荻上チキ「#検察庁法改正案に抗議します」を語る

荻上チキ「#検察庁法改正案に抗議します」を語る 荻上チキSession22

荻上チキさんが2020年5月11日放送のTBSラジオ『荻上チキSession-22』の中でTwitter上で広がった「#検察庁法改正案に抗議します」運動について話していました。

(荻上チキ)さて、この週末にTwitterでTwitterデモが盛り上がっていたんですけれども。あの「ハッシュタグアクティビズム」という風にも言ったりするんですけどね。ハッシュタグを使っていろいろな連帯とか抗議とか賛同とか、いろんなものを示したりするもの。これまでもいろんなタイプのものがありました。「#MeToo」とかね、あるいは「#保育園落ちた日本死ね」とか。いろんな言葉で抗議をするというものがあったりするわけで。いろんな立場からのものもあるわけですけれども。

この週末に盛り上がっていたのはその「#検察庁法改正案に抗議します」というようなハッシュタグの元でつぶやかれていた、たくさんのツイートだったんですね。これ、ハッシュタグが面白いなと思ったのはその「#検察庁法改正案に反対します」じゃなくて「抗議します」という言葉選びも面白いなと思ったんですね。

というのはこの法律の案、この法案というのは法案そのものを見ただけではその問題点というのが分かりづらいところがあるんです。国家公務員法と、それから検察庁法という、そうした複数の法律を束ねて今、国会に提出をされているんだけれども。それらというのはそうした人々の定年を延長しますよっていう、そうした法律なんですね。

で、その法律のうち、国家公務員法などの定年延長についてはもともと野党もこれには賛成をしているんです。今の野党である、たとえば民主党系の人たちが政権を担っていた頃も国家公務員法の定年延長については議論をしてきたんですよね。だから「それは必要だよね」っていうところで一致はしてるんですよね。ただ問題は、検察庁法の改正案。これが出されるに至った経緯と、その中身について抗議がされているんです。

だからその検察庁法改正案に単に反対ということではなくて、その経緯も含めて議論が行われているというのが今の実際なんですね。だからたとえば、この法律の案を見て「なんだ、そんな大したこと書かれてないじゃん。単に定年を延長するだけじゃん」とか、「その施行年齢はもうちょっと先じゃん」ということを持って、何か擁護した気になった人というのはちょっとその経緯を抑えなくてはいけないよということ。

あるいはその中には、その経緯を知っているんだけどもあえてそこに触れず、「いや、法案自体は問題ないのに、何を怒っているのかな? ちょっとわかんないな」みたいにとぼけてる人もどうもいたようなんだけれども。まあ、それはちょっとカマトトぶりすぎでしょうというか、さすがにバカにしすぎだろうとは思うわけですね。

検察庁法改正案の経緯

この検察庁法の改正案が出てくる経緯というのは元々は黒川さんという検察官のナンバー2だった人がその定年を延長された。そのことによって様々な問題というものが生じるじゃないかということで追究をされたことが背景として存在しているわけですね。もともと検察庁法というのは国家公務員法などとは別立てになっていて。たとえば国家公務員法の方においては定年延長とか定年制というものが規定されているんだけど、「検察についてはその国家公務員法の議論は適用せずに、独自に年齢設定をして。そこからの定年延長などは想定してないよ」っていうことを元々の法改正の議論の際に政府がそのような解釈を示していたんですね。

それがもともとの政府解釈だったんですよ。ところが、その政府解釈というものをいつの間にか変えたことになっていて、そして黒川さんという方が定年を延長されていたっていうことが分かったんですよね。つまり検事の定年延長という前代未聞の出来事をそれまでの法律の解釈を変えて、しかもその法律の解釈を変えるための議論の経緯が書かれたような議事録というものは存在しない。そういった状況でそれがスルッと通っていったということになるわけです。

