町山智浩『模範家族』を語る

町山智浩『模範家族』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年8月23日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で『模範家族』について話していました。

(町山智浩)で、この『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』が終わっちゃったんで「うう、悲しいな……」と思っていたら、新しいドラマがそれと重なる形で始まったんすよ。この間。これまた韓国ドラマなんですけど。それがね、またとんでもない内容で。『模範家族』というタイトルのドラマなんですね。で、これは模範的な主人公がいて。大学の非常勤講師で、一生懸命真面目にやってる40過ぎの英文学の先生がいて。それで、奥さんがいて。奥さんは大学の頃から大学のマドンナと言われた美人の奥さんでね。で、娘が高校生ぐらいで美少女で。下の男の子は小学生なんですけど、美少年なんですよ。

非常に絵に書いたような美しい家族が『模範家族』なんですが、実は家族がバラバラになってるという話なんですね。人間関係が。で、いつまでたっても講師から教授になれないんで、稼ぎが少なくて。家も借家だし。40になるのにね。それで、特に一番下の男の子が重い心臓病で、非常にお金がかかるわけですね。手術をするのに。でも、そのお金もないんですよ。

で、奥さんはだんだんこの旦那が稼ぎが少ないんで、幻滅してきて。「離婚したい」と言っている。で、下の子の方はいつ死ぬかわからないっていう、非常に危険な状態に常にあるんですね。で、外でみんなと遊ぶこともできない。それで家族関係がよくないんで、長女の方はグレちゃっている。学校に行ってなくて、なんかバイク乗ってる男の子の後ろに乗ってチャラチャラしてるっていう。不純ナンタラ交友みたいなことをしているらしいっていう。で、奥さんの方もちょっと実はどうも、なんか怪しい。なんか別の男と会ってるらしいというね。そういう、模範家族と思われてるものが実は内部で崩壊してきているという。で、特に主人公の大学の先生はですね、ずっと家族で一生懸命、下の子の心臓病の手術のために貯めていたお金をですね、奥さんに黙って使っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)えっ、なにに?

(町山智浩)これ、大学の先輩というか上司にですね、賄賂を渡しているんですよ。

(赤江珠緒)賄賂?

(町山智浩)これ、韓国のね大学では、教授になるためには賄賂を積まないとならないらしいんですよ。これ、僕も知らなかったんですけど。『パラサイト』でアカデミー賞を取ったポン・ジュノ監督の長編デビュー作がですね、『ほえる犬は噛まない』っていう2000年の映画なんですが。これがね、それがテーマになっていたんですよ。主人公は大学の助教授か准教授かなんかで。一生懸命、その奥さんが稼いだお金を賄賂として理事長だか学部長だかに渡して。それで大学教授になろうとするっていう話だったんですよ。これはひどくて。「韓国の大学、ひどいな」と思ったんですけど。それ、実はポン・ジュノ監督自身の体験で。韓国の映画界って、プロデューサーとかに監督がお金を賄賂で渡さないと監督させてもらえないっていう世界だったんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? そんな感じの社会がまだ?

(町山智浩)すごい腐敗していたらしくて。で、ポン・ジュノ監督はその体制があまりにも良くないっていうことで告発して。それを改善したらしいんですけども。映画界の方ではね。ただ、大学の方ではまだこんなことが起こってるんだなというね。すごく嫌な話なんですけど。ところが、お金を渡したら上司がその金を無駄遣いしちゃって。投資か何かにぶち込んじゃって、金をパーにしちゃって。結局、教授になれないで終わっちゃうんですよ。息子の手術代だったのに。

それで「どうしよう?」って悩んでいて、田舎の1本道を車で走ってると、「もう俺はどこにも行けないんだ」って1本道で立ち往生して。車を路肩に停めて、ハンドルに突っ伏して。「ああ、もうおしまいだ!」と思ってると、後ろからドスン!って別の車にぶつかられるんですよ。それで「なんだ?」って思うと、車が後ろに停まっているんですね。「なんだ、お前!」ってそのドアを開けると、運転席と助手席の男は血まみれで死んでるんですよ。お互い、刺し合っていて。

(赤江珠緒)えっ、お互いに刺し合って?

(町山智浩)そう。刃物で刺しあって死んでるんですよ。で、後ろの席を見ると、ものすごい額のお金がですね、バッグに入ってあるんですね。それ、後でわかるんですけど。日本円で3億5000万円ぐらいあるんですよ。で、「これでもう家族の問題が全部解決する!」と思って、その車をパクッちゃうんですね。この大学の先生は。で、「死体はどうするの?」って思うんですけども。死体はね、困っちゃってね。なんと、自宅の庭に埋めちゃうんです。

(赤江珠緒)ええーっ!

