羽田圭介 DJ松永『文學界』エッセイ連載「ミックス・テープ」を語る

DJ松永『文學界』エッセイ連載「ミックス・テープ」を語る ACTION

羽田圭介さんが2020年6月18日放送のTBSラジオ『ACTION』>の中でDJ松永さんが雑誌『文學界』でスタートしたエッセイ連載「ミックス・テープ」について話していました。

(羽田圭介)そんな私ね、何をしていたかと言いますと、例の問題作、話題作、読んじゃいました。

(幸坂理加)えっ何でしょう?

(羽田圭介)『文學界』7月号ですよ。DJ松永さんの「ミックス・テープ」。新連載!(拍手)。

(幸坂理加)はい。お隣、水曜日のDJ松永さんが連載を始めましたということで。

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(羽田圭介)連載を始めたっていうことで。この『文學界』には先週、ゲストでいらっしゃった山崎ナオコーラさんのエッセイも載っていたり、面白い雑誌なんですが。「ミックス・テープ」ですね。このDJ松永さん。これ、エッセイですかね。エッセイとも小説とも目次に書いてないんですが。この恐らく、DJを極めてなんかメディアとかにも出てる人の一人称で書かれてるんで。これはでも「エッセイ」と言っていいでしょう。

(幸坂理加)そうですね。

(羽田圭介)まあ文芸誌で上下二段の4ページ分の内容なんですが。ざっくり言っちゃうとこのDJの世界は厳しいわけですよ。本当に無名なところから始まると、クラブとかでチケットのノルマとかあって。「お前、ちゃんとチケットを買ってこいよ」的なね、ノルマがある現場とかでヒーコラいって。下積みというか、こなして。それでDJを……BPMを正確に合わせてミックスするっていうような職人技を極めてどんどんと上りつめていくというDJの世界があるんですけど。そこにですね、タレントDJっていう人がいるわけですよ。

タレントDJっていうのは全然曲と曲とをつなぐのは上手くないにも関わらず、ただタレントとかモデルであるとか、芸人やアイドルっていうだけでクラブに呼ばれて。それでお客さんもやってきて人気者。それに対してこの主人公の松永さんはもう激怒してるわけですよね。

(幸坂理加)そうです。そうでしたね。

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(羽田圭介)「なんのテクニックもないくせに、何であいつらは……」っていう。それはね、やっぱりわかるんですよね。僕も割とそういうところ、ありましたし。いまだにそれも強いので。要するに、何かの世界でちゃんと鍛錬とかして、1人で上手くならなきゃならない。鍛錬を積まなきゃいけないなっていう考えは割と僕の中にもあるし、松永さんの中にもあるみたいなんですよね。だから何かちょっと社交で、人脈とかでデビューしちゃう系の人を割と軽蔑してるわけですよ。

(幸坂理加)ああ、そうですか。

(羽田圭介)っていう風な感じで、松永さんは……まあ、あくまでも「数年前まではそうだった」っていう風に書かれてるんですけども。で、そこからタレントDJとかを散々バカにしてきた主人公がいざ、この連載を始めるっていうのが『文學界』っていう文芸誌なわけですよ。で、文芸誌っていうのは割と純文学の代表的な雑誌なんですよ。ベテラン作家も書いているし、作家志望の人もここの新人賞とかを受賞するのを憧れていたりとかするわけですよ。

だから文章に……ここにやっぱり文書を書こうとなったら、その文章の鍛錬が必要なわけですよね。新人賞を受賞したりだとか、その精査の目をくぐってくるっていう。で、そんな媒体で連載をするっていう風になった主人公、松永さんは「あれ? これって今からタレントDJと一緒のことをしようとしている?」っていう風に気付くわけですよ。「そんな文章の鍛錬もしてないのに……」っていう。ひたすらこの人、「鍛錬」ということにこだわるんですけど。

(幸坂理加)うん。

「自分自身、文章でタレントDJのようなことをしているのでは?」

(羽田圭介)だからまあ、そんな感じでタレントDJをバカにしまくっていた自分がタレントDJみたいなことを、同じようなことをやろうとしてるし。振り返ってみればさらにね、タレントDJだって他の世界でちゃんと成果を出したからこそ、その姿がみんなに受け入れられているんだなっていうことにも気付くわけですね。というような、きれいな流れをたった4ページでやっているんですよ。

(幸坂理加)ええ。きれいにまとまっている文章でしたね。

(羽田圭介)こんなにきれいにまとめて、どうするの?

(幸坂理加)「どうするの?」って、いいじゃないですか(笑)。

(羽田圭介)「こんなまとめちゃったよ。きれいにやったな!」って思ったんですね。で、僕は結構この感想として思ったのは、なんか松永さんってそんなに気にしなくていいんじゃないか?っていうのはすごい思ったんですよ。「鍛錬をしていないのに文章を書いて『文學界』に載せていいのか?」っていう。じゃあまあ、音楽とかま文学とかも……今、いろんな世界でもそういう傾向ってあると思うんですけど。いいものを作っても、今って結構埋もれちゃうわけですよ。

