町山智浩 『アリー/スター誕生』を語る

町山智浩 『アリー/スター誕生』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『アリー/スター誕生』について話していました。

(町山智浩)はい。町山です。どうもです。よろしくお願いします。

(赤江珠緒)よろしくお願いします。

(町山智浩)さっきクリント・イーストウッドに会ってきたんですけども。

(赤江珠緒)はい!

(町山智浩)インタビューです。新作なんで。88歳で新作映画、『運び屋』っていう映画なんですけど、セックスシーンがありました!

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)最初の報告がそれじゃないと思うんですが……。

(町山智浩)88歳。ピチピチのセクシー美女2人と同時でした!

(赤江・山里)ほー!

(町山智浩)「誰が見たいのか?」とかいろいろと問題がありますが(笑)。それで、その時にインタビューでね、今回紹介する映画『アリー/スター誕生』の話をしたんですよ。で、それは監督・脚本・主演がブラッドリー・クーパーっていう、『アメリカン・スナイパー』に主演した、クリント・イーストウッドのなんて言うか、お弟子さんなんですね。で、もともとイーストウッドが『スター誕生』を撮るはずだったんですよ。で、それをお弟子さんのブラッドリー・クーパーに譲ったんですね。

(赤江珠緒)そうなんですか。うん。

(町山智浩)そしたら、彼は主演女優をレディ・ガガさんにしたいっていうことで、イーストウッド御大はその時、「やめとけ」って言ったらしいんですよ。

(赤江珠緒)えっ? もともとじゃあ、クリント・イーストウッドさんは誰で撮るつもりだったんですか?

(町山智浩)ビヨンセさんで撮るはずでした。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、まあ『スター誕生』が出来上がったのを見たら、「俺のアドバイスは間違っていた」って言っていましたね。

(赤江珠緒)へー! ガガさんは演技とかっていうのは結構されているんですか?

(町山智浩)あのね、クリント・イーストウッドは知らなかったんですよ。彼女、実は歌手として知られているんですけど、実はニューヨークの名門演技養成所のアクターズスタジオっていうところでちゃんと勉強している人だったんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなのね。へー!

(町山智浩)ものすごい苦労人なんですよ、あの人。だからイーストウッド御大がね、「ああ、失敗した」って言っていましたよ。「自分じゃなくてブラッドリー・クーパーでよかった」って言っていましたね。

(赤江珠緒)ああ、そんなに成功した映画なんだ。

(町山智浩)いまね、この『アリー/スター誕生』っていう映画はもうすぐアカデミー賞のノミネートが発表になりますけども。おそらく最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、主題歌賞のノミネートは確実だろうと言われています。

(赤江珠緒)はー! 結構総ナメですよ。

(町山智浩)総ナメになるだろうと。まあ、ノミネートですけどね。受賞するかどうかは置いておいて。で、まあその映画『アリー/スター誕生』について話したいんですけども。これね、もう4度目の映画化なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)一作目は1937年。で、それが最初の『スター誕生』なんですけども、そのお話は田舎出身の女優になりたい女の子がちょっと年上のハリウッドのすでにスターになっている男性の俳優に見出されて。だから『マイ・フェア・レディ』みたいな感じですね。で、映画スターと2人で恋に落ちて結婚して。で、彼女は映画スターとして成功をしていくんですけども……奥さんが映画スターとして成功をすればするほど、旦那の方はどんどん落ち目になって、酒に溺れて滅んでいくっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ、はいはい。

(町山智浩)結構キツい話なんですけども。でね、2回目の映画化は1957年で、これは主演のスターになるのは『オズの魔法使い』のドロシーを演じたジュディー・ガーランドさんですね。で、彼女は歌手だったんで、ここからミュージカル映画に変わってくるんですよ。『スター誕生』っていうのは。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でね、3回目の映画化は1976年で、これは僕はリアルタイムで見ていますけども。主演はバーブラ・ストライサンド。で、これはロックシンガーの話です。基本的にはね、さっき言ったストーリーのままなんですよ。4本とも。今回のも含めて。

(赤江珠緒)なるほど。じゃあストーリーとしてはみんなわかっているあらすじだから。

(町山智浩)みんな知っている。誰でも知っている話なの。でも何度も何度もこれがなんでそんなに映画化されるのか?っていうと、そこに描かれている問題っていうかテーマが昔からまるで変わっていないからなんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは夫婦の問題だったりいろいろとあるんですけども。だからね、この『スター誕生』っていう映画の中でもセリフで出てくるんですけども。「ひとつの歌はいろんな歌手に歌い継がれていくだろう?」っていう。まあ、そういう映画なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)名曲はいろんな歌手に歌い継がれていく。『スター誕生』もまったくそうであるという。

(赤江珠緒)ああ、そういうことか。

(町山智浩)でね、今回まずすごいのは、この監督・脚本・制作・主演を1人で全部やったブラッドリー・クーパーさんなんですよ。二枚目俳優なんで、『ハングオーバー!』なんかでコメディーをやっていたりした人なんですけども。『ハングオーバー!』までは全く売れなくて苦労していた人なんですよ。で、今回は彼、ロックミュージシャンの役で、パールジャムのエディ・ヴェダーみたいなキャラクターでブルース・ロックをやるんですが……彼、これまで歌ったこともギターを弾いたこともなかったんですよ。ブラッドリー・クーパーは。

(赤江珠緒)ええっ?

