荻上チキ 福田財務次官セクハラ問題 テレ朝会見後の論点整理

荻上チキ 福田財務次官セクハラ問題 テレ朝会見後の論点整理 荻上チキSession22

荻上チキさんがTBSラジオ『荻上チキ Session-22』の中で財務相の福田事務次官のセクハラ問題についてトーク。「被害者が自社の社員だった」というテレビ朝日の記者会見を受けて会見の疑問点や問題点、各社報道の読み比べ、そしてすでに発生している二次加害などについて話していました。

(南部広美)今夜はこちらのニュースからです。「全体を見てくれ テレビ朝日の会見に対し福田事務次官が改めてセクハラを否定」。テレビ朝日が財務省の福田淳一事務次官によるセクハラ疑惑の被害者が自社の社員だったと発表したことを受け、福田氏は今日、改めて従来の主張を繰り返し「セクハラではない」と反論しました。

<取材音源スタート>

(福田事務次官・取材音源)一部しか録ってないでしょう? つまり、なんていうか、向こうがお話になっているところを録ってないんで。えー、全体を見てくれと。全体を申し上げれば、そういうものには該当しないというのはわかるはずです。

<取材音源おわり>

(南部広美)一方、野党六党は文書改ざん問題も合わせて「麻生財務大臣の責任は重大だ」として辞任などを与党側に要求しましたが、与党の回答がゼロ回答だったとして国会の新たな日程協議に応じない方針を確認しました。こうした中、麻生財務大臣は国会の了承なしでG20の財務相・中央銀行総裁会議に出席のため今日、アメリカへ出発。記者団の取材には応じず、無言で飛行機に乗り込みました。

(荻上チキ)というわけで、このセクハラ問題なんですけれども、まず福田事務次官のコメントがありましたね。「一部しか流れていない」というような形で、多くのカメラが鳴り響くような中で急いで車に乗るような場面ではあったわけですけれども。「一部しかない。全体でなければ、そういったことではないということが分かる」というような趣旨の発言をしていました。

すでに矛盾が生じる福田次官のコメント

で、この発言自体が実は先日の辞任を表明する時の会見コメントと矛盾がすでに生じているんですね。というのは、「今回報じられた内容については、自分の声であるかどうかは確認できない」ということと、「報道されているようなひどい発言はしていない」という風に発言の主であることや発言の内容については否定していただけですね。ただ今日の記者たちに対するコメントとしては、「一部しか公開されていない。全体を見ればそうではないとわかる」という形で、「セクハラというような文脈ではない」という風な主張をしたわけです。つまり、論点がすでに変わっているんですね。

昨日までの段階では「発言の主である」ということと、それからは「その発言の内容がそもそも存在しない」というような主張だったわけですね。「そんなひどい発言をしていない」と。

(南部広美)そうでしたね。

(荻上チキ)ただ、テレビ朝日が名乗り出てきたことを受けてですね、「今回一部しか報道されてないので、全体を見ればわかるはずだ。セクハラではない」という風に言っていたわけです。ただ、実際に発語した当事者が「セクハラであるか、ないか」ということを決めるものではないんですね。セクシャルハラスメントというのは、コミュニケーションの中で受け手の側が「ハラスメントだ」という風に感じた時に、それが問題として事実認定をされる必要があるわけですね。それが法的にどうなのか?っていうことはその後、司法の手続きに則っていくわけですけれども。

でも、その受け手のコミュニケーションの捉え方というのとても大きいわけです。その中で「文脈を見てくれれば、全体見てくれれば……」という風に発語した方が述べるということ自体は、本来はセクシャルハラスメントの論理構成として成り立たないものなんですね。また今回報じられているその一部。その一部というのが、たとえばどんな文脈ならばセクシャルハラスメントに該当しないという風に言えるのであろうか? というぐらいの内容が今回報じられているわけですよね。

