町山智浩『ジョーカー』『ジョジョ・ラビット』『真実』『パラサイト』を語る

町山智浩『ジョーカー』『ジョジョ・ラビット』『真実』『パラサイト』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でトロントで開催中のトロント映画祭2019を現地からレポート。『ジョーカー』『ジョジョ・ラビット』『真実』『パラサイト 半地下の家族』『マリッジ・ストーリー』を紹介していました。

(赤江珠緒)この時間は映画評論家・町山智浩さんのアメリカ流れ者。今日は町山さん、カナダで行われているトロント映画祭の会場からということで。向こうの時間は深夜2時。丑三つ時の町山さん?

(町山智浩)はい。よろしくお願いします。いまですね、カナダのトロントというところに来てるんですけど。まあほとんどニューヨークに近いところなんですけども。こっち、深夜2時です。で、トロント映画祭というものの説明をしますとこれがいつもアカデミー賞のなんというか予想が出来る映画祭と言われてます。ここでね、観客賞というものを普通のお客さんたちの投票で選ぶんですよ。審査員じゃなくて。で、それで選ばれた作品がアカデミー作品賞に引っかかってくるというのが毎年、ずっと続いているんですよ。

(赤江珠緒)おおーっ!

(町山智浩)で、去年は『グリーンブック』という映画がありましたね。1960年代の非常にアメリカで黒人差別がひどかった時に、黒人のジャズのピアニストが南部のいちばん差別のひどいところにツアーに行った時の実話の話でしたけど。あれ、結構コメディで笑えたんですけど。あれはね、トロント映画祭で上映されまで誰も注目してなかった映画なんですよ。

(赤江珠緒)そうなんですか!

(町山智浩)はい。トロント映画祭でかけたら、なんかすごい映画だったっていうことが口コミで広がって。そこから……トロント映画祭って10日間ぐらいあるんですけど、途中からお客さんがどんどん集まっていって。「これはすごい!」っていうことでアメリカで公開をする時に拡大公開になったんですよ。だからこのトロント映画祭で観客、普通のお客さんたちにウケるとアメリカで拡大公開されて。ウケないと劇場数が少なくなるんです。

(赤江珠緒)うわー、すごい意味合いの映画祭ですね。そうなると。

(町山智浩)ものすごいです。カンヌ映画祭なんかはビジネスというよりも、あれは審査員が選ぶんですね。だから玄人好みなんですよ。アート系の映画とかが賞を取ったりするんですね。でも、トロント映画祭は本当に普通の観客の人たちにどの映画がウケたか?っていうことがよくわかるんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、もうヒットするかどうかみたいなのがシンプルにわかるっていうか?

(町山智浩)そうなんです。だからこれまで、ここで注目された映画って『シェイプ・オブ・ウォーター』。アカデミー作品賞を取りましたよね? ギレルモ・デル・トロの半魚人の恋の映画でしたけど。あれとか、『ラ・ラ・ランド』とか。こういった映画がここで試されていく感じなんですよ。で、みんな注目して。ビジネスの人も、映画評論家もみんな来て。僕も毎年来ているんですけども。

(赤江珠緒)どのぐらいの数の作品が上映されるんですか?

(町山智浩)数は……いま、いきなり言われてもパッとでないですけども。10日間で毎回ごとに10本ぐらいの映画を1日に5本ぐらいやるんですよ。すごいんですよ。僕は明日の朝も8時から見なきゃならないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。手元に来た資料によると400作品ぐらいが上映されるという。はー!

(町山智浩)すごいですね。もちろん全部は見れないです。明日はね、朝から『フォードvsフェラーリ』というね、昔フォード自動車とフェラーリがレースで争っていた頃の映画を見に行きます。ものすごい大好きなんで見に行くんですが。

『ジョーカー』

(町山智浩)それで、さっき見てきたのが『ジョーカー』っていう映画なんですね。あのバットマンの宿敵ジョーカーがいるじゃないですか。あれがどうやって普通の人がジョーカーになってしまったか?っていうのを描いている映画で。日本では10月4日公開ですけども。これがまあ、アメコミ映画じゃないですか。でもベルリン映画祭で金獅子賞っていう、グランプリを取ったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから、まあすごい映画でしたよ。1人の……ホアキン・フェニックス扮するコメディアンになりたい人。駆け出しコメディアンがいて、仕事がないからピエロの格好して子供の病院とかを回ったりしてるコメディアン志願の人が、だんだんジョーカーになっていくっていう話なんですよ。ジョーカーというのはすごく特殊な悪役で。破壊活動とか大量虐殺とかするんですけど、目的がないんですよ。バットマンの敵なんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、何のためにそれやってるのか、全く本人には理由がなくて。理由を聞くと「世の中や人生、現実なんてものはただのジョークだからね」としか言わないという、もうすごく一種哲学的な敵なんですよ。金儲けじゃないんですよ。

