町山智浩『ザ・メニュー』を語る

町山智浩『ザ・メニュー』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年11月22日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『ザ・メニュー』を紹介していました。

(町山智浩)今ね、アメリカでは「おまかせ」が流行ってるんですよ。「Omakase」っていうんですけども。

(山里亮太)そのままの言葉なんですか?

(町山智浩)そのままです。お寿司屋さんとか、日本食屋に行くとおまかせしかない店とか結構、多いんですよはい。

(赤江珠緒)はいはい。おまかせって、日本の文化ですか?

(町山智浩)日本の文化ですね。だから、おまかせしかないお寿司屋さんのすきやばし次郎のドキュメンタリーがアメリカですごく流行ったんで、おまかせブームが起こってるんですね。で、フルコースと違うのはコースって全部、メニューがついてくるじゃないですか。何が出るか、書いてあるじゃないですか。でもおまかせ何が出るか、わかんないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そういうことか。

(町山智浩)だから一品出るごとにサプライズがあるんで、楽しいじゃないですか。で、すごく人気で。サンフランシスコなんて6軒ぐらい、おまかせのみの店があるのかな? それくらい流行ってるんですけど。ただ、流行ってるからやっぱり、なんちゃっても多いんですよ。結構。

(山里亮太)ああ、なるほど。とんでもないメニューがあるような。

(町山智浩)ああ、全然日本のお寿司を知らない人が作ってるな、みたいな時も結構あって。それは当たり外れがあるんですけど。アメリカはね、景気が今、落ちてますけど。とにかくグルメブームがずっと続いてるから。すごいんですよね。とうとうラーメン1杯、4000円まで行きましたからね。円安もありますが。

(赤江珠緒)そうですよね!

(山里亮太)4000円!?

(町山智浩)こっち、ラーメン4000円ですよ。何も変わらない、普通のラーメンですよ?

(山里亮太)すごい食材を使っているとかじゃなくて?

(町山智浩)全然。まあ、すごい使っているのもありますけどね。だから円安のせいもあるけど。ラーメン、今やこっちでは高級料理になっちゃったから。大変なんですけども。でね、とにかくグルメブームが延々と続いてるんでね、そういう映画ができたんで、ちょっと紹介します。

グルメブームの中で作られた作品

(町山智浩)1本目はですね、『ザ・メニュー』っていう映画で。これ、先週から日本で公開中ですね。まあ、離れ小島に船で行くレストランがあって。そこに泊まりがけでご飯を食べに行くんですけど。1回ですね、2500ドルとかなんですよ。その『ザ・メニュー』に出てくるレストランって。だから30万円以上するのかな?

でも、すごく食通の間ではそこに行くのがステータスになってるところで。特別料理が出る。しかも、招待客しか行けないっていうディナーパーティーみたいなのがあって。『ザ・メニュー』はそこに行く人たちの話ですね。で、ヒロインがですね、アニャ・テイラー=ジョイちゃんですね。

(赤江珠緒)ああ、『クイーンズ・ギャンビット』の。

(町山智浩)『クイーンズ・ギャンビット』の。あのすごく独特な、一度見たら忘れられない……。

(赤江珠緒)そうそうそう。個人的にかわいい女の子ですよね。

(町山智浩)そうそう。彼女が二枚目のタイラーっていう男に連れていかれるんですね。で、そのレストランに行くと他の招待客は大金持ちばっかりでね。あとハリウッドのスターとかね、なんか若い投資家、ビジネスマンとかね、そういうのばっかりで。で、シェフはですね、レイフ・ファインズですね。『ハリー・ポッター』のヴォルデモートをやってた人ですけど。だからものすごい貫禄があって。最近の『007』のジェームズ・ボンドの上司ですね。で、彼が独裁者のように振舞ってるレストランなんですよ。

キッチン内もね、もう彼が何か言うと「イエス、シェフ!」「イエス、シェフ!」みたいな感じで。もう軍隊みたいな感じなんですけど。それで、何が出てくるかわからない、完全な「おまかせ」なんですよ。

(赤江珠緒)でも、超高級ですもんね。

(町山智浩)超高級。だって1人30万円以上ですからね。1食で。食事にね。で、どんなものが出てくるレストランなのか?って思ったら、なんとね、ノーパンなんですよ。

(赤江珠緒)ノーパン?

(山里亮太)えっ、そういうお店? ノーパンレストラン?

(町山智浩)そう。レイフ・ファインズがノーパンなんですよ。あのね、彼が言うんですよ。「今、世界の農業は穀物中心なんだ。それが他の野菜とか果物の生産を圧迫していて。糖質が多すぎたり、いろんな環境破壊とかになっているんだ。だからうちはパンは出さない。ノーパンだ!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ああ、ノーブレッド(笑)。

(町山智浩)なんだと思いました? あの40年ぐらい前の風俗だと思いました?(笑)。

(山里亮太)そうそう。なんか高いところに置いてあるみたいな(笑)。

(町山智浩)でも、そうじゃなくて。パンを出さないんですよ。

(山里亮太)でも普通、コース料理だったらパンがまず……。

(町山智浩)出るんですけどね。パンにつけるのだけがちょこちょこっと来て。パン自体は出てこないんですよ。

(赤江珠緒)えっ、バターだけがあるっていうこと?

