(町山智浩)ねえ。夢の中では1分ぐらいの間にものすごく時間が進むんですよね。で、さらに夢の中で夢を見るともっと早くなるんですよ。で、その3段階ぐらいの夢の中を行ったり来たりするんですよ。この『インセプション』っていう映画は。という、ものすごくややこしいことをやる人なんですよ。
(赤江珠緒)たしかに。やっていることは地味だけど、時間を揺さぶると本当に展開が変わりますね。
(町山智浩)そうなんですよ。だから普通の話でも逆にするだけでミステリーになるっていうのはこの人の考え方なんで。ただね、この映画は地味じゃないです。そのIMAXっていう巨大なカメラで撮影するんですけれども。この人ね、ジャンボジェット機を本当に買ってクラッシュさせています。
(赤江珠緒)ええーっ!
(町山智浩)この映画のためにわざわざ買って。
(赤江珠緒)へー! 今時だったらもうCGでやるとか、そういうことをしますよね?
(町山智浩)そうなんです。ただね、このクリストファー・ノーランという人はCG、コンピューターグラフィックスが大嫌いなんですよ。大嫌いで、とにかく全部本当にやるっていう人なんですよ。だから『バットマン』の『ダークナイト』っていう映画をご覧になりました?
(山里亮太)はい。見ました。
(町山智浩)あの中で、ジョーカーとバットマンのチェイスで超巨大トレーラーが縦に1回転するっていうシーンがあるじゃないですか。あれ、CGじゃないんですよ。
(山里亮太)すごいな……。
(町山智浩)本当の巨大トレーラーに大砲みたいなものを付けて、それで火薬の力で打ち出して回転させてるんですよ。どうかしてますよ、本当に。
CGが大嫌いなクリストファー・ノーラン
(赤江珠緒)へー! じゃあ、今回もジャンボジェット機をどうにかしているんですか?
(町山智浩)本当に1機買って、突っ込ませていますよ。ガシャーン!って。滑走路の倉庫に。そういうね、僕はインタビューで会ったんですけども。この前に『ダンケルク』っていう映画を撮っているんですね。それは第二次世界大戦でフランスのダンケルクっていう海岸からドイツ軍に攻撃されたイギリス軍が撤退して、イギリスにも帰ろうとする話なんですけれども。これは本物の当時の戦闘機を使って撮影してるんですよ。で、ものすごく本物にこだわる人だから、本当は戦闘機がドイツ側もイギリス側も100機ぐらい出て戦ってたんだけども。本物の当時の戦闘機が3機しか手に入らなかったから、3機しか出てこないんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そう!
(山里亮太)本当だったらCGで作っちゃって。ブワーッてできますけども。
(町山智浩)そう。CGでやればいいのに。そこで今度は、そこから脱出しようとするイギリス兵たちっていうのも実際には何万人もいるわけなんですけども。それをCGでやれば簡単なんだけれども、CGを使うのが嫌だったから。ならば、エキストラを雇うかっていうと、それには大変なお金がかかるわけじゃないですか。だから全部、段ボールを切ったやつでやってましたね。
(赤江珠緒)ええーっ!
(町山智浩)フフフ、見ていると全然気がつかないですよ。
(赤江珠緒)気がつかない? 本当ですか?