お金を取って、死体を家の庭に埋める

(町山智浩)で、車だけは捨てちゃうんですけど。で、自宅にその3億5000万円を隠すんですが……という話がこの『模範家族』なんですね。

(赤江珠緒)あらら。ちょっとでも、考えなしな感じが……死体を家の庭に埋める?

(町山智浩)迷っちゃってね。「どうしよう?」ってなって、庭に埋めちゃうんですよ。で、これね、アメリカのドラマですごく流行った『ブレイキング・バッド』というシリーズがあって。

(山里亮太)見ましたよ!

(町山智浩)あれね、高校の化学の先生がね、やっぱり田舎に住んでて。癌で命が短いって宣告されて、家族にお金を残さなきゃなんないっていうんで、化け学の知識を使って覚醒剤を作るっていう話でしたね。

(山里亮太)最高に品質の高い覚醒剤を。

(町山智浩)そう。それで周りのギャングと抗争になっていくっていう話で。どんどんどんどん覚醒剤の大元締めみたいになっていっちゃうという話なんですね。高校の先生が。

(赤江珠緒)能力をそっちに使っちゃって。

(町山智浩)そうなんですよ。で、これも非常にそれに近くて。この大学の先生が取ったお金っていうのは実は巨大覚醒剤密売組織のお金だったんですね。で、この大学の先生ね、あんまり世の中がわかってないらしくて。携帯にGPSがついてることを気がついてなかったんですよ。だからその死体にGPSが入っていたわけですよ。で、その彼の家がわかっちゃうんですよ。で、「たぶんあそこに金があるんじゃないか?」ってことで、ヤクザが彼を何とかしようとして。監視をするために彼の家の向かいに越してくるんですよ。ご近所さんになっちゃうんです。で、それだけじゃなくて、死んだのは実はヤクザではなくて、ヤクザに潜入していた麻薬捜査官であることがわかるんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)麻薬を捜査する刑事チームも、そこで連絡が途切れたってことで大学の先生の家の隣に引っ越してくるんですけど(笑)。で、刑事とヤクザがご近所さんになっちゃうというね、「これ、コメディかよ?」みたいな。コメディ的なところがあるんですけども。という話なんですが。すると、ちょっとグレてる娘がね、「なんかピーピーピーピー、うるさいんだよね」って言うんですよ。

「えっ、なに?」「なんか庭からピーピーピーピー、うるさいんだけどさ」っていうんですよ。すると「はっ!」って思って。こっそり掘りに行くんですよ。で、掘るとその潜入刑事が持っていた携帯が出てくるんですよ。で、その携帯に電話がかかってくるんですよ。で、「誰だろう?」って思うと、その電話をかけかけてきたのは自分の奥さんなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、その携帯のロックをその死体の指を使って認証して解除するんですね。で、開いてみたら、その携帯の中に動画が入ってて。ホテルで自分の奥さんとその携帯の持ち主が会っているやつなんですよ。

(赤江珠緒)うーわ!

(町山智浩)「どういうこと?」っていうね。これね、この『模範家族』はね、もう1話を見ると止まらなくなるんですよ、もう。

(赤江珠緒)とんでもない展開になっちゃっていますね。これ。

(町山智浩)とんでもないんですよ。で、すごく印象として近いのはね、ニノくんがやっていた『マイファミリー』っていうドラマがあって。あれはもうちょっと金持ちの家なんですけど。多部未華子さんと2人で夫婦なんですけど。で、家族と仲が悪いんですね。最初、家族関係が。ところが、その娘が誘拐されることによって家族の絆が逆に強まっていくっていう話なんですね。

(赤江珠緒)はい。見た、見た。

(町山智浩)でもあれも、一番最後のところがちょっとあれで、最終回がちょっと何言ってるかわかんない話になっちゃったんですね。最終回でね。でも、これは結構すごい、どんどん行って。しかもニノくん、中途半端に犯罪に手を染めますけど。『マイファミリー』では。この大学教授はどんどん行きます。とんでもないところに行きます。

(赤江珠緒)ああ、そうですよね。だって最初にまずお金を……その筋のあるお金を取って、死体を隠す時点でものすごい悪いですもんね。

(町山智浩)そうなんです。これはすごいことになってね。で、これ『模範家族』っていうのは家族をテーマにしてはいるんですけれども。どんどんどんどん、そのモラルから外れていくごとに家族の絆が逆に固まっていくというね、逆説的な。

(赤江珠緒)これ? 固まります? でも、なんか今の話を聞いて。ええっ?

モラルから外れるごとに強くなる家族の絆

(町山智浩)これはもう、ご覧になってのお楽しみなんで。はい。ということでね、『模範家族』もぜひご覧ください!

<書き起こしおわり>

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