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荻上チキ 『タクシー運転手 約束は海を越えて』を語る

町山智浩『タクシー運転手 約束は海を越えて』を語る 荻上チキSession22
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荻上チキさんがTBSラジオ『荻上チキ Session-22』の中で韓国映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』について話していました。

(荻上チキ)今日は昨日の話の続きなんですけども。昨日、「このゴールデンウィークで映画に行ってますよ」っていう話をしようと思ったら、そこに行く前の道端で話が終わってしまったので(笑)。

(南部広美)歩行者天国での記憶の話になりましたね。

(荻上チキ)なりましたので。その続きなんですけども。『タクシー運転手』という映画を見に行ったんですよ。

(南部広美)ああ、そこが目的でした。

(荻上チキ)そうそう。昨日のイントロダクションにしようと思っていたんです。で、その『タクシー運転手』の話から、『タクシー運転手』というのは韓国で実際に起きた光州事件という1980年の民衆弾圧と報道規制。いまで言うフェイクニュースというものを政府が流したという、そうしたことの事件を映画化したもので。そこから『ペンタゴン・ペーパーズ』につなげていこうかなと思っていたら……。

(南部広美)あ、そうだったんですね! ええ。

(荻上チキ)そんな上手にオープニングトークができなかったんですけども。

(南部広美)いや、昨日の話は昨日の話で十分面白かったですよ。

(荻上チキ)ありがとうございます。でもぜひ『タクシー運転手』という映画は本当に見てほしい映画なので、おすすめするためにしゃべります。とても素晴らしい映画でした。『タクシー運転手』っていう映画はいま言ったように実際にあった事件というものをベースに作られているもので。

(南部広美)光州事件。

(荻上チキ)はい。光州事件を描いたもので、ソン・ガンホが主演男優として登場しているわけですね。で、タイトルのようにタクシー運転手が主人公でそのタクシー運転手は実在の人物なんだけれども、誰だかは特定されていないというそういう人物がいるんですが。あるドイツ人の記者が実際に韓国に渡ってソウルから光州という場所に行き、光州で起きている民衆弾圧を証拠に収めて、それを世界に報道で伝えるためにジャーナリストとして取材に行くわけですね。で、タクシー運転手である主人公は最初は単にお金稼ぎのために……要は高いタクシー代をもらえるということで人の仕事を横取りしてまでそのジャーナリストを光州へ連れて行く。で、その合間合間に「あれ? なんか検問がすごいな」とか、そうしたようなことをいろいろと見ていって弾圧の現状を見ていく。さあ、どうなるか?っていうそういう映画なんですね。

(南部広美)うん。

(荻上チキ)そのジャーナリストは事実を世界に発信できるのか? タクシー運転手はその後いったいどうなっていくのか? いろいろと描かれるわけですけど、その映画の中では当然ながら主人公であるタクシー運転手の変化というものが描かれると同時に、その時代背景というものの説明というものも「歴史を描く」というよりはサスペンス要素たっぷりに巻き込まれた事件として、あるいは1人の個人として壮大な権力による横暴というものを暴き出していくというような、そういったような視点で映画が進んでいくんですね。

(南部広美)うん。

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主人公のタクシー運転手の目線

(荻上チキ)たとえばそのソン・ガンホ演じる主人公のタクシー運転手は本当にケチでお金儲けに熱心で、でも一人娘がいて、その娘のためにお金を稼ぐことということがすごく大事なんだと思っている、いわゆる小市民なわけですよ。で、街中でたとえばタクシーの運転をしていて、道を通ろうとしたらデモ隊とかがいたりする。で、学生とかがデモをしていたりすると「まったく……あいつらは何のために大学に行っているんだ? デモするために大学に入ったのか?」みたいなことを言いながら。「こんなの、邪魔でしょうがない」みたいな形でデモを邪魔者扱いするような一般市民というか、小市民目線だったりするわけですよ。

(南部広美)うん。

(荻上チキ)で、そのデモ隊との衝突の中で冒頭の方でタクシーが傷つくというシーンがあるんですね。

(南部広美)車体が?

