町山智浩『ブリッジ・オブ・スパイ』とスピルバーグ映画のテーマを語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『ブリッジ・オブ・スパイ』を紹介。スピルバーグ監督作品に共通するテーマについて話していました。

ブリッジ・オブ・スパイ (字幕版)

(赤江珠緒)さあ、今日はですよ、もう来年すぐ公開の映画。

(町山智浩)はい。『ブリッジ・オブ・スパイ』という映画を紹介します。これは名匠スティーブン・スピルバーグ監督の新作なんですけども。たぶんね、みんなあんまり注目してないと思うので。

(赤江珠緒)うん。

(山里亮太)そんなに。だって、もうこんな近くなのに、あまり話題になっていないですよね。日本では。

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2種類のスピルバーグ作品

(町山智浩)はい。すごくね、地味な映画だと思われてるんですけども。トム・ハンクス主演なんですが。スピルバーグっていう監督は、僕、会って話を聞いた時に、『僕は2種類の映画を撮っているんだ』って言っていたんですよ。1本は『ジュラシック・パーク』とか、派手なやつですね。『インディ・ジョーンズ』とか。そういう楽しい映画。お金になる、儲かる映画。で、楽しい映画を撮っているんですけど。

(赤江珠緒)超娯楽!っていう感じですね。

(町山智浩)娯楽!っていう感じの。それとは別に、彼が監督としてどうしても作らなければならない映画っていうジャンルがあるんだと。で、『そっちはお金じゃなくて、私は監督としてやっている限り、これを作らなければいけないという使命でやっている映画がある』と言ってるんですね。

(赤江珠緒)ほう。ええ。

(町山智浩)で、それは典型的な例は、この間彼が撮った『リンカーン』っていう映画ですね。『リンカーン』っていうのはリンカーン大統領が奴隷を禁止する法律を憲法に盛り込むために、裏工作を。議会で票を取るために、多数決するために裏工作をしていくという映画だったんですけども。あれなんかはもう本当に地味な映画なんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、でもあれは作らなければいけないんだと。いかにしてその歴史的に大事なこと。奴隷を解放する、奴隷を禁止するっていうことを、どんなことがあってもやり遂げるっていう男がいたんだと。要するに、裏工作をするんですから。脅迫したり、お金をあげたりね。次の閣僚の座を確保するとか。もう、悪いことをするんですけど。でも、いいことをするためにやったってことで、それを映画化したかったと。で、今回の『ブリッジ・オブ・スパイ』っていう映画も、そっち系の映画なんですよ。

