町山智浩 2016年アメリカ大統領選挙前夜の現地レポート

町山智浩と伊集院光 投票直前の2016年アメリカ大統領線を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』にアメリカ大統領選挙前夜のニューヨーク・タイムズスクエアから電話でゲスト出演。目前に控えた大統領選挙の状況や現地の様子を伝えていました。

(赤江珠緒)今日はニューヨークからお電話です。町山さん?

(町山智浩)はい。町山です。ちょっと周りがうるさくてすいません(笑)。

(赤江珠緒)おっ! ちょっとノイズが入っていて。外ですか? 町山さん。

(町山智浩)ちょっと静なところに移動します。

(山里亮太)どちらにいらっしゃるんですか?

(町山智浩)いま、ニューヨークのタイムズスクエアのところにいるんですけども。

(赤江珠緒)タイムズスクエアは人がいっぱいですからね。しかもいまは、やっぱりすごく厳戒態勢みたいですね。

ニューヨーク タイムズスクエアから電話出演

(町山智浩)いまね、このあたり。ミッドタウンっていうトランプとかヒラリーさんが明日の投票日にいるあたりは完全に道路を封鎖するみたいですね。

(赤江珠緒)そこまで?

(町山智浩)暗殺とかの可能性、テロとかの可能性があるということで。

(赤江珠緒)わかりました。そちらはいま、何時ですか?

(町山智浩)いま、夜中の1時です。

(山里亮太)その時間でも周りは騒がしいんだ。いま。

(町山智浩)いや、工事しているんですよ。道路工事の音ですね。

(赤江珠緒)なんでよりによってそんなところから電話してるんですか、町山さん(笑)。

(町山智浩)人があんまりいなくて、ドラッグを売っている兄ちゃんとかしかいないんですけど(笑)。

(赤江珠緒)気をつけてくださいよ。町山さん。

(町山智浩)ああ、僕ね、本当に悲しいんですけども。アメリカに20年ぐらい住んでいて、1回も強盗とかに襲われたことがないんですよ。

(赤江珠緒)いいことですよ(笑)。

(町山智浩)周りの人、みんな1回ぐらいは襲われているんですよ。20年ぐらい住んでいると。だから、いかに金がなさそうに見えるかというね(笑)。絶対にね、彼らの前を通りすぎていると思うんですよ。1回は。でも、「ああ、あいつは持ってねえ」っていう風にパスされていると思いますけども。

(赤江珠緒)そうですか(笑)。しかし、いよいよですね。

(町山智浩)いよいよです。あと6時間後ぐらいですね。投票が始まるの。

(赤江珠緒)ここにきて、また差がほとんどなくなったとか?

(町山智浩)いや、そんなことないっすよ。

(山里亮太)やっぱりヒラリーっすか?

(町山智浩)やっぱり、ヒラリーが逆転されるとか言われていたのは、FBIの長官が突然ニューヨークの市長を目指していたアンソニー・ウィーナーっていう議員がいまして。その議員のパソコンを押収して調べたら、ヒラリーのメールがあったと言ったんですね。で、「あった」と言っただけで急にヒラリーの支持率がガーンと下がったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それはトランプが「Eメールの中に非常に重要な国家機密があるんじゃないか?」みたいなことを匂わせて。ヒラリーが大事なメールを削除していたりしたことがあったのでね。で、支持率が下がったんですけども、でもそういう国家機密上の秘密とかじゃ、実際はないんですよ。っていうのはヒラリーさんの顧問をしているフーマ(・アベディン)さんっていう女性がいるんですね。パキスタン系のイスラム教徒で、いつもヒラリーさんの横についている褐色の肌の女性なんですが。

ヒラリー・クリントンの右腕 フーマ・アベディン

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)ヒラリーの右腕と言われている人ですけど。その人の旦那さんがチンコ議員なんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)ウィーナーというパソコンを押収された議員っていうのはニューヨークの市長選に立候補していて。前に下院議員だったことがあるウィーナーっていう人なんですが、それがヒラリーさんのナンバーワンのスタッフの旦那さんなんですね。で、そのウィーナーさんっていうのは自分のチンコを自撮りしてネット上でいろんな女の子に送っていたんですよ。