だから逆に「それは一体どういったものなのか?」と問いたいぐらではあるんですけれども……「では、全体とは一体何なのか?」といったことについては答えていないということになるわけです。で、ここに来て財務省の側の様々な説明。麻生大臣の名のもとに、財務省の名前で「名乗り出てほしい」と言ったこと。あるいは矢野官房長が「(名乗り出ることの)何が難しいのか?」というようなことを国会で述べたこと。財務省の省庁としてセクシャルハラスメントいうものに対する認定というものが、ものすごく甘いというか、ゆるいというか、やる気がないというか、時代錯誤であるというか。そもそも概念を理解していないというような状況というものが出てきてるわけですね。

そうした対応を繰り返しテレビで流すことだけでもこれ、二次被害を受ける方、いると思うんですよ。

(南部広美)そうでしょうね。

(荻上チキ)ひとつは「国家がそう言ってるんだから」っていうレベルで認めてしまうこともさることながら、そのように繰り返し否定される。「そんなぐらい難しくないでしょう? 名乗ればいいじゃないか」というようなことを繰り返し言うことで被害を矮小化する。そうすると、これまでに被害にあった人というものが同じようにまた、あの場面を思い出して厳しくなる、キツくなる、苦しくなるっていうことはありうると思うんですよね。そうしたことを映像を通じて再生産してしまってるっていうことに対する自覚というものもないのかというようなことは問いたいなという風に思います。

そこで、では福田事務次官のコメントの問題点。しかし、否定しているということなので、じゃあ事実認定はこれからどうするのか? という話はもちろんあるわけですけれども、一方で「被害を受けた」という風に主張している側。そのうちの一人がテレビ朝日の社員であるということをテレビ朝日が公表をしました。昨夜の12時からの会見だったので、『Session』が終わった直後ということになります。まず、テレ朝報道局長がどういった説明をしたのか? その冒頭の音声をお聞きください。

荻上チキが託した質問とテレ朝の回答

<取材音源スタート>

(テレビ朝日報道局長・会見音源)週刊新潮で報じられている、福田財務次官のセクハラ問題について、セクハラを受けたとされる記者の中に、当社の女性社員がいることが判明いたしました。当該社員は当社の聞き取りに対しまして、福田氏によるセクハラ被害を申し出、当社として録音内容の吟味及び関係者からの事情聴取等を含めた調査を行った結果、セクハラ被害があったと判断しました。

当社といたしましては、先ほど申しましたように、当社社員がセクハラ被害を受けたことを財務省に抗議するとともに、今後セクハラの被害者である当社社員の人権を徹底的には守っていく考えです。一方で、当社社員からセクハラの情報があったにも関わらず、適切な対応ができなかったことに関しては、深く反省をしております。また当社社員が取材活動で得た情報を第三者に渡したことは報道機関として不適切な行為であり、当社として遺憾に思っております。なお、セクシャルハラスメントという事案の性格から、当社としては被害者保護を第一に考え、当該社員の氏名を始め個人の特定につながる情報は開示しない方針であります。報道各社のみなさんにおいてもご配慮をいただきますよう、お願いいたします。

<取材音源おわり>

(荻上チキ)というわけで、まずは「自社の社員である」ということを公表つつ、「自社の社員を守る」というような声明を発表し、その後に財務省に対して抗議をしたのがテレビ朝日ということになります。他方で、「今回の件については社内であらかじめ相談を受けていた。あるいは『報道すべきだ』という主張がなされていたにも関わらず、それがされなかった。適切に対応されなかったことを反省する」という。また「取材活動で得た情報が週刊新潮に渡さた。つまり別の機関に渡されたことについては不適切であり、遺憾である」というようなコメントを述べたわけですね。

このあたりについては後ほど僕もコメントをしたいと思うんですが、その後も記者会見は続きます。記者からの質問を答えるという形になっていったわけですけれども、TBS ラジオの澤田大樹記者に僕、メッセージをオンタイムで送っていまして。「いま、この質問をしてください」ってお願いをしながら会見を見てるんですね。そしたら、澤田記者、何度かか当てられて、複数の質問を当てることができました。そのうちのいくつかをちょっと聞いていただければと思います。まずはこういあった質問をしてもらいました。

<記者会見音源スタート>

(TBS澤田記者)TBSラジオの澤田です。上司の処分とかですね、今回のを受けての社内研修を行っていくなどの考え方っていうのはありますでしょうか?

