(渡辺志保)自分が幸せであればあるほどね、それが復讐になるんじゃないかなという感じですかね。でも私は本当にその『Reputation』から『Lover』のトランジションみたいなものがすごく個人的に興味深いなと思って。私は本当に正直に申し上げると、テイラー・スウィフトに関してはめっちゃファンでもないし。別にもちろん嫌っているわけでもないし。ただカニエ派として、いままで生きてきたので。たまにこう、彼女の発言に戸惑うこととかはあるんですけど。やっぱりちょっとつかめない感じというか、できすぎたポップスターっていうイメージがすごく強くて。
だからそんな彼女があの『Reputation』の時もそうですけど、自分の恋愛の復讐とかそういったところとはまた違う文脈で、自分の感情をさらけ出すみたいな。そういったところか非常に意外だなという風に去年、一昨年ぐらいから感じているところだったんですよ。で、その「意外だな」っていうのがやっぱり……ちょっと他のトピックに触れますと、やっぱり去年、彼女が初めて政治的なスタンスを表明したっていうところもまさにそうで。ちょっとこのあたりに関しても辰巳JUNKさんのご意見とか見解をうかがいたいなと思います。
政治的なスタンスを初めて表明
(辰巳JUNK)そうですね。やっぱりテイラーっていうのは優等生ポップスターなので、アメリカでもなんか「いけ好かねえな」みたいな、微妙なアンチもいたんですね。やっぱりその「偉そうな豊かな白人だ」みたいな感じで。で、いちばん大きかったのがやっぱりカニエ事変、カニエのヘビ事件の頃なんですけども。その政治的な話で。結構テイラーってモラルを説いて。イノセントとかね、他のセレブを批判する割に、そのアメリカで意見が分かれる人種問題とか支持政党の話については全然言わなかったんですよ。
(渡辺志保)なるほど、なるほど。
(辰巳JUNK)で、やっぱりアメリカってほとんどのポップスターは一応、そういう政治的なことを表明しまくるので、異色な存在だったんですよ。
(渡辺志保)まあだって本当、ビヨンセもリアーナもマドンナもレディ・ガガもね、みんなやっぱり選挙の時期になると「自分はこうです」という意見を表明して。かつ、自分自身たちがデモに参加したりとかもしているぐらいだから。
(辰巳JUNK)ついでにテイラーはポップに転向した時ぐらいに「マイリー・サイラスとかリアーナみたいな露出が多いポップスターは恥ずかしい」みたいな感じのことを言っちゃって。まあ、失言ですね。それで結構もうね、敵を作ってたりしてるんですよ(笑)。
(渡辺志保)まあ当時ね、マイリーもすごいポロポロポロポロと出していたから(笑)。なるほど。
(辰巳JUNK)で、やっぱり元々テイラーってカントリースターなんで。カントリーだと結構共和党の支持者の方がファンに多いとされるので。でもなんか結構若い民主党員の都会の人にも人気だったんですね。もう両方に人気だったんですよ。他のビヨンセとかリアーナとは違って。だからそのバランスがいいファンペースを崩したくないからリスクのある政治的なことだけ避けているじゃないか?って推測されていて。
(渡辺志保)それこそ保身と言いますかね。
(辰巳JUNK)そう。ちょっとね。そういう「いや、そんだけ偉そうなことを言うなら、そういうことも触れれば? 言えよ!」みたいに大衆は結構ストレスが溜まっていて。で、やっぱりそういうバランスが崩れちゃったのがカニエのヘビ事件なんですね。2016年の。
(渡辺志保)そうね。自分はだからイノセントっていう風にちょっとヴィクティム(犠牲者)寄りだったのが一転したという。
(辰巳JUNK)それでもうみんな、そこらへんの政治的な感じの鬱憤から、みんなテイラーを叩くようになっちゃって。で、大きかったのがたぶん大統領選挙とかで支持政党をあんまり言わなかったんで、まあ民主党員からはもちろん叩かれるんですけども。それも結構イヤミですけども。「言わなきゃいけない」みたいなね。さらに結構なんか暗黒なのが、トランプ支持派のKKKとか、結構人種差別的な感じの層から「テイラーはトランプ支持者のアリアの王女だ」っていう。
(渡辺志保)崇められるような、女神みたいな感じになっちゃった。
(辰巳JUNK)「白人至上主義者の女神なんだ」みたいな。勝手な妄想で持ち上げられちゃって。それはまあかわいそうっていうか。何も言ってないし。それは結構ヤバい感じで。この頃、結構ケイティとかともケンカしていて、いろいろとテイラーも大変だったんで。「もう全てのドミノが倒れちゃった」っていう風にいま、回想をしていますね。その頃のことを。
(渡辺志保)ああ、そうなんですね。
(辰巳JUNK)「どこに行っても怖かったし、なにも話せないと思ったし」って。で、プライベートでお母さんのガンが見つかって、やっぱり世間の注目を避けたかったこともあって。
