荻上チキさんがTBSラジオ『Session-22』の中で東京医科大学が入試で女子受験者の得点を一律減点し、男子受験者を優遇していた疑惑についてトーク。ネット上の反応や擁護論なども含め、話していました。
(荻上チキ)火がつくぐらい、燃えるのかってくらい暑かったですね。
(南部広美)これでもかっていう汗の……流れ落ちる自分の汗に「ああ、暑いんだな……」って。こんなことを話していると、余計にその時の記憶が蘇ってきちゃいますけど(笑)。
(荻上チキ)まあ今日ね、朝起きたら友人からのLINEがたくさん来ていて。「どうした?」って思ったら、みんな同じニュースにもう発火ですよ。燃えさかっています。憤ってましたね。ちょっと驚きました。オープニング、そのニュースから行きましょうか。まずはこちらのニュースから。
(南部広美)文科省の汚職事件に揺れる東京医科大学。入試で女性受験者を一律減点していたことが明らかに。文部科学省の汚職事件で捜査を受けている東京医科大学が入試で女性受験者の得点を一律に減点し、女性の合格者を全体の3割以下に抑える点数操作を続けてきたことが関係者への取材で分かりました。関係者によりますと、女性は結婚や出産を機に職場を離れるケースがあるため、系列病院の医師不足を回避する目的で一次試験の合格者が出揃った段階で女性の得点を一律に1割から2割程度減点。二次試験に進む女性を意図的に減らし、男性受験者を優遇していたということです。こうした不正は女性の合格者が4割近くに達した2010年前後に始まったとみられ、今年の入試では合格者のうち女性の割合は全体の18%にまで下がっていました。
(荻上チキ)まあ、まず第一にふざけた大学だなというような印象です。一律に減点していたということは、まあ個々人の女性からすると、「女性だ」というだけで点数を下げられたということになるわけですね。ということは、女性だからということで不当に低く評価をされたということになるわけです。まずこの時点で、「個別の受験者への差別」ということになりますね。それから社会的に「女性に対する差別」というものは温存、残っているわけですけれども、それをより強化することにもなりますよね。
「女性は結婚出産を機に離職することが多いから取らない」みたいなことを口にする人っていうのは世の中にいるわけです。で、そうした見方で個々人を評価するということも、これまた差別になるわけですけれども。しかしながら、そうしたようなことを踏まえた上で取るのを減らすということになるならば、ますます女性の置かれている状況っていうは悪化しますよね。そうしたその社会的な差別というものをむしろ強化するという上で、まずもって問題ということになりますよね。
そしてさらに言うならば、今回実際にやるべき問題というのは「医師不足を回避する」のであれば、「しっかりと待遇を改善する」であるとか、「女性の医師が復帰しやすいような状況にする」だとか、そうしたようなことをすべきなんですけども、非合理的な選択として「女性の数の方を減らそう」っていう、その需給ギャップの問題を供給の側をものすごく歪ませることによってなんとかするという、およそ科学的とは考えられない対応を教育機関が行ったということにます衝撃ですね。
こうしたような行為をよしとするような大学で教育を受けた人たちは一体どうなるのか? そしてこれは、同じくその大学に通っている男性の学生に対しても非常に侮蔑的な対応ということになるわけですよ。直接的には影響がないかのように見えるかもしれませんが、たとえばこうした形で発覚をすれば当然、「なるほど。あの大学を出た男性というは下駄を履かされていたのか」という風に見られてしまったら、それは卒業生に対する不当な評価というものを招いてしまうわけですよね。それぞれは一生懸命勉強して、卒業して、さまざまな将来を進んでいくということになっているんですけれども、そうしたものに対する眼差しが変化しますよね。疑わしさが出てきてしまうということになりますよね。
そうしたような状況をさまざまに拡大してしまう。これはね、もう擁護しきれないですよ。「擁護してる人がいたら見てみたい」って言おうとしたんですけど、結構ネットにはいました。「マジか!?」って思ったんですけれども。
(南部広美)いたんですか?
(荻上チキ)いたいたいた。
(南部広美)なんて擁護していたんですか?