(テレビ朝日)先ほども申し上げましたように、詳細な調査は現在も続いておりますので、まだ何も決まっていることはございません。

<記者会見音源おわり>

というわけで、「こうしたことを繰り返さない。不適切だ」ということをするのであれば、たとえば(上司などの)処分……まあ別にクビにしろとかそういうことではないとは思うんですけれども。たとえば、あの一定の研修を受けるであるとか、そうした様々な対応というものはありうると思うんですよね。これからの……社外に対しては財務省に対して抗議をするというのはわかったけれども、社内についてはどうするのか?っていうことについては、あまり話されていなかったので。その点について聞いたんですが、まだ調査中ということだったということです。

このあたりは引き続き、テレビ朝日がそういった対処法を公表するということを待ちたいですし、それがひとつの報道関係者、報道各社におけるモデルになってほしいなという風に思います。いまのところまだ研修する前の、事実確認の段階だということがわかりました。続いて、澤田記者にこうした質問もしてもらいました。

<記者会見音源スタート>

(TBS澤田記者)上司の方なんですけれども、その「被害者への二次被害を心配して報道しなかった」っていうことなんですけども。たとえば財務省への取材活動に支障をきたすことへの懸念とか、そういうことは理由のにはなってないんでしょうか?

(テレビ朝日)先ほども申し上げた通りでございます。二次被害を防ぐというところが重点でございます。

<記者会見音源おわり>

(荻上チキ)というわけで、ここはちょっと微妙な言い方をしているねすよね。もともと報道しないという風に判断をした理由というのは、「二次被害が心配されることなどを理由に」という風に言っているわけです。ここに「など」というのが最初の会見の中で……報道局長のコメントの中には「など」という言葉が含まれているんですよ。だから澤田記者に「二次被害を心配される」、つまり「社員が傷つくから放送しなかったんだ」っていうことを言っているけれども、でも本当にそれだけが理由なのか?

これからの取材活動に差し障るとかいったような形の、ある種の忖度。記者クラブ制度の中にある、自分たちが取材できなくなることに対するブレーキみたいなことが働いたんじゃないか?っていうような意図で質問したんですが、「二次被害が心配されることなどを重点的に」っていう風に言っていたので。「重点」ということは、他にも理由があるんじゃないかということが気になるわけですね。

もし、そうした形でたとえばこれからはね、メディアが特定のハラスメントを告発して、その結果その記者が取材対応に応じてもらえなくなったであるとか、その会社だけ外されたっていうことになれば、各社は同時にボイコットするとか、あるいはそこと情報を共有するであるとか。場合によってはね。たとえば、その社が被害を受けたっていうことをその社自身が「今日も我が社は外されました。いつまでこの対応が続くんでしょうか? 皆さん、どう思いますか?」っていう風に問うていいと思うんですよ。そういった対応ができるような状況を作っていくためには、やはり二次被害だけ心配したのかどうなのかっていう、その判断の部分というのの検証というのは必要になってくるわけですね。

だからそのあたりはより踏み込んだ発表というのがこの後、テレビ朝日から出てきてほしいなという風には思います。では、この他にもですね、いろいろな記者が様々な質問していました。NHKがこんな質問をしていたので、ちょっと注目をしてみましょう。

<記者会見音源スタート>

(NHK記者)NHKのオオニシと申します。上司の方が相談を受けた時の対応についての確認なんですけれども。セクハラをやめさせるためにですね、その事務次官であるとか財務省に直ちに抗議するという措置は取ったのか、取ってないのか。取ってないとすると、その理由は何かというのをまず、お伺いします。

(テレビ朝日)そういう措置は取っておりません。基本的には、報道に関してのみ判断をしたということでございます。

(NHK記者)それは、本人を守るためにはそういう措置を取るという選択もあったと思うんですけれども、それはなぜやってないんですか?

