高橋芳朗 Travis Scott『HIGHEST IN THE ROOM』と『Look Mom I Can Fly』を語る

高橋芳朗 Travis Scott『HIGHEST IN THE ROOM』と『Look Mom I Can Fly』を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でトラヴィス・スコットの全米No.1ヒットシングル『HIGHEST IN THE ROOM』と彼のNetflixドキュメンタリー『Look Mom I Can Fly』について話していました。

(宇多丸)といことで、今月もチャートウォッチからですかね。

(高橋芳朗)今週の1位は先週2位にダウンした、前回紹介したリゾの『Truth Hurts』が1位に返り咲きました。これで彼女はイギー・アゼリアの2014年のヒット曲の『Fancy』が記録した女性ラッパーの最長1位記録と並びました。タイです。来週のチャートで新記録がかかってくるという。

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(宇多丸)ああ、そう? 最近、なんか記録がね。

(高橋芳朗)バンバンにね、更新されていますね。で、このリゾは前回、取り上げたので。今回ですね、先週そのリゾを退けて初登場で1位になったトラヴィス・スコットの新曲『HIGHEST IN THE ROOM』を紹介したいと思います。今週はもう6位にダウンしちゃったんですけどもね。

(宇多丸)ああ、そうですか。

(高橋芳朗)トラヴィス・スコットはテキサス州ヒューストン出身のラッパーで、現在28歳。ちょっと今月頭に破局報道が出ちゃったんですけど、カイリー・ジェンナーの元カレです。2人の間には去年2月に子供が生まれたばかりなんですけどね。結婚はしていないんですけどもね。カイリー・ジェンナー、日比さんはわかりますか?

(日比麻音子)全然ちゃんとはわからないです。

(高橋芳朗)セレブ一家のカーダシアン家の末っ子ですね。異父姉妹なんですけどもね。あそこは。

(宇多丸)じゃあ、カニエ・ウェストとかね、いるわけですからね。(※カニエ・ウェストはカイリー・ジェンナーの姉、キム・カーダシアンの夫)

(高橋芳朗)そうですね。で、彼女は21歳の若さで去年のアメリカのセレブリティ長者番付で第5位にランクインしています。カイリーコスメティックスっていうのを経営している実業家なんですけど。このランキングがすごくて。1位はジョージ・ルーカス。2位がスティーブン・スピルバーグ。3位がオプラ・ウィンフリー。4位がマイケル・ジョーダンで5位がカイリー・ジェンナーっていう(笑)。

(宇多丸)ええーっ!

(日比麻音子)すごーい!

(宇多丸)おかしいでしょう?

(高橋芳朗)おかしいよね? 当時21歳ですよ。いまは22歳。

(宇多丸)えっ、そんなにカイリー・コスメティックスが売れてるの?

(高橋芳朗)そういうことですね。6位がジェイ・Zかな?

(宇多丸)ええーっ? ああ、そう?

(高橋芳朗)で、インスタのフォロワー数は1億4200万人で世界第6位なのね。で、1回もPR投稿、スポンサードポストの金額は――これダントツで1位なんですけど――126万6000ドル(1億3000万円)。

(宇多丸)ああ、だから彼女が一発押すだけで……っていう感じだ。

(高橋芳朗)だから世界一のインフルエンサーですね。

(宇多丸)なるほどね。だから自分の企業だけじゃなくて、そのインフルエンサーとしてのそういうところが買われて……っていうこともあるのか。

(高橋芳朗)そういうことですね。

(宇多丸)ひゃー!

(高橋芳朗)1ポスト1億ですよ?

(日比麻音子)うわっ、怖っ!

(高橋芳朗)お正月に一発ポストしたら、もう1年遊んで暮らせる……1年どころじゃないですよね。

(日比麻音子)本当ですよ。一生……3回ぐらいピピピッてやれば、もうゆっくりと……(笑)。

(宇多丸)やりようによっては。マック作戦とかいろいろありますから。それは置いておきますけども(笑)。

(高橋芳朗)コンビニの100円コーヒーがタダになるやつとかツイートしたら、それで1億ですからね。

(日比麻音子)へー! 世界って広いんだな!