(赤江珠緒)あっ! その単語、ちょっと聞いたことない単語だったものですから……「チンコ議員?」って……

(町山智浩)チンコ議員なんですよ。

(赤江珠緒)そのまんまだったんですね。なにかのたとえだと……

(町山智浩)しかも、その写真をTwitterのダイレクトメールで送るところをうっかりして普通にツイートしていたんですよ。この人は。

(赤江珠緒)うわーっ!

(山里亮太)いちばんやっちゃいけないミスだ。

(町山智浩)そう。それを2回やっています。2回もやっているんですよ。この人。

アンソニー・ウィーナー

(赤江珠緒)あ、そんなにですか!

(町山智浩)それで、なぜFBIが出てきたか?っていうとインターネット上の犯罪っていうのは各州とか各市が管轄できないんですよ。要するに、領域を超えてますから。それぞれの市や州はそれぞれの中の犯罪しか取り締まれないんですね。だからインターネットでチンコを送る場合は州を超えてますから、これはFBIが出てくるんですよ。それでFBIが彼のパソコンを押収したら、そのFBIが押収したパソコンはヒラリーさんのスタッフのフーマさんと旦那が一時共有していたんで。それで、そこの中にヒラリーさんのメールがあったっていうだけの話なんですよ。

(赤江珠緒)あ、そうなんだ!

(山里亮太)なんか今回のメールの件でヒラリーが致命的なダメージを受けるんじゃないか? みたいに言われていたけど、それほどでもないんですね。

(町山智浩)でも、チンコ議員ですからね! 国家機密とかと関係ないチンコ野郎ですから! 俺、いまニューヨークのど真ん中、タイムズスクエアのいちばんど真ん中で「チンコ! チンコ!」って言ってますけども、誰も気にしてません。

(山里亮太)(笑)

(赤江珠緒)いま、言いたいだけみたいになってますけども……(笑)。

(町山智浩)いくらでも言い放題です! これ、日本でやったら大変な事態ですよ、いま(笑)。あっ、いま「チンコ」っていうのがこだましました。タイムズスクエアに。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)高いビルなんで。はい。まあ、そういう事件なんで。日本の報道はね、「あれはヒラリーに大変なダメージを与えた」とかね、なんかそんなことをやっていますけども。そんなことをないですから! ただの変態野郎ですからね。

(赤江珠緒)ああー、そうですね。そんな話だったんですね。

(町山智浩)そう。大騒ぎすること自体おかしいんだけど。さすがに日本のテレビもね、なぜパソコンをFBIが押収していたか?っていうことを説明しだすと、やっぱりご家庭にいろいろ問題が起きるので言えなかったと思うんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)「この議員は自分の性器を……」とか非常に説明しにくいので。だからみんな大げさに思ったでしょうが、チンコだ! 問題は(笑)。

(赤江珠緒)ああ、そうでしたか。

(町山智浩)ということですね。だからまあ、前も話したんですが、選挙はだいたいね、どうなるかもうわかっています。

(赤江珠緒)結果が?

(町山智浩)はい。あのね、アメリカに1940年からずっと70年以上続いている子供投票っていうのがあるんですよ。子供選挙とか。で、それは教科書を制作している会社がありまして。そこが1940年からずっと子供相手に、学校の小中高生相手にアンケートを取っていて。「どっちの候補に入れるか?」っていうのをやっているんですね。15万人以上のサンプルを取っているんですが、そこで今回、ヒラリーさんが52%で圧勝。トランプは35%しか取れなかったんですよ。で、この子供投票は過去70数年間で2回しか外していません。

(赤江珠緒)ああ、そう!