(テレビ朝日)基本的にはですね、組織全体として対応の仕方を考えねばならなかったところに、そういうことができなかったということがいちばんの反省点っだと思っております。

<記者会見音源おわり>

(荻上チキ)というわけで、これも実は僕が聞きたかった質問のひとつで。澤田記者にも送っているんですけども、NHKが聞いてくれたので。聞きたいことが聞かれたなと思ったんですけども。セクハラに対して二次被害を恐れたということであれば、一次被害であるそのハラスメント行為に対して抗議をするなり、「やめてくれ」と言うことはなかったのか? これ、当然気になることですよね。この質問は会見のいちばん最後にNHKがようやく聞いたわけですよ。澤田記者もずっと手を挙げていたんですけど。まあ、2回すでに当てられていましたから。

その中で今回テレビ朝日側は「いや、その一次被害についても抗議はしていない」ということを言っていたわけですね。ということは、「二次被害が心配されることなどを理由に……」と言った場合に、「報道する/しない」だけではなく、他にもそもそも一次被害である「抗議をする」ということも行われていないということであれば、じゃあその二次被害などを心配するというだけではなくて、色々な忖度なり、あるいは構造上の問題だったり。あるいは取材活動の中でのハラスメントへの意識の低さというものが色々出てしまったんじゃないかというところまで吟味する必要があるところですね。

で、この論点というのテレビ朝日に限りません。他の取材各社においても同じような角度で様々な取材方法、あるいはそこで受けたハラスメントについては、しっかりと対処するという仕組みをこれから作っていかなくてはいけない。場合よっては、特定の社に限らず社を横断して取材活動の中で受けたハラスメントにおける、たとえば組合でもいいですし。放送とか新聞でも協会がありますから。そうした組合がありますから。そうしたところに窓口を作るといったような、より積極的な、社を横断的な対応って必要だと思うんですよね。そういうことをしてもいいと思います。

そうしたことの中で、一方でその会見の中では、ちょっと気になる質問が何度も繰り返し行われていたんですね。そちらをちょっと、お聞きください。

<記者会見音源スタート>

(朝日新聞記者)朝日新聞ミナトです。先ほど、篠塚さんのご説明の中で、その録音を本人に許可を取らずにしていたことについて、篠塚さんが説明をした上で本人は反省しているという話がありましたが、録音した時点ではまあ、記者倫理なり放送人倫理として、これは問題ある行為だということを分かったんでしょうか?

(NHK記者)NHKのオオニシと申します。あと、その上司の方。相談を受けた時に、相手に無断で録音しているということはその上司は報告を受けているのでしょうか?

<記者会見音源おわり>

(荻上チキ)というわけで、何人かの記者から「無断で録音していたのかどうか?」ということが確認されていたわけですね。これは、とても不思議であるわけですよ。というか、不思議に思う人が多いと思うんですね。一応の論理というのは分かるわけです。これはラジオクラウドでもコメントをしたんですけども。記者というのは取材をする際には、たとえば「オンレコ/オフレコ」ということで、「いまから録音しますね」って言って録る時と、それを「今日は回さないからね」っていう中で出てきたいろんな話を、自分でメモを取って。たとえば匿名を条件に「○○省の幹部によれば」みたいな形で書いたりするっていうのことを使い分けたりしている。そうした時に録音する際には最初に「録りますね」とか、その情報が勝手に流さないとか、そうしたような約束をしたり。あるいはそうしたものをルール付けるって言うことを訓練されていたりするわけです。

しかし、これはあくまで取材を行う際のマナーであったり、あるいはガイドラインであって、法律上の問題ではないんですね。法律上は、自分自身が行動している範囲内を通常録音しておく。そしてたとえばハラスメントの記録を取るために相手の声を録ること。これは違法ではありません。合法です。というか、必要なことですよね。そうしたような形で今回、その冒頭でテレビ朝日の側が「取材のために録ったのではなくて、セクハラ発言があったから途中から録音したんだ」という風にに説明してるにも関わらず、質問から「相手に断りはなかったのか?」っていうようなものが飛び交うっていうことが、ちょっと不思議だったわけです。というか、あまりに記者業界の中に浸かりすぎではないかという風にも思ったんですね。

