高橋芳朗 Lizzo『Truth Hurts』全米シングルチャート1位獲得を語る

高橋芳朗 Lizzo『Truth Hurts』全米シングルチャート1位獲得を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で2019年9月の全米チャートを振り返り。Lizzoの『Truth Hurts』がシングルチャート1位を獲得した背景について話していました。

(宇多丸)さっそく、まずは今月のチャートウォッチ。チャートの動きを……。

(高橋芳朗)前回出た時には19週1位を記録していた、チャートナンバーワンの最長記録を継続していたリル・ナズ・Xの『Old Town Road』に代わってビリー・アイリッシュ。17歳の女性シンガーソングライターですけども。彼女の『bad guy』が1位になったという。

高橋芳朗 Billie Eilish『bad guy』全米シングルチャート1位奪取を語る
高橋芳朗さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で全米シングルチャートの連続1位記録を更新していたリル・ナズ・X『Old Town Road』から1位の座を奪取したビリー・アイリッシュ『bad guy』について話していました。 (...

(宇多丸)面白かったよね。やっぱりそのチャートの上がり下がりもいまどきっぽい話というか。ミュージックビデオの仕掛けがあったり、フィーチャリングの仕掛けがあったり。1個仕掛けをやると元々出ていた曲がまたバズったりっていうね。「同じ曲としてカウントしていいのか?」っていう問題もありますけども。

(高橋芳朗)アハハハハハハッ! で、その後、ビリー・アイリッシュの『bad guy』は1位が1週間しか持たなくて。ショーン・メンデスとカミラ・カベロのデュエットの『Señorita』っていう曲が1位になったんですね。でも、それも1週しか持たず。

(宇多丸)うんうん。

(高橋芳朗)で、その次に1位になったのがリゾ。こちら、写真有りますけども、リゾという女性ラッパーでありシンガーの『Truth Hurts』という曲が1位になったんですね。

(宇多丸)前に1回、ヨシくん紹介しましたよね?

(高橋芳朗)今年1月のこのコーナーで彼女の『Juice』という曲を紹介しました。

(宇多丸)あれ、好きだったな。めっちゃ聞きました。

(高橋芳朗)ちょっとディスコソングですけどもね。

(宇多丸)ちょっとふくよかなね。

(高橋芳朗)そうですね。プラスサイズの女性シンガー、ラッパーなんですけども。彼女の『Truth Hurts』という曲が1位になって、その後で今週まで4週連続で1位になってます。で、ビルボードのチャート史上、女性ラッパーの純然たるソロ曲が1位になったのはこれが三度目。ローリン・ヒルの『Doo-Wop』(1998年)。あと、カーディ・Bの『Bodak Yellow』(2017年)。これに次ぐ三度目で、女性ラッパーのソロ曲の4週連続1位は史上最長。

(宇内梨沙)更新したっていうことですか?

(高橋芳朗)新記録です。

(宇多丸)すごいね。しかも『Bodak Yellow』を早くも……っていう感じですね。

(高橋芳朗)じゃあちょっとまずこのリゾと『Truth Hurts』という曲について簡単に紹介しますね。リゾ、さっき宇多丸さんも言っていたように今年1月のこのコーナーでも紹介をしているんですけども。いまは亡くなってしまいましたが、あのプリンセスに才能を認められたデトロイト生まれの31歳の女性ラッパーでありシンガー。ここ数年、世界的に盛り上がっているボディポジティブっていうムーブメント。わかりますかね? 従来の美の基準から自由になって、自分のありのままの体や姿を受け入れようという。

(宇多丸)まあ、昔だったらモデル体型とか、良しとされる型があって、そこに合わせるためにみんな汲々としてたけど、そうじゃなくて……というね。

(高橋芳朗)そうですね。自己肯定感を高めるような、そういうムーブメントなんですけども。そういうボディポジティブムーブメントのアイコンと言っていい存在だと思います。あと、プラスサイズ……大きいサイズの女性のアイコンでもあるっていう感じですかね。で、彼女は一貫して主に女性の自尊心を押し上げるようなメッセージソング歌い続けていて。いま、動画がありますけど。日本だとセーラームーンのコスプレでフルートを吹くっていう、そういうライブパフォーマンスの動画がTwitterで結構バズったりしているんですよ。

Lizzo×セーラームーン

(宇多丸)へー!