子供投票の驚異の的中率

(町山智浩)2回しか外していないんですよ。で、1回はトルーマン大統領の再選で、もう1回はブッシュとゴアが、ブッシュの方が票が少なかったのにブッシュが勝った選挙だったので。そう考えると、1回しか外していないと言っていいんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)あれは当てるのが不可能ですから。要するに、ほとんど同着ですからね。ブッシュ・ゴアは。だから、70数年間に1回しか外していない予想だったら確実に当たっていいもので、今回はヒラリーさんが圧勝だと思います。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)問題は、日本のマスコミがいま言った子供投票について全く報じないっていうことなんですよ。で、みんな「僅差です!」とか言ったりするんですけど、そんなことはねえよ! 子供投票を見ろ! 子供に聞け!っていうことですね。

(赤江珠緒)ああ、そうなんだ。

(山里亮太)へー! 「ひょっとしたら、(トランプ当選が)ある」みたいな報道方法ばっかりですよ。日本は結構。

(町山智浩)っていうのは子供って親が言うことを黙っているけど聞いているんですよ。独り言とか。で、テレビにトランプが出たりするとお母さんはイライラしてテレビを消したり。その逆でヒラリーさんが出てくると、「この女は……」とかボソッとつぶやいたりする親の独り言とか愚痴を全部子供は聞いているんですよ。お子さんは。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)黙っているけど、聞いているんですよ。小学生とかで意味がわからなくても。で、それを学校で投票する時に反映されるんですよ。で、親が言っていたことっていうのは、実は僕なんかも子供の前でいろんなことを言ったりしてしまっているんですが、みんな聞いているという恐ろしいことですね。これはね。

(赤江珠緒)そうですね。見事に反映してますもんね。

(町山智浩)子供の前で変なことを言ってはいけない。だから人が人を差別したりするのは、大抵親がボソッと言ったこととかを子供は覚えているんですよ。「○○さんところの××ちゃんは△△で……」とか、すごく偏見に満ちたことを親が言うと、子供は全部覚えているし。もう、俺なんかも非常に、こういう考証をいつも家でやっている時に子供が起きて聞いていたりするんですが。本当に止めた方がいいですね。はい。本当に危険です!全部覚えてます。子供は。記憶力がいいから。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)ということで、子供投票によりヒラリー当選と思いますね。もしこれが、ヒラリーが当選しなかったとしたならば、アメリカ中の親たちは子供の前では嘘をついていたことになっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そっかー。

(町山智浩)だからたぶん、ないんですよ。

(山里亮太)なんかでも、トランプを支持する人もちょっと変わった人が……

(町山智浩)でもこれも、日本の選挙番組や報道番組では絶対に言わないですね。「子供投票によりますと……」とは言わないですよね(笑)。

(赤江珠緒)うん。

(山里亮太)今日、はじめて聞きましたもんね。ここで。まあ、町山さんがおっしゃっているのは……

(町山智浩)だから、子供だと思ってナメているんですよ。日本の報道は。みんな。

(山里亮太)いかに信憑性を持っているか。

(赤江珠緒)本当ですね。

(町山智浩)はい。という話ですけどね。なんか人が「こいつ、なんだ?」って顔で見ているんで、ちょっと人のいないところに……(笑)。大きい声を出しすぎたので、「こいつ、なんだ?」って顔で見られていますが(笑)。

(赤江珠緒)でも、アメリカの地図を見ると本当に内陸部と沿岸部ですごく差がありますね。沿岸部はヒラリーさんで、内陸はトランプを推すみたいなね。

(町山智浩)やっぱり沿岸部は日本の人が行くようなニューヨークであるとか、ロスアンゼルスとか、いろんな人の出入りがあって。それで産業もあって、いろんな会社の本社があって……っていうところですよね。産業の中心ですよね。で、真ん中の方は農業とか重工業。工場とかですけども。そのへんの人たちがトランプを支持しているっていうことに関してはやっぱりアメリカね、前も話したけど1965年以降、ずっと製造業は全部ダメなんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)だから50年以上ダメなんですよ。で、どっち側の民主党も共和党も「アメリカの製造業をよくする。復活させる」とずーっと言ってきたんですけど、50年間ずっと裏切られてきたわけですね。1回もよくならなかったわけですよ。そしたら、さすがに共和党も民主党も信用できないという気持ちに、50年たてばなりますよね?