ハラスメントを受けている相手に「いまの発言は問題なので、いまから回します。いいですか?」って聞く人、いるわけないじゃないですか。

(南部広美)本当です。

録音は合法

(荻上チキ)いませんよね。だから、誤解があってはならないと思うので繰り返しますけれども。録音することは合法です。ハラスメントを受けた場合は、むしろぜひ記録を取ってほしいです。で、それをたとえば取材活動の中で、通常のガイドラインには反します。これからテレビ朝日が取材をしていくにあたって、「実はこういった隠し録りはしているんです」ってことを認めてしまうと、これから取材活動に差し障ることがあるので、テレビ朝日はそれを不適切だという風にメッセージは出しているわけですね。これはある種の「ポジショントーク」なんですよ。でも、そのポジショントークがしかしながら、「被害者を守る」っていう利益というか、社員を守るというミッションと反してしまうようなケースというものに今回、なっているわけですね。

だから、あえてそこを強調する必要があったのか? ということは僕は疑問が残るわけです。そうした、取材に関するマナーやルールっていうのはわかる一方で、今回そこを強調する必要はあるのだろうか? ということがとても問われてくると思うんですね。「今回、『社員を守る』っていうことはとても重要で、だからこそ録音が活用された。その録音を自社が活用できなかったことを遺憾に思う」というようなことは言っていたとしても、「(その録音データを)他社に回すほど追い詰めてしまったことを遺憾に思う。そもそも、他社に情報提供すること自体が記者倫理としては問題がある行為かもしれないが、そこまで追い詰めたことは遺憾に思う」っていうような発表の仕方だったらまたニュアンスは違うと思うんですよね。ただここ、文章が分けられているので、あたかもその記者が問題行為を起こしたかのようになってしまっていること自体が僕はまた問題だと思います。

新聞各社の報道読み比べ

で、今日新聞各社、報道の取り上げ方なども少し分かれたんですね。今回の発言については新聞やテレビなどの方向性はある程度一致するのかなと思ったんですけれども、トーンは思った以上にバラついていました。取り上げ方の大きさであるとか、あるいはどういった発言を取り上げるのかですね。朝日新聞、毎日新聞はこの財務次官が辞任したこと、そしてテレ朝が社員がセクハラを受けたんだということを一面のトップに持ってきています。

対して読売と産経新聞は、読売の方は一面トップが日米首脳会談の話。で、肩の方にセクハラ否定とテレ朝の件っていうものが載っているわけです。産経は事務次官の更迭っていうものがトップであるわけですけども、一方でその中にテレ朝の記者が告発したということも書いているんですね。ただ、その書き方というものが、トーンが違います。朝日新聞は「セクハラ発言報道で本人は発言否定」というような、そうした財務事務次官の辞任を伝えるような部分の発言の下に、「セクハラ被害事実 テレ朝会見 財務省に抗議へ」という形で福田財務次官に対するカウンター情報が出てますよという格好で取り上げているんですね。

毎日新聞は「テレ朝 社員セクハラ被害」という風に書いていて、社員がセクハラ被害にあったということを告発したというような論調で取り上げています。

では読売新聞はどうかというと、一面の書き方。「テレ朝 セクハラは事実 記者週刊誌に録音提供」という風な見出しになってるんですね。で、さらに中の記事を開きますと、「テレ朝 録音提供不適切 セクハラ訴え上司放置」ということで、まあテレ朝がセクハラの訴えを放置していたよという格好でテレ朝を強く非難するような論調に読売新聞は立っているということですね。

一方で産経新聞はというと「告発はテレ朝記者 録音提供不適切で遺憾」というような形で書いているわけです。

つまり、今回の告発はテレ朝記者でしたよ。そして情報提供は不適切だったっていう風にテレ朝も認めてますよというような書き方をしてるわけですね。で、中身。今回の記事について「データ社外提供 過去にも問題」っていうような格好で取り上げられているんですね。どういうことかというと、たとえばTBSの番組スタッフがオウム真理教の幹部にインタビュービデオを見せたっていう事例などを引き合いに出して、自社の取材データを社外に出す。隠し録りっていうものは報道活動としてはあってはいいけないことだっていうような前提に立って。また、情報提供を他社にするっていうことはあってはいけないことだというような主張の記事を載せているわけですね。

