと思っていて。
(宇多丸)そうかね?
(DJ松永)MCバトルとかを見て、そのバトルの言葉の内容とかで炎上してるのを見ると、なんかどこまでヒップホップってマスに広がるんだろうとか、いろいろ考えるんですけど。ウタさんってどう折り合いをつけているのかな?ってすごい思うんですよ。
(宇多丸)ああ、でも俺は逆にヒップホップって、アメリカとか世界的な動きを含めたものですけど。実は要はさ、乱暴なことを言ったりとか、いろんなことしたりするのも要は既存の価値観に対する問い直しとかさ。たとえば人種的な固定観念に対する問い直しとかっていうことだから。実はその、意識のアップデートっていうところとは全然、むしろ一致してるっていうか。
だから「意外や意外」と言っては失礼だけど。たしかに、たとえばミソジニーだったりとかホモフォビア、女性嫌悪みたいなことは根強く見えたかもしれないけど。いち早く、たとえばその同性愛というものに対する寛容さというのをシーンとしてちゃんとアップデートしていこうぜってやっていったのもヒップホップシーンだし。あと、もちろん女性別蔑視的な表現っていうのは要するにあれはストリートの乱暴な兄ちゃんがいきがるためのワードではあったかもしれないけど。
同時に、女性ラッパーの活躍……今はそこが主流になってきていて本当に素晴らしいことだけど。常にどの時代にもいた強い女性ラッパーたち。で、そういう女性ラッパーたちの言っていることが決して全然、男たちに媚びたようなことを言っていたわけでは全くない。それは彼女たちの、自分たちの言葉で自分たちの主張をしていたわけで。
僕はね、そう。どんだけ見た目が乱暴に見えても、聞こえが乱暴でも、その時代に合わせたアップデートってヒップホップはむしろ全然できてきてるっていうか。それがジャンルの機能に組み込まれていると言っていいとすら思っているかな?
(DJ松永)ああ、そうなんですね。
「アップデート」はヒップホップの機能に組み込まれている
(宇多丸)もちろん、その日本のシーンのたとえばバトルとかね、そういうちょっと局地的なところを見るとまた見え方が違うのかもしれないけど。トータルではそういうもんだと俺は思ってますけどね。だからたとえば僕がすごい好きだった、最初に好きになった時代のヒップホップってすごくコンシャスな、メッセージが強いラップが流行っていたこともあるんだけど。たとえばパブリック・エナミーというグループがいて。
それこそ今のBlack Lives Matterに全然連なるようなメッセージを言っているわけですよ。たとえばその歌の中で「エルビスとかジョン・ウエインは多くの人にとってヒーローだけど、自分にとってはこいつらは人種差別主義者なんだよ」っていう。で、「自分にとってのヒーローはスタンプ(切手)になっていない」という。つまり、一般には認められてないじゃないかっていう、そのアフリカン・アメリカンとしての主張みたいなものを80年代後半とかにやってるわけじゃない。
(DJ松永)ああ、そうですね。
(宇多丸)それで「ああ、こういうことを言っていいんだ! そうだよな!」みたいな。で、すごく僕も昭和生まれの男性として価値観の転換がすごいいろいろあったし。たとえば、そのアフリカン・アメリカンというかいろいろ……「有色人種」って言い方も古い言い方ですけど。いわゆる白人種以外の文化っていうのが全然かっこいいなっていうかさ。今までなんでその白人文化だけをかっこいいと思われていたんだろうとか。
あるいは、その自分たちの社会の抑圧ある構造とかっていうところに目が向いたのもヒップホップのおかげだし。全然実は、なんていうの? 見た目がとにかく乱暴だったり、知的に見えないかもしれないけど、実はとっても、うん。新陳代謝も激しいっていう良さもあるし、前に進んでる文化だという風に思っていますけどね。現実がそうだと思っている。
(DJ松永)なるほどね。ウタさんを見ていると、その新しい価値観、新しく出てくる人とか価値観に対してめっちゃ謙虚だなと思うんですよ。
新しい価値観に謙虚であること
(宇多丸)いやいや、だって昭和のおじさんですよ。昭和のおじさんなんですから。カンベンしてくださいよ。大変なんですから、それは。その至らぬところは多々あると思いますが。申し訳ございません。ただ、じゃあ令和の若者っていうのもいずれは昭和のおじさんと同じ立場に間違いなくなる。だから、どの時代の人間もその時代、時代の感覚とか限界っていうのに……もちろんその限界があるわけで。だからそういう意味で、誰もが謙虚であるべきで。「今の俺を間違ってるのかもしれない」っていうのは常に疑っていないといけないし。それは誰もがそうあるべきじゃない? なんて真面目な話を……恐るべし!
(DJ松永)「恐るべし」(笑)。最終回となるとこういう話にもなるんですね(笑)。
(宇多丸)最終回とはかくも人を改まらせるもの……。
(DJ松永)本当に(笑)。最終回にならないと人は改まらないってどういうことなんですかね?(笑)。
(宇多丸)悲しいことだね(笑)。
(DJ松永)こうならないとこうならないっていうね(笑)。
<書き起こしおわり>