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからトランプが出てきて、「どっちもぶっ飛ばせ!」って言ってますからね。要するに、「民主党も共和党もウォール街とつながっているんだから、あいつらは信用するな!」って言って。「エスタブリッシュメント(既得権益者)だ!」って言って叩けば、まあトランプに賭けますけども。ただ、この間、伊集院光さんとも話していて、マイケル・ムーアっていうアメリカのドキュメンタリー作家が最近、『トランプランド(TrumpLand)』っていう映画を突然、投票直前に公開しまして。

町山智浩と伊集院光 投票直前の2016年アメリカ大統領線を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『伊集院光とらじおと』にゲスト出演。伊集院光さんと投票1週間前となったアメリカ大統領選挙について話していました。 (伊集院光)町山さん、スタジオにいらっしゃています。よろしくお願いいたします。 (町山智浩)よろしく...

(赤江珠緒)うん。

マイケル・ムーア『トランプランド』

(町山智浩)それを見たんですが、『トランプランド』の中で真ん中に住んでいる、トランプに投票するような人たちの気持ちをいろいろとマイケル・ムーアが代弁していたんですが。それはね、トランプランドと言われるオハイオ州のマーフィーっていう田舎町でマイケル・ムーアが講演会、トークショーをやりまして。それの模様をまとめたのが『トランプランド』という映画なんですが。お客さんはトランプ支持者ばっかり集まっているわけですよ。そういうところですからね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、そこで彼が拍手喝采を浴びたところっていうのは、要するに「50年間製造業の人は裏切られてきて、アメリカの経済はいま現在どんどんよくなっている。で、ヒラリーはそれを押し上げようとしている。いま、景気はめちゃくちゃよくて失業率は下がっている。それをトランプが当選したら、たぶん全部ダメにするだろう」と。ねえ。トランプが当選したら、たぶんいちばん最初に(市場を)開けるのは、日本の株式市場が開けると思うんですね。世界で。

(山里亮太)へー。

(町山智浩)そうでしょう? いや、開けますよね? 地球が回るから、トランプ当選後に最初にオープンするのは東京の市場かな? たぶんそうかな。まあ、どこでもいいですけども、ドルは大暴落しますから。トランプが当選したら。みんな、ドルを売りますから。

(赤江珠緒)うん。信用がね。

(町山智浩)どうなるかわからないから。トランプは「ウォール街を敵に回す」ってはっきりと言ってますから、株は全部落ちますよ。もう大急落して、世界経済はめちゃくちゃになるんですよ。トランプが当選したら。ただ、そうなるってことをトランプランドに住んでいる人たちは知らないのか?って言ったら、知ってますよ。重々承知なんですよ。みんなは。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから、僕はアメリカの田舎を回って、「トランプの言っている経済政策はめちゃくちゃで、アメリカは大変な危機に陥るし、世界経済恐慌になるし。日本から撤退するって言うから、世界の軍事的な安定の崩れますよ」って言うと、みんな「知ってるよ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)知ってる? 知っていても、入れる。

(町山智浩)知っている。「俺たちには関係ねえから」。

(赤江・山里)ああーっ!