(赤江珠緒)ほー。

(町山智浩)だから怪獣が出てきてガーッ!っていう映画じゃないんですよ。そのへんは、スピルバーグが作らなければならない映画のうちのひとつなんですね。で、『ブリッジ・オブ・スパイ』っていうのは、なぜこんな日本語タイトルになっているのかわからないですけど。まあ、『スパイの橋』っていう意味ですけどもね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これはね、ドイツの首都のベルリンに川が流れていたんですけど。ベルリンの横に。そこにかかっていたグリーニッケ橋っていう橋があるんですよ。で、そこのことを『スパイの橋』って呼んでいたんですけど。これはね、冷戦時代の60年代、70年代のスパイ映画が好きな人だったら、映画の中でみんな見てるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、僕が見た映画なんかだと、『ハリー・パーマーの危機脱出』とか『エスピオナージ』っていう映画では、スパイが交換するんですね。要するに、ソ連のスパイがアメリカとかヨーロッパで捕まるじゃないですか。そうすると、アメリカのCIAのスパイとかがソ連の方で捕まると、それを交換するっていう場所としてその橋が使われるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、どうしてか?っていうと、橋のところ、川になっているから、近くに寄れないからだと。本当はね、チェックポイント・チャーリーっていうのがベルリンの街のど真ん中にあって。そこが、東西ベルリン、壁が分かれていたんですけども。その途中に、検問所みたいなのがあって。そこで受け渡すこともできるんですが。そうすると、周りに建物があって。つまり、狙撃とか、戦闘とか、そこでミサイルを撃ったりとかできるんで。それができないように、長い橋の真ん中で交換するっていう風にしたんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)そうすると、なかなかできないわけです。狙撃とか。で、その橋のことが、この映画のタイトルになっていて。で、その橋で初めてぐらいに交換されたスパイがいたんですね。で、そのスパイ交換をやった人が、ジェームズ・B・ドノバンっていうアメリカの弁護士さんなんですよ。で、これ、トム・ハンクスがすごい演技で演じてるんですけども。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)この人が主役の話が、この『ブリッジ・オブ・スパイ』なんですね。で、これね、まず最初にね、1953年の7月に、ニューヨークにブルックリンっていう下町があって。そこはね、ヨーロッパから来た貧乏な人たちばっかりが集まっているところなんですけども。そこで、新聞を売っていた少年がですね、10セント玉を落っことすんですよ。ポトッと落ちたら、パカッと2つに割れちゃうんですよ。で、『あれっ?』と思ったら、実はそれは10セント玉の中にですね、マイクロフィルムが入っていて。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)その中には、暗号がたくさん入っていることを見つけたんですよ。新聞少年が。で、警察に通報したらFBIまで行って。これはたぶんソ連のスパイが連絡用に使っている偽コインだということになったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、そのブルックリンにソ連のスパイが潜入しているということで捜査が始まって。それから結構時間がかかってですね、4年後にやっと逮捕されるんですよ。ルドルフ・アベルっていう、本名ウィリアム・フィッシャーというですね、ソ連のスパイ。この人はイギリス生まれのドイツ系ロシア人なんですけども。が、画家としてそこに潜入しながら・・・その頃、ソ連とアメリカっていうのは核爆弾の開発競争をしてましたよね。

(赤江珠緒)ああ、はい。

(町山智浩)で、そのアメリカの核開発の情報をソ連に流してるやつがいるっていうことで、彼が自宅で逮捕されたんですね。で、ただスパイっていうのはすごく不思議なものでですね。スパイ罪っていうのは基本的に死刑とされているんですよ。

(赤江珠緒)ほう。まあ国家的なことをね、流すわけだから。

(町山智浩)そう。あと、基本的にスパイっていうのは国家が関与していることを認めないから。だから、たいてい助けられないんですよ。で、スパイが向こうで捕まったら、それはそこで死ぬしかないっていうのがスパイの厳しさなんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、日本でも陸軍中野学校っていうスパイ学校がありましたけど。そこは、『君たちがもし外国で日本のスパイとして逮捕されても、我々は助けない。一切関知しない。それでもよければ、スパイになりたまえ』って言われるような世界なんですね。で、まあ彼も逮捕されて、諦めるわけですよ。『もうこれは死刑だろう』と。でも、裁判ではかならず軍事法廷でない限り、弁護士をつけてもらう権利っていうのは誰にでもあるわけですね。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)で、弁護士をつけようっていう話になるわけですよ。スパイとして捕まったフィッシャーに。すると、みんなやりたがらないんですよ。っていうのは、その頃、ソ連とアメリカっていうのは最悪に仲が悪くなっていたんですね。要するに、核爆弾を持っていて、互いに世界を全滅させてでも殺しあうっていう状態になっていますから。したら、弁護士なんか『嫌だよ。そんな、ソ連のスパイの弁護士なんかやったら、俺、もう仕事なくなっちゃうよ』っつって、みんな嫌がっていたんですけども、1人、この主役のトム・ハンクス演じるドノバンっていう弁護士だけはそれを引き受けるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところがもう、奥さんも『やめてよ!』って言うんですよ。『こんなことやったら、もう家とかも近所から石投げられたりして大変じゃないの!「売国奴」とか、「アカの仲間」とか言われて大変じゃないの!』って言うんですけども、このドノバン。トム・ハンクスは、それでも、どんな人間にもちゃんとした裁判を受ける権利はあるんだ。それをアメリカがちゃんとやる限りにおいて・・・』。まあこれ、彼の上司がいるんですけども。『アメリカがちゃんと公正な裁判をやることによって、ソ連よりもアメリカの方が倫理的に優位であることを示すことができる』と。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)どっちが正義か?って言ったら、ソ連なんか要するに秘密警察でバンバン殺しちゃうわけじゃないですか。そうじゃなくて、どんな、そのソ連のスパイですらも、正式に、アメリカのお金で雇った弁護士をつけると。

