町山智浩 大林宣彦を追悼する

町山智浩 大林宣彦を追悼する たまむすび

町山智浩さんが2020年4月14日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で亡くなった大林宣彦監督を追悼していました。

(外山惠理)町山さん、こんにちは。よろしくお願いします。

(町山智浩)はい。よろしくお願いします。お久しぶりです。

(外山惠理)お久しぶりです。あの、町山さん、今日はやっぱり大林宣彦監督のお話でしょうか?

(町山智浩)はい。今日は予定を変更して、大林監督のお話をさせてください。

(外山惠理)これは、もしかして……原田知世さん。こんな無垢な声、出せないですね。

(町山智浩)ねえ。『時をかける少女』ですよ。これは1983年で僕は大学の3年生だったかな? 高田馬場の映画館で見ましたけども。これは実は薬師丸ひろ子さんの映画と二本立てで。こっちの方がね、B面だったんですよ。誰もこの映画のは注目していなかったんですよ。

(外山惠理)ええーっ!

(山里亮太)その時の薬師丸ひろ子さんの映画というのはなんだったんですか?

(町山智浩)なんだったっけな? 『野蛮人』だったっけな?(※『探偵物語』だった模様)。なんか忘れましたけども(笑)。

(外山惠理)A面の方を覚えてないっていう。

(町山智浩)それで『時をかける少女』の方は単独で名画座を回り続けるという状態になったんですよ。

(山里亮太)すごいな。

(町山智浩)劇場とかも全部そんな感じで。『時をかける少女』だけで興行をするような状態でした。ただね、この大林監督の映画、最初に……それまではCMディレクターとしてすごく有名だったんですけども。最初の映画デビュー作は大変なことだったんですよ。

(外山惠理)うん?

(町山智浩)大林監督のデビュー作っていうのは『HOUSE ハウス』っていう映画だったんですよ。

デビュー作『HOUSE ハウス』

で、これがね、『スター・ウォーズ』とか、そういったものすごい映画ブームだった時がありまして。それは僕が中学生だった頃で中学3年ぐらいの時だったんですけども。とにかく今と違って中学生の男子はみんな映画を見に行く時代だったんです。映画の話ばっかりしてるんですよ。つまり、ツッパリでも勉強してるやつでも、誰でも。そういう時代があったんです。その当時は。みんな『サスペリア』だの『ゾンビ』だの、そういう話をずっとしてたんですよ。学校に行くとみんなで。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)「『スター・ウォーズ』が……」とか「『未知との遭遇』が……」っていうような話をしていた時代にこの『HOUSE ハウス』が日本からもそういう映画が作られたということでバーンと公開されたんですね。で、これを見に行ったら、その頃はまあホラー映画ブームだったんでね。みんな、ひっくり返っちゃったですよ。

(山里亮太)ええっ、ひっくり返った?

(町山智浩)『HOUSE ハウス』ってご覧になってないないですよね? 1977年の作品。これはね、ひとつの古い家があって。その家に遊びに来た女子高生たちがその家に食われちゃうっていうホラー映画なんですよ。大場久美子さんとかね、池上季実子さんが女子校生なんですけど。で、そういうホラー映画をみんな期待して行ったら、内容がとんでもない映画だったんですよ。

(山里亮太)「とんでもない」?

(町山智浩)とんでもない。はっきり言うと、チャチい。

(山里亮太)ああ、悪い方の「とんでもない」だったんだ。

(町山智浩)そう。チャチい。ガチャガチャしている。怖い映画なのに、演出とかがガチャガチャしているから怖くならないんですよ。チャカチャカしていて、昔のフジテレビのバラエティーみたいな内容なんですよ。わかる人にはわかるんですけども。『翔んだカップル』みたいなね。で、しかも画づくりがめちゃくちゃ。全ての背景とか空が、全部絵なんですよ。雲とか夕焼けとか。それで東京駅のシーンがあって、東京駅の周りにものすごい高層ビルが立ち並んでいるっていう画なんですけども。今は東京駅の周りに高層ビルって立ち並んでいますけど、その頃にはまだなかったんですよ。だからもう異形なの。全てのカットが。

(山里亮太)違和感だらけ?

(町山智浩)もう違和感だかけ。それで、ギクシャクしているんですよ。要するに、つながりが悪いんですよ。で、「なんだ、これ?」っていう事になったんですよ。その頃の映画ファンとかが見に行って。「これ、自主映画じゃね?」っていうぐらいの感じだったんですよ。で、その頃、「この『HOUSE ハウス』という映画はおもちゃ箱をひっくり返したような映画だな」って言われていたんですよ。で、結構大林宣彦監督に対して映画ファンはその時、バッと冷めたんですね。映画中学生とか映画高校生は。それでしばらく冷めていたら、1982年に『転校生』という恐ろしい映画がやってきたんですよ。ご覧になりましたか?

(山里亮太)はい。これはさすがに私も見ました。

(町山智浩)これもね、ひっそりと公開されたんですよ。ものすごい低予算映画なんですよ。これはATGっていうところで作っていて、制作費は1億円行ってないですね。数千万円で作っているんです。それでほとんど宣伝もされなかったんですけども。それで、劇場で普通にやった時にはほとんど人が入らなかったんですよ。でも、名画座で回っていくうちにカルト映画になっていったんですよ、これは。

(外山惠理)へー!