(町山智浩)アメリカがいままでどんなに景気がよくなろうが、景気が悪くなろうが、真ん中へんに住んでいる人たちは株も持っちゃいないし、海外とビジネスもしちゃいないし。ただただ仕事がなくなっていく一方だったと。それだったら国境を封鎖して海外(カナダ、メキシコ)に持っていった工場を全部アメリカに戻す。それだけでいいんだ! と。それ以外はだって、影響ないんだもん。彼ら。

(赤江珠緒)そっかー。

(町山智浩)要するに、円高ドル安とかそういったことに影響があるのは海外とビジネスをしている人だけですよ。だから、輸出入をして……この間、ミネソタで日本の富士通とかとビジネスをしていたっていうおじさんに会ったんですけども。彼はすごく、真ん中らへんでも日本とビジネスをしていた人は「非常にトランプを心配している」と言っていましたね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でも、してない人には関係ないんですよ。学校の先生であるとか、消防士さんとか。で、「他のやつらばっかりいい思いをしやがって!」と。グローバリゼーションでアメリカはどんどん、クリントン時代もそうですし、オバマさん時代もそうですけど、どんどんどんどん経済がよくなっていく……「みんな、ぶっ潰してやる!」っていう気持ちですよね。「自分が貧乏なら、みんな貧乏になれ!」っていうね。

(赤江珠緒)巻き込んでやるみたいな。ヤケクソみたいな感じですもんね。

(町山智浩)ヤケクソですよ。で、それでマイケル・ムーアがちょっとやさしい言葉でトランプの支持者たちに「そういう気持ちでしょ?」って言うと、みんな拍手をしていましたからね。まあ、50年間持っていかれたら、それぐらいひねくれてもしょうがないだろうっていう気がします。騙されてきたんですから。「あなたたちのために政治をします。票をください。投票してください」って言いながら投票されると全然ほったらかしにして。それを50年間やられたら、さすがの田舎の人でも「騙されている!」と気づくだろうっていうね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そしたら、「全部ぶっ潰す! トランプが『ぶっ潰す!』って言ってくれているから、ぶっ潰そう! トランプはバカかもしれない。政策も全然ないかもしれない。大失敗するだろう。それでいいんだ。それでいい気になっているやつらにお仕置きを食らわすことができる!」っていうことですね。

(赤江珠緒)そうか。目的がそっちだったら、そうかもしれないですね。

(町山智浩)そう。ものすごく自滅的なんですよ。彼らの考え方って。でも、彼らにはもしアメリカ経済がドゴーン! と落ち込んだとしても、ほとんど影響はないと思うんですよね。そう。だから怖いことに放っているんですが、問題はその人たちの人口がものすごく減っているんですよ。

(赤江珠緒)前におっしゃってましたね。

(町山智浩)はい。だからその中でマイケル・ムーアが言うんですけども。35才以上のアメリカ人男性……つまりトランプを熱烈に支持している人たちっていうのはアメリカ全体でもう19%しかいないんですね。で、そういう人たちは大学教育を受けてなかったりするんですけど、大学教育を受けていない人が、いまアメリカの大卒率が82%になっているんですよ。ものすごい高いんですよ。だから、そういった人たち……高卒のワーキングクラスの白人たちっていうのはもう滅びゆく民族なんですよ。完全に数字的に。

(赤江珠緒)うーん……

(町山智浩)で、その人たちの票を確実に取るという作戦をトランプは取ったんですけど、まあそれ全体的には少なすぎるので、もうダメだろうと。最後のあがきというか、白人男性が大統領になる最後のチャンスなんですよね。もう、今回は。そうした人口動向から考えると。で、しょうがないんですが。ただ、そのマイケル・ムーアの映画『トランプランド』で面白かったのは、「私はヒラリーにいままで1回も投票していない」って言うんですよ。マイケル・ムーアは。「でも、今回初めて投票しようと思う」って言っていて。で、「ヒラリーっていうのはどういう人か、すごく私には偏見があった。ウォール街とつながっているという偏見があって、保守的な民主党員で私はあまり好きじゃなかった」みたいなことを言うわけですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)「でも、彼女についてすごく調べていったら、彼女は最初は理想に燃えて医療保険の改革をやろうとしたんだけれども、共和党によって徹底的に潰されてしまった。で、戦略を変えたんだろう。企業とかいろんな人を味方につけてやる方法を身に着けたんだ。それまではそんなにウォール街とはつながっている人ではなかった。彼女は大統領になったら、そういったしがらみを切って、自分の理想に突き進むんじゃないか?」って言っているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか? ヒラリーさんだったら?

