R-指定とDJ松永 RHYMESTER『ザ・グレート・アマチュアリズム』を語る

宇多丸・Creepy Nuts・サ上 RHYMESTER『だから私は酒を呑む』を語る サウンドクリエイターズ・ファイル

R-指定さんとDJ松永さんが2020年9月13日放送のNHK FM『サウンドクリエイターズ・ファイル』の中でRHYMESTER『ザ・グレート・アマチュアリズム』について話していました。

(R-指定)前回はCreepy Nuts前夜という感じで我々のそれぞれの少年時代から中学生、高校生時代とかを振り返りつつ、ルーツを語ってきたんですけど。今回はDJ松永とR-指定が出会い、Creepy Nutsを結成した頃。そこらへんを思い出してみましょうか。

(DJ松永)なるほどね。

(R-指定)前回はどっちかというとまだDJ松永というよりも松永邦彦。クニね。で、俺もR-指定というよりかはどっちかっていうと野上恭平っていう話をしていましたけども。今回はしっかりDJ松永として、R-指定として出会ってCreepy Nutsを結成していくまでっていうところを思い出してみましょうか。

(DJ松永)まあ、そうですね。約10年前ですか? 出会いは大阪です。

(R-指定)大阪で俺がね、梅田サイファーっていう大阪のラップ仲間たちと出会って一緒にラップしたり遊んでいたりしていた時。当時ね、俺がKOPERUというラッパーと、あとはペッペBOMBっていうラッパーとあとたまこうっていうラッパーとコッペパンっていうグループを組んでいたんですよ。それのKOPERUっていうやつがリーダー的な存在で。そのKOPERUが「同世代のラッパー、DJを大阪に集めてイベントしようぜ!」ってなったんですね。で、当時は10代でラップしてる、DJしてるやつっていうのはめっちゃ珍しかったんですね。

(DJ松永)珍しかった。

(R-指定)かつ、みんなやっぱりちょこっとずつ頭角を現しているのが各地に点々としてたんですよね。

(DJ松永)そうそう。地方でね。

(R-指定)それを全員、大阪に集めようぜっていうイベントをKOPERUが開いて。で、東京からはめちゃくちゃヤンチャな金髪の人とか大きい人が来たりとか。福岡から細い危なそうなやつが来たりとかね。いっぱい来てたんですよ。

(DJ松永)いろんなタイプの危なそうなやつが。

(R-指定)そう。沖縄からもどう考えてもガタイが、もう一番喧嘩が強いようなやつが来たりとかしてる中で、新潟から松永さんが来て。で、大阪の人たちは全員不良じゃなかったんですよ。梅田の奴らも。みんな、どっちかって言うと純粋にラップが好きな普通の兄ちゃんって感じのやつらで。どっちかって言ったらヘナチョコだったんですけど。

そこに不良たちがいっぱい押し寄せて、俺たちはびびってたんですけど、「新潟から来たDJ松永」って紹介されて。「あれ? なんか短パン、サンダルの細長い、ヒョロい、ザコそうなやつが来た:と思って。「おおっ! こいつ、友達になれるやん!」って思って。「おっ、ザコやん!」って思って。「おい、こっち来いよ!」って(笑)。

(DJ松永)「おう、ザコ! こっちおいで!」って(笑)。でもこれ、大事なんですよ。これ、ワンパン食らわされなさそうなやつっていうのはちゃんと1個踏み込んであっちのパーソナルスペース入って。それで気さくに「おう、はじめまして。俺、○○」て言えるんですよ。

(R-指定)言える、言える。害がなさそう。松永さんも俺らを見た時、「ザコそう」って思ったやろ?

(DJ松永)「こいつら全員、ワンパンだな」って思ったよ。フハハハハハハハハッ!

お互いの第一印象「ザコそう」

(R-指定)でもホンマ、第一印象がそんな感じやから。すぐに仲良くなれると思って。それですぐに仲良くなったんですよね。

(DJ松永)でも俺はRさんのこと、「ザコだな」と思った反面、「あっ、スターだ」と思ったんですよ。

(R-指定)あれ? ちょっと……詳しく聞かせてよ!

