町山智浩さんが2025年1月14日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『TOUCH/タッチ』について話していました。
※この記事は町山智浩さんの許可を得て、町山さんの発言を抜粋して記事化しております。
50年の時と海を越えて描く
映画『𝐓𝐎𝐔𝐂𝐇/タッチ』🇮🇸 🇬🇧 🇯🇵
公開まであと🔟日
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𝟏.𝟐𝟒 𝐅𝐫𝐢https://t.co/gy0KFyUP1b#映画TOUCH#Kōki, #本木雅弘#中村雅俊 pic.twitter.com/oXA9r6X4cN
— 映画『TOUCH/タッチ』2025.1.24 Fri 公開 (@touch_movie0124) January 14, 2025
(町山智浩)今日は来週1月24日公開の『TOUCH/タッチ』というアイスランド映画を紹介します。
(町山智浩)はい。今、『TOUCH/タッチ』って言ったんで岩崎宏美さんの歌が流れると思った方もいるかもしれませんが、違いますから。これはビートルズのジョン・レノンがオノ・ヨーコさんと一緒に組んだバンドで録音した、1969年の終わりに発売された『平和を我等に(Give Peace a Chance)』という曲なんですけれども。で、今日紹介する『TOUCH/タッチ』という映画はこのレコードがちょうどヒットしていた1970年に20歳だった青年が2020年に70歳になって20歳だった頃に愛した日本女性を探すというラブストーリーです。
これがすごく話題になってるのはこの20歳だった時に彼が愛した女性を演じるのが木村拓哉さんの娘さんなんですよ。Koki,さんなんですよね。で、そのお父さんを演じるがもっくんですね。本木雅弘さんなんですが。これ、日本も制作に関わっている映画なんですね。この『TOUCH/タッチ』というのは。
で、これはまずアイスランドから始まるんですけど。そういえばアイスランドって2008年に完全に経済崩壊したっていうの、覚えてます? バブル経済で、2008年に完全に金融バブルが崩壊しましてですね、国自体がもうめちゃくちゃになったんですけども。アイスランドは。その時、そのバブル経済に関わっていた役人とか投資家とか銀行家とかを全部処罰しまして。刑事犯罪として罰しまして。それでその後、金持ち・富裕層に対する大増税をして。逆に普通の庶民に対しては減税をしてなおかつ、すごい形で政府が財政支出をしまして。それで経済が完全に立ち直りました。
これ、日本がやってる経済政策と全く逆のことやって立ち直ったんですよ。アイスランドは。そうしたら立ち直るんですよ。庶民に対して減税して、金持ちに増税して。それで財政支出すれば立ち直れるってもう例があるんで、真似をしてほしいですが。まあ、それはいいんですけど。そのアイスランドでですね、70歳のクリストファーっていう人が奥さんが亡くなって、1人になって。それで彼は認知症と診断されるんですね。
20歳の頃に付き合っていた日本人女性を探す
(町山智浩)で、だんだんと記憶が失われていくんで、記憶が完全に失われる前に20歳の時、イギリスに留学していた時に愛した同じ20歳の日本人女性のミコさんに会いたいと思うんですよ。それで何の手がかりもないまま、とにかく自分が留学していたロンドンに行くんですね。で、いろんなものを探して……だからちょっとミステリーみたいな感じですね。人探しの。それで彼の20歳の頃の思い出が同時に並行して描かれます。
だから50年の時を経て1人の男の70歳の現在と20歳の時の青春が同時に並行して描かれるっていう映画なんですけども。で、彼はその頃、実はすごく勉強ができて。ロンドンの経済大学に行くんですね。超一流大学ですけれども。ロンドン・ユニバーシティ・オブ・エコノミクスかな? とにかく超名門の学校があって、そこに行くんですが。1969年から70年というのは全世界的に学生運動の時なんですよ。
で、学生たちはその資本家たちのやり方、金持ちたちのやり方っていうのはもう絶対に許せないってなって。それと、ベトナム戦争もありまして。ベトナム戦争は68年、69年ともう大激化していくんですね。で、アメリカ軍が虐殺をしていることがだんだんテレビで放送されちゃって、明らかになって、みんな反戦運動をしている。その中でジョン・レノンがオノ・ヨーコさんと結婚したんですよ。 69年に。で、このジョン・レノンとオノ・ヨーコの結婚というのは、ひとつの世界的イベントだったんですよ。
まず、世界一のロックスターのジョン・レノンが日本人の女性と結婚するということがセンセーションだったんですね。それと、ハネムーンをアムステルダムとカナダの2ヶ所で1週間ずつやったんですが。そのハネムーンを全公開したんですよ。ホテルの中のベッドから2人が出ないで。まあパジャマを着てるんですけどね。 そのベッドに世界中の記者を招いて、記者会見をし続けたんですよ。で、ベトナム戦争に反対するメッセージをそこから発し続けるということをやったんですね。