(町山智浩)「大統領になるために全てを利用して、大統領になったら大きな改革をするかもしれないから、『ヒラリーはいままで改革を上手くやってこなかった』という人はちょっとヒラリーに賭けてみてくれ」っていう風に言っていますね。

(赤江珠緒)ああ、1回ちゃんと味方にして。自分が大統領になったら、大ナタを振るうと。

(町山智浩)そう。で、それはね、たしかにそうで。ヒラリーさんってもともと共和党支持の娘だったんですね。で、ずっと共和党支持でやってきて、大学の卒業式に突然、共和党を叩いて。その時、キング牧師を絶賛するという演説を卒業式の演説で行ったんですよ。答辞っていうやつですね。で、彼女がまず政治家になろうと思った最大のきっかけはキング牧師なんですよ。黒人の人権を取り戻した。で、彼女の出発点がそこである限り、そこに戻ってくるだろうと思うんですよ。

(赤江珠緒)はー。

(町山智浩)要するに、虐げられた者の開放、平等というところに戻るだろうと。で、それは大統領だからアメリカ国民だけでなく、世界的なものになるんじゃないかな? という風に言われているんですね。

(赤江珠緒)でもね、町山さんの今回のご著書も読ませていただいたのですが、アメリカってすっごい企業とかがどんどん献金できるじゃないですか。だから、トップ企業とかがものすごいお金を経済界が贈っていて。それを味方に……

(町山智浩)ものすごいんですよ。ヒラリーさんのところに入った献金っていうのは、とんでもない額なんですよ。大企業から入った額は。だからトランプは「俺はもらっていない」と言っているんですけども。

(赤江珠緒)それをやって当選しても、そういうところで大ナタを振るえるもんですか?

(町山智浩)やるんじゃないかな?っていうか、この間のディベートではっきりとヒラリーさんは言っていて。その部分をトランプに追求されたんですね。「お前、大企業から金をもらっているじゃないか」と。そしたら、「スピルバーグの映画『リンカーン』に出てくるリンカーンはありとあらゆる、汚い手も使って黒人奴隷を開放した。黒人奴隷を開放するためだったらどんな汚い手も使った。私はそれをやります」と言ったんですよ。ディベートの時に。

(赤江珠緒)はー! そうですか。

(町山智浩)そう。だからね、改革はあるんじゃないか?っていうね、マイケル・ムーアはそう言ってますね。

(赤江珠緒)そうなんだ。そこがね、日本にいるとなんか、ヒラリーさんになったら無難にいままでのがなんとなく続くのか? みたいな。

ヒラリーの動機、トランプの動機

(町山智浩)まあ、だから経済は伸びる。ヒラリーさんが当選した途端に、株価も上がってドルも上がるでしょうね。それは。ただ、それからヒラリーさんは改革をしていくんじゃないかな? という話をしていましたね。とにかく、ヒラリーさんと対抗していたサンダースさんもそうなんですけども。彼も、キング牧師の戦いを見て政治家になろうと思った人なんですよ。だから、もともとの動機がリンカーンだったりキング牧師だったり、弱い者のために戦うことだったんで。動機がそれだったら、やっぱり人はそこに立ち戻るだろうと思うんですけど。トランプの場合は動機がさっぱりわからないので(笑)。