たとえば僕、動画とか作る時にフレー素材の音楽とか探すじゃないですか。そこで、フリー素材の音楽ってちゃんとしたやつがめちゃくちゃ多いんですよ。ちゃんと音大とかで理論とか勉強したんだろうなっていうようなやつが無料で使えたりだとか。クレジット表記さえすれば使えるだとか。たぶん、そこらのメジャーアーティストよりも楽曲だけで言ったら、音楽のメロディーとか素晴らしいんだろうなっていうようなフリー素材の音楽、いっぱいあるわけですね。

(幸坂理加)フリー素材で。すごいですね。

(羽田圭介)特に音楽の場合って、言語の影響も少ないので。もう世界中で……それで昔よりもコンピューターとかが発達して、個人が割といい音の音楽を作りやすくなった環境で、もう世界中の人々が作っちゃうと、いい音楽を作っても、普通にやっても埋もれてしまうわけですよね。素人から見ても。あと、小説だって日本語で小説を書くということは音楽と比べたらライバルは少ないかもしれないんですけど。まあ翻訳された小説とかを含めると、名作ってすでにいっぱいあるわけですね。文章表現って。

(幸坂理加)そうですね。

(羽田圭介)それで名作の古典なんか読んでたら、それだけで普通の人の読書時間のほとんどを費やしてしまうわけで。あと古典じゃなくても、存命の作家の……たとえば今、60代、70代ぐらいのベテラン作家の今、書いてる作品の素晴らしさを僕が。それを僕がですよ、読書好きの方に語っても、読書好きの人たちもそのベテラン作家の作品とか、あんまり読んでなかったりするんですよ。

で、そのベテラン作家のもう3、40年も前の何かの賞を取った作品だけは読んでいるけど、今の作品は全然読んでなかったりする。今の作品の方が素晴らしいのに、今の作品は読まれずに埋もれていたりするわけですよ。だから、もう何だろう? 上手い作品とか素晴らしい、面白い作品を書いたからって、そもそも埋もれてしまって読まれなければあんまりそれは伝わらないんですよ。

(幸坂理加)そうですよね。世にでなければ意味がないですよね。

(羽田圭介)そう。だから僕は割とベテラン作家の作品ほど紹介した方がいいんじゃないか?っていう風に思っているんですけど。なぜなら確実に素晴らしくて面白いものが多いから。だと思うんですけれども……基本的にだから、僕も松永さんも「努力して鍛錬すれば誰かが見つけてくれる」っていう幻想はたぶん根強いんですよ。まあたぶんさすがにね、お互いに最近はそうでもないかもしれないですけど。「少なくとも努力すれば、実力さえつければ誰かが見つけてくれる」って思ってたと思うんですよ。

(幸坂理加)うん。思ってる。でもね……。

(羽田圭介)でも現実に自分よりも実力ある人が、文芸誌に掲載しても、単行本を出してもらえなかったりとか。そういうのを見ると、なんか割と実力はあってもダメなんだって。

(幸坂理加)目に止まらなかったりとかね。

埋もれないためには全部使うしかない

(羽田圭介)そういう状況で何が大事か?って言ったら、もう埋もれないためには全部使うしかないよなっていう。音楽なんかも小説とか、文章とかも、もう「誰がやるか?」っていうのはかなり今って重要なんじゃないのって思うんですよね。たとえばもうベテラン作家が書いた文章でさえ、埋もれちゃうんだったら、今もうDJの世界で……無名だったDJの世界で努力して有名になった松永さんが、その肩書きを使って文章の世界で読んでもらうっていうのはそれは全然問題はないし。ありでしょう。というか、もう今時そんな……「自分にはこの世界で鍛錬が足りない」とか云々って考えてる暇はないよなっていう風にも思ったんですね。

(幸坂理加)ああ、持ってるものは全部使え、みたいな?

(羽田圭介)そうそう。そもそも、専業小説家も最初は素人だったわけですよ。僕だってただの高校生だったのが、新人賞に応募してデビューして小説家になったわけですから。DJの世界で、いろいろと普通の人が経験したことないことを経験した人っていう、そのバックボーンがある人が文章を書くっていうのは、素人が新人賞に応募するよりも割とそれ、有利なのは当たり前でしょうっていう感じなんですよね。だから全然、この連載第1回のような戸惑いっていうのはなしでやった方がいいと思いますね。

(幸坂理加)ねえ。松永さんの文章、面白いなと思ってそこから曲を聞く人も出てくるでしょうからね。

(羽田圭介)そうそうそう。だから本当に埋もれないためにね、こだわりを捨てるのが大事ですよね。

(幸坂理加)そうですね。

(羽田圭介)リスナーの人はそういう捨てたこだわりとか、教えてほしいですよね。「昔は鍛錬をすれば誰かに見つけてもらえると思ってたけど、そんなこだわりはもう捨てた」みたいな。「昔は何が何でも『これはこうだ』と思ってたけど、今じゃ違います」みたいな。そういう捨てたこだわりについて、お待ちしています。

(中略)

(羽田圭介)そして『文學界』ね。忘れちゃいけないのは250ページ。あの武田砂鉄さんの連載「時事殺し」。第53回は「マイナンバー信仰」。「布マスクが来ない。来なくていいものが……」という。憤ってますね。

(幸坂理加)そうですね。

(羽田圭介)これは毎月、僕は読んでいます。

(幸坂理加)ああ、そうですか。どうですか?

(羽田圭介)すごく面白いです。

(幸坂理加)面白いですね。皆さんもぜひ読んでください。

(羽田圭介)時事殺し!

<書き起こしおわり>

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