(赤江珠緒)でもそれだけにタチが悪いな。

(町山智浩)だからお金、札束を焼いたりするんですよ。だからなんでこんな風になってしまったのか?っていう話で。まあ、その売れない芸人さんがとにかく悲惨で悲惨で悲惨なんですよ。それでどん底まで追い詰められていって、ジョーカーになって、自分を解放して、大量虐殺に向かうんですけどね。

(山里亮太)はー! そうやってあのジョーカーは生まれたんだ!

(町山智浩)まあ、すごい話でしたよ。これね、監督はトッド・フィリップスという人で。この人は『ハングオーバー』シリーズというコメディをずっと撮っていた人なんです。だから、お笑いは徹底的にわかっているんです。お笑いというものは、ひっくり返すと恐ろしいものなんだということを描いている映画なんですよ。

(山里亮太)だいたいジョーカーを演じる人って、なんかいろいろ大変になったりするっていう……。

(町山智浩)そうなんです。バットマンシリーズの『ダークナイト』でジョーカーを演じたヒース・レジャーという俳優さんはジョーカーになりきるあまり、精神がおかしくなっていって。まあ、それで亡くなったんですよね。どんどんと追い詰められていくみたいなんですよ。で、今回のホアキンフェニックスは大丈夫だと思います。

(赤江珠緒)あ、そうですか?

(町山智浩)毎回毎回、こういう役ばっかりなんです、この人は(笑)。どの映画もジョーカーしてる役ばっかりなんですよ。慣れているから(笑)。でも、今回はまあすごいですよ。アカデミーに行くと思いますよ、この映画。

(山里亮太)おお、これが?

(町山智浩)作品賞も……主演男優賞はもちろんですけどね。監督賞も行くかもしれない。ノミネートされて、アカデミー賞の歴史を変えるかもしれない映画が『ジョーカー』でした。すごかったです。

『ジョジョ・ラビット』

(町山智浩)でね、あとは昨日、『ジョジョ・ラビット』っていう映画も見たんですよ。これはね、第二次大戦末期のドイツが舞台で。主人公は10歳の男の子なんですけど。ヒトラーの子供のボーイスカウトみたいなもの、ヒトラーユーゲントに入っているんですね。で、彼は心優しい弱虫の男の子なんで、まあみんなにいじめられたりしてるんですけど。そうすると、そのイマジナリー・フレンドっていうのがいるんですよ。これは、気が弱い子とか友達のいない子とかが想像の中で友達を作って、話しかけたりすることがあるんですね。

(赤江珠緒)うんうん。妄想の中のお友達。はい。

(町山智浩)そうそう。それがいて、このジョジョくんには妄想の中の友達がいるんですけど、それがヒトラーなんですよ。

(赤江珠緒)えっ? ヒトラーなの?

(町山智浩)ヒトラーなの。で、みんなにいじめられたりすると、ヒトラーが出てきて。「ジョジョ、気にすんなよ!」って慰めたりするんですよ。とんでもない映画でしたよ。

(赤江珠緒)ちょっと不思議な映画ですね。それ……ええっ?

(町山智浩)これでね、ヒトラーを演じてるのはタイカ・ワイティティっていう人なんですよ。この人はマオリ族の人です。ニュージーランドの先住民の人です。それで、ユダヤ人でもあるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? それで、ヒトラーを自身が演じるんですか?

(町山智浩)ヒトラーを演じる。ヒトラーはすごく有色人種をバカにしてて。それでユダヤ人を虐殺したんですけども。その両方であるタイカ・ワイティティさんがヒトラーを演じるっていうことで。彼、タイカ・ワイティティさんは「これはヒトラーに対する最大の侮辱だぜ、イエーイ!」って言ってるんですね。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)で、これはコメディです。

(赤江珠緒)ええっ、コメディ?

