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宇多丸、ポン・ジュノ、ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』を語る

宇多丸、ポン・ジュノ、ソン・ガンホ『パラサイト 半地下の家族』を語る アフター6ジャンクション
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宇多丸さんが2020年1月8日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でポン・ジュノ監督とソン・ガンホさんにインタビュー。映画『パラサイト 半地下の家族』について話していました。

(宇多丸)ということでポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホさんの『パラサイト 半地下の家族』に関するダブルインタビューを聞いていただきたいと思います。前半と後半で2つに分けております。前半では今回の映画『パラサイト』をどのように着想したのかというアイデアの部分と、あとやはり僕が興味あるのは『スノーピアサー』『オクジャ』とでハリウッド式の映画作り……規模であるとかを経験された監督の演出スタイルの変化。そしてソン・ガンホさんなど役者さんにどういう風に演出をつけているのか、みたいなお話ですね。そして映画の制作環境などについて伺っております。ということで、まず前半部は8分50秒ほどある音声です。まずはポン・ジュノ監督からお答えいただいております。どうぞ!

<インタビュー音源スタート>

(宇多丸)では改めて今回の『パラサイト』の話を伺いたいですけど、本当にもうとてつもなく面白い上に鋭い社会批評も含んだ、まさにポン・ジュノさんならではの大傑作だと思いますけど。社会におけるその格差とか階級、階層をというテーマはハリウッドで撮られた『スノーピアサー』でも一種、寓話的というか抽象的な形で描かれていましたけど。それを改めてこのテーマを現代韓国を舞台に描かれようと考えられた経緯というのを聞かせてください。

(ポン・ジュノ)最初にアイデアが浮かんで「これを撮りたいと思ったのは2013年でした。出発点はとても単純なものでした。『貧しい人々が食べていくために他人のお金持ちの家に1人ずつじわじわと潜入していくというのは面白い騒動になるだろうな』と子供のように単純に思ったのがきっかけです。その考えがシナリオを書くうちに徐々に発展し、雪だるま式にだんだん膨らんでいったわけです。そのまま完成して今のような映画の形になっていますが、本当に単純に潜入するというアイデアが面白くて。そのゾクゾク感にこだわりました。最初から大きなテーマやビジョンを持って出発したわけではありません。

(宇多丸)『スノーピアサー』や『オクジャ』といったアメリカのすごく資本がバコンと入ったハリウッド型の映画制作というものをお二人とも経験されて、たとえば『スノーピアサー』の時のその撮影とかのプロセスと、やっぱり韓国映画のそれっていうのは大きく違って、戸惑いとかあったんですか? たとえばソン・ガンホさんはそのあたり、いかがでしょうか?

(ソン・ガンホ)ハリウッドのシステムを体験して戸惑いはなく、いい点はありました。ただ、慣れない状況もありました。ハリウッドでは正確にプランを立てて進めていくので、そのやり方に慣れてはいなかったのですが、とても助けられたと思っています。ハリウッドの俳優たちが仕事に臨む姿勢にも新鮮なショックを受けましたし、とても興味深かったです。

(宇多丸)そのハリウッドで撮られた経験というのはその後の……まあ今回の『パラサイト』とかにフィードバックはされているんでしょうか?

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ハリウッドでの映画制作の経験

(ポン・ジュノ)最初に『パラサイト』の企画を制作会社と話したのが『オクジャ』以前だったんですよね。『スノーピアサー』のポスプロの作業中。つまり、『スノーピアサー』と『オクジャ』の後から『パラサイト』の準備を始めたのではなく、時期的には重なっていました。だから、ハリウッドで経験で故郷に戻ってきた感覚が強くあるわけではありません。外国か韓国かではなく、『パラサイト』のサイズやスケール感が自分に合っていたのは大きな意味がありました。

『オクジャ』と『スノーピアサー』は予算が実に大きかった。CGや視覚効果もふんだんに使っていましたし。そうなると、やはりいろいろと気が分散します。監督の立場からすると、エネルギーを使うべきところが多くなるわけです。でも、今回の『パラサイト』は自分にぴったり合うサイズに戻ってから感覚。『殺人の追憶』や『母なる証明』のようなサイズで安心感、楽な気持ちがありました。だからこの映画の撮影はとても集中し、楽しみながら作業ができました。これからは小さな映画を作りたいです。

