高橋芳朗 Lizzo『Truth Hurts』全米シングルチャート1位獲得を語る

高橋芳朗 Lizzo『Truth Hurts』全米シングルチャート1位獲得を語る アフター6ジャンクション

「今朝は気分よく起きられたから大統領選にでも出馬しようかっていう勢い。女性大統領の前例がなくたって知ったこっちゃない。スローガンなんて変えちゃえばいい。ちょっとエストロゲンを増やしてあげよう」。まあ、これは「女性ホルモンを世の中にバラまく」ってい意味なんでしょうけど。それで、「……『X』の中で気になるのは染色体の『X』だけ。あんたなんていらない」っていう。で、この「X」っていうのは「元カレ(Ex-boyfriend)」のことでもあるし、染色体の「XX」、女性の染色体のことでもありますね。

そして、こんな一節もあります。昔からアメリカで歌い継がれているマザーグースという童謡、あるじゃないですか。その中で『女の子は何でできているの?(What Are Little Boys Made Of?)』っていう有名な歌があるんですね。「Sugar and spice. And everything nice」っていうの。聞いたことある人もいると思うんですけども。

これね、「女の子は朗らかで優しくあるべき」みたいな、伝統的な女性らしさを言い表す、そういうフレーズなんですけども。リゾはそこにちょっと疑問を投げかけているんですね。こういう歌詞です。「シュガーやスパイスみたいに私はナイス。あなたが何でできてるか見せてみて? 私はクレイジーとセクシーとクール。メイクしてるかしてないかなんて関係ない」っていう。

(高橋芳朗)ここの「私はクレイジーとセクシーとクールでできている」っていうのは90年代に活躍したガールR&BグループのTLCの大ヒットアルバム『CrazySexyCool』のタイトルを引用して、TLCにリスペクトを捧げつつも女性の多様性を訴えているという、そういう歌詞ですね。で、この曲でリゾは結論としては「女性らしい振る舞いは『Do your thing』だ。自分が思った通りにやればいい」っていう風に定義して世の女性たちにエールを送ってるという、そういう曲なんですね。

(宇多丸)それを全部『Like A Girl』というところで。上手いねえ!

(高橋芳朗)じゃあ、聞いてみましょうか。リゾで『Like A Girl』。

Lizzo『Like A Girl』

(高橋芳朗)はい。リゾで『Like A Girl』を聞いていただきました。

(宇多丸)いやー、見事ですよ。グウの音も出ませんよ。

(高橋芳朗)で、いまリゾの曲ってフェミニズムとかボディポジティブを題材にした映画とかで頻繁に使われるようになってきていて。さっき言った『サムワン・グレート』もそうだし。あと、これもNetflixの学園映画なんだけども『トールガール』っていう身長が187センチある女の子はコンプレックスを克服するまでの過程を描いた作品。そこでもリゾが使われていたり。

(高橋芳朗)あと、自分に自信を持てないのプラスサイズの女性が主人公になっている『アイ・フィール・プリティ!』っていう映画でもリゾの曲が使われていたりします。

(宇多丸)うんうん。じゃあ、そういうアイコンになりそうな?

(高橋芳朗)そうですね。あと、さっきも言いましたけど来年、アメリカで大統領選があるじゃないですか。で、リゾの曲が立候補者のキャンペーンソングとしてめちゃくちゃ重宝されてるんですって。ポジティブで自尊心を高める歌詞がすごい聴衆を鼓舞して活気づけるのにもってこいっていうのもあるし、あとは彼女が人種やジェンダーを超えた人気があるから、曲をかけるとめちゃくちゃ受けるんですって。そういう状況を踏まえると、来年のグラミー賞の本命は結構このリゾなんじゃないかな?って。アリアナ・グランデとかビリー・アイリッシュとかもいますけども。

(宇多丸)なるほどね。いろんな要素が追い風になっているというか。

(高橋芳朗)特にここ数年のグラミー賞はフェミニズムとかダイバーシティをテーマにしてきたから、めちゃくちゃリゾみたいなメッセージを歌ってるアーティストと相性がいいんですよね。

(宇多丸)なんにせよさ、そこで出てくるのは全員女性アーティストだしね。もうそれ自体がね。

(高橋芳朗)そうね。アリアナもビリー・アイリッシュもね。

(宇多丸)女性アーティスト同士で競い合っている感じがやっぱりいまのシーンだね。いや、すごい。

(高橋芳朗)あと、これは日本の話になるんですけども。9月11日に土岐麻子さんが新曲で『美しい顔』っていう曲を公開して。これはたぶん土岐さん流のボディポジティブソングっていうか、新しい時代の美の価値観について歌った曲で。まあ、リゾが歌ってるようなことと共鳴するようなメッセージソングだと思うんですけども。

土岐麻子『美しい顔』

(高橋芳朗)日本でも、これからこういうテーマの曲が増えていくんじゃないのかなっていう。意外と歌いやすいテーマだと思うし。

(宇多丸)だって、誰もが誰も、それぞれにある話でしょうからね。

(高橋芳朗)もしかしたらもう既にあるかもしれないけども。たとえば女性アイドルの曲とか、あとはプリキュアシリーズみたいな、女の子に向けたアニメのテーマソングとかでこれに近いようなメッセージソングが増えてきたらいいな、とかちょっと思っています。

(宇多丸)土岐さん、さすがですね。それもチェックしますね。

<書き起こしおわり>

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