(町山智浩)タイカ・ワイティティさんはね、この間『アベンジャーズ』シリーズのマイティ・ソーが主人公の『マイティ・ソー/バトルロイヤル』っていう映画を監督したんですけど。シナリオは普通にあるんですけど、撮影の時に俳優たちに全部アドリブでギャグをやらせて。何回もテイクを撮って冗談をやらせて、それをつないでギャグ映画にしちゃった人なんですよ。とんでもない……この人自身がだからコメディアンなんですね。そういう人で、この人はこの間まで大友克洋さんの『AKIRA』を映画化するっていう企画の監督をやるはずだったんですよ。

(山里亮太)ああ、そうなんですね?

(町山智浩)やらないでよかったです。だってこの人、現場で全部アドリブでジョークをやらせて、それをつなぐから『AKIRA』がコメディになっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)でも、ポスターを見るとすごいヒトラーっぽい感じになってる。この監督が。

(町山智浩)ねえ。とんでもないですよ。完全に茶化しているんですけども。もうヒトラーが大嫌いだからね。それが『ジョジョ・ラビット』というとんでもない映画でしたけど。あと、是枝裕和監督のフランス映画『真実』。日本では10月10日公開のこれも面白かったですよ。

(赤江珠緒)ああ、あの『万引き家族』の是枝監督が。

是枝裕和監督『真実』

(町山智浩)そうです。カトリーヌ・ドヌーヴが主演なんですね。ご存知ですか?

(赤江珠緒)もちろん。フランスの大女優ですよね。

(町山智浩)フランスの最大の女優なんですけども。彼女、まあもうお歳なんですが70ぐらいかな? で、彼女が大女優の役なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そのまんま?

(町山智浩)で、回顧録を出版するんですけど、それを読んだニューヨークに住んでいる娘が飛んでくるんですね。ジュリエット・ビノシュがやっているんですけど。それで「お母さん、あんたが書いた回顧録、嘘ばっかりじゃないの!」って怒ってくるんですよ。もう自分のこととかも嘘ばかり書いてあると。で、このカトリーヌ・ドヌーヴ扮する女優が、あまりにも女優しすぎているので、どこまでが芝居でどこまで嘘かとか、全然わからないんですよ。なにかしゃべる時もいつも芝居がかっていて。で、過去も全部面白くドラマチックにしちゃうんで。何が本当かわからないから『真実』っていうタイトルの映画なんですね。

(赤江珠緒)周りはこれ、翻弄されますね。

(町山智浩)そう。それですごくこの女優さんが意地悪なの。若い監督の映画に出るんだけど、その監督をもう完全に名前も覚えちゃいないし。で、「あんた、わかってないわね!」みたいなことばかり言っている、意地悪なんですね。でね、見ているとね、樹木希林さんに見えてくるんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)是枝監督の映画ってずっと樹木希林さん、何度も出ているんですよね。でね、ほとんどアドリブをカマしてくるらしんですよ。撮影中に。で、カトリーヌ・ドヌーヴはどこまでかは分からないんですけど、樹木希林さんもカトリーヌ・ドヌーヴも、これは是枝監督に直接聞いたんですけども。とにかく監督とか脚本とかにやたらとダメ出しをするらしいんですね。「わかってないわね。あんた、人ってものがわかっていない。恋っていうものがわかっていないわね」って潰しにかかってるんですよ。だからすごく似ていて。顔は全く似ていないんですけども、カトリーヌ・ドヌーヴが樹木希林さんに見えてくるという恐ろしい映画が『真実』でしたね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、是枝監督の映画ってコメディが基本的に多いですけども。これも見ているみんながクスクスクスクス笑っていて、すごい面白い映画でした。フランス映画っていう感じじゃなくて、いつもの是枝監督の映画です。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』

(町山智浩)で、楽しかったんですけど。あともう1本、すごかったのがこれはカンヌ映画祭ですでにグランプリを取ってるんですけども。韓国映画で『パラサイト 半地下の家族』っていう映画があって。これがね、また是枝監督の『万引き家族』にすごくよく似ているんですよ。

(町山智浩)で、ソン・ガンホっていう『タクシー運転手』でタクシー運転手の役をやっていた彼がいますよね? 彼がこれがダメ一家の父親なんですよ。で、これ監督はね、ポン・ジュノ監督という人で、ソン・ガンホさんを使ってダメ一家のお父さんであるソン・ガンホが娘を守るために大怪獣と戦うって映画も撮っている人なんですけど(笑)。

(赤江珠緒)ああ、『グエムル-漢江の怪物-』ですね。見ました、見ました。

(町山智浩)そう。あれとほとんど同じでダメオヤジとダメ一家なんですね。で、あれは怪獣と戦ったんですけど、今回の『パラサイト』は金持ち一家と戦うんですよ。

(赤江珠緒)ほう、うん!