つまり報道姿勢が問われる事態になっているっていうような格好に記事は書いているわけですよ。というような形で論調が割れました。思った以上の出来事でちょっと愕然としています。僕は今回のような形で、たとえば「記者だったら自分のハラスメントを告発できないのか? 自分の会社以外に告発することは許されないのか?」って……そんなことはないでしょう。それこそ、「記者なんだから我慢しろ」っていうのと同じような抑圧になってしまうじゃないですか。そういったようなことを新聞社が書く。場合によっては、政権を批判したくないところなのかなんなのかわからないですけれども、「テレ朝」という企業を批判するっていう格好になっていて、その(テレ朝のような)体質が他の報道機関にあるのかどうかっていうところまで論調を広げないような格好にもなっていたりするんですね。

こういった形で論点が特定企業の問題だけ矮小化されてしまうということは、これは違うと思います。テレビ朝日のさまざまな検証・見直し。それは当然、必要ですよ。だけどもこれはテレ朝だけの問題ではないはずなんですね。そうしたようなところでテレ朝叩きだけにしてはいけないんですけれども、すでにそういった動きというものが出てきているわけです。さらに言えば、昨日のラジオクラウドの段階でも、「二次加害がネット上で起きてしまうんじゃないか。おそらく起きる」っていう話したんですが、その悪い予感がすでに的中しています。いまから不愉快なことを言いますよ。

すでに生じている二次加害

すでにネット上で(記者の)名前の推定であるとか、あるいはこの人じゃないか?っていうような画像を晒すことであるとか、その人の顔を論評することであるとか。あるいは、その記者に対して「ハニートラップ」だの「慰安婦」だの、「日本人じゃないんじゃないか」だの。あるいは、「最初からこうなるのがわかっていたんだから、名乗ればいいのに」といったような書き込みがすでに、たくさん殺到しているという状況になっています。また、いくつかWEBメディアがあるんですけれども、「テレビ朝日こそが加害者である」っていうような批判をしている一方で、「この人じゃないか?」っていうような情報を掲載する。

(南部広美)ええっ……?

(荻上チキ)つまり、「その被害者を生んだのはテレビ朝日だ」っていう格好で批判をしながらも、「被害者だと言っているのはこの人ですよ」っていう名指しも同時に行っているWEBメディアっていうのはあるわけですね。すごく丁寧に、なおかつ慎重に、言葉選んで発言していったとしても……「クズ」以外の言葉が浮かばないんですよ。そういったネット上の書き込みに対して、どんなに言葉を選んだとしても。「つぶればいいのに」って本気で思ってます。

でも、そういった書き込みってのがあふれてしまうことに対して、ネットメディアもむしろ拡散をよくするために、たとえば検索ワードからそうしたものが出にくくなるとか、トレンドになることを避けるとか、いろんな対応というものはネットメディアもいろいろとしなくてはいけない状況だと思うんですよね。技術的に。そういったような状況というものがすでに生まれるということがわかっているから名乗り出られないっていうことが前提としてあるのに、「名乗るのが何が怖いのか?」っていうようなことを言っていた矢野官房とか、あるいはそうしたところで「陣頭指揮をしてほしい」って菅官房長官に言われる麻生大臣とかっていうことが、その人たちが陣頭指揮をしていること自体が大変に不安であり、おそらくこの問題の解決に向かわないだろうということがわかっているから、顔や名前を出さないでいたわけですよ。

でも、それで社が動いてくれないから他社に行ったっていう経緯があるわけですね。そうした一連の経緯を踏まえた上で、様々なハラスメントに対するとの語り方の難しさと、その解決を丁寧にしていくという姿勢を、少なくとも「女性活躍」だの何だのって言ってるような政府というのは適切に示していかなくてはいけないわけですけれども、どうやらメディアの中でも論調が分かれていたり、温度差があったり。あるいはいまだに録音云々というところにこだわっていたりするっていうこと自体が、まだまだハラスメントに対する理解とか、法的な理解が進んでないなという風に思ったりするので。これからも色々な角度からの発信が必要だなという風になっています。改めて繰り返しますけど、ラジオクラウドでね、会見の全音声など、あと僕のコメントもついていたりしますので、そちらの方もお聞きいただければと思います。

<書き起こしおわり>


https://www.tbsradio.jp/244737

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