(赤江珠緒)そこは人権上は公正にやるということですね。

(町山智浩)『公正にやる。そこで殺すっていうことでは勝ちにならないんだ。本当の勝ちっていうのはもっと、そんなことじゃないんだ』っていうようなことを言って、弁護につくんですけども。でもやっぱり、傍聴席とかも『殺せ!殺せ!死刑だ!死刑だ!』ってやっているわけですよ。だって、核ミサイルを落とされるかもしれないから。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも、トム・ハンクスは徹底的に戦って、戦ってる最中にこう言うんですよ。要するに彼は、スパイ罪っていうのはたいてい、裏切り者がスパイになるんですね。アメリカ人なのにソ連に秘密を売っていたりすると。で、実際にローゼンバーグ夫妻っていう夫婦はソ連に核の情報を売っていたっていうことで死刑になっているんですよ。電気椅子にかけられて。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)その当時。『でも、彼は違う。彼はもともとソ連の人で。で、アメリカに潜入して、作戦を遂行していた立派な兵士なんだ』と。

(赤江珠緒)はあはあ。

(町山智浩)で、兵士は殺されないんですよ。ジュネーブ条約っていうのがありますから、立派な兵士は捕虜だから。殺しちゃいけないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか。うん。

(町山智浩)そう。だからそれでもって戦うんですけど。裁判で。でも、やっぱり勝てなくて。35年か40年ぐらいの刑になっちゃうんですけど。でも、死刑にはしなかったんで、みんな怒るんですよ。『あんなの、死刑にすればいいのに!』って、アメリカ人はみんな怒るんですけど。その彼が死刑にしないようにがんばったのは、こういう風に裁判官を言いくるめたんですよ。『この後、逆のことが起こるでしょう。アメリカのスパイがソ連で捕まるかもしれない。その時に、彼を助けるためにこっちのフィッシャーと交換することができるじゃないですか。そのためのタマとして使えるわけだから、ぜったいに殺さないでください!』って言うんですよ。トム・ハンクスがね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、結局彼は殺されないで済んで、刑務所に入るんですね。そのフィッシャーは。そしたら本当にドノバン弁護士が予言した通りにね、アメリカのスパイがソ連で逮捕されるんですよ。で、これがね、U-2事件っていうのがあったんですけど。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)1960年にアメリカのアイゼンハワー大統領がこっそり、U-2っていう秘密偵察機をソ連の領内に送りこんで、核ミサイル基地の写真を撮らせていたんですよ。で、それがミサイルで撃墜されてしまって、それに乗っていたパイロットのフランシス・パワーズっていう人が、そこから落下傘で脱出して、ソ連に逮捕されちゃうんですね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、その時にアメリカ人は何て言ったか?っていうと、『パワーズなんか、死ねばいい』っつったんですよ。

(赤江・山里)えっ!?

