高橋芳朗 歴代アメリカ大統領 選挙キャンペーン曲特集

高橋芳朗 歴代アメリカ大統領 選挙キャンペーン曲特集 ザ・トップ5

高橋芳朗さんがTBSラジオ『ザ・トップ5』の洋楽紹介コーナーの中で歴代のアメリカ大統領選挙のキャンペーンソングを特集。直近5人の大統領の使用した曲について解説していました。

(高橋芳朗)じゃあさっそく、私の洋楽選曲のコーナーに行かせていただきたいと思います。先週、アメリカ大統領選挙が本格化してきたということで、民主党のヒラリー・クリントンとバーニー・サンダース。あと共和党のドナルド・トランプ。この3人の候補者がどんなキャンペーンソングを使っているのか?を紹介しましたね。

(熊崎風斗)面白かったです。

(高橋芳朗)ありがとうございます。はい。それに味をしめまして。好評だったので。

(熊崎風斗)なるほど(笑)。

(高橋芳朗)今週はですね、歴代大統領が使用していたキャンペーンソングを聞いていただきたいと思います。レーガンから、オバマまでの5人。順を追って紹介していきたいと思います。まずは、1981年に就任した第40代大統領ですね。ロナルド・レーガンのキャンペーンソングから行きたいと思います。ブルース・スプリングスティーンの『Born In The U.S.A.』です。

『Born In The U.S.A.』

(高橋芳朗)まあ、有名な曲ですね。1984年の作品です。これはですね、1984年に再選を目指すレーガンがキャンペーンソングとして使ったんですね。で、先週の放送で、ドナルド・トランプがロックとかポップスの有名曲を無断でキャンペーンに使って、各アーティストから抗議を受けているっていう話をしましたけども。

高橋芳朗 2016年アメリカ大統領選挙 有力候補テーマ曲特集
高橋芳朗さんがTBSラジオ『ザ・トップ5』の洋楽紹介コーナーの中で2016年のアメリカ大統領選挙のキャンペーンソングを特集。有力候補者3人(トランプ、クリントン、サンダース)の曲を解説していました。 (高橋芳朗)じゃあちょっと、洋楽選曲コー...

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)政治家が楽曲を不正使用した事例としては、このレーガンのケースが最もよく知られているんじゃないかと思います。最も悪名高いと紹介した方がいいかもしれないですね。はい。

(熊崎風斗)へー。あ、そうなんですか。

(高橋芳朗)で、この一件がですね、大きな問題になった背景には、まあレーガンがブルース・スプリングスティーンに許諾を取らなかった。それでキャンペーンに使ったっていうことプラス、『Born In The U.S.A.』っていう曲のメッセージを全く理解していなかった。

(熊崎風斗)レーガンがですか?

(高橋芳朗)はいはい。で、これすごいよく言われることなんですけど、『Born In The U.S.A.』っていま後ろでサビの部分が流れていますけども。『俺はアメリカで生まれた!』っていうサビ、タイトルのインパクト。あと、ビデオでね、星条旗をバックにブルース・スプリングスティーンが拳を突き上げてこう、歌うんですよ。そのビジュアルインパクトがすごい強烈なせいもあって、結構愛国ソングと誤解されることが多いんですね。でも、ちゃんと歌詞を読めばわかるように、これむしろ真逆のメッセージを持った曲で。

(熊崎風斗)へー。

(高橋芳朗)アメリカ政府に見捨てられた、裏切られたベトナム帰還兵を題材にした歌なんですよ。だからアメリカへの失望を歌った曲なんですね。だからタイトルの『Born In The U.S.A.』っていうのはちょっとした皮肉になっているわけですよ。それをレーガンはこの『Born In The U.S.A.』のサビのフレーズを抜き出して選挙キャンペーンに使用して。なんかだから、愛国精神高揚のプロパガンダみたいな感じで利用したわけですね。

(熊崎風斗)そのレーガンが勘違いしても、レーガンの周りの人たちで誰か・・・

(高橋芳朗)いや、だから周りも率先して使っていて。で、スプリングスティーンは当然使用中止を求めて抗議したんですけど、結構ね、レーガン側は『なんとか使わせてくれないか?』って交渉していたらしいです。しつこく。で、この曲、当時大ヒットしたこともあって、このレーガンの戦略が結構ね、効果を発揮して。彼の再選を結構強く後押しするようなことになったんですよ。

(熊崎風斗)この歌でそういう問題が起こらなかったらどうなっていたか?っていうのもまた、アメリカの歴史が変わっていたかもしれない。

(高橋芳朗)だから、曲に託した本来の意図が曲解されて広められてしまった上ね、ブルース・スプリングスティーンにしては結果的にほら、レーガンの片棒を担いでしまったような風にも見えてしまう。だからこの一件はですね、結構ブルース・スプリングスティーンの以降の音楽活動に結構大きな影響を与えることになるんですが、それについてはまた後ほど触れます。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)じゃあ続いて1989年に就任した第41代大統領ですね。ジョージ・H・W・ブッシュ。パパ・ブッシュのキャンペーンソングを聞いていただきたいと思います。ウディ・ガスリーの『This Land Is Your Land』です。

