山下達郎と松尾潔 2000年代・2010年代のR&Bを語る

山下達郎と松尾潔 90年代R&Bを語る 松尾潔のメロウな夜

山下達郎さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』に出演。松尾潔さんと平成、特に2000年代・2010年代のR&Bについて、自身が選曲した楽曲を聞きながら話していました。

(松尾潔)今夜も先週に引き続き、番組10周年突入を記念して特別ゲストに山下達郎さんをお迎えしております。その前にまずは達郎さんのメロウな曲お届けしましょう。山下達郎さんで『キスからはじまるミステリー feat.RYO from ケツメイシ』。

山下達郎『キスからはじまるミステリー feat.RYO from ケツメイシ』

(松尾潔)お届けしたのは山下達郎さんで『キスからはじまるミステリー feat.RYO from ケツメイシ』でした。これは2005年にリリースされたアルバム『SONORITE』に収録されていました。元々KinKi Kidsにご提供された曲のセルフカバーでございました。改めてご紹介いたします。『松尾潔のメロウな夜』、先週に引き続きまして、番組10周年突入を記念して、この方をゲストにお迎えいたしました。山下達郎さんです。

(山下達郎)今日もよろしくお願いします。

(松尾潔)前回の番組で平成のほぼ30年のR&Bを振り返ると言いながら、初めの10年しか進まなかったので今日は一気に20年分行けるかどうかという……。

(山下達郎)21世紀に入ったんですね。先週はまだ20世紀だったんですね。

山下達郎と松尾潔 90年代R&Bを語る
山下達郎さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』に出演。松尾潔さんと平成、特に90年代のR&Bについて、自身が選曲した楽曲を聞きながら話していました。 【松尾潔のメロウな夜】10年目突入記念?山下達郎さん登場✨山下達郎さんが選曲する「平成の...

(松尾潔)で、まずいまバックに流れておりますソロモン・バークの『Don’t Give Up on Me』。

(山下達郎)21世紀に入ってから、こういうベテランがものすごいものを作るんですよね。

(松尾潔)大復活でしたね。

(山下達郎)何度もあるんですよ。そういうのがね。ハワード・テイトとかね。ソロモン・バークとかね。まあ、あとでもう1人、出てきますけど。

(松尾潔)このソロモン・バークとかに関して言うと、彼に影響を受けた人たちがご恩返しのような形で蘇りを手伝ったみたいなところっていうのはまあ、美しいストーリーとして語られました。

(山下達郎)結局その「カタログ」っていうものがCDというもので復活するんですよね。1回、結局清算されるんですよ。ポピュラーミュージックってね。たとえば、アナログLPの時にはだいたい3年経ったら廃盤で。で、やっぱりそのサイクルが短いから忘れられるんだけど、それがCDになって、それが復活するのをまた次の世代が聞いて。

(松尾潔)うんうん。CDで初めて聞いた世代とか。

(山下達郎)そういう、あとは「語り継ぐ」っていうんですかね? やっぱりネットワークが発達してくるからオーティスとかがいまでも聞かれるし、マーヴィン・ゲイが聞かれるのもそうやって語り継いできたからなんですよね。昔はそんなことがなかったんで。だからそのジェネレーションギャップみたいなものがやっぱりいまよりもものすごく強くて。戦争とかもありますからね。

(松尾潔)ああ、1回分断されるっていう。

(山下達郎)分断されますから。そこでカルチャーがバッサリと切られるんですけども。結局、曲がりなりにも日本の場合、70年間国際的な戦争に巻き込まれるってことはね、国内的にはなかったから。だから概ね……概ねですよ。そういう平穏だから。そうすると、そういう意味での第二次大戦みたいな形でのジェネレーションギャップっていうのは希薄になってきている。その影響でだから、古いものがちゃんと残されてきた結果が。結局はヨーロッパなんかでもそういうことなんでしょうね。だからソロモン・バークなんて、日本でろくすっぽカタログなんか出てないですからね。