(町山智浩)っていうのは、もしそうなったら、秘密偵察なんだから自殺すべきだと。

(赤江珠緒)あらー、厳しい・・・

(町山智浩)厳しいんですよ。これ、本当にね、怖いなと思うんですけど。で、実際に自殺用の青酸カリをつけた針をコインに仕込んでたものを持っていたんですけど。彼はそれで自殺しなかったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、『拷問されてどうしても苦しかったら自殺しろ』って言われていたんで、拷問されなかったから自殺しなかったんです。でも、その機体を爆破できなかったんですよ。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)秘密偵察機だから、本当は爆破しなきゃいけなかったんだけど、自爆装置が上手く動かなかったらしくて、自爆できなかったと。

(赤江珠緒)証拠が残っちゃった。

(町山智浩)そう。だからこのパワーズは向こうで捕まったけれども、アメリカ人たちはすごく冷たかったんですよ。反応は。『あんなやつ、ダメなやつなんだから死ねばいいんだ』って言ったんですよ。それぐらい、冷戦で『敵だ!敵だ!』っておかしくなっていて。『これはもう戦場なんだから』っていう意識で、みんな人権意識とかぜんぜんなくなっていたんですね。アメリカ人は。

(赤江珠緒)そうなんですね。うんうん。

アメリカ政府の方針

(町山智浩)それで、このパイロットのパワーズさんの両親が、ドノバン弁護士のところに相談しに来るわけですよ。『うちの息子を助けてください』と。したら、『じゃあフィッシャーがいるから、なんとかできないか?』って、今度アメリカ政府とも交渉をするんですけど、その頃、ダレス国務長官とかCIAとかにも接触するんですけど。『アメリカ政府としては、それはできない。そんなことにアメリカ”政府”が関わることはできないんだ。だから、君、がんばってくれない?』みたいな感じなんですよ(笑)。

(赤江珠緒)うわー!

(町山智浩)『君一人でがんばってくれない?』みたいな(笑)。

(山里亮太)『止めはしないけど、やってね』っていう。

(町山智浩)そう。『止めはしないけど。ベルリンまでは連れて行くけども、それ以上はちょっと・・・たのむわ!』みたいな感じで。ぜんぜん何もしないんですよ。アメリカ政府は。

(赤江珠緒)国同士が本当はやっていることなのに、1人の弁護士に全部丸投げ?最後は。

(町山智浩)そう。国同士が対立してるもんだから、仲良くすることができないんですよ。売国奴扱いされちゃうから。

(赤江珠緒)ああー。

(山里亮太)そうか。交渉がね、成立させるってことはできないんだ。

(町山智浩)交渉して合意に達するっていうことを国同士がやろうとした時に、国内の右翼勢力はそれを売国奴扱いするんですよ。本当は、仲良くすることの方がいいことなのに、なぜか、『敵だ!敵だ!』って煽った方が喜ぶ人が多くて。仲良くしようとすると、攻撃することが多いんですよ。それはもう、いつもそうなんです。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)いつもそうですよね。で、じゃあドノバンががんばって交渉しようとしたら、もうひとつ、大きな問題が起こっちゃって。61年にソ連がですね、ベルリンっていうのはひとつの都市だったんですけど、それを、東側はソ連が管理して、西側はアメリカっていうか連合国側が管理して。ひとつの都市がふたつに分かれたんですね。西と東に。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でもこれだと、どんどんどんどん東側から、『やっぱり共産主義は嫌だよ』ってどんどん西側に逃げてくるんですよ。人が。で、これを防ぐためにソ連が壁を作っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)壁をね、ほとんど1日で作っちゃうんです。あっという間に壁が作られるところがこの映画の中に出てくるんですけど。もうバンバンバンバン、こんなブロックみたいなのを持ってきて、ドワーッ!っと壁があっという間に作られちゃうんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、その時に、たまたま東側にお買い物に行っていた人とか・・・

(赤江珠緒)そうでしょうね。うん。

(町山智浩)友達に会いに行っていた人とか、帰ろうと思ったら壁ができて帰れなくなっちゃうんですよ。で、帰ろうとしたら殺されちゃうわけですよ。

(赤江珠緒)めちゃくちゃだったんですね。

(町山智浩)めちゃくちゃだったんですよ。で、その時に、たまたまアメリカの学生さんがですね、西ベルリンに留学していて。フレデリック・プライヤーっていう学生さんで、その当時、28か9の子が、彼女に会おうとして、東ベルリンに住んでいる彼女に会って。なんとか壁が作られる前に西側に連れだそうとして、行ったらもう間に合わなくて捕まっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)それで、スパイ罪でもって逮捕されちゃうんですね。で、死刑になる・・・