『This Land Is Your Land』

(高橋芳朗)これ、1940年のちょっと古いフォークソングなんですけども。日本ではですね、『我が祖国』っていうタイトルでお馴染みなんですけども。この曲ね、本気で掘り下げていくと、もうそれだけで特番が組めてしまうような。アメリカ音楽史における重要な曲なんですね。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)で、これもちょっとさっきの『Born In The U.S.A.』と似ているようなところがあって。『This Land Is Your Land(我が祖国)』っていうタイトルから連想されるような単純なアメリカ讃歌ではないんですよ。そもそもこの曲って、『God Bless America』ってあるじゃないですか。第二のアメリカ国歌って言われてますけども。大統領就任式とか、ワールドシリーズ開会式とかで歌われる曲。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)あの『God Bless America』の愛国的なトーンに反発して作られた曲っていう背景があって。このウディ・ガスリーっていう人の左翼思想が割と反映された、庶民のための歌っていう感じなんですね。で、実際にこの曲って2009年のオバマ大統領の就任式典でさっきのブルース・スプリングスティーンが歌っていたり、先日もバーニー・サンダースの集会でヴァンパイア・ウィークエンドっていうブルックリンのいま人気のあるバンドが歌っていたりするんですよ。だから、共和党のブッシュがこの曲を使うのは、本来ちょっとね、おかしなこととも言えるっていうかね。

(熊崎風斗)たしかに。

(高橋芳朗)だから、さっきのレーガンもそうですけど。曲の本当の意味とか背景を理解しないで、イメージだけでキャンペーンソングに採用しているようなところがちょっとあるんですね。

(熊崎風斗)ふーん!

(高橋芳朗)じゃあ、次に行ってみましょう。1993年に就任しました、第42代大統領。ビル・クリントンのキャンペーンソングです。こちら、フリートウッド・マックの『Don’t Stop』。

『Don’t Stop』

(高橋芳朗)こちらが1977年の作品になります。クリントン、この曲をキャンペーンに結構大々的に使ってですね。しかも、就任式の時に当時、すでにフリートウッド・マック、解散していたんだけど、バンドにたのみこんでわざわざ再結成させて、この曲を演奏してもらっているんです。

(熊崎風斗)大統領選ってそう考えてもすごいっすね。

(高橋芳朗)で、歌詞をざっくりと説明すると、『立ち止まらないで、これからやってくる明日のことを考えよう。いままでよりも素晴らしい明日がすぐそこまでやって来ている』みたいなポジティブな内容なんですけども。これ、実はバンドのメンバーが離婚した時の心情をつづった曲なんですよ。

(熊崎風斗)あっ、なるほど(笑)。

(高橋芳朗)だからそんな経緯で作られた曲が大統領選のキャンペーンソングとして使われたっていうのはね、結構メンバーもちょっと戸惑ったんじゃないかな?と。

(熊崎風斗)歌い手としてはまさかまさかの展開ですよね。

(高橋芳朗)まあ、でも音楽はそういうもんですからね。うん。受け取る人によっても、メッセージをどう解釈するかは自由ですからね。じゃあ、続きましては2001年就任。第43代大統領、ジョージ・W・ブッシュのキャンペーンソングです。こちら、トム・ペティの『I Won’t Back Down』。聞いてください。

『I Won’t Back Down』

(高橋芳朗)こちらはですね、1990年の作品になります。サビは『俺は諦めない。俺は絶対に引き下がらない』っていう歌詞で。ブッシュとしては自分の決意表明をこの曲に託したような感じなんじゃないですかね?でもまあ、案の定ですね、すぐトム・ペティからクレームが入って使用を取りやめてます。

(熊崎風斗)そのパターン、あるんですね。

(高橋芳朗)だいたい、ちょっと調べれば、トム・ペティがもともと好きだったりすればね、彼がリベラルであることはすぐにわかるはずなんですけども。ちなみにブッシュはこの時のキャンペーンで、スティングの『Brand New Day』っていう曲も使っているんですけど。これもスティングから抗議を受けて。

(熊崎風斗)(笑)