(松尾潔)そうですね(笑)。なんて言うんでしょう? 能動的にラジオとか聞いてる人でさえ……。

(山下達郎)知りませんよね。だから僕らはたとえばストーンズのカバーとかね、そういう、やっぱりカバーで。だからチャック・ベリーでもなんでも、全部カバーなんですよ。ビリー・ホリデイだってなんだって。まともな本物を聞くようになったのは70年前後がようやくで。だから、それこそフィル・スペクターもそうですし。だからみんな、ベビーブーマーの人達だって絶対に聞いちゃいないんですよ。それは僕らと同じ条件で。だからソロモン・バークもまさにそうでね。

(松尾潔)その、いま「カバー」という言葉が出ましたけども。これからご紹介する女性アーティストはまさにそのちょっとセンセーショナルなカバーアルバムで世に出てきたジョス・ストーンのアルバムタイトルを一応、言っておきますと、『The Soul Sessions』という。まあ古の、しかもちょっと通好みのソウルクラシックスのカバーを中心に。

The Soul Sessions
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(山下達郎)だからそのイギリスの人っていうのは、これは親がかりですね。たぶん親の影響とかそういうのがすごく大きいと思うんだけど。ティーンエージャーかなんかだから。だからたとえばその前のポール・ヤングとか。そのもっといっていればビートルズ、ストーンズだのあれなんだけど、やっぱりアメリカのそうしたロックンロールとR&Bにものすごく憧れてあれしたんだけども。

それがいまだにこうやってつながっているんだけども。これもね、寝ながら聞いてたんですよ。で、1曲目がジョー・サイモンの『The Chokin’ Kind』で。「『The Chokin’ Kind』なんかやっているんだ」って。で、その2曲目に入っているこれがね、『Super Duper Love』っていう。シュガー・ビリーっていう人のヒット曲なんだけども。

(松尾潔)いやー、僕は知りませんでしたね。

(山下達郎)『Sugar Pie』っていう曲とこの『Super Duper Love』っていう2曲、ヒット曲があるんだけども。

(松尾潔)同じアルバムにね。

(山下達郎)それを昔、FMですごくカルトな番組が70年代にやっていたんですね。それはヒグラシさんとかスズキさんとかああいう人たちがやっているんですけども。

(松尾潔)私の師匠にあたる方々ですね。

(山下達郎)「今日は世田谷区のソウルコレクター、○○さんの……」みたいな。

(松尾潔)フフフ、そんな番組があったんですね。

(山下達郎)半年ぐらいしか持ちませんでしたね。それでかかったんですよ。『Sugar Pie』がね。で、僕はその外盤をどこかで見つけて、それを買ってずっと聞いてたんだけど、それがこの2003年のこれの2曲目にあるっていうんで、ベッドから飛び起きてね。「なんだ、こいつ!?」って思ってね(笑)。

(松尾潔)たしかにね、そのカバーするセンスにびっくりですね。

(山下達郎)だからそのイギリスのね、奥の深さっていうか。だからいまから30年くらいの話なんですけど。ピーター・ガブリエルのね、『So』っていうアルバムがあって。

(松尾潔)『Sledgehammer』が入っているヒットアルバムですね。

(山下達郎)その、ある曲の中にロナルド・ブライトっていうクレジットがあってね。これはロニー・ブライトっていう人で。ベースシンガーなんです。ベースボイーズのね。で、バレンタインズっていうドゥワップ・グループのベースシンガーなんですけど、ニューヨークのスタジオミュージシャンとしてかなりいろんな仕事をしていて。いちばん有名なのは『Mr. Bass Man』。あとはニール・セダカの『Sweet Little You』。そういうベース関係を全部一手に引き受けていた人で。クレジットに「Bass Box Ronald Bright」って書いてあるの。ということは、ピーター・ガブリエルはこれがどこの誰かってもちろん知っていて使っている。

(松尾潔)わかっていた使い方。

(山下達郎)だからその当時のピーター・ガブリエルのリスナーの何人がこのロナルド・ブライトっていうクレジットをわかるのか?って思って。僕はすっごいそれがインパクトあって。「やっぱりイギリスの音楽ってものすごい懐が深いな!」って。

(松尾潔)達郎さんご自身も『ON THE STREET CORNER』やそれ以前からもずっとやっていらしたわけですけども。たとえば、そのピーター・ガブリエルにせよ、ジョス・ストーンにせよ、「俺と同じことをやっている。うん、俺がやっていることは間違いない!」っていうような、そういう思いですか?