(荻上チキ)車体が。しかも車体のミラーなんですよ。で、これがミラーであるというのは映画の中でひとつ大事なポイントになっているんですけども。それはぜひ見てください。で、彼は車体が傷つけられてすっごく怒るんですね。そりゃあそうですよ。自分のお金を稼ぐための手段であるし、後にわかってくるんですけどもそのタクシーというものは当然ながら娘を育てるためのものであるのと同時に、他の人との縁によってそのタクシーというものは手に入れた大事なものだということもわかるわけですね。だから、ただケチでドライバーとして車を大事にしていたというだけではない、すごく人生において重要なものがタクシーだということがわかるわけですけども。

(南部広美)ほう。

(荻上チキ)それを冒頭の方で学生のデモによって傷つけられて、すっごく怒るわけです。で、それを直すためにもディスカウント、ものすごく安い価格で修理屋さんに直してもらったりするぐらい、運動にも興味ないし、お金にしか興味がないし、社会にも興味がない。娘を育てることだけ……っていう、いわゆる生活者としての目線。ごくごくありふれた目線のキャラクターが描かれる。でもそれがひょんなことからドイツ人ジャーナリストを乗せて光州に行き、そしたらそれまで彼は「韓国ほど住みやすい国はない」っていう風にずーっと信じているわけですね。

(南部広美)ふんふん。

(荻上チキ)で、たとえば「他の国に行きたい」みたいなことを言ったりとか、この国に文句がある学生とかがいたりしても「なにを文句言っているんだよ。こんな住みやすい国なのに」っていうことを口にするようなタイプなわけですよ。「こんなにいい国、他にどこにあるんだ?」っていう風に言っていたんですけど、実際にジャーナリストと一緒に光州に行くと、そこではテレビからは伝わってこなかった、むしろテレビでは全く別のニュースになっていた……つまり、「国を倒そうとしている分子たち、スパイ的なというかクーデターを起こそうとしているような学生や左翼集団が軍を襲っている」みたいな形で報じられているんだが、実際は真逆で「国民や市民が抗議をしているものに対して軍が弾圧を行っている」っていうようなものを目にしていくわけですね。

(南部広美)うん。認識が改められていく。

(荻上チキ)そうです。そういう風になる中で、彼は自分のタクシーを使ってどういう行動に出るのか?っていうのがとても注目をされるわけですね。で、ポイントはいくつかあって。彼がたとえば食べ物を食べるシーンがシーンごとにどう変わっていくのか? とか。いま言った、たとえば車体に傷がつくことにものすごく敏感な彼が……だいたいわかると思うんですけど、その車体を使ってジャーナリストを一生懸命運ぶ。そしてその車体がその後にどうなるか?っていうことも含めて、1人のテレビとかからのニュースにただただ触れていた日常を送っていた人が、大きな権力の暴走と矛盾というものにぶつかった時にどういうことを思うのか? どんな絶望や、どんな行動を取るのか?っていうことが等身大の姿で描かれていくわけですよ。

(南部広美)うん。

(荻上チキ)で、これはもう本当にコメディー要素もあるし、いま言ったようなドキュメンタリー的な要素もあるし。一方でサスペンスとか、あるいはホラーとはちょっと違うけど、やっぱり物理的な痛みであるとか、あるいは敵とか警察とか軍の関係者が迫ってくる恐怖感とか。そうしたようなものとかの演出っていうものがとても見事で。ドラマとしてもダイナミックであるだけでなく、すごくタイムリーなわけですよ。

(南部広美)ふーん!

(荻上チキ)つまりそういうある種の韓国の中での民主化。自分たちの国というものを作るんだという意思というものがこの社会のひとつの建国の精神であるんだっていう語りがあるわけですね。で、いま一方で南北の融和、民族統一というものをどうするのか?っていうものがタイムリーになっていたりするんですけども。そういった中でこの『タクシー運転手』という映画は1980年の光州事件。政府の暴走はいけない。でも、そうした政府の暴走っていうものを乗り越えて自分たちは民主的な社会を構築していくという意思を示したんだというような歴史というものが語られていくわけですね。

(南部広美)タクシー運転手の目線から。

(荻上チキ)目線から。そしてそれを通じて、いまにまでフィードバックするわけですよ。つまりそのドイツ人ジャーナリストのその後というものも少し描かれたりすることで、現在。2000年代、2010年代への目線が自然と促されるような映画になっているわけですね。さて、ひるがえっていまはどうでしょう?っていうようなことを問いかけるものであると同時に、このタクシー運転手が実際に誰なのかがわからないので、ある意味で匿名的な存在なんですよ。