(高橋芳朗)スティング曰くですね、『イギリス人の俺をアメリカの政治に巻き込むんじゃねえ!』っていう。

(熊崎風斗)あっ、まあそうですよね。ごもっとも。

(高橋芳朗)だからもう、政治思想関係なく、タイトルの響きだけで曲を選んじゃっているようなところがあるということだと思います。

(熊崎風斗)なるほど、なるほど。

(高橋芳朗)じゃあ最後ですね。この曲はちょっとちゃんと聞いていただきたいと思います。現在の大統領ですね。2009年に就任した第44代大統領。バラク・オバマがキャンペーンソングとして使用した曲です。これはですね、先ほど、レーガンのキャンペーンソングに使われた『Born In The U.S.A.』でも紹介したブルース・スプリングスティーンの『We Take Care of Our Own』という曲。2012年の作品なんですけども。これはオバマ大統領が2012年に再選を果たした時に使っていた曲なんですね。

(熊崎風斗)ふーん。

(高橋芳朗)で、これ、勝利演説の時もこの曲を流しているんですよ。で、この曲についてはブルース・スプリングスティーンの視点で説明するとわかりやすいと思うんですけど。ブルース・スプリングスティーンはレーガンに『Born In The U.S.A.』を悪用されたことがちょっとしたトラウマみたいな感じになって。それ以降、自分の政治的スタンスをはっきりと打ち出すようになるんですね。

(熊崎風斗)なるほど。

(高橋芳朗)特に、911テロ以降はグッと明確になって。2004年にブッシュが再選した時も、結果負けちゃいましたけど、ジョン・ケリーの支持を表明していたんですね。で、そのケリーが敗れた時の反省とか雪辱もあって、2008年の大統領選の時はこう、さらに強く民主党支持。オバマ支持を打ち出して、彼のキャンペーンに帯同してるんですよ。

(熊崎風斗)ああー。

(高橋芳朗)で、これって白人からの票がほしいオバマにとって、ブルース・スプリングスティーンって結構労働者階級にアピール力が強いから。まあもう、願ったり叶ったりだったんですね。スプリングスティーンがサポートしてくれるのは。で、オバマはこの時のスプリングスティーンの『The Rising』っていう曲をテーマソングに使っているんですね。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)で、『The Rising』っていう曲は911テロを題材にした曲で。ツインタワーに取り残された人たちを救出しようとビルを登っていった勇敢な消防士たちを讃える内容。まさに『The Rising』っていう曲なんですけども。で、おそらくなんですけども、オバマはこの2008年の大統領選の勝因として、ブルース・スプリングスティーンから支援を受けたことを大きな理由のひとつと考えていると思うんですね。で、そんなこともあって、2011年の再選では結構、戦前苦戦が予想されていたから、大統領選でオバマ自ら、今度はスプリングスティーンに応援を求めているんですね。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)で、その際にキャンペーンソングとして使用したのがこの『We Take Care of Our Own』というわけなんですけども。この曲、歌詞はですね、ハリケーン・カトリーナの被害を通して表面化した、あぶり出されたアメリカの問題点を糾弾するような内容になっています。

(熊崎風斗)うん。

(高橋芳朗)サビはこんなフレーズになっています。『星条旗がどこでひるがえっていようとも、俺たちは自分たちで支え合う。シカゴからニューオリンズまで。この体の筋肉から骨の髄まで。ほったて小屋からスーパードームまで。助けを求めても、兵士たちは家に留まったまま。ラッパの音すら聞こえてこない』と。この歌詞の『シカゴからニューオリンズまで』ってフレーズがありますけど。これ、アメリカの中央。アメリカの心臓部っていうようなことを言っていると思うんですけど。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)ニューオリンズは言うまでもなく、ハリケーン・カトリーナの被災地じゃないですか。で、シカゴはオバマの出身地なんですね。だからこの2ヶ所を結ぶ歌詞は、結構オバマとしては自分をこう、投影しやすいというか。重ね合わせやすいところもあったんじゃないかな?と。キャンペーンソングとして使うのにうってつけだったんじゃないかな?というところもあると思います。はい。じゃあ、聞いていただきましょう。ブルース・スプリングスティーンで『We Take Care of Our Own』。

『We Take Care of Our Own』

(高橋芳朗)はい。オバマ大統領が選挙戦のキャンペーンで使っていた曲です。ブルース・スプリングスティーンの2012年の作品で『We Take Care of Our Own』。聞いていただきました。あのね、オバマさんはですね、『私が大統領に立候補したのはブルース・スプリングスティーンになれなかったからだ』なんてコメントをしたこともあるぐらい。結構iPodにもブルース・スプリングスティーンの曲をいっぱい詰め込んでいるらしいですよ。大好きらしいですよ。

(熊崎風斗)相思相愛なんですね。お二人は。

(高橋芳朗)まあ、ある意味そういうことですよね。でもまあ、ちょっとポップスやロックがね、政治に与える影響の大きさ。ちょっと驚かされます。

(熊崎風斗)そうですね。

(高橋芳朗)アメリカね。はい。そんな感じでしょうか。

(熊崎風斗)はい。ありがとうございます。

<書き起こしおわり>


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