(高橋芳朗)広いんですね。で、そんなカイリー・ジェンナーと付き合っていたわけですから、トラヴィス・スコットも当然ただ者ではないわけですよ。いま、ドレイクとともにいちばん人気のあるラッパーと言っていいと思います。去年、リリースした『Astroworld』っていうアルバムで完全にトップラッパーの座を決定づけました。で、このトラヴィスにとって『SICKO MODE』に続いて2曲目の全米ナンバーワンヒットとなった『HIGHEST IN THE ROOM』を聞いてもらいたいんですけども。この曲はカイリー・ジェンナーとの破局も曲中で示唆しているんですけども。基本的にはいまの自分が置かれている状況やステータスを歌っている曲で。

(宇多丸)「いちばん上の最上階」っていうこと?

(高橋芳朗)そういうことです。『HIGHEST IN THE ROOM』っていうのは「いまの音楽シーンでトップにいるよ」っていう意味と、あとは「マリファナ、もしくはドラッグでハイになってる」っていうことのダブルミーニングになっています。じゃあ、聞いてください。トラヴィス・スコットで『HIGHEST IN THE ROOM』です。

Travis Scott『HIGHEST IN THE ROOM』

(宇多丸)はい。トラヴィス・スコットの『HIGHEST IN THE ROOM』。業界というか、そういうビジネス的に頂点を極める。で、マリファナなりなんなりで……ビデオを見るとね、ハッパを吸ってるような描写もありますが。ハイになる。それをかけているのはいいんだけども……なんかやっぱりそれでもすごい暗い!

(高橋芳朗)そう。サビの歌詞でも「俺はHighest In The Room」って言いつつも、でも「ちょっとここから抜け出したい(Hope I make it outta here)」みたいなことを言っているんですよね。

(宇多丸)だから、頂点は極めているけど、虚しいみたいな感じがすごい去来する感じ。またその悩みを歌うのもスターの特権ではあるんだけどさ。

(高橋芳朗)この酩酊感ですよ。なんかね。

(宇多丸)あと、かわいい顔をしていてね。かっこいいよね。これはいわゆる金のかかっているビデオだなー。

(高橋芳朗)で、ちょっとこの流れで8月28日にNetflixで公開になったトラヴィス・スコットのドキュメンタリー映画『Look Mom I Can Fly』を紹介したいと思います。これ、2017年から2019年にかけてトラヴィスの成功の軌跡を追った約90分のドキュメンタリー映画になります。で、冒頭の10分ぐらいはいま、トラヴィス・スコットを取り巻く状況がどれだけすごいことになってるかっていうのを主にそのツアーの映像を中心に構成してるんですけども。とにかくライブの盛り上がり方が半端ないんですよ。基本的にはいま後ろでまだかかっていますけども。『HIGHEST IN THE ROOM』みたいな遅い酩酊感のある……。

(宇多丸)なんならダウナーなね。

(高橋芳朗)そう。ダウナーな曲ばっかりなんですけども。まあ、もうモッシュとダイブの嵐。だから音を消して見てるとハードコアパンクのコンサートを見ているみたいな感じなんですけど。しかもね、アリーナ規模の会場でモッシュ、ダイブをやっているから迫力がすごいのよ。

(宇多丸)ああー。本来ね、そういうのはちっちゃいライブハウスで……(笑)。

(高橋芳朗)そうそう。で、このドキュメンタリーの中にも出てくるんですけども。ライブが盛り上がった挙げ句、盛り上がりすぎてトラヴィス・スコットは「暴動を扇動した」っていうことで治安紊乱行為の罪で警察に逮捕されているんですよ。そこまですごいことになっているっていう。

(宇多丸)ええーっ? そんなアーティスト、いる? 盛り上げすぎ逮捕?(笑)。

(高橋芳朗)でも失神者続出でセキュリティーも骨折したりとかしているんですよ。普通に見ていて危ない。

(日比麻音子)そこまでの引力っていうか、パワーがあるっていうことなんですね?