(山下達郎)『ON THE STREET CORNER』のようなものはある種の啓蒙主義がありますけども。でもやっぱり、最初は純粋にやりたかっただけなんですよね。だから「ドゥワップが好き」だったんで。別に「ドゥワップを好きな僕を見て」じゃなかったから。そういうところはね、もうちょっとやっぱリ純な感じというか。だからイギリスのそういうミュージシャンは特にそういうこう、純粋さというか無垢さというかね、そういうのものがすごく感じ取れる。

(松尾潔)達郎さんはね、対極にあられるというか、そのカバーももちろんですしね、この近年のお仕事として我々レコード好きからすると、やっぱりドーナツ盤。もう日の目を見なくなるかもしれないというものに光を当てて、コンピレーションを編まれて。それをヒットさせたりとか、いろんなお仕事がありますけども。その時に、僕はやっぱり昔と違っていまは、やっぱりこれご自身がやっている、達郎さんの「知名度の平和利用」と言いましょうか(笑)。

(山下達郎)「知名度の平和利用」(笑)。だってこの番組だって十分に啓蒙的じゃないですか。

(松尾潔)どうなんでしょうか?(笑)。

(山下達郎)だって、あんまり日本の……。

(松尾潔)この番組でしかかからない曲は多いと思いますよ。多いとは思いますけど、どうなんでしょうかね?

(山下達郎)反多数決主義っていうかね、そういうものですよね。そういうところはサブカルチャーっていうかね。そういうところのあれが色濃く松尾さんの中にはありますからね。

(松尾潔)「ブラックスワン理論」ってあるじゃないですか。白鳥が1000羽いても「白鳥は白しかいない」っていう証明にならないけど、そこに黒い白鳥が1羽いれば、もうそれだけで、その1羽をもってして「白鳥は白だけではない」という証明ができるっていうような。なんかそういう気持ちはありますね。何を話してるんでしょうかね? ジョス・ストーン、聞きましょうか?(笑)。

(山下達郎)フフフ、でもよくカバーされているんですよ、これ。だからオリジナルをずっと、飽きるほど聞きましたから。でも、マイアミだからね、あれなんですけども。でも、マイアミに連れて行ったやつも連れて行ったやつで(笑)。

(松尾潔)本当ですよね。これ、僕も知ってるようなベニー・ラティモアとかリトル・ビーバーとかね、マイアミソウルのお歴々が一挙に参加したという。じゃあ、聞いていただきましょう。ジョス・ストーンで2003年のカバーです。 Super duper LOVE

Joss Stone『Super Duper Love』

(松尾潔)お届けしましたのはジョス・ストーンで『Super Duper Love』。2003年にリリースした『The Soul Sessions』というアルバムからの1曲でございました。

(山下達郎)変な言い方なんですけど、僕ね、マイアミの音楽って好きでね。このいわゆるセクションですけども。マイアミとフィリーがね、いちばんリズムセクションとしての影響を受けてるんですよね。で、なんかちょっとパッと気がつくと変なあれですけども。『RIDE ON TIME』ってね、かなりマイアミのこういう音に近いんですよ。ブラスの入り方とかね。

(松尾潔)はー!

(山下達郎)あとで気がつくだけなんですよ。でも、その時はそうやってやりたかったんだけども。

(松尾潔)いわゆるクライテリア・サウンドっていうんですかね? あそこのスタジオ(Criteria Studios)のね。僕も一度、あそこに行きましたよ。それこそ、達郎さん経由で知ったような、たとえばマイアミのティミー・トーマスとか、ああいうものとかってびっくりするぐらいモダンで。マイアミってもはや南部ではないっていうか。

(山下達郎)あれはやっぱりリゾート地っていうかね。フロリダですから。『トワイライトゾーン』っていう昔のドラマで、地球がどんどん寒冷化していくっていう話があって。だけど、夢で見てるのは地球がどんどん暑くなってきてるっていうね。で、オチは逆に寒冷化してきて、「フロリダはまだ住める!」って言ってね、「フロリダに私たちは移住する」っていうね、そういうようなオチで。だから「フロリダってあったかいんだろうな」ってその時、小学校の時に見ていて。関係ないですけども。すいません(笑)。話、長いからね。これ、しょうがない(笑)。

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