(町山智浩)全然気がつかないですよ。ダンボールなんだって……たしかに動かないなとは思うんですけども。ダンボールなんですよ。そう。とにかくね、CGが大嫌いだから。『ダンケルク』の中で飛行機が海に突っ込むシーンも本当に実物大の飛行機のモデルを作って海に突っ込ませたんですよね。
(赤江珠緒)こだわりますね。
(町山智浩)ものすごいこだわりなんですよ。だからね、この人の映画は映画館で見ないとならないわけですよ。ちっちゃい画面では……せっかくジャンボジェット機を本当にクラッシュさせてるのに、ちっちゃいスクリーンで見るのはもったいないじゃないですか。だから、そういうものとして映画館を保存する使命に燃えてる男がクリストファー・ノーランっていう人なんですよね。
(赤江珠緒)ああ、そうですか。へー! これね、前番組のジェーン・スーさんがお知り合いがこの映画を見ていて。でも、「時間を遡っていくのは難しい。最初に1回で理解するのは難しかった」っていう風におっしゃってましたけども。
(町山智浩)めちゃくちゃね、難しいんですよ。これ。これはタイムマシーンじゃないんですよ。時間を遡るのには「回転ドア」というものが出てきて。それをくるっと回ると逆にその人が進み始めてるんですよ。時間をUターンするみたいにして。ところが、別にタイムトラベルじゃないから。たとえば10分前に行こうとすると、10分間かかるんです。
(赤江珠緒)はいはいはい。うん。
(町山智浩)10日前に行こうとすると、10日間逆に時間を逆行しなきゃならないんですよ。すごい変な話なんですよ、これは。ものすごい変で。予告編を見ると、みんな酸素マスクをつけてるんですね。時間も逆行している人たちは。それは、その空気を吸って……「酸素を吸い込んで二酸化炭素を吐く」ということができなくなるんですよ。時間を逆行してるから。だから純粋な酸素マスクをつけてないと、空気の中で呼吸ができないんですよ。
(赤江珠緒)リアルななんか……入り組んだ話ですね。
(町山智浩)よくわからないんですけども。すごい変な話ですよ、これ。それでたとえば火が燃えると、熱を与えるわけじゃないですか。周りに熱をね。でも、それが逆になるから、逆に熱を奪ったりするんですよ。だからこれね、ご飯を食べるシーンがないんだよね。逆行した人がご飯を食べるところを見せてほしかったですね。はい。いろんなものが口からモリモリ出てきますから(笑)。ものすごい気持ち悪いと思いますけども。
(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ! そうですね(笑)。
(町山智浩)それはさすがにやっていなかったですね。
(赤江珠緒)へー! じゃあ、結構頭を柔軟にして見た方がいいんですね。
(町山智浩)あのね、考え出すとわけがわかんなくなるんです。この映画は。で、主人公もね、「これ、わけわかんねえよ!」って言うんですよ。そうするとね、説明をしている人が「考えすぎないようにね」って言うんですよ(笑)。
(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ!
(町山智浩)「感じた方がいいわよ」っていうね。「考えるな、感じるんだ!」っていうブルース・リーのセリフを言うんですけども。そのへん、僕は映画館で爆笑しましたけどもね。とういうね、変な映画でね。でもね、アクションはすごいですよ。本当に。体が……その時間を逆に動いてる人と、まっすぐに普通に過去から未来に向かって動いてる人と同士で格闘するんですよ。とっくみあいをするんですよ。すると、要するに逆の人は重力の方向とかも逆に動いてるわけですよ。それと正方向に動いている人のとっくみあいっていう見たこともないものが展開をしていますから。とんでもない映画ですよ、これは。
(赤江珠緒)そうですね。その設定が違うだけで、もう全部が変わってきますね。
(町山智浩)そうなんですよ。だからね、成功しました。これ、映画館ね、お客さんが戻りましたね。
(赤江珠緒)へー! そうですか。
(町山智浩)はい。予定の金額に達しそうです。
(赤江珠緒)すごい!
(町山智浩)で、まあ『ムーラン』の方はどうなるかわかんないですけどね。中国の方でどのくらい当たるかで。もう完全にアメリカの興行は配信だから計算にできないんですよね。すぐに結果はね。で、『ムーラン』の方も実は本当はスクリーンでやりたかった映画なんですよ。
(赤江珠緒)こっちも200億、かけてますからね。
(町山智浩)中国の大平原で大戦闘が繰り広げられるわけですから。ねえ。でもまあ、しょうがなかったっていうところもあるんですけどね。というね、もうハリウッドがどうなるか、今後の映画がどうなるかという運命をかけた映画『TENET テネット』は9月18日から日本公開です。
映画『TENET テネット』予告
(赤江珠緒)はい。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした。
<書き起こしおわり>