その中で録音されたのが、さっき流れた『Give Peace a Chance(平和を我等に)』なんですよ。その新婚旅行の中で録音したんですよ、あれ。 だから、ライブでしょう? で、ジョン・レノンは基本的に「Give Peace a Chance(平和にもチャンスを与えてくれ)」としか言ってなくて。ほとんどメロディーもなくて。シュプレヒコールだけなんですね。つまり、反戦デモでのみんなのシュプレヒコールをそのままレコードにするみたいな形だったんですよ。
で、それが出ていた時だからこの主人公のクリストファーさんは経済の……資本主義の中に組み込まれるのが嫌になっちゃって、大学を辞めちゃうんですよ。せっかく留学しているのに。それもアイスランドから来てね。で、そこでたまたま近くにあった日本料理店でかわいい女の子を見つけちゃうんですよ。それがミコという名前のKoki,さんなんですね。それで「この店で働かせてください」って言うんですよ。
一目惚れスタート。働き出すのと同時ぐらいな感じなんですけども。だって、20歳だもん。で、もっくんの方は「えっ? アイスランド人に日本料理とか、できんの?」みたいに思うんですけどアイスランドって漁業の国だから、彼はお魚とかさばけるんですよ。だからちょっと気に入られるんですけど。しかも彼、すごく真面目にやるんですよ。板さんの修行を。
もう朝一番に起きてね、やるんですけど。単にそこの娘に気に入られたいだけなんですけどね。張り切って、単に婿に入りたいだけなんですけど。でもね、この20歳のクリストファー君はね、とにかくシャイなんですよ。恥ずかしがり屋で、好きなミコさんが見てても目を合わせられないんですよ。彼、行動力はあるんだけど、女の子の目が見れないんですよ。で、なんかおどおど、コソコソしてるんですよ。そうすると、このKoki,さんは「あんた、かわいいじゃん?」ってちょっかいを出すんですよ。
これ、すごい夢があるんですけど(笑)。この俳優さん、パルミ・コルマウクルさんっていう人がこの20歳のクリストファーさんを演じてるんですけど。恥ずかしがり方とかね、初々しさがあまりにも本物なんですよ。で、「これ、演技なの? 凄すぎない? この恥ずかしがり方とか」って思っていたら、単に素人でした。この人、監督のバルタザール・コルマウクルさんの息子さんでした。
彼、演技経験、ほとんどないんですよ。だから単に本当に恥ずかしそうにしてるだけでした。彼、ここから俳優人生をスタートするかもしれない。顔はすごくいい。で、この監督は最初、誰か自分の若い時を……要するにこれ、自分を投影してるんですね。彼はまだ60代なんですけど。この70歳のクリストファーっていうのは一種の自分なんですよ。
監督が自分自身を重ねたクリストファー役
(町山智浩)それの若い頃を誰に演じさせるか?って悩んでいたらプロデューサーが「あんたの息子、出せばいいじゃん」って言ったんで。だから息子が出てるんですけど。このね、初々しい感じがね、この映画はすごくうまくいってますね。見ていると、かわいいんですよ。で、もっくんも彼をかわいいと思っちゃうんですよ。おっさんも「かわいい」と思ってしまう感じとかがね、すごくよく出てるんですけど。
ただ、その頃はヒッピーの時代ですよ。反戦運動があって、ヒッピーの運動があって、フリーラブの時代がありましたね。だからHしちゃいますね。Koki,さんとこのクリストファー君は。で、しだすとさ、20歳だしさ、もうお猿さんですよ。で、すごいセックスシーンが多いんです。俺、もうおじいちゃんだからさ、自分の娘がしてるみたいな感じで、すごく困っちゃうんだよね。本当に。
でもまあ、好き同士だし。若いからねと思って、おじいちゃんの気持ちで見てるんですけど、この2人は不幸な別れ方をしちゃうんですよ。だからこそ、このクリストファーさんは50年の時を経てKoki,さんを探してるんですね。で、日本に来ますよ、とうとう。で、日本に来ると突然ね、中村雅俊さんがいるんですよ。
中村雅俊さん、この世代だから。だってこれ、映画のタイトルが『TOUCH/タッチ』ですから。中村雅俊さんの最大のヒット曲は……『ふれあい』ですよ。中村雅俊さんの最大のヒット曲は『ふれあい』なんで、『TOUCH/タッチ』というタイトルの日本語訳ですよ。そこでね、カラオケに行くんですけど。当然、この『ふれあい』歌うだろうと思ったら中村雅俊さん、なんとですね、この曲を歌います。
(町山智浩)いい歌です。いい選曲なんですよ。この曲はまたね、1971年のヒット曲なんで、時代的にもぴったりなんですけど。歌詞が「今は別れるけど、いつかは会えるさ」っていう歌なんですよ。これ、この映画のテーマなんですよ。ということで、これ以上は言えないんですがまあ、号泣ですよ。本当に。時間も場所も超えたラブストーリーです。アイスランドで始まって、ロンドンに行って、日本に来ますからね。で、いろんな歴史的な不幸なこと……戦争とか、そういったものがちゃんと実はその裏にあるんですけど。
でもね、これね、おじいちゃんもおばあちゃんも楽しめる。若い人たちは若いKoki,さんの方に自分を寄せて見るというね。それで若いクリストファーもイケメンですから。という、あらゆる世代が見て泣くことができる映画がこの『TOUCH/タッチ』かなと思いましたね。もちろん、すごく深い重いテーマというのも……さっき言ったみたいに、ジョン・レノンの『平和を我等に』がかかってるっていうのはこの映画のテーマでもあります。あんまり言うと、あれなんで見てのお楽しみということで。ということでぜひ、どの世代の人も『TOUCH/タッチ』をご覧になっていただくといいかなと思いました。