(高橋芳朗)すごい。もう佇まい的にはロックスターっていうかね。でもファンに対してはめっちゃ温かいっていう感じなんですけども。で、ドキュメンタリーの内容的にはさっきも話したカイリー・ジェンナーとの間に授かった子供。娘のストーミちゃんの誕生だったり、あとは幼少期の映像を交えたトラヴィスの生い立ちなんかも語られていくんですけど。

Travis Scott『Look Mom I Can Fly』

軸になってるのは、トラヴィスの名声を決定付けた去年出た『Astroworld』というアルバムのメイキングと、そのアルバムに合わせて行われた北米56都市を回るコンサートツアーへの密着。そして最終的にはその『Astroworld』がグラミー賞の最優秀ラップアルバム賞にノミネートされて、さあ受賞できるかどうなるかな?っていうところがひとつの大きな流れになっています。で、結論から言うと、トラヴィスの『Astroworld』は女性ラッパーのカーディ・Bの『Invasion Of Privacy』に阻まれて、グラミー賞受賞は叶わなかったんですね。

で、その受賞を逃したことによるトラヴィスの失望ぶりがね、ちょっと気の毒になるぐらい落ち込んでるんですよ。で、トラヴィスは同時に『SICKO MODE』っていう曲で最終ラップソング賞にもノミネートされてたんですね。で、それもドレイクの『God’s Plan』に阻まれてしまうんですけども。でも、これに関してはトラヴィスは「まあ、しゃあないか」みたいな態度で受け入れてるんですよ。

でもアルバム賞を逃したことに関しては本当に悔しそうにしてて。でも、それも納得で。『Astroworld』ってもうここ数年のヒップホップアルバムの中でも屈指の完成度の高い作り込まれたコンセプトアルバムなんですね。だから正直、もうカーディ・Bにはその彼女の「現象」に負けちゃたみたいな、そういうところがあるんですよね。

(宇多丸)勢いにね。

(高橋芳朗)で、トラヴィス・スコットってプログレッシブ・ロックのレジェンドのピンク・フロイドとか、あとはサイケデリックラップの先駆的存在のキッド・カディみたいなアーティストからの影響が強くて。自分でもね、シングルで売っていくタイプっていうよりかはトータル性の高いアルバムを作ってそれで勝負してくってタイプ。

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(宇多丸)ある意味、昔ながらのね。

(高橋芳朗)そう。それは自分でも認めていて。だからケンドリック・ラマーとかともね、近いところはあるかもしれないんですけども。で、そのトラヴィス・スコットの『Astroworld』のツアーのタイトルも『Wish You Were Here』っていうんですけど、これはピンク・フロイドの名盤から引用してるタイトルだったりするんですね。

(宇多丸)うんうん。

(高橋芳朗)で、その『Astroworld』がどういうアルバムかっていうと、まずそのタイトルはトラヴィスが生まれ育ったヒューストンに実在した遊園地から名前が取られてるんですね。つまり、アルバム1枚を架空の遊園地に見立てて、その中にいろんな仕掛けを施してありますよっていうコンセプトアルバムで。具体的にはですね、ヒューストン発祥のチョップド・アンド・スクリュードっていう、ものすごくレコードをスローに回転させて、まあなんだろうな。ドラッグのトリップ効果を高めるような……。

(宇多丸)酩酊効果的なのを音楽的にも表現するし、その状態もさらに増すという……。

(高橋芳朗)そういうヒューストン発祥のヒップホップの手法を取り入れて、それでサイケデリックなサウンドを作り上げて、そのトリップ感と遊園地のアトラクションのライド感を重ね合わせるっていう、コンセプトのアルバムになっていて。曲間もほぼシームレスになっていて。やっぱり陶酔感がすごい高い作りになってるんですね。で、『Astroworld』の仕掛けとして面白いのはアルバムにめちゃめちゃ超豪華ゲストが参加してるんですけど、一切クレジットされてないですよ。

メンツ的にはスティービー・ワンダー、ドレイク、ジョン・メイヤー、フランク・オーシャン、アース・ウィンド・アンド・ファイアーのフィリップ・ベイリー、ファレル・ウィリアムス、ザ・ウィークエンド、ジェイムス・ブレイク、テーム・インパラ、キッド・カディ。もう普通なら喜んで、ウヒャヒャ言いながらクレジットしたいようなトップアーティストが並んでるんですけど。何の情報もなく聞いていると不意にAクラスのアーティストがバンッ!って出てくるのがそのアトラクション感を高めてる。そういう風に作り込んでいるっていう。

