(松尾潔)さて、まあこの30年間のR&Bシーン、平成R&BでMVPを決めるとなればR.ケリーというのが、まあ僕自身もそう思いますし、達郎さんも今回のセレクションの中でR.ケリーは唯一、2曲選んでらして。2010年のナンバーワンヒット。また渋いね、この……。
(山下達郎)これ、いい曲なんですよ。
(松尾潔)『Love Letter』っていうアルバムの中の曲。
(山下達郎)これ、コードが2つしかないんですよ。
(松尾潔)それで最後まで引っ張っちゃう。
(山下達郎)それで、だんだんだんだん積んでいくんですけど、この積み方がね、よくできているんですよ(笑)。
(松尾潔)音もね、しょぼいというか。
(山下達郎)しょぼいんですよ。ドラムマシンの音とかね、「いいのか、これで?」みたいな感じなんですけどね、それがだんだんだんだんと聞いてるとね……(笑)。
(松尾潔)たしかに。達郎さんのおすすめするR.ケリーのアルバム。この2枚というのは聞いていない方。これからでもチェックしていただきたいと思います。
(山下達郎)フフフ、みなさん聞いてるでしょう?(笑)。
(松尾潔)まあR.ケリーは先週ご紹介しましたので、今日これからご紹介しますのはR.ケリーに多大な影響を与えましたアイズレー・ブラザーズの中核メンバーだった時期も長いクリス・ジャスパーでございます。
(山下達郎)この人が基本的にはアイズレー・ブラザーズの全盛期。『That Lady』からのその一連のリズムパターンをこの人が構築してたんですよね。
(松尾潔)サウンドの要ですね。
(山下達郎)それだけれどもモメて。別れて。で、自分1人で始めたんだけども、いかんせんやっぱりロナルド・アイズレーのボーカルがないと説得力がないので。でもリズムはね……それで、すごい出してるんですよ。毎年のように出しているんですけども。それで途中からゴスペルになっちゃって。でも、これを聞くと完全にアイズレーなんですよね。だから「これにロナルドが乗っかったらどんなにいいだろうな?」って思っていつも聞いてるんですけども。
(山下達郎)じゃあ、聞いていただきましょう。2010年にリリースされた『Everything I Do』というアルバムの中からの1曲です。クリス・ジャスパーで『Doing My Thing』。
Chris Jasper『Doing My Thing』
(山下達郎)場末感があるんですよね(笑)。
(松尾潔)フフフ、クリス・ジャスパーの『Everything I Do』というアルバムの中から『Doing My Thing』を聞いていただきました。
(山下達郎)全くアイズレーですよ。
(松尾潔)ねえ。アイズレー・ブラザーズから一時、反旗を翻して。アイズレー・ジャスパー・アイズレーっていうね、若い方の3人で一緒に組んでたアーニー・アイズレーも結局はお兄さんの方に戻っちゃいましたからね。もういま、本当にまさに孤軍奮闘っていうね。私なんかもクリス・ジャスパーが出るたびに聞いてますし。アイズレー・ジャスパー・アイズレーはよく「徒花」っていう言葉で説明されることが多い3人組でしたけども(笑)。そこのある曲をサンプリングしたリミックスで僕も制作の仕事を……ジョン・Bっていう人のミックスから始めましたからね。
(山下達郎)ああ、そうか。ジョン・Bね。
(松尾潔)それも元をたどればね、達郎さんのラジオでアイズレー・ジャスパー・アイズレーを知ったからなんですけども(笑)。
(山下達郎)リサイクルの繰り返し(笑)。すごいな。
(松尾潔)はい。クリス・ジャスパーを聞いたところでさあ、30年の平成期のR&Bを聞いてきて最後に達郎さんに選んでいただいた曲というのがまあ、永遠のサザンソウルと申しましょうか。この人自体がちょっとサザンに戻ってきたっていうような雰囲気の強いウィリアム・ベルでございます。
(山下達郎)才能のある人ですけどね。でも、これも2016年で一昨々年。これ、本当に聞いた! だからこういうのが……それで、この人も結構コンスタントに出しているんですよね。
(松尾潔)調べてみると本当に数、多いですよね。
(山下達郎)でも最近の作品の中でもこれ、出色ですよ。この1枚前は割と地味なアルバムだったんですけど、これはよくできたアルバムで。
(松尾潔)スタックスのロゴとウィリアム・ベルは本当に合いますね!
(山下達郎)で、割と淡々とした歌い方をする人なんですよね。で、やっぱし歌詞がなんていったって『Born Under A Bad Sign』ですからね。で、これは『The Three Of Me』っていう1曲目の曲ですけども。だから、「自分の中に3つの顔がある」っていうなかなかに哲学的な歌詞なんですよ(笑)。
(松尾潔)ウィリアム・ベルでこの平成の最後を語るっていうのも面白い切り口になったなと思うんですが。R.ケリーから始まってウィリアム・ベルで終わるっていう(笑)。
(山下達郎)フフフ、だから本当はこんなのばっかりにしようかなとも思ったんですけども(笑)。
(松尾潔)平成期とは幻だったのか?っていう感じですよね(笑)。
(山下達郎)でも70を過ぎているでしょう? 80近いのかな?