(DJ松永)フハハハハハハハハッ!

(R-指定)なになに? なに?

(DJ松永)フフフ、こいつ、ダルい! こいつ、これから……めんどくさいわー。めんどくせー!(笑)。

(R-指定)めんどくせー!(笑)。

(DJ松永)「聞かなきゃいけないのかよ?」って(笑)。

(R-指定)ダルいけど、聞かせて?

(DJ松永)こいつ、ダル! こいつがダルい(笑)。まあ、あれなんですよ。本当に同年代のプレーヤーがね、やっぱり地元とかにもいなかったわけですよ。それで、ちょっと一生懸命頑張っていく中で、DJの腕を磨いていく中、10代のDJの大会、『ティーンズ・チャンピオンシップ』っていうのがありまして。そこに何とか応募して予選を勝ち上がって、決勝に上がったんですよ。当時18歳、19歳ぐらいの俺は。18歳かな? その時に俺は、それで初めて新潟・長岡を出て、県外にDJで行ったわけですよ。東京で。それで初めて見る同年代のプレイヤー。その『ティーンズ・チャンピオンシップ』にはDJ部門の他になんとMCバトルの10代の大会もあったんですよ。

(R-指定)ラップ部門もあったんや。

(DJ松永)当時、すごい珍しかったんだけど。「でも同世代のラッパーって俺、実はあんまり見たことがねえんだよな。県外にどれぐらいいるんだろう? 全国レベルってどういうものなんだろう?」っていうことで、こっそり見に行ったんですよ。本番前に。そしたら、もうデカいクラブの広間みたいな部屋の中に10代の結構いかついラッパーたちがみんなで円になって。でっかい円になっていて。で、その真ん中にラッパー2人が出て。お互いにツバを飛ばしながらMCバトルしているっていう。

(R-指定)『ファイト・クラブ』やん。ヤバい!

(DJ松永)「えっ、なにこれ? 『ファイト・クラブ』じゃん!」って思って。本当に(笑)。で、いかついやつらがお互い戦っている中、身長150センチぐらいのちっちゃい、キャスケットを深めにかぶった、なんか『遊戯王』の「未熟な密偵」みたいなやつが出てきて(笑)。

(R-指定)フハハハハハハハハッ!

(DJ松永)「おっ、なんかかわいい……お坊ちゃんじゃん。こんなところに出てきちゃダメよ? お家でママのおっぱいでも吸ってな?」みたいな……(笑)。

(R-指定)いやいや、そんなんテキサスのやつの煽り方やん?(笑)。「家に帰ってママのミルクでも吸ってな!」のやつな。

(DJ松永)で、そんなやつがいかついラッパーをMCバトルでバンバンなぎ倒してたんですよ。

(R-指定)かっけー!

(DJ松永)「えっ、何こいつ?」と思って。で、そいつがそのまま優勝しちゃうんだよ。で、「ええっ?」って思ってそいつの話を聞いたら、大阪のKOPERUっていうやつで。

(R-指定)そいつが俺と組んでいたKOPERUなんですね。

(DJ松永)で、俺はそいつに話しかけに行って。「ヤベえ! 本当にすごいね!」みたいな感じで話しかけに行って。それで当時、mixiとか流行っていたからmixiで友達申請とかして。KOPERUと繋がったりとかして。それで、そのRの言っていた大阪の10代のを集めるイベントとは別に、東京でまず一番最初にあったんですよ。

(R-指定)ああ、10代が集まるイベントっていうのが。

(DJ松永)そうそう。それでKOPERUとか、それこそそれ以外の県外のやつがいろいろ出て。で、ライブをして、DJを披露して……みたいなイベントが行われる中、KOPERUとクラブでドンドン!って音が鳴っている中、しゃべっていて。「いやー、でも本当にKOPERU、今日のライブもすごかった。本当にお前、すごいよな」みたいな感じで。