(宇多丸)「サイズが小さい」とおっしゃりつつも、僕はやっぱりポン・ジュノ作品のすごいなと思うところはものすごく、それこそサイズの小さなミニマルな状況下でものすごく大きなサスペンスだったり、大きなスペクタクルを感じさせる……今回もたとえば、机の下に隠れてそこから脱出する劇のあのものすごい巨大なサスペンスであるとか。あるいはあのなんてことない路地に思えた、あの家族が住んでいる家の前の路地全体が大変なことになってるという、あれを見て「ああ、ものすごいスケール感だ!」と。つまり、話として、状況としては小さくても、ものすごく巨大な状況、映画にできるというのが僕はポン・ジュノさんのまさに才能だと思うので。今回はまさにそこを強く感じました。

(ポン・ジュノ)その話、とてもありがたいです。成立させるためにはやはり俳優たちがパワフルで、いい俳優がそろっている必要があるわけですCGの怪物も登場しないし、ビルの爆発もない中で強烈なエネルギーやテンション、集中力を発揮する映画を作るためにはどうしても俳優の顔を集中的に見るしかありません。俳優が醸し出すエネルギーや精細なレイヤーが豊かでなければ、観客は2時間ずっと夢中になれないわけです。幸運なことに今回の『パラサイト』はソン・ガンホ先輩を中心に俳優たちが本当に見事なアンサンブルで表現が豊かだったので、小さいけれども大きさを感じることができたのではないかと思います。本当に豊かな俳優のエネルギーによるところが大きいと思います。

(宇多丸)その上で、まさにそれを体現されたソン・ガンホさん。ポン・ジュノさんのそのビジョンをまさを具現化してみせる……まあ小さい状況を巨大なものに見せる演技であり、あと僕がさっき言ったようなやはりポン・ジュノさん映画特有の簡単に割り切れない感情の表現であるとか。これはとても俳優さんとしてはすごく大きな、難しい挑戦でもあると思うんですが。それはいかがでしょうか?

(ソン・ガンホ)(日本語で)どうにでもなれ!

(宇多丸)アハハハハハハハハッ! そのための……(笑)。いや、何を(メモを)書かれているのかな?って。日本語で言うっていうことだったんですね(笑)。

(ソン・ガンホ)まさに「どうにでもなれ!」という気持ちで挑んだんですね。何か計画を立てたり、計算をすることもなく、心の扉を開いて楽な気持ちで臨みました。だからこそ、この結果になったと思うんです。計画を立てたり、何かを計算したり、目標を作ってしまう方がよくない気がします。(日本語で)どうにでもなれ、畜生!(笑)。

(宇多丸)あの、ポン・ジュノさんのソン・ガンホたちに対する演出っていうのは、細かく指示があるんでしょうか? それとも割と自由にやらせる感じなんでしょうか?

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ポン・ジュノ監督の演出

(ポン・ジュノ)私はストーリーボードをとても精巧に書きます。撮影はその通りに進めていきます。撮影監督や美術監督、照明チームとはかなり緊密に……私が撮りたいものをお互いに話し合いながらです。そしてカメラアングルやカメラワークりついて、いろいろ細かく注文をします。ですが、そのステージが整えば、ステージに立つ俳優に対しては、なるべく言葉数を減らすように心がけています。

監督がよく勘違いしがちなのは「自分がディレクションをしているんだ」という幻想。実はそれが逆に演技の邪魔になっていることも多いと思います。特にしっかり準備した、素晴らしい俳優が揃っている場合はその枠組みだけを作って、俳優がその中でも自由に飛び跳ね、遊べるような環境を作るのが最善のことだと思います。先ほど言った私が整えるステージについてですが、カメラの動くステージ自体がとても狭くて窮屈な場合が多いですね。たとえばタイミングを取ることとか。

そうした条件に合わせて演技するのは苦労も多いと思いますが、ガンホ先輩のようなもうベテランの役者というのは、そうした厳しいステージの合間をぬってでも存分に表現し、さらにアドリブもされるわけです。私は気楽ですよ。

<インタビュー音源おわり>

(宇多丸)はい。ということでポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホさん。『パラサイト 半地下の家族』についてのインタビュー、まずは前半をお聞きいただきました。いかがですかね、これね。まずね、その途中のソン・ガンホさんの「どうにでもなれ!」はこういうくだりから来ていたという。

(日比麻音子)思ったよりも急に「どうにでもなれ!」が登場しましたね(笑)。

(宇多丸)でも、あれはちょっと編集で間を詰めているんで。僕が聞いて、それを訳していただいて。そこからそのノートを書くくだりだったんで。こっちはすごい不安だったんですよ。