大学を擁護する反応
(荻上チキ)たとえば「女性がそうやって離職するんだったら、それは仕方がないよね」っていう風に述べる人もいたり、あとは「大学にも選ぶ権利があるのだ」という風に言っている人もいたりしましたね。「公立大学じゃなくて私立なのだから、私立はそれぞれの意思に合わせて選ぶことができるんじゃないか」みたいなことを言う人もいたりしましたが、そうした理由ってのは「差別」の前では何も通用しないですね。たとえばある大学が「特定の人種だけを不当に点数を下げる。でも、それは大学の指針だ」っていう風に発表したとして、それが許されるかというと、それはアウトです。完全にアウトですね。
「アウトではない」という風に考えている人がいるならば、それを改めなくてはいけません。そうしたことを「アウトだ!」と言う社会にしなくてはいけないんですね。それがやっぱり誰もが生まれや様々な特性によって差別されない社会を実現するために重要なことだったりするわけです。そうした意味でいろいろな擁護論が一部かもしれませんけれども存在してることに驚きを禁じ得ない状況もあるわけですね。こうした話というのは、しかしながら珍しくないという話も聞きます。つまり、「同じようなことは他の大学もやっている」というようなこともいろいろと……。
(南部広美)「表に出ていないだけで」ということですか?
(荻上チキ)ここまで露骨かどうかはさておき、似たようなことはやっている。たとえば、「同じ点数だったら男性の方を優遇して取る」とかね、そうしたことをやってるところは多い、みたいなことを報告する人たちもいるわけですよ。それは、「だからここだけの問題じゃなくて、全体を変えていこう」っていう問題提起なんですけれども。「他所でもやってるから、ここでもやっていい」ということは決してないということは押さえておかなくてはいけないですね。
「他所もやってるから、ここは見逃そう」じゃなくて、「他所がやっていようが、見つかったところからちゃんと直していきましょう」というのが適切な反応だと思うんですね。だから今回、様々な汚職事件も発覚している東京医科大学でこうした差別対応が発覚したのであれば、大学としての対応と大学への処分というのは当然必要になってくるんですけれども。仮にそうした似たような状況というものがいくつかの企業とか大学であるのであるならば、そうしたようなところにもやっぱりメスを入れていかねばならないですね。ということで、たとえばこれから「そうした試みをしていた大学などは名乗り出てください。いま、一律で名乗り出ればちゃんと一斉に改善しようという機運を作ることができるし、そうした風に名乗り出るということでこれから膿を出す積極性を示して下さい」っていうような号令をかけなければいけないなという風に思います。
「許す」とは言いませんよ。許されないことです。だけれども、これから改善するには、これから傷口を広げるよりは一気に名乗り出た方がいいと思いますね。一気に改めた方がいいと思います。で、このような事態が発生するからこそ、たとえば指導者とかそうしたところへのジェンダーギャップ、男女差というものもいろいろと積極的に是正する。経営者側とかいろいろと意思決定をする側にもジェンダーバランスであるとか人種のバランスとかさまざまなものが求められてくることになるわけですよね。で、これは細かなことなんですけども、今日ね、このニュースに反応しているネット上の書き込みもたくさん見ました。
その書き込め中で結構見たのが、「これは女性が怒るべきだ」っていう書き込みとかね。
(南部広美)うん?
(荻上チキ)「女性は怒っていい」とかっていうような書き込みとかがたくさんあったのね。
(南部広美)いや、怒りますけども。
(荻上チキ)っていうか、許可はいらない。怒ってます。
(南部広美)そりゃ、怒りますけども。
「これは怒っていい、怒るべきだ」という意見
(荻上チキ)あとはね、「フェミニストはこういったところに怒ってほしい」みたいな書き込み、いっぱいあったんですよ。まずね、僕が観測した範囲のフェミニストは怒ってますが、それはさておき、こうした何かあった時に「「フェミニスト、やってくれ」みたいな感じで普段はバカにしているくせに、何かあった時に「叩いてくれ!」っていう風に他力本願になるのどうか? お前が怒れ!っていう風に思った書き込みがたくさんありましたね。「お前の怒りはどこにいった?」っていう。僕は「議論を呼びそうだ」とか言わないですよ。「議論しましょうよ。これ、問題ですよ。すぐにやめさせましょう!」という風に言うべきだと思います。
「フェミニストは怒るべき」とか……いや、お前に決められたくねえよ。自己決定するのがフェミニズムの原点ですから。怒る/怒らないはその人が決める。で、だいたいは怒ると思う。それで、お前はどうなんだ?っていうような、その反応も含めて、今日は地獄の1日でしたね。灼熱でしたよ。頭の中がボーボー燃えてまして。
(南部広美)まあ、より適切な言葉を持っている方に預けるっていう気持ちは少々わからなくもないですけども。
(荻上チキ)それじゃあ、ないんだな。「モヤモヤしたところに言葉をくれ」じゃないんですよ。そうではなくて、「お前ら、これに行かないの? 行かないの? フェミニストなんだろ? 行っとけよ。これは怒るべきだろ?」みたいな……他人事なんですよね。あるいは、「これをやるべきだ」って他人に一貫性を求めたりするっていうことがあったりするわけですけども。「どっちもどっち」とかあるいは「これの一貫性をやるべき」って言っているお前は観客じゃねえ! 市民だ。社会のメンバーだ!っていうことも思ったりして。だからその大学の側の動きだけではなくて、その反応も含めて「いやいやいやいや……」って思うような書き込みもままありましたね。
(南部広美)うーん……。
(荻上チキ)まあ、そういう反応がたぶんあったから、朝起きたらLINEがたくさん来ていて、「ニュースに驚いたけども、反応にも驚いたぜ!」っていうものがたくさん来ていたんですね。ひどいですね。だからそうしたような反応も含めて、「それは違うよ!」と。これは素直に「違うんじゃない?」っていう風にストレートに言いましょう。「あれらを言うべき」とか「これはどうだ」とか、そういうことじゃなくて、「おかしい! やめろ! 改めろ! 以上!」って。これだけシンプルに「以上!」って言える物件、珍しいですよ。で、もしたとえば、その大学の判断として「必要悪だ」みたいなことを今回、関係者が口にしているんですけれども……。
(南部広美)必要悪?