(町山智浩)『アス』っていう映画がいま、公開中ですけど。あれは金持ちの一家にそのそっくりの姿の貧乏な一家が侵略をしてくるっていう話なんですね。金持ち一家のところに着て、貧乏一家がその家を暴力で乗っ取ろうとする話なんですけど。この『パラサイト』は貧乏一家が金持ち一家の家になんとなく入ってくんですよ(笑)。いろんなことで……だから家庭教師として入っていったり、運転手さんとして入っていったり、お手伝いさんとして入っていくんですよ。

(赤江珠緒)うんうん1

(町山智浩)で、少しずつ金持ちの家を乗っ取っていくんですね。これね、面白いなと思ったのは是枝監督の『万引き家族』もそうだし、『アス』もそうだし。あれはアメリカ映画ですけども。で、この『パラサイト』は韓国映画なんですけど、どれもテーマは同じなんですよ。格差社会における家族と家族の戦いなんですよ。これは面白いなと思ってね。まあ、世界中で深刻な問題になってるんだなと思いましたね。貧困から脱出できなくなっている家族がいっぱい増えるということだと思います。ただね、コメディですからね。

(赤江珠緒)この『パラサイト』は。

(町山智浩)『パラサイト』はコメディなので、もう客はヒーヒー言って笑ってましたよ。途中からね、とんでもない展開になっていくんですけども。見てると本当にお腹が痛くなるっていう。笑って痛くなるんじゃなくて、見てると「どうするんだ、これ?」みたいな痛さってあるじゃないですか? ハラハラして。そうやってね、悶絶しながらみんな見ていてね、おかしかったですけども。

(赤江珠緒)へー! 徐々に自分の領域を広げていくみたいな。

(町山智浩)そうそう。だからね、そのダメ家族に見ているうちに感情移入していくから。なんかね、まあ最後の方はとんでもない話になります。もう地獄絵図になっていきますけども。

(山里亮太)地獄絵図に?(笑)。バッドエンドに向かって(笑)。

(町山智浩)まあ、あんまり言いませんが。これすごいです。これが『パラサイト』ね。で、あとすごくよかったコメディ映画でね、『マリッジ・ストーリー』という映画を見たんですよ。

(赤江珠緒)はい。

『マリッジ・ストーリー』

(町山智浩)これ、ネットフリックスの製作なんでちゃんと劇場公開はなかなかできないと思います。日本はその劇場さんがそのネットフリックスの映画を劇場でかけたがらないのでね。商売敵だから。でね、ただこの『マリッジ・ストーリー』はすごくよくて。まず主演がスカーレット・ヨハンソンなんですよ。『アベンジャーズ』シリーズでブラック・ウィドウをやってる人ですね。

で、この人はちゃんとした映画にあんまり出ない人で昔、日本で撮影した映画で『ロスト・イン・トランスレーション』という作品で注目された人なんですけど。あれ以降は結構ブロックバスターばっかりに出てた人なんですよ。で、今回はお母さんの役です。スカーレット・ヨハンソンが普通のお母さんというのをすごくちゃんと演じてる映画なんですよ、今回。でね、その旦那が最近の『スター・ウォーズ』シリーズでハン・ソロのダメ息子のカイロ・レン役をやっていたアダム・ドライバーなんですよ。

(赤江珠緒)ほう。はいはいはい。

(町山智浩)あのあのブチ切れて八つ当たりしたりしているどうしようもない敵役でしたけども。それが夫婦なんですよ。で、アダム・ドライバーはニューヨークの演出家で、ハリウッド女優がスカーレット・ヨハンソンで夫婦なんですけども。これ、実際の監督の夫婦の実話を元にしてます。これ、監督はノア・バームバックという人で、この人はジェニファー・ジェイソン・リーっていうハリウッド女優と結婚してたんですね。それで離婚して、1人息子の親権争いした時の話をそのまま映画にしてるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! すごいリアルな話。

(町山智浩)それが『マリッジ・ストーリー』なんですけども、これが コメディなんですがやっぱりものすごくおかしいんですけど切ない映画で。親権争いをするためには、裁判でその自分がいい親であることを争うことになるんですよ。どっちがいい親か? で子供のその所有権が決まっちゃうわけですよ。で、「いい親アピール」をするんだけど、このお父さんが何をやってもうまくいかないんですよ(笑)。

(赤江珠緒)フフフ、そうなんですね。へー! いま、ちょっと画像を見てますけど、また子供がかわいいな!