(日比麻音子)「なんかマズいことを聞いちゃったかな?」ぐらいの。

(宇多丸)そうそう。「なんか……えっ?」っていう風に思っていたんだけども。実はそういう仕込みだったっていう。まあいろいろとね、取材を相当に受けられてるみたいなんで。今回、さすがに。なんでね、こういうちょっとお茶お茶目な仕掛けをしていただいてるっていうところもあったんじゃないですかね? あと僕が印象深かったのはやっぱりポン・ジュノさんがハリウッドで撮ってきた経験という部分のところで。

割とはっきり、そのハリウッド的なサイズ感、予算感……CGとかそういうのだとやっぱり気が散るから、集中できるように自分にぴったりのサイズの映画を……という。「これからは大きい映画を撮る気はないです」ぐらいのことをおっしゃっていて。それはね、すごい印象的でした。もちろん一種のご謙遜というか、そういうのもあるのかもしれないけど。それと同時に今回の『パラサイト 半地下の家族』、「小さい映画」とは言いながらも、そうじゃないじゃないですか。

(日比麻音子)「小さい」と思って見ているからこその、「ええっ!」っていう。

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小さくてもリッチな映画

(宇多丸)そうそうそう。やっぱりね、そこはポン・ジュノさんのその映画の手練れの部分だし。で、ポン・ジュノさんは同時に、そのスケール感とかエンターテインメント感を担保するのはやっぱり役者の力だという。だから2人のそのすごい信頼感というか。ポン・ジュノさんってすごく緻密に画面とかも構成される人ですけど、その中のその役者さんということに関してはお膳立てを整えたらそれ以上は必要ないというような感じで。なんか2人の信頼感みたいなのがね。

(日比麻音子)ドンと構えるっていう。

(宇多丸)合間のところでもすごいキャッキャキャッキャと2人でね。やっぱりもうなんか特別な2人なんだなっていう感じがすごくするようなお二人でございました。ということで前半部をお聞きいただきました。後半に行きたいと思います。後半はですね、この『パラサイト 半地下の家族』の映画のコンセプトとなるいろんなシークエンスとか。まあその演出のちょっと結構細かい具体的なことについて僕、どうしても聞きたくて。それで聞いちゃってるんですね。なので、ネタバレじゃないです。

(日比麻音子)予習としてね。

(宇多丸)この映画を見た上で、決定的にそのサプライズを削ぐとか、そういうことはないように編集してありますが。とはいえ、物語後半の展開。「こういう場面がある」とか、そういうことに関しては出てきてしまうので。先ほども言いましたが、どうしても情報をゼロで行きたいという方はですね、タイムフリーもあります氏。ラジオクラウドもありますので。こんなことは生放送中に言うべきではないのかもしれませんが。まあ、時々ムービーウォッチメンでも言いますけどね。まあ、そういう部分はありますので。事前情報ゼロで行きたい方はちょっと後回しにされた方がいいかもしれないです。

(日比麻音子)ちょっと今、おトイレタイムにしていただくとかね(笑)。

(宇多丸)ただ、構成作家の古川耕さん、インタビューの時はまだ映画を見ていなかったんですが、後から見に行ったらこれがいい補助線になっていたという。そういう風にちょうど良かったという人もいるらしいので。このあたりはちょっと皆さん、ご自身でご判断ください。あと、韓国の国内外の映画で同時多発的に発表された格差社会を描いた映画についてなど、そんなことも伺いました。ということで、後半部分。まずはソン・ガンホさんのお答えからです。どうぞ!

<インタビュー音源スタート>

(宇多丸)今回、まさにそのシチュエーションというか、メインの舞台となる邸宅があって。しかもそこにいくつか、階段を中心とした仕掛けがあって。まさにその空間の中でどう動くかというところが本当に見せ場になっていると思うんですけど。その中で、ソン・ガンホさん。まず脚本を最初に読まれた時にこれだけ……まあネタバレしないようにしますけど。中盤以降、もう想像もしなかった方向に話が転がっていくわけですけど。最初にこの脚本をお読みになった時、どう思われましたか?