(荻上チキ)さっき言ったようなケースですよ。だから「女性は離職をした時に戻ってきにくいような状況があるから、だから男性を優位に雇うんだ」っていうような意見を述べているわけですよ。それに対してのカウンターとしては「それは”必要悪”ではなくて、ただの悪でバカだ」ということを述べる必要があるんです。それをやるんじゃなくて割くべきリソースがあるでしょう? もっと提言するべきところあるでしょう? たとえば、医師会とかでいろいろと議員を送っているじゃない? ロビイングしているじゃない? 医師会から送られた国会議員、いるでしょう? いますよね。
(南部広美)いますね。
(荻上チキ)そうした人に言えばいいじゃない? 「医師の数を増やすためのちゃんとした対応を!」とか「医療大国にしてください!」「研究大国にしてください!」「教育大国にしてください!」って。「そのためにあなたたち、議員はいるんですよね? 『身を切る』とかそういうのはいいですから。こっちを切らせないでくださいよ。『私たちが身を切るから、お前たちも切ってください』じゃなくて、まずください。切る身をください。屏風から出してください!」っていうようなことを求めていくのが科学者だったり大学関係者だと思うんですよね。
その大学関係者が、いまある矛盾に対して、もっとさらなる矛盾で生んで、困難を学生になる人たちに押し付けて道を閉ざして、地獄の日本をさらに地獄にしていくっていうようなことは、これはあっちゃならんですよね。理性の限界とかそういう問題じゃないですよ。理性がない判断をしてしまったのは、今回あくまで一部だと思いたい。そうしたものに対してちゃんと理性のカウンター、理性の対応を。「これはおかしい! やってはいけない!」って。しっかりと謝罪と対策と、それから検討。具体的な改善策、そして医療的なニーズをちゃんと解消していくというのであれば、ちゃんとその医療関係者に対する手厚いケアや人材の増員。そうしたところに真正面から取り組んでいきましょうということを確認したいなという風に思いますね。
なので、おかしなことは素直に怒っていいんですよ。あのね、最近「怒っちゃいけない」っていう風潮もあるんだけど、怒るのは大事です。あとね、最近たとえばいろいろなセクシャルマイノリティーをはじめとしたさまざまな社会問題を取り上げる際に、「でも声をかけたら『めんどくさい』と思われる」っていう風な形の反応もあったりするんですね。「うるさいやつだと言われる」とか。
(南部広美)「耳を貸してもらえないだろう」と最初から思ってしまう。
「めんどくさい」と思わせることの重要性
(荻上チキ)逆。逆。社会運動って「『めんどくさい』ということを見せることが大事」なんですね。「ちゃんと取り入れないと大変ですよ」ってことを言う。それはなぜかと言うと、特定の人が暴れているからじゃないんです。「特定の人に押し付けられた差別というものはもう限界だ。なぜ理不尽を私たちだけで抱えなくていけないんだ?」ということを世の中に出していくことで、世の中が「うわっ、めんどくさ!」って思った段階で「いま、『めんどうくさい』って思えるその立場、それが既得権益だ!」っていう風に訴えていく。発見させていくことが重要になってくるわけですよね。
だから「めんどくさいと思われる」みたいな形で抑えているような暇があるんだったら、めんどくさいと思われるようなことをまずやった方がいいと思います。じゃないと、いまの沈黙が将来への温存につながるからですね。だから「おかしい!」「違う!」「ありえない!」。一言つぶやくだけでもいいです。一言話題にするだけでもいいんですよ。そうやってね、空気が共有されていくっていうこともあったりするわけですから。そうしたような声をめんどくさがらせるっていうことも、ひとつの問題提起であるというようなこともまた添えておきたいなと思いましたね。
<書き起こしおわり>