(松尾潔)ウィリアム・ベルは来月、7月で80歳です。傘寿ですね。日本風に言うとね。へー! 声、出てますね。
(山下達郎)この間、ウィリー・ハイタワーが来たじゃないですか。僕、見られなかったんですけども。
(松尾潔)彼、いくつですか? 80いくつ?
(山下達郎)でしょう? スティーヴ・クロッパーと一緒に来てね。だから、元気ですよね、みなさん(笑)。
(松尾潔)いや、ですから達郎さんも、これは前から言っていますけども。15歳年下の私の墓参りをしてくださることが私の人生の目標ですから。
(山下達郎)そのままお返ししますよ(笑)。
(松尾潔)もう本当に人類遺産としていつまでも歌っていただきたいと思いますよ(笑)。その祈りを込めて、今年80歳のウィリアム・ベルの歌声を。
(山下達郎)いや、励みになりますよね。こういうのを聞くとね。
(松尾潔)しかもね、その歌声が出てるとかっていうレベルだけじゃなくて、作品として優れていますからね。
(山下達郎)でもそれを若いミュージシャンがキチッと受容して。だから要するに老人ホームの慰安会じゃないんですよ。それがすごいんですよ。
(松尾潔)ちゃんとした意味合いのある新婦っていうことですね。懐かしさのためではなくて。じゃあ、聞いていただきましょう。ウィリアム・ベルで『The Three Of Me』。
William Bell『The Three Of Me』
(松尾潔)お届けしましたのはウィリアム・ベル『The Three Of Me』。これは2016年リリースのアルバム『This Is Where I Live』に収録されていました。
(山下達郎)10人ぐらいにすすめて、みんな買いました。
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(松尾潔)私も買いました。今回(笑)。この『The Three Of Me』はそのアルバムの1曲目っていうので聞いていましたけども、アルバムを通してみると変な言い方になりますけど、モダンな感覚でびっくりしました。
(山下達郎)本当に。だからソロモン・バークに近い。スタッフが若いからなんだよね。
(松尾潔)そうなんですね。あと、やっぱり若手……ゲイリー・クラーク・ジュニアとか、ああいう若手に評価されて、そういう理由で大きなステージに立っていうのはもうそれ自体が懐メロになることの抑止力ですよね。
(山下達郎)そうね。結局パッションだから。だからやっぱりディナーショーの営業みたいなものじゃなくて、きちっとやっぱり20代、30代の時のパッションがそのままやっぱり投影されていれば……(笑)。
(中略)
(松尾潔)さて、楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。ということで今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)、もちろん今夜はゲストの山下達郎さんの曲を選びたいのですが、これまた僕が僭越ながら、達郎さんが番組にお越しいただいた時、いつかこれを最後に聞いてみたいなと思っていて。達郎さんのライブの再現じゃないですけども、『ラスト・ステップ』を聞きながらのお別れです。これ、89年。平成元年にリリースされたライブアルバム『JOY』では冒頭に収められているんですが、ライブにここしばらくずっと通ってる人からすると、むしろラストナンバーだというイメージがね。
(山下達郎)ザ・バンドの『The Last Waltz』っていうのがあるんですけどもね。あれの映画っていちばん最後の曲から始まるんですよ。それの真似ですね(笑)。
(松尾潔)この曲順を変えるだけでこんなに違って聞こえるって、この間の細野さんの『HOSONO HOUSE』の録り直しの『HOCHONO HOUSE』、あれも曲順を変えたらこんなに変わるんだって思いましたけども。曲順って普段からよく意識されています?
(山下達郎)難しいですよね。CDの場合は12曲とか15曲とか直線で行きますから。アナログ盤って本当に必然性があるんですよね。A面が2分半の曲だったら6曲とか。だから17、8分。どんなに長くても22、3分でしょう? それでひっくり返してまた、あれでしょう? で、人間の集中力って45分って言われてるから。
(松尾潔)授業時間の設定ですね(笑)。
(山下達郎)それを、休憩時間がワンクッションあってA、Bって。それはね、説得力がある。CDだとなにが11曲目でなにが12曲目か、わからないから。で、いまはもうそれをシャッフルで聞くとかね。
(松尾潔)ましてやね、そうですよね。作り方も規定されていくところがあるかもしれませんが、まあ達郎さんのクリエイティビティっていうのは全然変わらないんだなっていうことも痛感しました。
(山下達郎)老後の楽しみですからね(笑)。
(松尾潔)フフフ(笑)。
(山下達郎)しかし、あっという間に50分なんてのは経つんですね。
(松尾潔)本当ですよ。あっという間でした。達郎さん、次にまたこの番組が続いてれば8年後……(笑)。
(山下達郎)フフフ(笑)。
(松尾潔)とは言わずに、もっと近いところで(笑)。
(山下達郎)彗星かよ(笑)。小惑星かよっていう(笑)。
(松尾潔)オリンピックぐらいのタームぐらいで来ていただけると、まだ番組も続いているかもしれません(笑)。
(山下達郎)マネージャーに言ってください(笑)。
(松尾潔)これからお休みになるあなた、どうかメロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くという方、この番組が応援しているのはあなたです。次回は来週6月10日(月)、夜11時にお会いしましょう。今夜のお相手は僕、松尾潔と……。
(山下達郎)山下達郎でした。ありがとうございました。
(松尾潔)それでは……
(松尾・山下)おやすみなさい。
山下達郎『ラスト・ステップ』
<書き起こしおわり>