町山智浩 韓国映画『英雄』を語る

町山智浩 韓国映画『英雄』を語る たまむすび

町山智浩さんが2023年1月10日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で韓国映画『英雄』について話していました。

(山里亮太)へー! どうやったら日本でも、映画制作にお金をたくさん使えるようになるんですかね?

(町山智浩)市場を広げるしかないですよね。だから韓国映画はほら、今、マーケットは世界的になってるから。制作費がガーン!って入るから、まあいいカメラを使えるんですけど。

だから韓国に行ったらね、市場が完全に韓国だけの映画をやってたんですよ。もう韓国人以外、誰も見ないだろうという映画があって。それは『英雄』っていう映画で、大ヒットしているんですよ。で、僕が入ろうとしたら、チケットが売り切れで入れなかったんですけど。もう、それは伊藤博文を暗殺した韓国の英雄・安重根のミュージカルなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? ミュージカル?

(町山智浩)ミュージカルなんですよ。で、伊藤博文がその頃、韓国の総督として……日本が韓国を支配していた時の総督だったんで、暗殺されたんですけど。それを映画化するってこれ、韓国人しか見ないですからね。

(赤江珠緒)そうでしょうね。

(町山智浩)どう考えても。ものすごく市場がちっちゃいんですけど。それが大ヒットしてて。で、ミュージカルって言うから「ええっ?」って思って。列強に占領されている植民地の人たちの解放の戦いのミュージカルというと、それはこの間、公開されたインド映画の『RRR』がそうだったじゃないですか。ねえ。イギリスに支配されたインドの……時代も同じぐらいなんですね。1900年前後なんで。あれはインドの反乱軍の人たちが歌って踊ってイギリス軍をやっつけるっていう話だったんですね。イギリスの総督を。この韓国映画の『英雄』もそうなのかな?って思って、すごい期待したんですけど。「イエイイエイ!」ってやりながら、「伊藤博文、やっつけろ!」とかって言うのかと思ったら、さすがにそういう映画じゃなかったです(笑)。

(赤江珠緒)それはやっぱり無理が?(笑)。

『レ・ミゼラブル』系のミュージカル

(町山智浩)そういう映画じゃなかったですね。『レ・ミゼラブル』系のミュージカルで。突っ立って、朗々と悲壮な歌を歌い上げるっていう、非常に真面目な重いミュージカルでね。そっち系でしたけどね。僕は「ミュージカル」って聞くと「歌って踊ってイエイイエイ!」の方だと思うんですけども。それだけがミュージカルじゃないんでね。

(山里亮太)なるほど。いろんなパターンがあるんですね。

(赤江珠緒)でも、この題材でミュージカルするっていうのがちょっと、びっくりでしたね。

(町山智浩)これはやっぱりすごいですね。もう何でもミュージカルにすればいいと思いますね!

(山里亮太)そしたらなんでも描ける感じがしますね。

(町山智浩)パニック映画とかもミュージカルにするといいと思うんですよ。地震でビルとかガンガン崩れているのに歌い続けるとかね。そういう映画とかも……。

(山里亮太)違和感で心で突っ込んで、真剣に見れなくなりそうですよ。「今、踊っている場合か?」って(笑)。

(町山智浩)踊ったり歌ったりしていると、インド映画では解決するんですよ。

(山里亮太)そうですよね。

(町山智浩)困った時は歌うんです。そうすると、なんか敵も待ってくれんです。歌っている間は(笑)。でも、日本も昔はそうでしたよ。

(赤江珠緒)うん? 日本映画も?

(町山智浩)日活映画の小林旭さんが出てた『渡り鳥』シリーズとか、見てません?

(赤江珠緒)いや、ちょっと……。

(町山智浩)要するにギャングが浅丘ルリ子さんとかを「おらおらおらっ!」ってやっていると、そこにギターを抱えて小林旭さんが出てくるわけですよ。

(山里亮太)ギターを?

(町山智浩)ギターを抱えているんですよ。で、小林旭さんが歌を歌いだすんですよ。『ズンドコ節』とかを歌うとギャングたちは「てめえ! この野郎!」って言いながら、なぜか攻撃しないでずっと、その1曲を歌い終わるまで待っているんですけど。それが日本映画だったんですよ。だから、あの頃に戻ってもいいと思いますけどね。

(山里亮太)1回、原点回帰というか(笑)。

(町山智浩)1回、原点回帰で。とりあえず歌を歌うとなんでも解決するっていう。

(赤江珠緒)それは今、斬新に見えるかもしれないですね(笑)。

(町山智浩)やってほしいな。最近、日本映画はそういう遊び心を失っているんでね。

<書き起こしおわり>

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