(渡辺志保)「エーカー」っていうのは広さを表す単位なんですね。で、これは奴隷の人々が南北戦争後、奴隷解放宣言が出た時に「お前たち、今日から自由だから今までの奴隷制への補償として1人につき40エーカーの土地と(土地を耕すための家畜として)ラバを1頭与えます」っていう約束をしたんですね。「これだけ補償をするから、あとはよろしく」みたいな感じで約束されたっていう出来事があったんですね。(※注 結局、補償は十分な形で果たされず、アメリカ合衆国では解放奴隷に対する『破られた約束』の代名詞として知られている)
「40エーカーとラバ一頭」とは➡ http://t.co/VboO3rmZnu
— Shiho Watanabe Kurokawa (@shiho_wk) March 16, 2015
(DJ松永)なるほど。
(渡辺志保)なので、奴隷制と今に至るその負の境遇を象徴するような言葉でもある。そういったフレーズをリリックに差し込みながらラップをしている曲でもあります。
(DJ松永)では、皆さんに聞いてもらいましょう。
Kendrick Lamar『Alright』
(渡辺志保)はい。今、お届けしたのはケンドリック・ラマーで『Alright』でした。さっき話した「40エーカーとラバ」のくだりなんですけども、ヒップホップのラップの歌詞にも出てくるフレーズで。あとは有名なところだと映画監督のスパイク・リーがご自身の映画制作会社を作っているんですけど。その屋号が「40 Acres and a Mule Filmworks」という名前なんですね。なので、たとえば彼、スパイク・リーの映画作品を見ると冒頭に絶対にその「40」っていう数字をもじったロゴがバーンと出てくるので。もし『ドゥ・ザ・ライト・シング』とか見られる際にはそういうところにも目を向けていただくと面白いかもしれません。
A Spike Lee joint. Gold “Oscars” Air Jordan 3.
That 40 Acres and a Mule logo on the back looks pretty clean. Wouldn't mind a pair of these. pic.twitter.com/QurFKCfho0
— Jacques Slade (@kustoo) February 24, 2019
(DJ松永)なるほど。ありがとうございます。じゃあ、次の曲をお願いします。
(渡辺志保)次はググッと時代をさかのぼって、1939年に発表されたブルースの……。
(DJ松永)ヒップホップがまだ生まれてない時代ですね。
(渡辺志保)ただ、この曲はいまだに非常にサンプリングされていて。定番の曲ではあるんですけれども。ビリー・ホリデイという女性シンガーが歌った『Strange Fruit』という曲です。で、『Strange Fruit』ってそのまま日本語に訳すと「奇妙な果実」っていうタイトルでして。五木寛之さんが全く同じタイトルで小説を書いてるんですが、それとは全く関係がないんですけども。
この「奇妙な果実」というタイトルが何を示しているか?って言いますと、リンチにあって虐殺されてしまい、木にその遺体を吊り下げるっていうのが結構当時から……今はさすがにないと信じたいですけど。白人至上主義団体KKK。そういった人たちが黒人をリンチする常套手段みたいな、そういった本当に本当に悪しき習慣みたいなものがあったんですよ。ちょっとでも気に食わなかったり、逆らったりすると……ご主人様に逆らう黒人奴隷とか黒人の市民ですよね。そういう人たちを懲らしめる、戒めるためにそういったリンチを続けていて。で、その木からぶら下がったり遺体が奇妙な果実に見えるっていう、そういう歌なんですよね。
美味しんぼ 山岡さんによる、ビリー・ホリデイ『奇妙な果実(Strange Fruit)』解説 #blockfm #inside_outhttps://t.co/70kVaSScMIhttps://t.co/FlzRktlCda pic.twitter.com/pIUH1ARGxT
— みやーんZZ (@miyearnzz) May 29, 2017
(DJ松永)つらくなりますね……。
(渡辺志保)本当につらくなる。でも、こういうことを歌わねばならなかった時代背景っていうのも確実にあって。当時はまだジム・クロウ法という法律……これは「黒人取締法」みたいな法律なんですけども。その法律があるがために、たとえばバスやトイレや映画館、そういう公共の施設で黒人と白人は混ざっちゃダメですっていう、そういう法律があったんですよ。州によってディテールは異なるんですけども。州によってはですね、黒人と白人が結婚したらいけないとか、そういったところまで介入して。とにかく分離をしていたんですね。その法律が当たり前に施行されていた時代の曲ですから。なんか、ここまで歌って訴えることがあった。訴える必要があったんだなという風に思ってます。
(DJ松永)じゃあ、こちらを皆さんに聞いていただきましょうか。
(渡辺志保)はい。ビリー・ホリデイで『Strange Fruit』です。
Billie Holiday『Strange Fruit』
(渡辺志保)はい。というわけで今、聞いていただきましたのはかなりブルージーな雰囲気でしたけれども。ビリー・ホリデイで『Strange Fruit』でした。まあ、このジム・クロウ法も完全に撤廃されたのが1964年、65年ぐらいで。
(DJ松永)えっ、そんな?
(渡辺志保)結構最近なんですよ。だから、それこそアトランタとかに行くと、「うちのおばあちゃんの時代はまだジム・クロウ法があったから」とか「キング牧師と一緒に公民権運動に参加してたから」とか。そういう、今の人たちの話を聞くことも少なくないですね。
(DJ松永)ありがとうございます。じゃあ、続いて。
(渡辺志保)続いてはめっちゃ、ガラッと雰囲気、バイブスが変わるんですけども。言わずと知れた1曲だと思いますがN.W.A.の……。
(DJ松永)フハハハハハハハハッ!