(町山智浩)そう。ジャムとかだけ出てくる。で、そういうことを言うとね、このアニャ・テイラー=ジョイちゃんを連れて行った彼はね、「うわっ、感動した!」とか言って涙を流してるんですよ。そのシェフの話を聞いて。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)ただ、このヒロインは「これはなんか、おかしいんじゃないか? おかしいだろ?」って思って。彼女だけが「おかしい」と言うんですけど、他のお客さんたちは「いや、なんかすごいな。これ、コンセプトがすごいよ!」とか言って感動してるんですけど。

(山里亮太)勝手に肯定していくんだ。どんどん。面白いなー!

(町山智浩)サンフランシスコ、そういう店が結構あるんですよ。コンセプトばっかりで。見た目はすごいんだけど、食べるところはちょこっとしかないみたいな。で、フルコースを全部食べた後もお腹がすいてるみたいな。「じゃあ、あとでラーメン食べに行くか」みたいな気持ちになるみたいな。行ったことないですか? そういうお店に。

(山里亮太)ないです。ああ、ロケとかで行ったことがあるぐらいかな?

(町山智浩)ロケとかでね。はいはい。「ええっ?」っていうね。それで、その次にタコスが出てくるんですよ。

(山里亮太)フルコースで?

(町山智浩)フルコースでタコスは出ないですよ。だってタコスって、屋台料理ですからね。さらにそのタコスに、なにか模様が書かれてるんですよ。で、そのレーザー光線で焼き付けられてる模様がですね、お客さんごとに違うんですよ。で、金持ちのおっさんが見ると、そのタコスには彼がですね、浮気してる時の写真が印刷されているんです。で、投資とかやってるビジネスマンのタコスには、彼らが不正をしてる会計データが印刷されてるんです。

(赤江珠緒)うわっ(笑)。

(町山智浩)で、「お客さま1人1人のために特別に作ったものです」って言うんですけど。なんか、おかしいんですよ。このレストラン。で、どうもこのレイフ・ファインズ扮するシェフは貧乏なところから一生懸命頑張って、シェフになって。それで世界的なシェフになったんですけれども。来る客、来る客がみんな金持ちで。しかも別に料理のことをちゃんとわかってないし、ちゃんと味わってないし。格好だけできていて。それこそ、タラを出そうがオヒョウを出そうが覚えてないような。料理をちゃんとわかってない客が来ていて、だんだんだんだんフラストレーションがたまってきて。で、もう「ぶっちゃけ!」みたいな感じになってるんですよ。気分が。

(赤江珠緒)ああ、面白い。へー!

(町山智浩)彼は、客を憎んでるんですよ。で、「ヤバい!」って気づいた時にはもう逃げられない。その島から出る船はないっていう話なんですね。この『ザ・メニュー』というのは。

(赤江珠緒)これ、ホラー?

(町山智浩)ホラーコメディかな? 笑います。結構。でも、怖いんですよ。もう逃げられないんですよ。そこから。だから『イカゲーム』みたいになってきます。途中から。という展開です。そういう映画『ザ・メニュー』なんですけど。これは結構、だからアメリカの今のおまかせとかね、グルメブームが実際にそうなんで。なんていうか、リアルなんですよ。こっちのグルメ事情を見るとね。やっぱりラーメンを4000円で食ってたりしますからね。

(赤江珠緒)そうか。そういうのをちょっと皮肉っていうような感じの映画なんですね。

(町山智浩)そう。おまかせ寿司でね、ちょっとカチンと来るのはね、フォアグラとかキャビアとか使ってたりするんですよ。ちょこっとなんか乗っけていたりするんですよ。でね、1コースで2万円からとかなんですよ。

(赤江珠緒)しますね!

(町山智浩)で、トリュフとか乗ってるんですけど。「そういうの、ほしくないから……」みたいな世界があって。

(赤江珠緒)たしかに(笑)。そういうの、ちょっとお寿司にはそんなに求めてないな。

(町山智浩)そうそう。でも、そういうので喜ぶような人たちがいっぱいいるんですよ。サンフランシスコは。だってIT関係の人たちは初任給で1000万を超えてますからね。1200万とかになっちゃうんで。

(山里亮太)ええーっ?

(町山智浩)だってここ、あれですよ? レストランで働いてる人とかいますけれども。最低時給ね。最低時給ですよ? サンフランシスコの最低時給は16.99ドルなんで。2400円なんですよ。2400円ってすごい時給だと思うじゃないですか。日本って1000円行ってないところもあるでしょう? でも、サンフランシスコって1人暮らしのアパートの平均の家賃が月42万円なんですよ。

(赤江珠緒)高い! 1人暮らしで?

(町山智浩)1人暮らしで。ワンベッドルームで。だから時給2400円でも暮らせないんですよ。

(赤江珠緒)本当ですね。

(町山智浩)とにかく、金持ちが金持ちになりすぎちゃって。格差がひどいからこういう映画が出てくるんですけど。でも、結構世界的にどこもそうなんですよね。ITとか金融関係の人たちの給料がとにかくデカすぎるんで。

『ザ・メニュー』予告編

<書き起こしおわり>

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