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)死刑になるかもしれないわけですよ。スパイだから。で、彼はただのボンクラ学生なんですけど。そこで、彼のことも解決しなくちゃいけなくなるわけですよ。弁護士のドノバンさんは。ねえ。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)で、ここで大難問があるわけですよ。こっちは、持っているスパイの捕虜はフィッシャー1人しかいないんですよ。あっちは2人いるんですよ。それを交換するっていう・・・数学的におかしいだろ?っていう。

(山里亮太)そりゃそうだよね。釣り合ってないから。

(町山智浩)そう。釣り合ってない。で、しかも、フレデリック・プライヤーさんっていうのは東ベルリンで逮捕されたから、管理してるのが東ドイツ政府なんですよ。で、パワーズさんっていうパイロットはソ連で撃墜されているから、ソ連が管理しているんですよ。違う政府が管理している2人のスパイで捕まっている人を、たった1人の弁護士。完全に民間の弁護士が、1人のソ連の捕虜で2人を交換しようと。別々の政府にっていう・・・さあ、どうなるか!?っていう。

(赤江珠緒)難問ですね。それ。ねえ。

(町山智浩)大難問なんですよ。どう解決するの?っていう話でね。これは面白かったですね。どうすんの、これ!?みたいな感じなんですよ。

(山里亮太)いや、なんか奇跡の技を使わないと、そんなの無理じゃないですか。

(町山智浩)そうなんですよ。だからいろいろ考えるんですけどね。これ以上言うと、ネタバレになってくるんで。さあ、どうなるか?っていう話ですけどね。

(山里亮太)実話に基づいているんですよね?これは。

(町山智浩)そうなんですよ。で、これ、僕のベルリンに行ってきたんですけど。前、お話しましたけど。ベルリンはね、壁のところはすごく変わっちゃっているんですよ。超おしゃれなところになっちゃっているんです。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)どうしてか?っていうと、やっぱり嫌な思い出がいっぱいあるから。やっぱりきれいにしちゃうんですよね。

(赤江珠緒)まあ、そうでしょうね。

(町山智浩)そう。だからこれ、撮影するの大変だったみたいで。ポーランドの方で壁のあたりの風景とかを撮影したみたいなんですね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)ポーランドの話も前にしましたけど。ポーランドはほら、ナチに支配された時に武装蜂起したら、ソ連が助けに来なかったから猛爆撃されて。もう完全に街が壊滅したんで、まだひどいところが残っているらしいんですよ。

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(赤江珠緒)ああ、なんか下水管をみんなで逃げたっていうね。

(町山智浩)そうそう。地下水道を逃げた。そこで撮影したみたいですけど。これは。で、これね、やっぱりスピルバーグっていう人はこういう映画にものすごく、彼自身の映画作家になった意味っていうのがこういう映画を作るところにあるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

スピルバーグ映画に共通するテーマ

(町山智浩)っていうのは、スピルバーグの映画ってね、みんな実は同じようなテーマがあって。『リンカーン』が要するに黒人奴隷を解放するリンカーンの話だったですよね。『シンドラーのリスト』は、ドイツ人なのにユダヤ人をホロコースト。大虐殺から救おうとするシンドラーっていう女ったらしのおっさんの話でしたね。

(赤江珠緒)女ったらしだったの?(笑)。

(町山智浩)女ったらしなの。で、奥さんはめちゃくちゃ怒っているんですよ。でも、人類のためにいいことをしてるんだけど、奥さんからは嫌われているっていうのがシンドラーだったんですよ。スケベでね(笑)。で、その他にも『アミスタッド』っていう映画を撮っていて。これは、奴隷船でアフリカで拉致した黒人を運んでいたんですけど。貨物船に乗せて。ひどいですけど。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それで反乱を起こした、さらわれた黒人が裁判にかけられたんですけども。彼らはまったく英語もしゃべれないし、法律も何もわからないわけですよ。それを弁護しなきゃならないわけですよ。同じ話ですよ。今回と。