(山里亮太)そうですよね。伝説的な映画の象徴というか。

(外山惠理)そうですよね。階段から落ちて、入れ替わっちゃってね。

(町山智浩)そう。最初は誰にも注目されていなかったんですよ。

(山里亮太)僕、尾道でその階段のところにわざわざ行きましたもん。

(町山智浩)僕も行きました!

(山里亮太)やっぱり聖地として……たくさんいらっしゃいますよね。あの階段のところに。

聖地・尾道の階段

(町山智浩)そう。これは小林聡美さんが主演なんですけども。薬師丸ひろ子とかがスターの時に小林聡美さんは当時、全く知られていないわけですよ。要するに、ノースター映画だったんですよ。で、小林聡美さんと尾美としのりさんが高校生同士で神社の階段から事故で転げ落ちて、その心が入れ代わっちゃうというね。男の子と女の子が。そういうドタバタ映画なんですけども。新海誠監督の『君の名は。』は明らかにここから来てますからね。

(山里亮太)そうですよね。

(町山智浩)ただ、これは本当にひっそりと公開されて、映画ファンの間で「あの映画、すごいぞ! あの映画、すごいぞ!」っていうことになっていったんですよ。「すげえ、すげえ!」って言っていた時に、今度は『時をかける少女』が来たんですよ。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)それも二本立てのB面で来たんですけど、そっちの方が上がっちゃって。『転校生』と『時をかける少女』の二本立てで名画座をぐるぐる回っていくっていう時代になっていったんですよ。という、ファンによって最初、見捨てられた大林監督がファンによって名監督になったんですよね。

(外山惠理)へー! 『転校生』の翌年ですもんね。すごいですね。『時をかける少女』ね。

(町山智浩)そうなんです。でも『転校生』自体がそのカルト映画になっていったっていうのは82年の終わり頃なんですよ。で、今、バックにピアノの曲が流れているんですけども。これは大林監督の映画の中で常に流れるピアノの音なんですけどもね。まあ、一番みんながトラウマになっている映画というのは……大林監督の映画というのは「ああ、すごい大林監督の映画、大好きだ!」って思って。「ああ、次の映画が来たぞ!」って思って見に行くと「なんだ、これ?」っていうのがあるんですよ(笑)。

(外山惠理)フフフ、へー!

(町山智浩)一番すごかったのは『漂流教室』っていう楳図かずおさん原作のSF映画で。小学校がタイムスリップして超未来の地球に行ってしまうっていう話なんですけど。それで大林さんの映画の方には巨大なゴキブリが出てくるんですね。で、その巨大なゴキブリがピアノを弾いたりするんですよ。で、「何なのか?」っていうとそのゴキブリが大林監督自身なんですよ。

(外山惠理)へー!

(町山智浩)大林監督の映画にはかならず、トロイメライとかショパンとか、学校の放課後にかかっているようなピアノ曲が流れるんですけど。全部、その大林監督が昔、子供の頃に練習したピアノ曲なんですよ。だから彼自身の思い出、青春っていうことで、かならずそのピアノが流れるんですけど。まさか超未来でゴキブリに弾かせるとは思わなかったですね(笑)。大林監督の映画をね、今全然知らない人たちが見ようとした時に、選んだ映画によっては食あたりを起こすんですよ。

(山里亮太)フフフ、食あたり?

常に実験的な大林宣彦監督

(町山智浩)そう。大林監督のすごいのは実験的なんです。常に実験的なんです。『HOUSE ハウス』っていうのはさっき言ったみたいにもう映画で遊んでるわけですけど。その実験をね、いくつになっても繰り返しちゃうからね、非常にこの人はいろんな問題が起こるんですよ。だから、たとえば名作になるような映画でも名作にしないんですね。吉永小百合さんが新聞記者を演じた『女ざかり』っていう映画があるんですよ。

で、これは普通に撮ればいいのに、普通に撮らなくて。全編、俳優さんたちのクローズアップばっかりで。しかもそれぞれのカットが2秒ぐらいでつながっていくんですよ。1秒とか2秒とか。すごいスピードで。で、全員がものすごい勢いでしゃべり続けて、何が何だか分からない映画になっているんですよ。

(外山惠理)忙しいですね(笑)。

(町山智浩)忙しいんですよ(笑)。そういう映画を作り続けているんですけども。まあ大林監督、この間お亡くなりになりまして。その亡くなった日に実は公開予定だった映画が『海辺の映画館―キネマの玉手箱』という映画なんですね。で、その映画は大林さんが81歳、82歳で作っている映画なんですね。それなのに、グッチャングッチャンなんですよ。3時間があって、全編ずっとしゃべり続けてるの。全てのキャラクターが。で、ものすごくカットが細かくて。ご本人が編集されてるんですけども。ものすごい情報量なんですよ。だからまるで早送りしてるみたいな。

(山里亮太)へー! 見るの、難しそうだな。

(町山智浩)80歳をすぎてこのエネルギーは普通、ないですよ。学生映画かと思いますよ。だから、最初の映画は「おもちゃ箱をひっくり返したような映画」って言われたんですけども。最後の映画もおもちゃ箱をひっくり返した状態なんですよ。

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