荻上チキさんがTBSラジオ『Session-22』の中で徳利の注ぎ口からお酒を注ぐと「縁を切る」ことになるので失礼にあたるという謎マナーについてトーク。理不尽マナーが拡散してしまう構造について話していました。
(荻上チキ)最近ですね、あのちょっと話題になっている……最近だけじゃないんですけれども、ちょっと世間をザワザワさせている話題のひとつがですね、マナーをめぐっての議論なんですね。
(南部広美)マナー?
(荻上チキ)マナー。どういうものか?っていうと、世の中にはいろんなマナーがありますね。それに別に法律上規制されているものではなく、コミュニケーションをする上で互いが不愉快がないように、「こんな暗黙の了解があれば滞りなくうまくいくよな」とか、「お互いに失礼にならないよな」みたいな、そうしたようなものを「マナー」と呼んで、私たちは時に守ったり、時にそれを教わったりするわけですね。しかしながら、そのマナーの中には「それ、いるの?」っていうようなものっていうのも少なくないわけです。
(南部広美)はい。あと、その場とか状況に応じてそのマナーの幅とか種類とか、違ってきますよね。
(荻上チキ)そうなんですよ。必要なものと、そうじゃないものはまずあると思うんです。そのマナーというのはたとえば、かつては必要だったかもしれないけれども、いまは時代が変わってもういらないでしょう?っていうものとか、そのひと手間をかけるぐらいだったら、もうやめた方がいいんじゃないか?って思えるものもありますし。また、本当にそれは誰か当事者が「失礼にあたるからやらない方がいい」と言ったような案件なのか?っていうように、その発生元が分からないマナーというのもあったりするんですね。
(南部広美)ふんふん。
(荻上チキ)たとえば、最近よく話題になってるのが、その日本酒などの注ぎ方。たとえば、お酌をする。もうその「お酌をする」っていう時点で、僕はそのお酌という行為を強要すること自体がなんだかな……って思ってるわけですけれども。まあでも、お酌をします。それが徳利だったとします。その徳利を注ぐ時って、注ぎ口がありますよね。口がありますよね。
(南部広美)細くなっていますよね。
(荻上チキ)細くなっているやつ。あれからこぼれないように注ぎますよね。あれはそういった機能じゃないですか。でも、「あれを上司とかそうした人たちにやると失礼にあたる。逆側の方から注ぎましょう」みたいなことを述べている……。
(南部広美)うん? それどういうことですか? もう、1回いいですか? ちょっといま、飲み込めなかったので。
(荻上チキ)はい、いいですよ。お酒だけにね。
(南部広美)徳利の注ぎ口……ちょっと細くなってますよね。そこで、お猪口とかにトトトトトッと注ぎますよね。あの、徳利の様子としても、それが機能として便利だよっていうか。こぼれないように利便性があるよっていう意味でも、そこが細くなっているわけじゃないですか。そこで注ぐのは、失礼なんですか?
(荻上チキ)「失礼だ」という風な説を述べてる人がいて。
(南部広美)ええっ?
(荻上チキ)で、それがテレビで取り上げられたりもしてるわけです。
(南部広美)えっ、逆のところから注ぐってことですか?
(荻上チキ)そう。
(南部広美)こぼれちゃうっていうか……。
(荻上チキ)そう。
(南部広美)えっ、ええーっ?
(荻上チキ)アホらしいですよね。
(南部広美)はじめて知りました! そういうマナー……「マナー」ってその「常識的なこと」って解釈していいんですか?
(荻上チキ)フフフ、とりあえず、そのマナー自体がもうおかしいんじゃないかということで。「フェイクマナーだ」という形で話題になっていたりもするんですけども。そのマナーを推進している側の言い分としては、徳利の形は「円」になっているけど、注ぎ口だけちょっとこぼれて、形が違っているわけですね。そこから酒を注ぐということは、「縁(円)を切る」ということになるので……フフフ(笑)。
(南部広美)(失笑)。ええっ!