(赤江珠緒)本当だ。

(町山智浩)もうどうしようもない。誰も弁護しないっていうんですよ。そんなものね。黒人の、アメリカから連れて来られた、まったく言葉もしゃべれないのをね。で、奴隷制度が合法だった時代ですからね。何も悪いことをしていないって。で、その時にジョン・アダムスという元大統領の人が弁護に立って。見事に彼らは・・・要するに奴隷制度であったり、拉致したりっていうのは完全に違法行為だから、彼らはまったく違法に拉致されたのであって無罪であるという判決を勝ち取ったっていう事件があって。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)当たり前ですよね。だって誘拐してきてるんだから。違法行為なんですけど。でも、みんな平気だったんですよね。それを、『よく考えろ。お前、これ違法行為だぞ。奴隷っていうのは』ってやったのがジョン・アダムスで。ジョン・アダムスっていうのは大統領になったんですけど、元弁護士なんですよ。で、リンカーンも元弁護士ですよね。で、これも弁護士で。弁護士三部作なんですよ。スピルバーグの。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これね、すごく面白いことに、アメリカっていうのは弁護士になることは、オバマさんもそうですけど、が、大統領になる道なんですよ。

(赤江珠緒)やっぱり人権の、そういう意識のもとに大統領になっていると。

(町山智浩)そう。それがすごく大事なことで。アメリカの大統領っていうのは法律のいちばんトップに立つものなんですよ。で、アメリカの法律って何を守らなきゃならないか?っていうと、この映画の中でも出てくるんですけど、人権なんですよね。で、憲法のいちばん最初にくるのが独立宣言で。独立宣言のいちばん最初の文章は『すべての人間は平等に作られている』っていうところから始まるから、それを守るのが大統領の仕事だと。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)いうところで、すごくその3本は結びついてくるんですけど。まあ、だからスピルバーグが・・・

(赤江珠緒)スピルバーグさんってそういう信念の人だったんですね。

(町山智浩)スピルバーグ自身はね、ユダヤ人であるのとともに、いじめられっ子だったんですよ。スピルバーグって字が読めなかったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)学習障害ってやつで。ほら。なかなか字が読めない人っているじゃないですか。だったんですよ。で、学校の成績はボロボロで。しかも、背が僕よりも低いですからね。

(赤江珠緒)あ、そうですか。

(町山智浩)それで運動神経が悪くて。で、まあオタクですからね。怪獣とかばっかりいじっている人ですから。もう学校でものすごいいじめられて。学校は途中でやめてます。登校できなくなったんです。あまりにもいじめがひどくて。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから、いじめられる立場、差別される立場っていうものを本当に彼は、自分のこととして考える人なんですよ。だからすごく感動的で。『E.T.』なんかもそうですけど。大人たちから追われるE.T.を連れて逃げる話だったじゃないですか。スピルバーグは常に、『ジュラシック・パーク』でも子供を連れて逃げる話だし。弱いものを守って逃げるっていうことが彼のテーマなんですよ。どんな映画でも、たいていそういうテーマ・・・