ギターも歌もできなかったブラッドリー・クーパー

(町山智浩)で、この映画をどうしても映画化したいっていうことで3年間、毎日4時間から5時間ずつ練習したんですよ。毎日。

(赤江珠緒)ええっ? そんなに時間をかけて?

(町山智浩)そう。で、あと声がすごいんですね。ブラッドリー・クーパー、僕は会ったことがあるんですけど、普通にしゃべると普通なんですけども、今回の『スター誕生』ではカウボーイの酒でボロボロのロックミュージシャンの声を出すために、全然違う声を出していました。(しゃがれた声で)「I know you, man!」とか、そういう声なんですよ。で、声を完全に作っていますよ。それがすごいんですよ。サム・エリオットっていうテキサス生まれのカウボーイ俳優の人がいて、その人と兄弟の役なんですよ。で、兄弟なのに声が違いすぎるとおかしいっていうことで、サム・エリオットの声に合わせたって言っているけど、そういう役作りなんだっていう……(笑)。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからこれ、兄弟2人で(しゃがれた声で)「I know you, man!」とかって言ってるんですよ。そこもおかしいんですけども。で、あとレディ・ガガはとにかくね、今回は彼女、本格的な歌手で本格的な女優なんだっていうことを徹底的に見せる映画になっていますね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)いままでは生肉ドレスとかね、素っ頓狂な格好をしていたので。

(赤江珠緒)アハハハハハッ! 話題になりましたもんね。

(町山智浩)そう。あとはメイクがすごいですよね。で、今回はもうほとんどすっぴん。すごいですよ。ステージのシーン以外はほとんどすっぴんですね。だから本当に生のレディ・ガガを見せるっていう映画になっていますけども。とにかくね、ありとあらゆる点が生々しい映画でね。まず、このブラッドリー・クーパー演じるジャクソンっていうロックシンガーの演奏シーンから始まるんですけど。いきなりなんかボリボリとヤバい薬を飲むところから始まって。でね、これの演奏をちょっと聞いてもらいましょう。『Black Eyes』という曲です。彼自身が歌っています。

(町山智浩)はい。これ、いままで歌ったことのなかった人の歌に聞こえないですね。

(赤江珠緒)すごいですね、本当に! これを役作りのために?

(町山智浩)そうなんですよ。本人の声ではない低い声をボイストレーニングで出しているんですけども。で、ただこれ、演奏をしている間も客の方を全く見ないんですしょ。で、曲が終わると酒をラッパ飲みしているんですね。で、もうボロボロなんですよ。酒とドラッグで。で、さまようようにしてバーに入るんですけど、そのバーがいわゆるドラァグバーっていう女装バーなんですよ。そこでレディ・ガガさん演じるアリーが歌っているんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)エディット・ピアフのシャンソンの『バラ色の人生(La vie en rose)』っていうのを歌っているんですけども、あまりにもその歌の表現力がすごいんで、ジャクソンは一発で「これはすごい! この人、スターだ!」って思うんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、「なんでこんな30過ぎまでこんなところで埋もれているの?」って聞くと、そのレディ・ガガ扮するアリーは「私、『あんまりかわいくない』って言われてデビューできないの」って言うんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)「なぜ?」って言うと、「『鼻がデカすぎる』って言われるのよ」っていうね。で、これは実際にレディ・ガガが言われたんですって。「君、その鼻を手術して低くしたらデビューさせてやるよ」とか言われたらしいんです。

(赤江珠緒)ああ、そんなリアルな話を盛り込んでいるんですか?

レディ・ガガのリアルな話を盛り込む

(町山智浩)で、本当に手術する直前まで行ったのをやめたらしいんですけど。友達に止められて。でね、これ70年代版の『スター誕生』の主演だったバーブラ・ストライサンドもまったく同じことをレコード会社から言われているんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)この人も鼻がデカいんですね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)「君は鼻がデカいからスターになれない」って言われているんですよ。でも彼女、バーブラ・ストライサンドも手術を拒否して。それでも歌と演技の才能で成功したんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)ただね、これがもし男だったら、言いますかね? 「君、鼻がデカいからデビューできないよ」って男のミュージシャンとか俳優には言わないでしょう?

(赤江珠緒)たしかにね。

(町山智浩)これ、完全な差別なんですよ。そこから始まるんですよ、この『スター誕生』という話は。で、そのジャクソンはアリーが「私、鼻が大きいから……」って言ったら、「いや、僕は君の鼻は最高に美しいと思うよ。好きだぜ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ほう!

(町山智浩)出会って2分ぐらいです。はい(笑)。これでもう2人は恋に落ちちゃうんですね。でね、またこのブラッドリー・クーパーの方もね、さっきレディ・ガガのキャラクターが本人をもとにしているって言いましたけど、彼女は女装バーで歌っていたっていうのも本当なんですね。彼女はすごくドラァグクイーンとかにすごく人気があるんですけど、もともとそういうところから出てきた人なんですよ。で、あのファッションとかもそういう人たちから学んだんです。あの化粧も。

(赤江珠緒)なるほど。

(町山智浩)で、その彼女にいろいろと教えてくれたドラァグクイーンの人も今回の映画に出ています。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)師匠なんで(笑)。でね、ブラッドリー・クーパーの酔っぱらい演技もすごくて、本当に酔っぱらっているようにしか見えないんですけど……彼、この映画の最中に一滴も飲んでいないですよ。彼、アルコール中毒だったんですよ。

(赤江珠緒)えっ、もともとですか?

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