高橋芳朗と宇多丸 Ariana Grande『7 rings』を語る

渡辺志保 Ariana Grande『7 rings』を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さん、日比麻音子さんとアリアナ・グランデの『7 rings』を紹介していました。

(宇多丸)ということでさっそく最新チャートについてヨシくんからご紹介いただきたいと思います。

(高橋芳朗)アメリカのビルボードチャート、全米チャートで今週1位に輝いたのはアリアナ・グランデの新曲『7 rings』。これ、初登場1位ですね。で、これは去年11月から年明けにかけて7週に渡って1位を記録したアリアナ・グランデの前のシングル『thank u, next』に続く自身2曲目の全米ナンバーワンヒットになります。

(宇多丸)『thank u, next』はね、前回解説をいただいてドスンと来ました。

高橋芳朗と宇多丸 Ariana Grande『thank u, next』を語る
高橋芳朗さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』で2018年のアメリカ音楽シーンを振り返り。アリアナ・グランデの『thank u, next』を紹介していました。

(高橋芳朗)ちょっとおさらいをしますと、『thank u, next』は2017年から2018年にかけてアリアナ・グランデを襲った悲劇。自身のコンサートがターゲットにされたマンチェスターのテロ事件だったり……あ、いま後ろで『thank u, next』がかかってますね。

(宇多丸)はい。

(高橋芳朗)あとは元カレのラッパーのマック・ミラーが亡くなったこと。あとはそれの余波もあるのか、コメディアンのピート・デヴィッドソンと1回婚約をしたんですけど、それが解消になってしまったり。で、それを乗り越えて未来に向けて新しい1歩を踏み出すっていう、まあそういう曲だったんですね。

(宇多丸)思い出してもちょっと涙ぐんじゃう。

(高橋芳朗)そうそう。非常に感動的な曲だったんですけども。これが単にアリアナ・グランデのパーソナルなことを歌った曲というものを超えて、女性たちを勇気づける曲。女性たちのエンパワーメントソングとして海外ですごく高く評価をされて。11月にリリースされたにもかかわらず、2018年を代表する曲として認定されたという。日比さんもどうですか? 『thank u, next』。

(日比麻音子)いや、本当にいままで元カレのことを歌うアーティスト、何人も聞いてきて。

(高橋芳朗)テイラー・スウィフトとかね。

(日比麻音子)テイラー・スウィフトとか。ただちょっと陰湿に出していくというか、ちょっと皮肉めいた歌い方。でも、アリアナ・グランデの今回のその『thank u, next』はもう爽快で、女子会で親友と話しているような歌詞だなって思って。それがすごくパワーをもらえるっていうか。スカッと、すごくいままでの付き合いっていうものが前向きな方向に向かっているんだなっていうのがすごく心に芯をもらえるような1曲だったので。アリアナさんの中でもやっぱり比較的いままでよりは強い、1人の女性として立っているんだな、歩もうとしているんだなっていうのがすごく見える1曲だったなって思いますね。

(高橋芳朗)相当にキツい状況にあったにもかかわらず、そんなに湿っぽくなくて。

(宇多丸)そうね。その全て、いまの自分を肯定する道筋として受け入れて……っていうね。だから考え方としてとても、その日比さんがおっしゃる通り、勇気が出るし。本当に前向きな歌になっていて。すごい普遍的な歌になっているっていうか。

(高橋芳朗)で、オチが「この曲はかならずヒットするわ」って歌っているところもかっこいいんですよね!

(宇多丸)かっこいい!

(日比麻音子)そうなの!

(高橋芳朗)それで初登場1位を取っているから本当にかっこよかったんだけど。で、この『thank u, next』の大ヒットをもって、アリアナ・グランデはポップスの女王の座に王手をかけた感じになったわけなんですけど……ここからがやっぱりアメリカのポップミュージックの醍醐味、面白さだと思うんですね。「もしかしたら時代が自分のものになるかもしれない」ってなった時、一気にたたみかけていくんです。だからこの『7 rings』は言ってみればアリアナが王位を獲得するにあたって放つ一本目の矢ですよね。それでばっちり全米1位を取っているということなんですけども。

(宇多丸)うんうん。

(高橋芳朗)で、この曲が、あとで聞いてもらいますけども。一聴してすぐに「勝負をかけてきた!」ってわかる曲なんですよ。曲調としてはトラップっていういまのヒップホップのスタンダード、主流になっているサウンドなんですけども。曲が始まってすぐ、最初の部分は映画『サウンド・オブ・ミュージック』からの『My Favorite Things』。わかりますか? 「♪♪♪♪」って。

(高橋芳朗)あのJRの「そうだ、京都行こう」のCMで使われていた曲ですね。あれの替え歌になっているんですよ。で、それを超えたら今度はソウルジャ・ボーイっていうラッパーが2010年にヒットさせた『Pretty Boy Swag』っていう曲のフロウ。歌の抑揚にインスパイアされた歌い方になっていて。

(宇多丸)へー!