(山里亮太)娯楽の方にも、そういうものをちゃんと盛り込まれていたんですね。

(町山智浩)そうなんですよ。だから本当にスピルバーグらしい感動的な映画で。みんなにめちゃくちゃ言われながら、石投げられたりしながら、このドノバン弁護士がね、戦うところが感度的なんですよ。で、『こんな法律を守るってことが、そんなに大事なのか?』ってCIAに言われるんですよ。『あれは敵のスパイじゃないか?法律よりも国の方が大事だろ?』って言われると、『そうじゃない』って言うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)『CIAの君は、たぶん名前からするとドイツ系だろう?僕は「ドノバン」っていう名前だからアイルランド系なんだ。君はドイツ系で僕はアイルランド系だけども、なぜ僕らはアメリカ人なんだ?僕らをアメリカ人たらしめているのはアメリカの憲法のおかげだろう?だから僕はそれを守る』って言うんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、アメリカの憲法は『全ての人が平等である』と。『全ての人』っていうのは『アメリカ国民は』って書いてないんですよ。『全て』なんですよ。だから奴隷解放も成し遂げられたんですよ。憲法違反であると。奴隷制度が。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)『全て』だから、『ソ連人であろうと、何人であろうと、全て平等なんだ!』というのがアメリカの信念で。それをアメリカっていう国自体は守らないけども、でも、守ろう、守ろうとする人がいるんだっていうことですよね。

(赤江珠緒)うん。

(山里亮太)それで戦おうとなると、とんでもない周りを敵に回すよね。『ソ連の人も一緒なんだから』って言ったら。

(町山智浩)そうなんですよ。これね、タイトルが『ブリッジ・オブ・スパイ』っていうタイトルで、ふたつの東西の対立している、戦争している国の間に架けられた橋なんですけども。それはこのドノバンっていう弁護士自身を表しているんですよね。対立する者同士の間に立つっていう。対立している人同士の・・・

(赤江珠緒)架け橋なんだ。

(町山智浩)そう!架け橋なんだっていうところがすごく出ていて。まあ、すごく感動的だったんですけど。やっぱりこの人、さんざん叩かれてね、顔写真とか新聞に出て。電車に乗って、『あんた、売国奴だ!』ってツバをかけられたりするんですよ。『非国民だ!』とか言って。

(赤江珠緒)そうなんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。間に立つ人は、敵の味方に見えるんですよ。

(赤江珠緒)そうか。それを考えると、これは時代関係なくね、群集心理の揺らぎみたいなものも逆に見えますね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、だから僕ね、風邪ひいてたんですけど。いいことがあったなと思って。昨日、テレビでニュースを見ていてね、本当によかったなと思ったんですね。やっぱりね。日韓合意に達してね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、安倍さんが言っている言葉がね、すごくよくて。『これは何のためにやったか?っていうと、子供たちのためなんだ』って言ってるじゃないですか。『ふたつの国、日本と韓国が力を合わせて新しい時代を切り拓いていくために必要なんだ。だから、ゴチャゴチャゴチャゴチャ言うのはこれでピチッと終わりにして、未来を考えよう。お互いに、韓国と日本で力を・・・』。はっきり言ってるんです。『力を合わせて、新しい時代を築いていこう』って。もう、年末にいい話じゃないですか。

(赤江珠緒)だって、仲悪くなったらそれは国益に反するから。

(町山智浩)そうなんですよ。この時に、『でも、これじゃ我慢できない!これじゃ許せない!』とか言う人たちっていうのはいるんですけども。間に立つ人。要するに、対立しているふたつの間に立つ人っていうのは、もう叩かれるんですよ。両方から。味方からね、『裏切り者!』って言われて。でも、それをやらなければ、いつまでたってもね、橋はできないですからね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ねえ。だからすごくこの時にね、この映画が公開されるのもすごくいいことだと思いますけども。みなさん、ぜひ見ていただきたいと思います。

(山里亮太)年明けにね、見ていただきたいですね。

(赤江珠緒)1月8日から、日本でも公開ということで。

(町山智浩)はい。下ネタ言わないで、がんばりました(笑)。

(赤江珠緒)はい(笑)。

(山里亮太)本当だ。ノー下ネタだ。

(赤江珠緒)スティーブン・スピルバーグ監督最新作『ブリッジ・オブ・スパイ』のお話でした。下ネタ、全く入らないでしょ?これは(笑)。

(町山智浩)いや、入れようと思えばいくらでも入りますよ!

(赤江珠緒)入れなくていいよ(笑)。

(町山智浩)いくらでも。入れようと思えば。はい(笑)。

(赤江珠緒)ありがとうございました!

<書き起こしおわり>



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