(渡辺志保)今回のアルバムでもね、このへんは触れられていますけども。
(辰巳JUNK)「だからその大統領選でヒラリー支持だっていうことを言わなかった」っていう風にいまでは言ってますね。それでいま、いろいろと言っていて、「その言わなかったことは後悔してる」って結構素直に語ってますね。なんで結構、政治的な要素も多いのが『Lover』というアルバムになっております。
(渡辺志保)そうか。なるほどね。それで私も最初、トラックリスト見た時にこのアルバムにディクシー・チックスが入ってることに結構ね、びっくりしたんですよ。ディクシー・チックスってみなさんもご存じだと思うけど、本当にカントリーシーンをずっと支えてきた人気の女性カントリーボーカルグループで。
(辰巳JUNK)これもかなり大きなトピックになってまして。元々テイラーっていうのはそのディクシー・チックスの大ファンで。ギターを手に入れて初めて弾いた曲も彼女たちの曲だったんですけども。2003年にディクシー・チックスはイラク戦争をしたブッシュ大統領を批判したんですよ。カントリースターなのに。そしたらもう、テイラー曰く「シーンから消えてしまった」という。
(渡辺志保)いや、本当に消えたと思う。だってそれまでずっと、グラミー賞も毎年出てたぐらいなのに。
(辰巳JUNK)そうなんですよ。結構いろんな音楽業界、カントリー業界がブラックリストに載せたりしたっていう噂もありまして。で、テイラーが語るには、それ以降はカントリー業界っていうのは「政治問題には触れない」というルールみたいなのがあって。自分もそれの影響があったという風にガーディアンとかで語っていますね。
(渡辺志保)なるほどね。だからちょっとサウンド面でも今回の『Lover』はね、いままでずっとデビュー当時から一緒にやってきた、ポップ ミュージックをずっと牽引してきたマックス・マーティンとかね、そのへんの名プロデューサーとも決別っていう言い方がちょっと合っているのかはわからないですけども。そういったプロダクションからも距離を置いて、結構ポスト・マローンとかね、ラナ・デル・レイとかね、ロードとか。そういったアーティストを手がけてきたプロデューサーと多く組んでいるっていうところも個人的には……「ああ、こういうところでもトランスフォームしたがってるのかな?」という風に思った点でもありますね。
(辰巳JUNK)そうですね。マックス・マーティンと組んだポップのアルバム『1989』は大ヒットしたんですけども。結構カントリーの方からは「裏切られた」みたいな声も出ていて。かなり今回、変えていますね。雰囲気とかも。それで「スタジアムじゃなくてもっとちんまりしたところで演奏をしていきたい」とかも言ってますし。
(渡辺志保)というわけで、この後テイラーはその『Lover』でね、1回またちょっといままでとは違って……いままで登ってきた山とは違う山にちょっと到達したような感じもするんですけど。この後、どうなっていくのか? 展望みたいなところはございますか?
(辰巳JUNK)テイラーとしてはやっぱり寛容……いま、アリアナ・グランデちゃんとかもそうですけど、寛容とか明るさ、陽気な方に頑張っていくみたいなのがトレンドなので。それに乗ってる感じで。やっぱりここまで行ったからには、いままでの憎しみとかゴシップキャラみたいなものからは離れたいのかなとは思いますけど。まあ、新作を発表したカニエさんの動向にもよるところですが(笑)。
(渡辺志保)そうなの。ここでまたカニエ……今日もなんて日に辰巳JUNKさんをまたお迎えしてしまったのか! みたいな。「なんという運命!」っていう感じなんですけども。これ、収録でお届けしている番組ですが、収録日の今朝、数時間前にカニエ・ウェストが新しいアルバムを9月末にリリースするということで、またキムちゃんもね、甲斐甲斐しくツイートで宣伝とかしていましたから。そこで……まあでも、カニエもカニエでいま、すごいスピリチュアルな方向にグググッと舵を切ってるから。
私は新しいアルバムもそういう響きのものになるじゃないかなという風にも思っておりますので。この10年戦争が11年目に突入するということで。こちらもまたちょっとゆるっとね、見守っていきたいなとか思います。なのでまたちょっと面白いテイラーちゃんの動向がございましたら、ぜひぜひ辰巳JUNKさんにお越し願いたいと思います。今日のゲストは辰巳JUNKさんでした。ありがとうございました。最後にじゃあテイラー・スウィフトの新作アルバムからの1曲、ご紹介をお願いします。
(辰巳JUNK)はい。戦士が剣を置く楽曲でございます。テイラー・スウィフト『Daylight』。
Taylor Swift『Daylight』
<書き起こしおわり>