星野源と宇多丸『POP VIRUS』解体新書書き起こし

星野源『POP VIRUS』解体新書・延長戦 『恋』に効いた曲を語る アフター6ジャンクション

(星野源)そうですね。いま、アナログを裏返しにしようかと思ったんですけども、後にします。ええとですね、『Pair Dancer』という曲はアルバム曲なんですけども。僕、個人的にこの『POP VIRUS』というアルバムの中でなんか来たな!っていう曲なんですよ。すごく自分の音がちゃんとできたなっていう。あまりどこにもないバランスのものができたんじゃないかっていう思いがあって。でも、その制作中に……この時は制作中だったんですけども。「あっ!」って思ったことがあって。

で、最初に「制作中に聞いていた音楽」っていうお題をもらったじゃないですか。で、その「きいてた」が「効いていた」っていう方で、制作中にそれが効いてきた。「俺、昔から聞いていたやつがそこで効いてきた!」っていう、そういうテーマで選曲をお送りしています。なので、『Pair Dancer』は細野晴臣さんの『プリオシーヌ』という曲があるんですけども。これをちょっと聞いてみてください。

(宇多丸)1989年、細野晴臣さんの『プリオシーヌ』。

細野晴臣『プリオシーヌ』

(宇多丸)危ねえ、危ねえ。曲を聞きながら普通に大事な話を……世間話がごとく(笑)。

(宇垣美里)止まらないですね(笑)。

(星野源)音が乗っているかと思ってついしゃべっちゃった。

(宇多丸)細野晴臣さん。1989年の『オムニ・サイト・シーイング』というアルバム。これ、細野さんファンというかたとえばYMOから入った細野さんファンとかでちょっと聞き逃しちゃっている人も多いアルバムかもしれないですね。

(星野源)もしかしたらチェックしてない人が多いかもしれないですね。で、僕は高2の時に細野さんが大好きになって。『HOSONO HOUSE』っていう最初のソロアルバムから聞いて。そこから音源をワーッと集め始めたんですけども。その時に近所の図書館にある細野さんのアルバムっていうのがあって。それが軒並み、アンビエントだけだったんですよ。なぜか。

(宇多丸)ああ、その細野さんのアンビエント時代っていうか。

(星野源)アンビエント期。で、その中でこれはもしかしたらアンビエントって言えないのかもしれないですけど、このアルバム『オムニ・サイト・シーイング』っていうのがあって。ワーッと借りてずっと聞いていたんですよね。で、「なんだろう、この切なさのような、安心感のような……でも、なぜかビートがすごくちゃんと効いている。かっこいい!」みたいな。で、ことあるごとに聞いてきたんですよね。

で、『Pair Dancer』っていう曲を作って、自分のこういう……もう本当にいちばん落ち込んでいた時に作った曲なんですけども。で、落ち込みすぎて精神のいちばん底に足がつく時ってあるじゃないですか。そこの時に歌詞と曲が出てきたような曲で。それで編曲っていうのをずっと考えていた時にこういう風にしたいなと思って。で、この曲は自分でシンセを弾いているんですね。で、そのシンセの音作りっていうのも自分はよくわからないんですけども。ただつまみを延々と回しながらいいところを見つけるという非常に楽しい時間を……。

(宇多丸)アナログシンセ?

(星野源)それは厳密に言うとアナログではないんですけども。アナログの音源をサンプリングしたシンセだったんですけども。それをやっている時に「うん、これこれ!」っていう。もうたぶん1目盛り動かしたら戻れないっていうような。で、それがちょうどレコーディング中だったんで。「いま録らせてください!」って言ってフレーズを録ったんですよ。で、「これ、なんかに似てるんだよな。なんかに似てるんだよな……」って思って。で、レコーディングが終わったか終わらないかぐらいの時に細野さんの曲とかを聞きながらお風呂に入っていたんですよ。それでこの曲が流れてきて、「これじゃ~~~!」って(笑)。

(宇多丸)フハハハハハハハハッ!