(町山智浩)子供がかわいいんですよ。で、お母さんの方が何をやらせてもうまいんですよ。で、これは昔、『クレイマー、クレイマー』っていう映画がありましたね。ダスティン・ホフマンとメリル・ストリープがやっぱり1人息子の親権争いをする映画で。やっぱりいい親アピールをして裁判で戦うんですけど。お父さんの方は何をやってもダメなんですよ。だからもう、あれの現代版なんですけど、まあ本当にダメオヤジでね。もう他人事じゃないですけども。

(赤江珠緒)フハハハハハッ! そうですか。

(町山智浩)ただ、これ財産はどんな条件があっても、これはカリフォルニアなんですけども。他の裁判に持ってくのね。彼女、ハリウッド女優だから。だからどんなことがあっても、財産は二分割なんですよ。夫婦は。それでは争えないんですよ。どっちにミスがあっても、二分割なんです。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですね。へー!

(町山智浩)だからこれで寝、すごいのはこの監督の方がですね、マッカーサー基金という奨学金のようなものをもらうんですよ。それは、アメリカの芸術家とか支えてるすごい莫大なお金をもらえるものなんですけども。実際にそれをもらったらしいんですが、それまで分割されちゃうんですよ。一種の奨学金だよ?

(赤江珠緒)そういう金銭的なところはもう決まってるんだ。

(町山智浩)ねえ。ひどい話だなと思って。で、まあとにかくこれも笑ってしまう作品なんですけども。最初の方で結婚セラピーに行って、お互いに「なんで結婚したの?」っていうことをセラピストに聞かれるんですね。で、「お互いの好きなところを全部リストにあげてください。自分が離婚するっていうことで、それを見つめ直すことができるでしょう」っていうことで、そのお互いの好きなところを全部リストであげるんですよ。夫婦で。スカーレット・ヨハンソンとカイロ・レンがね。すると、いますごく離婚で争っているんだけども、でも好きだった頃はこんなに好きだったんだっていうことがどんどんどんどんと出てくるんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)で、それが全部、好きだった時の映像で出てくるんですよ。たとえば、「あなたは映画館に行くとちょっとしたことで感動して泣いてたわね。そういうところ、好きよ」とかね。「君はよく道端でお金ほしがってる貧しい人がいたり、寄付を求めたりする人がいると、お金を全部あげてたね。そういう優しいところ、好きだな」とか。そういう相手の好きなところをずーっと並べていくんですよ。それが何度も蘇ってきて、切ないんですよ。なんでお互いのことを嫌いになっちゃったんだろう? こんなに好きだったのに……っていう。まあ、この『マリッジ・ストーリー』は本当にね、ゲラゲラ笑うんですけども本当に切なくてね。素晴らしい映画でしたね。

(赤江珠緒)すごいですね。起きていることは悲劇だけど、喜劇にもなってるっていう。

(町山智浩)うん、だからみんなそうなんです。さっきから紹介している映画は全部喜劇で。全部コメディで全部悲劇でもあるという。同じものなんですね。

(赤江珠緒)ねえ。テーマは全くいろいろですけどね。

(町山智浩)はい。ということでね、まだ映画祭は途中なんで。明日も朝早起きして行ってきます。

(赤江珠緒)わかりました。すみませんね、夜遅くに。ありがとうございます。

(町山智浩)もう寝ます。2時半なんで。

(赤江珠緒)『ジョーカー』は日本では10月4日公開ですね。是枝監督の『真実』も10月11日に日本公開。ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』は2020年1月予定ですね。日本公開は。で、『ジョジョ・ラビット』も1月予定となっております。で、『マリッジ・ストーリー』に関してはまだわからないということで。今日はトロント映画祭の会場から町山さんに最新リポートしていただきました。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました!

(町山智浩)どうもでした!

<書き起こしおわり>

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