町山智浩 大林宣彦を追悼する

町山智浩 大林宣彦を追悼する たまむすび

(山里亮太)へー! それだけ言われると、見るのはちょっと難しいのかな?って思っちゃうんですけども。食あたり的な……。

(町山智浩)楽しいですよ。ミュージカルコメディですから。ミュージカルコメディなんですよ、内容は。それで海辺の映画館っていうその映画館に行くと、戦争映画が3本、やってるんですね。ひとつは戊辰戦争を舞台にしたもので、ひとつは沖縄戦で、もうひとつは広島の話なんですよ。で、内容的には戊辰戦争の会津戦争で白虎隊と……それから女の子たちが玉砕したっていう実際の事件があるんですね。

ご存知かと思いますが。娘子隊(じょうしたい)っていうんですけども。それで、沖縄戦はもちろん女子高生たちが戦争の中で玉砕させられてしまったひめゆり学徒隊がありますよね。で、広島の方では広島の原爆に巻き込まれて全員死亡してしまった巡回劇団がありまして。それが桜隊っていうんですよ。その3つの女子隊が3つの戦争でほとんど全滅をするという話なんですよ。だけど、それがミュージカルコメディとして作られているんですよ。

(山里亮太)どうやったらそれをミュージカルコメディに持っていけるんだろう?

(町山智浩)しっとりと撮ろうとしないんですよ。もうわちゃわちゃわちゃわちゃと、楽しく騒がしく撮るんですよ。すごいパワーですよ、これ。

(山里亮太)もう一貫して変わらないんですね。そういう撮り方、挑戦的な撮り方っていうのは。

(町山智浩)だからものすごいパワーがあって、エネルギーが溢れすぎて、映画を破壊するところまでやっちゃうっていう(笑)。すごいですよ。だって、この映画は3時間ですよ? 3時間あって、全編しゃべりまくりで全員がもうかけずり回って、ミュージカルになって、コメディになっているんですよ。普通、映画って「ダレ場」っていうのがあるんですよ。しっとりとそこだけさせるんですよ。ゆっくりとみんなが会話したりして、観客に考えさせたりして、染み込ませる時間っていうのがあるんですよ。でも、大林宣彦監督の映画にはダレ場っていうのはないんですよ。ものすごいパワーですよ。

(外山惠理)へー! 見る方もね、パワーがいりそうですね。

(町山智浩)まあ、そうなんですけどね(笑)。でもその一方ですごくしっとりした映画も撮っているんですけども。まあそれはね、『転校生』だったりとか『さびしんぼう』だったり。『異人たちとの夏』とか『ふたり』とか『はるか、ノスタルジィ』とか。そういった映画は非常にしっとりとした映画として撮っているんですけれども。まあ僕、実は1987年。25歳の頃に大林監督のファンだったので撮影現場にずっと同行したことがあるんですよ。

(外山惠理)へー!

25歳の時に大林宣彦監督の撮影現場に同行

(町山智浩)それはね、『日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群』っていうものすごい長いタイトルの映画なんですけども。これ、大林監督の故郷の尾道でロケされたんで、そこにちょっと泊まり込んで僕、撮影に同行をしたんですけども。まあ、すごいんですよ。撮影が。早い早い。どんどんどんどん撮っていくんですよ。普通、何テイクも撮ったり、いろいろとするんですけども。セッティングとかにも時間がかかったりするし。でも、セッティングも早いし撮るのも早いし。もう1テイクとかでどんどんと「次に行こう、次に行こう」って行っちゃうんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)それで出来上がった映画を見たら、さらにそれを早送りしてました。コマ落としになっていました。それで、「どうしてそういう風に撮るんですか?」って直接お聞きしたんですね。まず、彼はサイレント映画が好きなんですよ。で、サイレント映画っていうのはみんなチャカチャカ動くでしょう? で、演技もすごくわかりやすい演技で、リアルな演技じゃないじゃないですか。そういう風に撮りたいらしいんですよ。

(外山惠理)ええーっ!

(町山智浩)だから『さびしんぼう』だと富田靖子さんがチャップリンみたいなメイクで出てきますけども。すごくサイレント映画の影響を受けてるんですね。大林監督は。で、その時に言ってたのは「セリフは棒読みがいい」っていうんですよ。

(外山惠理)へー!

(町山智浩)『時をかける少女』の時に「セリフがみんな棒読みだ」っていう風に批判されたですね。「わざとやってます」っていう風に言っていました。

(外山惠理)なんでだろう?

(町山智浩)「映画というのは芝居じゃないんですよ」って言うんですよ、彼は。「映画っていうのは、おもちゃなんです」って言うんです。「現実の通りじゃなくていいんです。バカバカしくていいんです」って。そう言うんですね。「だから、できるだけ作り物にするんです」って言うんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)だから、すごく面白い作家性の監督でしたね。ただね、もうひとつ。大林監督を知らないで見ると食あたりを起こす理由はね、ロリコンなんですよ。

(山里亮太)あら?

多くの美少女を撮る

(町山智浩)ああ、これもご存知ないですね。大林監督はとにかく美少女を撮るんですよ。富田靖子さんであったり、原田知世さんであったり、石田ひかりさんであったり。10代の頃に……南果歩さんもそうですよ。まあ新人女優を見つけてきて、彼女たちを非常に美しく撮るんですけど……たいていヌードシーンがあるんですね。

(外山惠理)うん?