(南部広美)はい。

(荻上チキ)この間、現在の政権にはいろいろな疑惑があるので、そうした疑惑隠しに役立つからそういった人事を行なったんじゃないか?という疑惑がそこに出てきたりもしたわけですね。でもここはひとつの疑惑なので、それに対してどうかということは答えはわからないですよね。外からはわからない。だけれども、外から見た際に「じゃあなんで今回、その人の定年を延長したの?」っていう話とか、「いつ、今までの法解釈を変えたの?」っていう話とか、「その解釈を変えたというやり取りはどのような経緯であったのか?」っていうようなことに対して「資料を出してください」とか「解釈変更の根拠を出してください」っていうことを言ったんだけど、そうした説明というものが不十分だったわけですね。

(南部広美)そうですね。

(荻上チキ)そして森法務大臣はそうした法解釈をかつて、日本政府が取っていたということを知らないでいたということもさまざまな証言の中で言っていたわけですね。まあ、後で「実は知っていましたよ」みたいなことを言っていたんだけども「いや、そんなことはないだろう?」って思うわけですが。

(南部広美)山尾志桜里さんとの最初のやり取りではね……。

(荻上チキ)そうなんです。「そういった議事録は知りませんでした」という風に言っていたんだけども。「『政府の法解釈を知らなかった』ということではなく『議事録の存在を知らなかった』というだけだ」という風に森法務大臣は答えたんですね。まあ、ここも今日のところはうっちゃっておきましょう。見逃しませんが、今日のところは置いておきましょう。

このように、いろいろな政府の解釈を変更するぐらいの大きな対応を取った上で、黒川さんという方の人事の変更……つまり定年延長というのはすでに行われたんですね。だからこの法案によって、今回の法律が通ることによってなにか政府によってその検察人事への介入が行われるか云々っていうことはまた別の議論ではあるんです。ただし、こういったことをやる政権が今後、検察人事への介入をやらないかというと、また別問題だけど。

だからよくある誤解としては「これによって黒川さんの定年延長がされるんでしょう?」とか、あるいは「人事介入されるんでしょう?」っていうことに対しては「いや、そういったことは今回の法律には書かれてませんよ」という。それはその通り。でももうひとつ、重要なポイントがあって。

「いや、それはもう政府はやったんです。今回の法改正で検察の人事に介入したいのではなくて、すでに人事には介入したんです」っていう。それを後付けで「それはおかしいでしょう? 法律にも反してるし、そんなことは書かれてないじゃないか?」という指摘に対して「いやいや、法律も変えようと思っていたんです」っていう風に出してきたのが今回の検察庁法改正案なんです。

ただ、これも実は嘘なんです。というのは「この検察庁法の改正案で検察庁の検察官の方の定年延長もやりましょう」っていう議論が出てきたのは今年の1月になってきてからなですね。その前の国家公務員法とか諸々の改正をしましょうっていう話が出てきていた段階で、その検察官の定年延長の議論というのはその時は想定していなかったんです。これを野党の議員……たとえば小西議員とかね、他の議員が国会で聞いてるわけですよ。

「去年の時点では検察官の定年延長なんて、法律の案として議論してなかったじゃないか。この間にどういう社会情勢の変化があって、そういった定年延長というものをしなくてはならないのか?」という話を聞いたら、森法務大臣は「いや、たとえば東日本大震災の時には検察官が逃げたんです」という話をして、これで大きく燃えたわけですね。

で、ここだけ切り取って「ああ、森大臣がよくわかんないけど失言をしたから謝ったんだな」っていう風に捉えてるかもしれないんですけど、ここには二重、三重の問題があるわけですね。ひとつは「この逃げたという説明自体が虚偽だった」ということとか、そうした諸々の話もあって、「大臣が嘘をついてまで法律案を通そうとしている」っていうの問題も出てくる。でも今日はこれすらもうっちゃっておきましょう。

(南部広美)もう……どんどんと複雑になっていく。はい。

改正案の根拠への説明が不十分

(荻上チキ)で、問題は、こういう風に出てきた法律の改正案の改正の根拠の説明を求めたとしても、その根拠が出てきてないことなんですよ。で、その時に出てきたのがたとえば「検察官が逃げた」という話とか、あるいは「現在は人材不足で……」とか、そういったような説明だったんですよ。でも、「人材不足なのであれば若い人を取ろうという話ではダメなんですか?」という反論があるわけで「検察官の定年延長が必要だ」ということの説明にはなっていないわけですね。

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