(R-指定)めっちゃライブもラップも上手いしな。

(DJ松永)そう。結構本当に抜けた存在だったんですよ。

(R-指定)完成されていた。

(DJ松永)もう、かなり早熟だったよね。発声ひとつとっても全然違うから。「お前、MCバトルもすげえし、ライブもすげえし、曲もすげえし。お前、本当にすごいわ」みたいな話をしていて。で、KOPERUが「いや、そう言いますけど、大阪には僕よりすごいやつが1人、いるんですよ」って。

(R-指定)ほうほう。

(DJ松永)「オープンマイクとかでフリースタイルしていて、俺がどんなにカマしても、そいつがひとたびステージに上がってマイク取ったら僕は何もできなくなるんですよ」って言っていて。「えっ、そいつ、誰だよ?」って聞いたら……。

(R-指定)えっ、誰?

(DJ松永)「R-指定っていうんですけど」って言っていて。フハハハハハハハハッ!

(R-指定)ありがとうございます! フハハハハハハハハッ! 気持ちいい! この話、好きやねん、俺(笑)。

(DJ松永)「いやいや、KOPERU、そんなやつ、いないよ! いない、いない、いない!」って言ってそのまま家に帰ってYouTubeで「R-指定 MCバトル」で検索をして動画を見てみたら「……いた!」っていう(笑)。

(R-指定)フハハハハハハハハッ! この話なー(笑)。

(DJ松永)でも本当、Rさんは実際に神童でしたからね。カマしてましたからね。

(R-指定)嬉しい。これ、ありがたい。でも、そう思ってくれたっていう。第一印象的には。

(DJ松永)そうそう。でも「あ、まずはザコだ」って思って(笑)。

(R-指定)「ザコ」と「すげえ」って両立できるねんなっていう。まずそこのびっくりね(笑)。

(DJ松永)「ザコでもやれるんだ」っていう希望(笑)。

(R-指定)でも、俺はあれですよ。松永さんの第一印象。ザコなのは大前提として、でもCDを出してたやん? 『STILL JAPANESE』っていうな。伝説の。

(DJ松永)ちょっといじってるな?(笑)。

(R-指定)いやいや、それで俺は松永さんの第一印象は『STILL JAPANESE』を出していたっていう。で、最初にたぶん俺、松永さんのプレイを見たんよ。で、ヒップホップのクラシックをかけて、その元ネタをかけるみたいなのをやっていて。

(DJ松永)そうそうそう。まず元ネタをかけて、そのネタを使用したヒップホップをかけるみたいな。その前フリを入れながら流すみたいな。

(R-指定)俺らの周りにはすげえDJって基本、いなかったんですね。みんなラッパーばっかりで。それでCDを出してる。そして元ネタから曲をつなげるみたいなプレイを見て、俺の松永さん第一印象は「プロや!」と思って。

(DJ松永)ああ、なるほどね。

(R-指定)「プロが来た」と思って。言うたら、ちゃんと商売にしてるというか。ちゃんとした、お金をもらって出れるレベルの人がおったと思って。俺の第一印象は「ザコとプロ」っていう。

(DJ松永)フフフ。「あっ! ザコとプロって両立できるんだ!」っていう?(笑)。

(R-指定)そうやねん。希望(笑)。

(DJ松永)フハハハハハハハハッ! お互いに希望を与えるっていう(笑)。でも、たしかに当時、CDを出してる人ってあんまりいなかったもんね。

(R-指定)だからまず俺、「1個上でCD出していて。この人、ヤバい! むちゃくちゃプロやん!」って思って。

(DJ松永)俺は行動力だけで持って行ってたから(笑)。

(R-指定)でも、まずすごいねん。それがあることがやっぱりすごいんですよ。

(DJ松永)でも、こんなザコに一番光を当ててくれたらレジェンドがいるんだよな。

(R-指定)いるんですよね。そう。この、なんていうの? 「ザコでもできるとか、「○○でもできる」っていうのを俺たちに教えてくれた。で、そこで俺たちが一気に仲が深まったんですよ。同じミュージシャンを好きやったんです。同じヒップホップグループを俺も松永さんも敬愛していたんですよね。それが……まあ前回も話しましたが、RHYMESTERなんですよね。