(町山智浩)ああ、もう全然ご存知ないんですね。だから、「大林監督の映画にアイドルの○○が出る」っていうことになるとその頃の映画少年たちは「ああ、やっぱり脱ぐのかな?」と思ったんですよ。

(外山惠理)ああー、それで見に行っちゃう?

(町山智浩)そうそうそう。だからね、もう1人ね、大林監督と非常によく似たお名前の方で小林信彦さんという作家の方がいるんですけども。その方も非常に少女が好きでね。だからあの映画ファンの間ではよくね、「大林・小林ダブルノブヒコ」なんて言っていましたけどね。まあ、それは置いておいて……(笑)。ただね、大林監督の映画ってどれも、もうひとつの特徴があるんですよ。その実験的であるのと、ロリコンであるのと、それから尾道で撮るっていうのがあるんですけど。もうひとつは、どれもオバケ映画なんですよ。

(外山惠理)ええっ?

(町山智浩)幽霊映画なんですよ。これ、ご覧なった方だったら分かると思いますけど、『さびしんぼう』っていう映画は富田靖子さんが顔を白くなった、まさに幽霊のような姿で尾美としのりさんの周りに現れるんですね。で、誰だか全く分からないんですけど。まあ、オチになるから言いませんが、幽霊のようなものなんですよ。それから、『異人たちとの夏』なら言ってもいいですね。これは40過ぎた風間杜夫さんがですね、奥さんと子供に逃げられて。自分の子供の頃に死んだ両親……片岡鶴太郎さんと秋吉久美子さんに会うっていう話なんですよ。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)だから死んだ自分の両親の幽霊に会う話なんですね。それで『ふたり』っていうのはこれは石田ひかりさんの死んだ姉、中嶋朋子さんが幽霊として現れるっていう話なんですね。

(町山智浩)それから『はるか ノスタルジィ』っていうのも、これもちょっと言えないですけど、石田ひかりさんがある種の幽霊として出てくるんですよ。

(町山智浩)『あした』っていう映画はこれは尾道で遭難した客船の乗客がまた現れるっていう話なんですよ。全て、幽霊映画なんですよ。

(山里亮太)なんでなんだろう?

(町山智浩)これも、聞きました。彼が子供の頃に戦争があって。「戦争で多くの人たち……自分のお姉さんとか近所のお兄さんとかが死んでいった。彼らには青春がなかったんだ。だから、彼らの霊を映画の中で恋をさせたり、青春を楽しませてあげたいんだ」って言っていたんですよ。それでは直接、そのまま出てくる話もあるんですよ。今、言ったテーマが。それは『海辺の映画館』がそうなんですね。

(外山惠理)ああ、今回の作品だ。

(町山智浩)はい。その戦争映画を見ている若者たちがその映画の中に入ってくるんですけども。そこで戦争によって引き裂かれた恋人たちの物語が描かれるんですね。で、この人ね、デビュー作からずっとそうなんですよ。『HOUSE ハウス』っていう映画はさっき言ったように幽霊屋敷の話なんですけど、その幽霊屋敷の正体は戦争で引き裂かれた恋人同士、三浦友和さんと南田洋子さんの幽霊だったことが分かって来るんですよ。後半で。だからデビュー時からずっと同じことをやっていて、最後も同じ。戦争で引き裂かれた恋人たちの物語に戻ってるんですよ。その間、44年間ですよ。

(山里亮太)すごい。一貫して。

一貫したテーマ「人は死んでも死なないんだ」

(町山智浩)一貫しているんですよ。あと、やっぱり大林監督は「人は死んでも死なないんだ」っていうテーマばっかり描いてきて。この人の幽霊映画ってどれも全然怖くないんですよ。だって、みんな死んだお父さんやお母さんに会いたいでしょう? 死んだ恋人に会いたいでしょう? この人の映画の幽霊は怖くないんですよ。でも、だからこそある意味逆に怖いんですけど。だから、「大林監督が亡くなった」って聞いてもね、なんか全然死んだ気がしないんですよ。全然そういう気はしない。

で、それはね、その『HOUSE ハウス』っていうデビュー作の一番最後に彼はもう、遺言のような言葉を書いてるんですよ。一番最後、このナレーションで終わるんですよ。「たとえ人の肉体は滅んでも、人はいつまでも誰かの心の中に、その人の思いと共に生き続けてるんだ。永遠の命とは、決して失われることのない人の思いなんだ」って言ってるんですよ。これ、デビュー作ですでに遺言を書いているんですよ。

(外山惠理)うん。

(町山智浩)「その人を思う気持ちが人の中にあれば、決してその人は死んでいないんだ」と。だから、もう彼の映画はそういう映画だったですね。はい。ということで、もうすぐ……いろいろコロナとかがなくなったら、『海辺の映画館―キネマの玉手箱』、公開されると思いますので。そっちは本当の遺言になった映画なんですけどね。遺作なんですけどもね。

(外山惠理)その公開予定日に亡くなったというのもね。

(町山智浩)すごいですね。まあ、グルッと回っているんで。大林監督の映画は。デビュー作と最後の作品が。ぜひ、ご覧ください。

(外山惠理)ありがとうございました。じゃあ、『エクストリーム・ジョブ』はまたということで。

(町山智浩)はい。また今度。来週にでもやります!

(外山惠理)町山さん、ありがとうございました!

(町山智浩)どうもでした!

<書き起こしおわり>

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