(高橋芳朗)これで認知度が高まったりもしたんですけども。中学生の時かな? ブラスバンド部にいて、そこでフルートを覚えたらしいんですが。で、ライブだと常にこの自分のボディラインがはっきり出るようなレオタードみたいな衣装を着て……。

(宇多丸)本当にセーラームーンの服を着て……なにをやっているんだ、これは?(笑)。

(高橋芳朗)フフフ、結構ギョッとするよね?

(宇内梨沙)しかもなんの曲をやっているんだろう?(笑)。

(高橋芳朗)これね、自分では「BLACK ASS SAILOR MOON」っていう風に呼んでいるんですけどね。

(宇多丸)へー。ちょっと何の何感が面白いんですけども(笑)。

(高橋芳朗)これ、「the Big Girls」っていうプラスサイズの女性だけのバックダンサーを引き連れてライブパフォーマンスやっているんですけどね。

(高橋芳朗)で、1位になったその『Truth Hurts』っていう曲自体は失恋した女性に向けたエンパワーメントソングっていうか。元気が出る失恋ソングみたいな曲で。こういうパンチラインがあります。「Why’re men great ‘til they gotta be great?(男ってなんでも偉そうに振る舞わなきゃいけないほど偉いものなの?)」っていうフレースがあって。

このサビについて、リゾ本人はこういう風に解説をしています。「男性は地球上で最高の権力を持っている。彼らは常に偉大であることを約束されているが、でもそれを上手く使えていないんじゃないかな?」っていう風に言っていて。だから、女性に向けて「男なんて大したことないから」って笑い飛ばす、そういう失恋ソングであると同時に、「男らしさの呪縛」に苦しんでいる男性を解放するという、そういう意味合いも込められた曲でもあるのかなっていう風にも思いますね。

で、この『Truth Hurts』ヒットの背景をちょっと解説しますと、これは実は新曲じゃないんですよ。2017年にリリースされた曲で、今年4月に発売になったリゾにアルバム『Cuz I Love You』という作品にはもともと入っていなかったんですよ。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。

(高橋芳朗)でも、これがヒットしたことによってあとでボーナス・トラックとして収録されたんですけども。たぶん本人としても予想しなかった突発的なヒットなんですね。それには2つ、理由があるんですけども。まずひとつは、今年4月にNetflixで公開された『サムワン・グレート~輝く人に~』っていう映画の挿入歌として使われたんですね。これ、ニューヨークを舞台にしたアラサー女子3人の失恋と友情を描いたラブコメディなんですけど。

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(高橋芳朗)この劇中でリゾの『Truth Hurts』がすごい効果的に使われている。女友達でその『Truth Hurts』を合唱して、失恋の憂さを晴らすっていう、そういうシーンがあって。だから失恋の痛みを自己愛とか自尊心に転換する、そういう失恋アンセムとして女性からの支持を集めたという。

『サムワン・グレート~輝く人に~』で効果的に使われる

(宇多丸)なるほど。Netflixドラマ『サムワン・グレート』のタイミングがまずあったという。

(高橋芳朗)これ、すごい面白いんでぜひ見てほしいんですけども。あともうひとつはこの曲もリル・ナズ・Xの『Old Town Road』と同じようにTikTokでインターネットミーム化したんですね。バズったんですよ。

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(宇多丸)うんうん。

(高橋芳朗)これ、題して「#DNATestChallenge」っていうやつで。『Truth Hurts』の歌詞に「I just took a DNA test, turns out I’m 100% that bitch」っていうのがあるんですね。「私、DNAテストを受けたら100%ビッチだってわかった」っていう一節があるんですけども。この歌詞に合わせて、いま動画が出てますけども。綿棒を口に入れてDNAサンプルを採取する真似をして、「DNAテストをしてみたら私、○○でした!」という、そういう一発ギャグみたいな動画がそのハッシュタグをつけて流行ったという。

(宇内梨沙)ああ、面白い!