(DJ松永)そう。RHYMESTERなんですよ。結局、とどのつまりRHYMESTERなんですよ。

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(R-指定)だって俺が人生ではじめて……それまでZEEBRAさんとか般若さんとかを聞いていて。「かっこいいけど、俺とは別世界の不良の人や」って思っていたのが、「あっ! 俺のことかも?」って思ったのがRHYMESTER宇多丸さんの歌詞で。「1人っ子、テレビっ子で鍵っ子」っていうことをラッパーが言うんだっていうことで。「うわっ、同じや!」って思って。

(R-指定)で、その同じアルバムの中に……『グレーゾーン』という名作アルバム。その中に入ってる『ザ・グレート・アマチュアリズム』っていう曲がまあ、いつまでも俺たちを奮い立たせてくれるクラシックというか。

(DJ松永)そう。「本当にお前でもできるぜ!」って一番言ってくれてる曲だからさ。

(R-指定)Mummy-Dさんなんかは「『猫踏んじゃった』すら弾けないが、韻踏んじゃったらお前もライマー」って言うし。宇多丸さんもね、「すげー敷居低い歌唱法」とか言うしな。

(DJ松永)「ちょうど俺が生きた証拠」ってレジェンドが言うんだよ? かっこいい。泣くぜ?

(R-指定)「俺もやろう!」って思うやん?

(DJ松永)思うじゃん! 「俺もやりますよっ!」って。俺ら、そう思ってここまで来たんですよ。

(R-指定)どう責任を取ってくれるんですか、ウタさん! Dさん! JINさん!

(DJ松永)そう。結局、そうだから(笑)。

(R-指定)最高ですね。そんな2人がいまだに……そのきっかけとなった共通で大好きな曲を聞いてもらいましょう。RHYMESTERで『ザ・グレート・アマチュアリズム』。

RHYMESTER『ザ・グレート・アマチュアリズム』


(DJ松永)お送りした曲はRHYMESTERで『ザ・グレート・アマチュアリズム』でした。

(R-指定)いつまでも最高やな。

(DJ松永)これ、まあ俺らの……ヒップホップの国歌はIncredible Bongo Band『Apache』ですけども。

(R-指定)そうですね。

(DJ松永)でも、俺らにとってのヒップホップの国歌は『ザ・グレート・アマチュアリズム』の可能性、あるよね。

(R-指定)そうなんですよ。で、これは梅田サイファーのやつらも全員大好きで。なぜか?っていうとやっぱり全員不良じゃないし。どっちかっていうと、RHYMESTER寄りなんですよ。みんなね、RHYMESTER大好きで。RHYMESTERに希望を与えてもらったってやつが俺らの周りにも多くて。絶対イベントの最後ではこれかけて、全員で大合唱するし。やっぱり一番日本人が日本人のままでヒップホップしているという曲がこれなんですよね。

(DJ松永)そうなんですよ。「日本人のまま」っていうのがミソなんですよね。RHYMESTERは「それでできるよ」って言ってくれるんだから。

(R-指定)そうなんですよ。それまでは「頑張ってアメリカの不良に寄せた方がいいのかな?」とか「それとも日本の中にある不良性の方に寄っていった方がいいのかな?」とか。「やっぱりどこか悪くないと……」とか「どこかむちゃくちゃじゃない……」って思っていたけども。

「いやいや、全然平凡なお前でも『好き』っていう気持ちだけで……」って。そのアマチュアリズム。「ノイズだらけのアナログレコード 回れば本気モード しゃべくり倒すこちとら素人 気にしねえトチろうと」っていう。その、「いいんだ。初期衝動で。お前が『好き』って感じたその思い、間違っていないよ!」ってずっと言ってくれるんですよね。

(DJ松永)そうなんですよ。それで、もう「めちゃくちゃ奥が深いぞ」ってことも言ってくれてるから。本当に……やっぱりね、今も響くんだよ。本当に。

(R-指定)超いい曲!

<書き起こしおわり>

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