(ソン・ガンホ)『パラサイト』以前の韓国映画を図形でたとえると、三角形や四角形、長方形だったりします。でも『パラサイト』の形はシナリオの時点で正六面体のような今までに考えたこともない映画だという感じがしました。とても変わっている映画だと思い、本当に驚きました。

(宇多丸)全体にやはり階段を中心とした高低差というか。邸宅があるところから途中中盤、主人公の家族が一旦家に帰るところ。そこで実はその位置関係が……お金持ちの家は高いところにあって、少しずつ下にくだっていく。そうすると、その半地下の家は実はすごく下の下流の方にあって。それがまさに、状況はすごく大変な……雨が降って、すごく大変な状況。世の中のネガティブなことが全部流れ落ちてくるようなことになっていてっていう。この空間の……階段を中心としたその空間の縦横。それが社会の構造っていうのを示すっていうのはもう本当に見事で。ああいうものっていうのはやっぱり物語を作る時点で空間設計みたいなところもすでに頭にあるんでしょうか?

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階段を中心とした高低差

(ポン・ジュノ)初めからそれは核心となるコンセプトでした。主人公が雨の中を歩いて下りていく時はずっと下降し続けています。お金持ちの家から浸水した自分たちの家までは気が遠くなるほど離れていて、観客も垂直的な距離やギャップを一緒に感じるわけです。つまり、ずっと下降していく過程を見ることになります。家族だけが下降しているわけではなく、雨水も一緒に下に流れていきます。

水も豊かな者から貧しい者へとずっと注がれ、流れおりていく。逆流して水が上がっていくのは不可能なわけです。息子が一度、立ち止まり足元を見ますが、足の隙間をぬって水が勢いよく下へ下へと流れていき、自分の貧しい家をも飲み込む勢いのある流れとなっています。その流れを止めることはできません。これは本当に怖く、悲しいことでもあります。

(宇多丸)そういう高低差を利用した演出が多くて。特に中盤以降、階段がとにかくいっぱい出てきて、登場人物はその階段を何度も上り下りすることでまた力関係が変わるというのは大変に面白いんですが。これ、演者さんとしてはですね、ソン・ガンホさんたちはさぞかし、この階段の上り下り。しかもすごく狭い空間で。なかなか肉体的に大変な演技だったんじゃないかなという風に思うんですけども。

(ソン・ガンホ)舞台あいさつの時にも笑い話として階段の話や雨の話をたくさんしたのですが、どんな映画でもそれぐらいの苦労はすると思いますので。今となってはいい思い出です。撮影中も「これはすごいショットが撮れるぞ」と苦労しながらも気分がよかったですし。いじめられると快感を覚えるような、変態チックな、ゾクッとするような感覚がありました(笑)。

(宇多丸)フフフ(笑)。最も撮影的に難しかった場面というのどのあたりですか?

(ポン・ジュノ)なんといっても洪水のシーンです。あのシークエンスを作るため、義テクの家やその周りの家を含めた路地裏全体をプール水槽の中にセットを作ったんです。最後に浸水させなければならなかったので。ちなみに、あの街並み全体がセットなんです。貧しい街での撮影を一通り終えた後、撮影の最後の2、3日で浄化槽プールの中に水を入れて水位を調整し撮りました。

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洪水シークエンスの撮影

スタッフも撮影監督も私もウエットスーツ着て水中で撮影をしました。特にあのシークエンスの最後では水がギテクのあごの下まで来るような場面があります。家の中のガラクタのようなものを持って、自分が住んだ家を悲しそうに見回し出ていくシーンは胸にとても熱い思いがこみ上げてきた瞬間でもありました。映画を撮っていると、かならず一度くらいはそんな気持ちになる時があるのですが。撮影監督も私も、2人とも水に浸かっている状態で同時に強烈な思いを感じたのです。

(宇多丸)でもまさに、場面としてはとても悲しい場面なんだけど、同時に僕は見ていて「最も貧困を象徴している場面なんだけど、なんてリッチな映画なんだ!」とも思って。とても感服いたしました。

(ポン・ジュノ)その通りですね。これをもし新人監督が撮ろうとしていたら、間違いなくプロデューサーから「このシークエンスを外せ」と圧迫されるでしょう。それだけ私は恵まれた状況だと言えるかもしれません。自分がやりたいことができる条件、環境を制作会社や出資会社が整えてくれているわけですから。その分、肩の荷は重いですよね。創作に自由がある分、つまらなかったら批判されますから。

(宇多丸)あと、僕が連想したのはやっぱりブルジョアの家庭に階層が違う異物が入ってくる映画というのは映画の歴史上、過去にもいくつか素晴らしい作品がありますけど。中でもやっぱり階段の使い方はもちろん韓国映画のクラシックであるっていうことも含めて、キム・ギヨンさんの1960年の『下女』という作品を僕は連想したんですけど。やはりこの『下女』という作品とかの系譜みたいなのを踏まえて、階段の使い方とかというのも考えられて撮られたんでしょうか?