(高橋芳朗)正直ね、アヴァンギャルドと言ってもいいような曲なんですけども。でも、これもアメリカのポップミュージックの最前線でしのぎを削っているアーティストの美意識というか。なんだろうな? もう王位を取りに行く時こそ、エッジの立った曲で勝たないと意味がないみたいな。

(宇多丸)だから昨日ね、星野源くんのさ、『POP VIRUS』について、「『いちばん人気のある人のいちばん売れている曲がいちばん攻めている曲』っていうアメリカのポップシーンのいちばんかっこいいところみたいなこと」っていうようなことを言っていたけども。まさにそれだよね。

(高橋芳朗)星野さんはまさに、向こうの音楽をちゃんと聞いているからそういう姿勢をやっぱり貫いているところがあると思うんですけども。で、歌詞は金持ち自慢です。ヒップホップで言うところのボースト。

(宇多丸)「ボースト」っていうのは自分をえらく見せるっていうか、アピールするというか。

アリアナ・グランデのボーストソング

(高橋芳朗)ちょっといくつか歌詞を紹介しますと、「誰もが『お金じゃ物事は解決しない』なんて言うけど、それって解決するのに十分なお金がなかったんじゃないの?(Whoever said money can’t solve your problems Must not have had enough money to solve ‘em)」って……。

(宇多丸)アハハハハハハハッ!

(日比麻音子)強い!

(高橋芳朗)あと、「みんな『どれがほしい?』って聞いてくるけど、私はいつもこう答えている。『いや、全部買うから』(They say, “Which one?” I say, “Nah, I want all of ‘em”)」。

(日比麻音子)強い!(笑)。

(高橋芳朗)日比さん、なんか印象に残ったラインとかありました?

(日比麻音子)でも「リングは自分で買うものなのよ」っていう。やっぱりリングってギフト……男性からリングをもらうっていうイメージが強かったところを、お友達に配る。だから7つなんですよね。でも、その「自分で買えるし」っていうのが、『thank u, next』の時はちょっと女性らしいしなやかさも残っているかなと思ったんですけど、この『7 rings』はもうズドーン!って太い足で立っているっていうような。強い! めちゃくちゃ強くなったな!っていう印象がありますね。

(高橋芳朗)おっしゃる通り。これは完全に女性ラッパーのスタンスですね。

(宇多丸)ラッパーですよ。言うことが。

(高橋芳朗)「全部自分の金で買っているよ(Buy myself all of my favorite things)」っていうね。

(宇多丸)で、その気の利いたカマシの表現で勝負するっていうか。

(高橋芳朗)あとは「私のビジネスカードはブラックカードなのよ(Black card is my business card)」とか、そういうラインがバーッと入っているんですけどもね。

(日比麻音子)「かわいい髪って言ったよね? これ、買っただけだから(You like my hair? Gee, thanks, just bought it)」とか。おおう……っていう(笑)。

(高橋芳朗)でね、『thank u, next』を聞いて「アリアナをこれから応援しようかな」って思った人がこれを聞いたら「ちょっと感じ悪いからやめようかな?」って思うかもしれないですけど、それは違って。この曲、ただの金持ち自慢ではないんですね。

(宇多丸)ほうほう。

(高橋芳朗)この曲はアリアナの実体験がベースになっていて。さっき、日比さんがちょっと言っていましたけど、婚約者のピート・デヴィッドソンとの婚約解消直後にアリアナ・グランデが女友達6人を引き連れてティファニーに乗り込んで、自分の分も含めて7つの指輪を買って。友達にも買い与えて。その時の体験にインスピレーションを得て作られた。だから『7 rings』なんですよ。

(宇多丸)だからすごく強く出ているけど、それはその悲しみを吹っ切るためでもあり。

(高橋芳朗)そうそう。失恋デトックスソングというか。失恋憂さ晴らしソングなんですよ。

(宇多丸)そうか。そういう機能があるわけね。

(日比麻音子)結構女子の友情というか。

(高橋芳朗)そうね。だからやっぱりこの曲も根底にあるのはアリアナとしては「女の子たちみんなに元気になってほしい」っていう。

(宇多丸)「私にはダチがいるから全然大丈夫!」っていうこの感じも含めて。

(高橋芳朗)で、いまのアリアナ・グランデって完全にそういう女の子ファーストっていうか。女の子をとにかく勇気づけたい。女の子に元気を出してもらいたいっていう曲ばっかりずっとリリースしているんですね。で、それはなぜか?っていうと、やっぱり一昨年の5月のマンチェスターのテロ事件。自分のコンサートがテロ被害にあった事件が根本にあって。あのテロで22人、犠牲になっているんですけど、そのうちの半分がティーンの女の子なんですよ。

(宇多丸)ああ、そうか……。

(高橋芳朗)それ以外にもその女の子たちの付き添いに来たり、あとは迎えに来たお父さん・お母さんだったりするんですね。そういう事件だったんですけども。で、アリアナのアーティスト性から言って彼女のコンサートに来るお客さんなんて大半がティーンの女の子で、かつはじめてのコンサートだったりする可能性が大いに高いわけですよね。だからそんなところを狙うかよ!っていう、本当に卑劣な犯行だったと思うんですけども。