(赤江珠緒)その時その時で言っていることが違いますもんね。

(町山智浩)いったい誰を尊敬しているのか? とか全然わからないので(笑)。それが、かえって予想がつかないですよね。まあ、誰も尊敬していない人ですけどね。トランプっていう人はね。でも、日本もそうですけど、誰かを尊敬しているっていうのはすごく、そこから外れないように生きようとする上で非常に重要だと思うんですよ。みうらじゅんさんに僕は師事していたんですけど、みうらさんは「ボブ・ディランだったらどうする?」っていつも考えながら。いつもなにかを決める時は「ボブ・ディランだったらどうする?」って考えたらしいですけど。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)ボブ・ディランがノーベル賞をもらったら、どう反応していいかわかんなくて、何日か困って。「やっぱりもらいます。ありがとう」ってあまりにも情けないんで、意外とボブ・ディランは大したことがないんですが。僕がもっと情けないのは、僕はいつも「みうらじゅんさんだったらどうする?」って思いながら生きているんで、もうどうしようもない感じがします。はい。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)ということをニューヨークで話してどうするのか?っていう問題もありますが。

(山里亮太)ボブ・ディランからの、みうらじゅんさんからの、町山さんだったわけですね。系譜は。

(町山智浩)そうなんですよ(笑)。いちばん下なんですよ。僕(笑)。だから僕を尊敬しない方がいいですね。ピラミッドのいちばん下にいる人ですから。僕は(笑)。

(山里亮太)いちばん上にはボブ・ディランがいますから。

(町山智浩)で、ボブ・ディランが尊敬する人はウディ・ガスリーっていうフォークシンガーだったんですが、ウディ・ガスリーはドナルド・トランプの父親と戦っているんですよ。

(赤江・山里)ええーっ!?

(町山智浩)ドナルド・トランプの父親はアパートを経営していたんですけど、黒人の人たちに貸さなかったんですよ。追い出したりしていたんですよ。

(赤江珠緒)らしいですね。

(町山智浩)それでウディ・ガスリーは「トランプさん、そんな差別はやめてくれ」って歌を歌っているんですよ。

(赤江珠緒)ロックな歌だ。そうだ。

(町山智浩)ウディ・ガスリーを尊敬した人がボブ・ディランなんですよね。だからね、結構昔からのものは元に戻っていて。そうそう。ドナルド・トランプが唯一尊敬している人っていうのはお父さんなんで。お父さんは差別主義者だったんですね(笑)。

(山里亮太)これはでも、アメリカの方がみんな知っているんだったら、ヒラリー・クリントンにそのままなりそうですね。

(町山智浩)まあ、と思うんですけどね。とにかく、トランプが勝ったらもう持っているアメリカ系の株は全部売って。ドルも売って、円を買ってください。あと、金が上がるんでね。トランプが勝つと、要するになにが起こるかわからないから、みんな怖いから金を買うんで、金も上がりますね。

(赤江珠緒)うわー!

(町山智浩)だから、「あっ、トランプが勝った。ヒラリーが勝った」ってボーッとしてないで、いま言ったのでちょっと……まあ、金融とかをやっている人はみんな知ってますね(笑)。という感じです。

(赤江珠緒)はい(笑)。ニコニコ生放送で9日(水)、午後8時からアメリカ大統領選挙開票実況が放送されるということで、この番組で町山さんはニューヨークからリポートされる?

(町山智浩)ありがとうございます。ニューヨークにいて、朝から、ここはトランプさんもいてパーティーをやるんですね。で、ヒラリーさんもいてパーティーをやるんですよ。どっちが勝つかわからないですけど。で、僕はそこの場にいるんですが、全く取材許可は取れていないんですよ。ニコ生だから。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)だから、しょうがないからゲリラでいろんなところに行って、いろんな人に話を聞いてどつかれたりすると思います。はい(笑)。朝8時から、6時間ぐらい放送します。

(赤江珠緒)気をつけてくださいよ。

(町山智浩)あの、右翼さんたちのパーティーも場所を見つけて行くことになったんで。酒場の主人は取材OKしてくれたんですけど、彼らは全く取材OKしてくれないんで、突撃します。はい。

(赤江珠緒)はい。わかりました。

(町山智浩)トランプ支持の人たちです。はい。

(赤江珠緒)町山さん、ニューヨークから大統領選挙前夜の様子を教えていただきました。ありがとうございました!

<書き起こしおわり>

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