(ポン・ジュノ)『下女』だけではなく、キム・ギヨン監督の映画はすべて大好きです。多くのインスピレーションや刺激を受けてきました。特に『下女』は『パラサイト』以上に階段が重要な意味を持って象徴的に使われています。1960年代のソウルは二階建ての洋風の家屋が初めて作られた時期だったからです。今では二階建て、洋風の家はありきたりですが1960年代当時、家の中の階段は中流、上流階級を象徴するものであり、「私たちはお金持ちなんだ」と言える自慢の種でもありました。だからこそ、キム・ギヨン監督は階段に多くの意味を込めて作っていると思います。そこでは事件が起こらざるを得なかったのです。

(宇多丸)『パラサイト』の今回のそのテーマ、社会の格差であるとか階層みたいなことが図らずもというか、同様のテーマを扱った映画が世界各国、ジャンルを問わず、メジャー・インディーも問わず、同時多発的にすごく作られている。たとえばそれこそ『ジョーカー』とかでもいいですけど。あるいはジョーダン・ピール監督の『アス』とかでもいいですし、もちろんと日本の『万引き家族』でもいいですけれども。これが同時多発的に作られている。まさに『パラサイト』もそういうテーマなわけですけど。なぜ、こういうことになってるか?っていうのは監督からして、どう思われますか?

(ポン・ジュノ)イ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』もありましたよね。今、おっしゃった監督たちと私が5年ぐらい前に国連本部に集まって「こういう映画を作りましょう」と会議したわけではありませんよ。『スノーピアサー』でも列車の中で裕福な車両と最後尾の貧しい車両を描きましたが、つきつめれば『スノーピアサー』の原作は1980年代に描かれたフランスの漫画です。

私が中高生の時にすでに描かれていました。今、私たちは巨大な資本主義の時代を生きています。だからある種、避けられない宿命のようなものじゃないでしょうか。創作者として生きる時代を反映するのは当たり前なことです。今、おっしゃった作品があちこちで同時に生まれているのは自然なことだとは思います。もしひとつでも出てこないとしたら、それは逆に不思議なこと、おかしいと思います。

(宇多丸)今回の『パラサイト』でひとつ、うならされたのは貧困というのを匂いで社会階層を判断されるという大変残酷かつ、しかし誰もが「ああ、これをされたら嫌だな」というえ見事のアイデアが出てくるというか。映画において匂いというのは出てこないわけですけど、あえてその映画には反映されない匂いというもので社会階層を判断するという非常に残酷な展開を入れたのはどういう意図なんでしょうか?

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「匂い」の演出

(ポン・ジュノ)映画は画面とサウンドなので、本来匂いの表現は難しくもありますが、ある意味簡単です。役者が上手く表現すればできることです。たとえば、匂いを嗅ぐ人の顔だとか、自分の体からなにか匂いがするんじゃないかという不安げな顔とか。ガンホ先輩は不安げな顔の演技を見せてくれました。おかげでとても強烈に、リアルに匂いを感じることができました。普段、匂いに敏感ですよね?(深呼吸をして)かぐわしい匂いがしています(笑)。

(宇多丸)フフフ、僕はその「匂い」という決して画面には映らないもので差別表現をするということで、観客にはその社会の階層による差別というものが不合理というか、根拠のないひどいものであるという風に受け取るという、そういう効果があるなと思ったんですけども。

(ポン・ジュノ)金持ちのパク社長が線を引きますよね? 「線を越えるな」と言いますが、これは実際はすごく変な話だと思います。線を引いても匂いはそれを越えてくるものです。嗅げるほど貧しい人たちを近くに来させたのはパク社長本人です。自分で運転したくない。妻もお皿洗いをしたくないから、自分たちにとっては大した額でもない金を渡して仕事として貧しい人たちを近くに呼び寄せたのです。いざ近くに来たら来たで「私生活を覗かれるかも?」と不安になって。パク社長が「線を越えるな」と何度も念を押しますが、そんな状況を作ったのはパク社長自身です。