でも、アリアナとしても「これに屈したくない」っていう強い思いがあるんですね。だからテロ以降のアリアナの曲、特にシングルは全部、「ガールズ、元気だしていこう!」みたいなそういう内容のメッセージソングばっかりで。『thank u, next』も歌詞ももちろんなんですけど、ビデオも女の子が元気なガールズムービーのオマージュなんですけども。それもそういうメッセージが込められていたし、テロを受けた後、最初に出したシングルは『no tears left to cry』。「涙は全部出しつくした」みたいな意味なんだけど、「もう涙は枯れ果てた。だから立ち直ってみんな、元気を出していこう。私たちは蘇るんだ!」っていう。

だから「I」じゃなくて「We」。女の子みんなで元気だしていこうよ!っていうメッセージを込めていて。だからこの『7 rings』も根底にはそういうメッセージが託されているということですね。

(宇多丸)なるほどね。

(高橋芳朗)じゃあ、聞いてみましょうかね。アリアナ・グランデで『7 rings』です。

Ariana Grande『7 rings』

(高橋芳朗)はい。アリアナ・グランデで『7 rings』を聞いていただいております。この『7 rings』の最新トピックとしてはアリアナ・グランデってめちゃくちゃ親日家で。日本語のタトゥーとかバンバン体に入れているのね。

(日比麻音子)『千と千尋の神隠し』の千尋とか入れているんですよね。あとはポケモンのイーブイとか。

(高橋芳朗)イーブイとかを入れていたりして。で、この『7 rings』にちなんだタトゥーを日本語で入れたんですよ。『7 rings』って「七つの指輪』でしょう? それを略して「七輪」って……。

(宇多丸)「しちりん」?

(日比麻音子)フフフ(笑)。

(高橋芳朗)手のひらに「七輪」って。

「七輪」タトゥー問題

(宇多丸)なんか美味しそうな感じが……なにを焼くんでしょうか?

(高橋芳朗)「Japanese Barbecue Grillだ」っていうツッコミが……(笑)。

(宇多丸)フフフ、つまりちょっと、要はこれ、日本人も英語に関してやりかねないことですけども。やっぱり元のやつだと全然意味が変わっちゃうみたいなことをやらかしちゃったっていう?

(高橋芳朗)はい。いまインターネットで絶賛バズり中で。アリアナ、これは消したんですか?

(日比麻音子)今朝見た時には残っていたんですけども。

(宇多丸)だから「しもたー!」って。

(高橋芳朗)タトゥー自体消したっていう?(※実際には下に追加文言を入れて修正)

(日比麻音子)投稿を消してましたね。

(宇多丸)投稿を消したってことは、やっぱり「やっちまった!」って思っているんでしょうけども。でも、そんなの「テヘペロ♪」でね。

(高橋芳朗)そこがかわいらしいですからね。

(宇多丸)ほら、昔もフォクシー・ブラウンがさ、タトゥーで「牛」って入れていてさ。

(高橋芳朗)フハハハハハハッ!

(宇多丸)「Foxy」の「Fox」だから本当は「狐」って入れるべきところを、なんでか「牛」っていう。もしかしたら彫師が「Ox(牛)」と聞き間違えたのかな?って当時、話題になっていて。「なんで、牛?」って。

(日比麻音子)もったいねー!

(宇多丸)そうそう。っていうね。「女狐」とかだったら全然、フォクシー・ブラウンでいけるのにさ。

(日比麻音子)アリアナさんの手の写真を見るとまだ赤くなっていて、痛そうで……。

(高橋芳朗)入れたばっかりなんだよね。

(宇多丸)ちょっと! たしかめなよ!っていうね。

(日比麻音子)でも、PVでもところどころ日本語が出てきたりして。本当に親日なんだろうなって。

(高橋芳朗)品川ナンバーの車が出てきたりね。

(宇多丸)これはちょっと、ねえ。まあ、痛かったろうけども。でも、かわいいと思います。

(高橋芳朗)そうね。この「七輪」でつまづいたらちょっとね。

(宇多丸)えっ、でもいいんじゃん? 七輪は焼く器具だろうけど、別にいいんじゃん?

(高橋芳朗)まあね。まあね。七つの指輪!

(日比麻音子)七つの指輪ですから。

(高橋芳朗)でね、この後アリアナ・グランデは来週2月8日にニューアルバムをリリースするんですね。で、たぶんそれとともにいろいろと仕掛けてくると思うんですけど。おそらく彼女がピークポイントに設定していると思うのが4月に開催される世界最大規模のフェスティバルコンサートのコーチェラ。これにアリアナ・グランデ、ヘッドライナー。トリを務めることになっているんで。ここに至るまでに彼女がどういう流れを作っていくか?っていうのが今年の上半期のポップミュージックのひとつの見どころかな?って思いますね。

(宇多丸)『7 rings』はさっきね、「第一の矢」って言ったけども、おそらくホップステップジャンプを仕掛けてくるんじゃないかっていうことですよね。

(高橋芳朗)そうですね。カマしてくると思いますよ。

<書き起こしおわり>

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