(星野源)「これだった~!」って。この「♪♪♪♪」って。厳密にはこの音じゃないんですけど、この時に受けた情感みたいな。なんて言うんですかね? あの感じが「これだ!」って思って。

(宇多丸)うんうん。あるよね。ある曲のあるパーツがすごい自分にとって快感ツボを押すなにかで。たとえば、作ってなくても他の別の曲のなにかを聞いていて「あれ? いま突いたここのツボ、なんだっけ? すげえ前に突かれた……」って。

(星野源)フフフ、あるある(笑)。「なんだ、これ?」みたいな。

(宇多丸)「いつ、どこでかはわからないけど、すげえ前に誰かに突かれたあの快感のツボ!」みたいな。あるよね。

(星野源)あります、あります。

(宇多丸)まさにそういうようなことっていうね。しかもそれを、いちばんアナログシンセ的な、録り逃したらお終いみたいな作り方で見つけ出したっていうね。

(星野源)そうなんですよ。だからライブの時も、この間のドームツアーの時も同じ楽器でやったんですけど。それは石橋英子さんっていう人に弾いてもらったんですけども。もうその音がわからなくて。結局、その音は探し出せないまま、なんとなくそれっぽいかも……みたいな音になっちゃったんですけども。

(宇多丸)フフフ、昔、Mummy-Dがサンプリングした音源が部屋がごちゃごちゃすぎて、元がなんのレコードから録ったかわからねえっつって(笑)。そういうんじゃないんだからさ。天下の星野源が何をやっとるんだっていうね(笑)。

(星野源)フフフ(笑)。

(宇多丸)でも、原理的にそうなんだよね。どこのつまみのどういう組み合わせで何をしてるかっていうね。シール貼っておけよ、その時!

(星野源)そうなんですよ。

(宇多丸)何をやっとるんだ。

(星野源)でもなんか、それもまあ刹那でいいかなって。

(宇垣美里)フフフ、出会い(笑)。

(星野源)いなくなっちゃうっていうのもアリかなって。

(宇多丸)ライブの後先を考えていない?

(星野源)そう。全く考えてなかったんです(笑)。

(宇多丸)ちなみに、質問がちょっとズレるけど。曲を作る時にあんまりライブでどうするっていうのは考えずにまずは曲を?

(星野源)あんまり考えないです。とにかく作品を作るのが僕、大好きで。ライブのことを考えるとどうしても制限が出てきちゃうんで。そのライブの時に自分の何かを拡張っていうか、自分が成長すればいいと思っているので。

(宇多丸)それをやるためにどうするか考えるのがクリエイティブになるみたいな。でもさ、ぶっちゃけさ、こうやって「ああー、ここ、なんでこんな風にしてるんだよ? ライブで困るだろ、これ!」って思う時、ない?

(星野源)あの、僕はコードがめちゃくちゃ多いんですけど、「なんでこんなにコードを多くしたんだろう?」って。展開が多すぎて、本当にミュージシャンのみんな、ごめん! みたいな。山ほどありますね。

(宇多丸)面白いね。ということで細野さんの『プリオシーヌ』という1989年の曲に突かれたちょっとしたツボがポイントになっていた。もう1個、ある?

(星野源)はい。カニエ・ウェストの『No Mistakes』という去年出たアルバム『ye』の中の曲です。

(宇多丸)さっきも「カニエが好きだ」っておっしゃってましたけども。

Kanye West『No Mistakes』

(星野源)そうですね。これがリリースされた時に聞いて、その時にめちゃくちゃ落ち込んでいたんですよ。で、このトラックを聞いた時にもう、その時になんか琵琶湖を車で走っていたんです。それでもう泣いちゃって。ちょっと。「うわー……」みたいな。

(宇多丸)その状況じゃなくて、曲と相まって?

(星野源)曲と相まって、なんか救われる気持ちがあったっていうか。

(宇多丸)カニエさんもなかなかね、精神状態が厄介なお人ですからね。

(星野源)まあでも、このリリックは割とどうしようもないっていう話は聞いたんですけど(笑)。英語が全くわからないんで、リリックに関してはどうしようもないっていうかよくわからないので。

(宇多丸)たぶんボースティングだと思う。

(星野源)そうですよね。でも、このなんていうかカニエの中に共通する切なさみたいなものがあるじゃないですか。人間のなんかどうしようもない切なさみたいな。それがなんかトラックの中に刻み込まれているような感じがすごく好きだなと思って。で、それはただ本当に好きで何回も聞いていたんですよ。なんか癒やされるというか。で、その辛い時期を乗り越えられたんですね。で、ちょっと聞かなくなって、それで数ヶ月が経った時に『Pair Dancer』の制作をしていてめっちゃ落ち込んだ時に『Pair Dancer』っていう曲ができて。それで曲のレコーディングをし終わった後にカニエのこの曲を久しぶりに聞いたら「この感じ、共通しているな」っていうのを思ったんですよね。

(宇多丸)ああーっ!

(星野源)あの精神の底で感じた情景みたいなものを。なんか悲しさっていうか、「人間ってなんなんですか?」っていう。

(宇多丸)なんかじゃあ、底を見たもの同士のシンクロニシティを。

(星野源)そんなにね、カニエと比べるのはおこがましいですけども。

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