(高橋芳朗)その動画のバックでこのリゾの『Truth Hurts』が流れているというわけなんですけどね。

「#DNATestChallenge」がTikTokで流行る

(宇多丸)なるほどね!

(高橋芳朗)で、この一節をめぐって8月に面白い事件があって。リゾがTwitterで来年のアメリカ大統領選に向けて民主党候補の討論会の動画を投稿したんですね。そしたらヒラリー・クリントンがこの『Truth Hurts』のさっきの「I just took a DNA test, turns out…」のラインをリゾのTwitterにリプライとして出したんですよ。

(高橋芳朗)これ、どういうことか?っていうと、2016年のアメリカ大統領選の時にトランプとヒラリーがテレビ討論会を行った時に、トランプがヒラリーを「Nasty Woman」って言ったんですね。「お前、嫌な女だな」みたいなことを言って結構問題になったんですけども。この一件が背景にあって、要はヒラリー的には「きっと私がDNAテストを受けたら100%嫌な女ってことになるんだろうね」っていうシニカルな、自虐的なジョークとしてツイートしたんですよ。

そしたらさらにそのツイートに女優の、フェミニストとしても活動していますけども。パトリシア・アークエットがレスを返して。ヒラリーのツイートは「”I just took a DNA test, turns out…”」ってなっていて、「I’m 100% that bitch」とは書いてなかったんですね。

(宇多丸)うんうん。あえてね。

(高橋芳朗)で、パトリシア・アークエットがリプライでその後にそのオリジナルのリリックを書き足したんですけども。彼女がなんて書いたか?っていうと「You were a woman.」っていう風に。「あなたは嫌な女なんかじゃなくて、DNAテストをしても『1人の女性』だよ」っていう風に書き足して。

(宇内梨沙)素敵!

(高橋芳朗)さらに「In a country full of misogynists.(本当にこの国はミソジニストであふれている嫌な国だよね)」って書き足してたりして。

(宇多丸)うんうん。

(高橋芳朗)そういう風なやり取りがあったりして、このリゾの『Truth Hurts』が女性たちのアンセムとしてのステータスを確立していったという、そういう背景があるんですね。

(宇多丸)なんか最近ね、そういう風にどんどんと外側でムーブメント……SNS時代と言いましょうか。どんどんと波が倍加していくというか。本来の意図をはるかに超えて巨大化していくみたいなことがよくありますよね。

(高橋芳朗)しかも結構政治的、社会的な動きと絡んだりしてくるのがまた面白いなって。

(宇内梨沙)でも、そういうことがあっても男性からも支持されている曲っていうことなんですよね。

(高橋芳朗)それでいて、しかも2年前の曲だっていうのが面白いですよね。

(宇多丸)でも、それは曲の力ですよね。言っちゃえばね。

(高橋芳朗)じゃあ、聞いてみましょうかね。リゾで『Truth Hurts』です。

Lizzo『Truth Hurts』

(高橋芳朗)はい。いま全米チャート4週連続1位のリゾ『Truth Hurts』を聞いていただきました。リゾは本当に女性を鼓舞する素晴らしいエンパワーメントソングをいっぱい出してるんでもう1曲、聞いてもらいたいんですけど。これにはニューアルバムから『Like A Girl』という曲。タイトルは「女性らしく」みたいな意味になるんだけども。これは逆説的に一般的に女性らしくないとされていることをラップしていくという、そういうガールパワーを賛美するような曲なんですけども。曲の出だしの歌詞はこんな感じです。

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