(日比麻音子)すごい方だと「書かなきゃ」って思うけども。

(高橋芳朗)普通はね、そうなんですよね。

(宇多丸)そういう効果を狙っているんですね。

(高橋芳朗)おそらくね。で、その『Astroworld』を象徴する曲が全米チャートで1位になったドレイクをフィーチャーした『SICKO MODE』っていう曲で。タイトルは「SICKO」っていうのは「Sick(病的)」。だからドラッグ的にヤバいモードになる、ヤバいテンションになるみたいな意味のタイトルなんですけど。この曲は「ビートスイッチ」っていう手法が取り入れられてて。1曲の中でビートというかトラックが3回、変わるんですよ。で、このトラックの切り変わっていくスリルがまたアトラクションのライド感だったり……。

(日比麻音子)ジェットコースター感。

(高橋芳朗)そうそう。あと、ちょっとドラッギーなサイケデリック感とかトリップ感を表現してるんだと思うんですけど。で、これからちょっとその『SICKO MODE』を聞いてもらうんですけども。ちょうど1分ぐらいのところでドレイクが「Young La Flame, he in sicko mode(トラヴィスがヤバいモードに入るぜ)」って言うんですよ。で、そう歌った直後、途端にビートがカチッと切り替わるんだけど。そこからが大騒ぎポイントっていうか。ダイブしたりモッシュしたりするところになるんですね。じゃあ、その1分ぐらいところに注目して聞いてください。トラヴィス・スコットで『SICKO MODE』です。

Travis Scott『SICKO MODE ft. Drake』

(宇多丸)はい。トラヴィス・スコット『SICKO MODE』をお送りしております。かっこいいなー!

(高橋芳朗)で、ちょっとドキュメンタリーに話を戻しますと、トラヴィスがなんでこの『Astroworld』のグラミー賞最優秀ラップアルバム賞の受賞にこだわったかというと、もちろんアルバムの完成度に絶対的な自信を持っているっていうのもあると思うんですけども、やっぱりこの作品がですね、自分が子供の頃から見てきた地元ヒューストンのカルチャーだったり、ヒップホップへのトリビュートであり、集大成みたいなアルバムになってるからなんですね。で、トラヴィスはそのなくなってしまったアストロワールドっていう遊園地の跡地でアルバムリリース後に『Astroworld Festival』っていうフェスを開催して、一時的にそのアストロワールドを復活させたりもしてるんですね。で、そこもいま活躍してる若いラッパーだけじゃなくて、地元ヒューストンのレジェンドなラッパーとかも呼んだりしているんですけども。だから要は、自分の成功を地元に還元している、割とヒップホップの伝統的なサクセスストーリーというか。

(宇多丸)すごいヒップホップアーティストらしいヒップホップアーティストでもあるという。昔ながらの。

(高橋芳朗)と、言っていいと思います。

(宇多丸)上ちょ(サイプレス上野)におけるドリームランドみたいな。

(高橋芳朗)ああ、そうですね。たしかに(笑)。で、このドキュメンタリーのクライマックスでグラミー賞を逃して落ち込んでるトラヴィスに対してヒューストンの市長がある決断をして、ヒューストンの街にちょっとした奇跡が起きるんですけど……それはみなさん、実際にNetflixで見てみてください(笑)。これ、結構グッと来ますんで。

(宇多丸)Netflixで『Look Mom I Can Fly』を見ていただけるとそれがわかるという。でもちゃんと真面目なアーティストだっていうことなんだね。

(高橋芳朗)ラッパーとしても優秀だし、プロデュースもできるし、キュレーターとしても優れているし、パフォーマーとしても。全方位的にトラヴィス・スコットはトップクラスですね。

(宇多丸)ぜひビデオなんかも。さっきの『SICKO MODE』もめちゃめちゃかっこいいし。『HIGHEST IN THE ROOM』もね、ぜひ見てください。

<書き起こしおわり>

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