徳利フェイクマナー
(荻上チキ)「縁を切るということになってしまうので、やめましょう」みたいなね、ことを述べていて。もうこれ、大炎上ですよ。「何言ってんの?」みたいな。「誰がそれ、得すんの?」みたいな。僕は注がれる側だとしても、1個もうれしくないやつですね。でも、中にはいるのか? そういったことで「これは縁を切るということだから失礼だっ!」みたいな……そんなこと、言われなきゃ発想もしないですよね。
我々、いままでに何度か日本酒を酌み交わしてきましたけども、1個もそんなこと考えることないじゃないですか。「ああ、そのたびに我々は縁を切っているんだな」みたいなことって、考えないですよね?
(南部広美)ごめんなさいね。思いつきもしませんでした。散々、切ってますよ。チキさんに縁を(笑)。
(荻上チキ)フフフ、というようなことが話題になっているわけですよ。で、他にも……。
(南部広美)びっくりしすぎて涙出てきちゃった(笑)。
(荻上チキ)これはほんの一例で、それこそたとえば有名なところだと、上司と決裁
の文書にハンコを押す時、5人ぐらいでハンコを押す場合には部下であれば部下であるほど、名前を斜めにしろって。
(南部広美)ハンコの角度をですよね。
ハンコを斜めに押す謎マナー
上司に出すハンコは"左斜め"が常識? 「キモイ」など批判続々 – LINE NEWS https://t.co/zF8tOcIx24 #linenews 「部下が上司にお辞儀をしているように見える」ためだとマナー研究家が説明 pic.twitter.com/bBL5nqq3ia
— LINE NEWS (@news_line_me) 2015年11月12日
(荻上チキ)あとは位置を(ハンコを押す)四角い枠の下側にハンコを押すっていう。
(南部広美)それは聞いたことがあります。やったことはないけど(笑)。あっ、スタッフが……(笑)。
(荻上チキ)スタッフがおもむろに徳利を持ってきましたけども(笑)。そうそう。普通はこの持つところもへこんでいますし、注ぐところが尖っているから、そこから入れますよね?
(南部広美)だって、道具ですもん。道具というのはそれが機能的に、便利なように作り上げられてるわけじゃないですか。
(荻上チキ)いいこと言う。もう当たり前のことを言うって大事だなと思いますよ。「道具じゃん!」っていう(笑)。「そういう機能じゃん!」っていう。
(南部広美)はー。明らかに不便ですけどね。縁が切れようがなんだろうが、不便ですけどね。
(荻上チキ)あとは人によってね、店員さんとかあとは我々もそうですけど、注ぎ口じゃないところを持つじゃないですか。熱い時とかって。「あちちちちっ!」って、徳利の上の方を持ったりするでしょう?
(南部広美)はい。そうですね。熱燗にした時に腹の部分っていう、そこはもう音頭が高くなってるから、ちょっと温度が低い……。
(荻上チキ)頭の部分を持ちますよね? そうすると、要は結局注ぐ方になる部分に雑菌がつくということになるわけじゃないですか。
(南部広美)はあはあ。
(荻上チキ)ごめん、南部さん。全然納得いってないか。いまのは屁理屈の反論だったかもしれないけど(笑)。
(南部広美)雑菌?
(荻上チキ)要はほら、指が触れるわけだから……。
(南部広美)だって、(お酒は)アルコールでしょう? 消毒されないの?(笑)。
(荻上チキ)その発想もどうかな?(笑)。
(南部広美)いや、いま言い返してみたんです。ちょっと。「それを言うならば……」って(笑)。
(荻上チキ)フフフ、なんと不毛な議論だ(笑)。
(南部広美)ということですよね?