(南部広美)うんうん。

(荻上チキ)で、昨日も『ペンタゴン・ペーパーズ』の映画の話をする際に、当時の大統領はニクソンだったけども、映画の中ではニクソン大統領は顔は出てこない。

(南部広美)そうですね。背中とか。

(荻上チキ)まあ、あとは真っ黒な背景で電話の声だけが聞こえてくるっていうような存在で。要は権力は匿名的なものであって、代入可能なものであると。誰がその座についても腐敗する時には腐敗するんだっていうようなものだったりするわけですよ。『タクシー運転手』はそれのある意味逆で、匿名的な市民の小さな抗議とかの積み重ねが世の中を民主化させていくための大事な大事な梯子になっていく。階段になっていくんだっていうようなことを問いかけていくような、そんな映画だったりするわけですね。さて、その映画はとてもドラマメイクとしても、そして1回見ると「民主主義ってなんだろうか?」とか、あるいはお隣の国、韓国であった歴史的なひとつの弾圧事件でありフェイクニュース事件である光州事件とは何なのか?っていうことを体感して学べる機会でもあるので、ぜひ見に行っていただきたい。

(南部広美)いや、俄然楽しみになりました。

(荻上チキ)南部さん、見に行くんですよね?

(南部広美)見に行きます。予告を見て「コメディー要素が強いな」って思っていたんですけども。いまのチキさんの話ってちゃんと盛り込まれているんだっていう。

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コメディー要素の重要さ

(荻上チキ)コメディー要素が強いからこそ、大事なんですね。『アベンジャーズ』でもそうなんですけど、大事な日常を笑える主人公たち。彼らがある種の絶望に巻き込まれていった時、私たちはより深い記憶を刻まれるわけですね。ちなみに僕が行った時には立ち見でした。

(南部広美)あ、そんな大盛況で?

(荻上チキ)はい。30分前に行ったんですけど。まあ、チケットのネット予約をせずに、早めに行って買おうと。でも、30分前に行ったのがちょっと早めだったんですけど、もう立ち見立ち見。

(南部広美)まあ、ゴールデンウィークですしね。うん。

(荻上チキ)熱気でしたよ。でもそれぐらい大注目で。こんなにいい映画なんだから、もっと広がれ! もっといろんなところで上映してほしいって思っているんですね。

(南部広美)見終わった後に今日のオープニングをもう1回、ラジオクラウドで聞き直します。私。

(荻上チキ)で、その光州事件なんですけども、光州事件とは何か?っていうことも来週あたり、メインセッションでやろうと思います。

(南部広美)ああ、じゃあ光州事件を予習してから映画を見に行くもよし、見てから来週のメインセッションに備えるもよし。

(荻上チキ)ということでね。だから『ダンケルク』パターンですね。あともう1個、宣言をしておきますけども、『インフィニティ・ウォー』特集もやります!

(南部広美)フフフ(笑)。それはやらないわけはないって、もうリスナーのみなさんも織り込み済みですから。「いつやるのか?」って。

(荻上チキ)あのね、先ほどTBSラジオを聞いていて「おおっ!」って思って。別のスタジオに僕、走っていきましたもん。

(南部広美)フフフ、それは……(笑)。

(荻上チキ)宇多丸さんの番組で『インフィニティ・ウォー』を来週の金曜日にレビューするらしいんですよ。で、それを聞いた瞬間にもう、ダーッて宇多丸さんのスタジオのサブのブースまで駆けていって、「『Session』も、やります!」って言って。

(南部広美)ああ、宣言してきたんですか?(笑)。

(荻上チキ)だから縦の連携っていうことで。「がんばろうね!」って塩を送ってきました。

(南部広美)TBSラジオリスナーのみなさんも、そこにも備えておくというか、ご準備いただければと。

(荻上チキ)これだけがんばるんだから、マーベルからグッズあたりが送られてきても、僕は別に受け取りは拒否しませんが。忖度はしませんけども。フフフ(笑)。……こんな露骨なせびりがありますかね? 送らないでください。

(南部広美)どっちだよ!っていう(笑)。

(荻上チキ)そうですね。自分で買います。

(南部広美)まあ、いずれにせよ、チキさんがどういう感想をコメントするか、楽しみにしていますんで。宇多丸さんも。

(荻上チキ)そうですね。というわけでいろいろとオープニングトークをしましたけども、今日は結構盛り沢山です。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/49761

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