(宇多丸)なるほど。ということでもうね、いろいろと細かいことを聞いていきたいのですが、ちょっと時間もあれなので。最後の質問とさせていただきます。まあせっかくお二人がいらっしゃるので、お互いにとってですね……まあソン・ガンホさんはいろいろな監督とお仕事をされていると思いますが。ソン・ガンホさんにとってポン・ジュノ監督の他の監督とは違う、ポン・ジュノ監督ならではのすごいところというのはどこか? ぜひソン・ガンホさんから。あとはポン・ジュノさんから見て、やはりソン・ガンホさんがすごいところはどこなのか? お伺いできますか。

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お互いのすごさ

(ソン・ガンホ)25年間、映画の仕事に携わってきて多くの監督さんにお会いして、いろんな作品を作ってきたのですが、ポン・ジュノ監督は私にとってたしかに特別な存在です。一緒に映画を作ってはいますが、映画俳優として生きていく中でとても大切な意味や定義を見出してくださった方だと思っているので、特別な方であることは間違いありません。

(ポン・ジュノ)4本の作品をご一緒していますが、いまだに分からない領域が多くありますね。氷山の一角だけを見ている、そんな気分です。黒くて青い水の中にとても大きな何かがあるように思えて気になりますし、好奇心が駆り立てられる。その巨大な氷の塊を一気に水面に引き上げたい衝動に駆られます。でも、それは一度でできることではなく、少しずつ少しずつ掘り下げてみたいという、変態的な気持ちです(笑)。

(宇多丸)お二人、現代の本当に映画界トップの俳優さんと監督さんとこうやってお話を伺えてもう本当に光栄の極みですし。もう今日ぐらい韓国語を本当にちゃんと勉強したいと思ったこともなかなかないぐらいです。本当にもっとお話を伺いたいですが、また機会があればお話を伺わせてください。

(ポン・ジュノ)日本語はわからないのですが、やっぱりラッパーでいらっしゃるから独特のテンポやリズムがありますよね。耳が本当に楽しかったですよ。ビートやテンポやリズムが。

(宇多丸)フフフ、ありがとうございました(笑)。

<インタビュー音源おわり>

(宇多丸)ということでポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホさん。『パラサイト 半地下の家族』のインタビューをお聞きいただきました。最後にね、すいませね(笑)。役得な部分をね。なんか最初にごあいさつをして「僕はラッパーで映画評をやっていて」って言ったら、ポン・ジュノさんは「いや、もう知っていますよ」みたいな。まあ誰かが言ってくれたのかもしれないですけどもね。でね、ちょっと補足をしておくと、匂いで階層、貧しさというものを表現する描写。

見ていただいた方は非常に印象に残るところなんですけども。これは韓国の方とか詳しい方に聞くと、その半地下の住居空間みたいなものがすごく韓国にはいっぱいある。で、その匂いというか、劇中で描かれるあの感じっていうのも割と「ああ、あの感じか」って分かるんだそうです。韓国の方だったら。あと、割と劇中で出てくるあの「台湾カステラが……」とか、いろんなディテールがやっぱり韓国のドメスティックな笑いというか。韓国の方ならわかるというような件がいっぱい散りばめられていて。そういう意味では僕らが見た時の解釈とちょっと違う部分とか、ディテールがあったりするらしいんですよね。

(日比麻音子)ああ、なるほど!

(宇多丸)それもまたね、いろんなところでそういう情報は出ていたりしますから。そういうのも参考に参考にしながらまたね、皆さんも……とかいえ、非常にまた余韻が。「これがこう」とは言い切れない、なかなかの余韻がある作品ですので。

(日比麻音子)その匂いも嗅いだことはないけども、でもなんか知っている気がするっていうか。まさにこびりつく感じというか。

(宇多丸)まあ中盤の洪水のところで家が大変になっちゃう感じとか。で、まああの後だからたしかにね、匂いもするであろうっていうような。皆さんもぜひ、早くこのお話もしたいと思いますので。ぜひ。でも本当に端的に言ってすごいめちゃくちゃ面白い映画なんで。文句なし、びっくりするぐらい面白い映画なのは間違いないんで。

(日比麻音子)もう2時間、夢中です!

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『パラサイト 半地下の家族』予告編

(宇多丸)ポン・ジュノ監督最新作『パラサイト 半地下の家族』は1月10日から全国公開になります!

<書き起こしおわり>

宇多丸、ポン・ジュノ、ソン・ガンホ『殺人の追憶』を語る
宇多丸さんが2020年1月8日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でポン・ジュノ監督とソン・ガンホさんにインタビュー。映画『殺人の追憶』の元になったファソン連続殺人事件の真犯人が2019年に特定された件について話していました。

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