(荻上チキ)うん。不毛だと思う。それこそ、そのハンコを斜めにするとか、あとはね、就職活動中にね……。
(南部広美)ああーっ、多そうですね。そういうマナー。
(荻上チキ)そう。多いの。理不尽マナーが。面接とか企業面接会とかに行った時に、床にペットボトルとかカバンとか、あとはコートとか置いてはいけない。なぜかというと、それは……特にカバンとか服なんですけれども、カバンと服についている汚れが落ちてしまうから、相手の企業とかに片付けさせることになってしまうので、それらは椅子にかけましょうみたいな。
(南部広美)はあ?
(荻上チキ)「はあ?」ですよね。そうですね。いや、全くその通りだと思います。っていう、その「はあ?」ってされるような理屈やマナーというものがしかし、「ノー」と言えないような人々とか、あるいはこれがマナーなのかなっていうのかわからない人たちに向けて、「これがマナーです」っていうその情報を売りにすることで得する人がいるわけじゃないですか。就活セミナーとかね。
(南部広美)えっ、それは上下の関係があるっていうことですかね? 「得する・得しない」っていうことは。情報の強者にいるっていうことですよね。たとえばセミナーとかをやるんだったら、知らない学生さんたちに対して「こういうもんだよ」っていう風に理論展開するわけだから。
マナーをネタにする就活セミナー
(荻上チキ)だから、そういった人たちにとってみれば、マナーが少ないです方が商売にならないんですよ。なぜかって言うと、「そのマナーはいらない。とりあえずエントリーシートを出して、あとはご縁です」っていう話だったら、就活マナーセミナーとかはいらないんですよ。いや、就活マナーセミナーそのものが僕はいらないと思いますけど。少なくとも僕がたとえば面接とかで部下を取るとかってなると、だいたい変なやつから取りますからね。まあ、参考にはならないと思いますけど……。
(南部広美)「変なやつ」っていう表現というか、「個性的な人」っていうことですかね?
(荻上チキ)「ユニークな人」だね。面接の時にすごいでっかいペンダントつけてきて、それがドクロだったりして。「面白いな」って思ったりとか。
(南部広美)面接官であるチキさんの目を引くというか、興味を引いたっていうことで。
(荻上チキ)なんかAO入試みたいですけど(笑)。やっぱりそういう、人によってその見方は変わってくるので、そのマナーをすることによって逆に面接を受ける側も個性を潰してしまうというか、いろんな表現を潰してしまうこともありますよね。
(南部広美)でも、就活生、会社ってなるとそういう独自ルールっていうようなものが大変に多いんだろうなって。そこになんていうか、合わせられる人ほど好まれるっていうか……。
(荻上チキ)だからね、逆に最近ネットで話題になっていたのは、返信用はがきの部分に「○○行」って書いてあったりすること、あるじゃないですか。返事を出す時。あの時に、「行」を消して「御中」にするでしょう? もうあれ、めんどくさいから最初から「御中」って印刷しちゃえっていう風にやった団体があって。それがいい意味で話題になってましたね。もう、威張っているかのように見えるかもしれないけど、どうせやらせるんだったら……ということで。その書き換える数秒のコストをちゃんと背負ってやろうみたいな。
(南部広美)ああー、発想としてはすごく合理的ですね。
(荻上チキ)だから「変なマナーとかに騙されないでね」っていうことがひとつと、あとは時代によっていろいろとマナーとかは変わってくるし、技術の変化によって何がルールなのかっていうことも変わってくるので。何か、右にならえみたいなことで変なものを「じゃあ、こういう風に言われたから、それをしましょう」みたいな格好だけでならっていうっていうことは、ちょっといろいろと見直していくということが必要かなという風に思いますね。
(南部広美)うん。「せーの!」でやりたいですね。
(荻上チキ)そう。だからとりあえずハンコ。「せーの!」でやめましょうっていう。さっきのやつ、全部「せーの!」でやめましょう。
(南部広美)「せーの!」が難しいですよね。
(荻上チキ)はい。僕、いまやめました(笑)。やってませんけど、やめました。ということでみなさんもぜひこちら側に来ていただければなと思います。
<書き起こしおわり>