町山智浩と宇多丸『ザ・ボーイズ』を語る

町山智浩と宇多丸『ザ・ボーイズ』を語る アフター6ジャンクション

町山智浩さんが2020年9月28日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。ドラマ版『ウォッチメン』が描く現代アメリカ社会について、宇多丸さんと話していました。

(宇多丸)では、2本目に行ってみましょう。次のテレビドラマはなんでしょうか?

(町山智浩)はい。これはまさにアメリカの今の現在進行形ドラマです。『ザ・ボーイズ』ですね。

(宇多丸)この番組でもまめちゃめちゃ話題にしているんですけども。改めて『ザ・ボーイズ』、特にシーズン2ですね。今、進行中。どんな作品なのか、熊崎くんからお願いします。

(熊崎風斗)はい。『ザ・ボーイズ』シーズン2です。原作はガース・エニス、ダリック・ロバートソンによるアメリカンコミックです。舞台は欲と名声に取り付かれ、腐敗したスーパーヒーローたちが活躍する世界。ヴォート社という巨大企業が雇う「セブン」というスーパーヒーローたちに「ボーイズ」と呼ばれる超能力を持たない人間たちが立ち向かうというストーリーです。去年の7月にアマゾンプライムビデオでシーズン1、全8話が配信されました。そして今年の9月にシーズン2が配信スタート。現在6話までが配信されています。で、シーズン2からこのセブンに新ヒーロー、ストームフロントが加わりましてセブンとザ・ボーイズの戦いは激化していくという内容です。

(宇多丸)町山さん、これ日本でも今は6話までですけど。ここアメリカも同じなんですかね?

(町山智浩)これは完全に同時進行ですね。アマゾンの方で。

(宇多丸)へー! やっぱり新しいエピソードが出るたびにね、ちょっとめちゃめちゃ楽しみにしてますけど。

(町山智浩)毎回毎回「えっ?」っていう展開になっていて。すごいですよね。

(宇多丸)特に6話が……町山さん、これネタバレに気をつけながらじゃないといけないですけども。6話、すごかった!

(町山智浩)難しいですね(笑)。

(宇多丸)まあ、ある程度はいいですけども。6話、なかなかすごい動きがあって。とにかく、今回の新キャラのストームフロント、「あいつ、最悪!」ってなっていたら……その「最悪」がちょっとこっちが想像していた最悪を上回っていたという。

(町山智浩)でも、あれが超リアルなんですよ。アメリカにとってはね。

(宇多丸)ちょっとじゃあそのあたりの話をお願いします。

(町山智浩)これ、『ザ・ボーイズ』って主人公たちはボーイズっていうスーパーヒーローと戦うならず者たちなんですね。アウトローなんですよ。主人公たちが。で、政府と完全に結託してるスーパーヒーローたちがセブンというグループで。これ、はっきり言ってその「警察と軍の民営化」みたいなことをスーパーヒーローにやらせていて。企業なんですよね。で、さらに広告代理店とも密接に繋がっていて。電通みたいな感じでもあって。あらゆる企業がそのスーパーヒーローたちによってコマーシャルとかで手伝ってもらっているので、それに文句を言えない状態になっていて。

で、スーパーヒーローは次々とニュースを作るんで、メディアまでも支配されちゃっているっていう。まあ、アメリカっていうか日本みたいなんですが(笑)。で、政府と結託しているんですが、その彼ら……このザ・ボーイズの一番最初のきっかけは主人公の彼女が民営警察であるセブンのスーパーヒーローの捜査に巻き込まれて死んでしまうってところから始まるんですよ。で、この彼女は有色人種なんですよ。で、それを巻き込んでしまったスーパーヒーローも黒人なんですけれども。

(宇多丸)Aトレインですね。

(町山智浩)まず、その警察機構が民間人を間違って殺してしまうんですが、それを起訴できないっていうところから始まるんですよ。

(宇多丸)ああ、その公的なあれの途中だったから。「ああ、すんません」みたいな感じで。

(町山智浩)「捜査の途中で殺してしまったんで……」っていうことで起訴をされない。これ、完全にアメリカで今、起こってるBlack Lives Matterのきっかけなんですよ。

(宇多丸)ああ、そうかそうか。たしかに。

(町山智浩)しかも、その捜査自体もミスというか、いい加減なものであったということがだんだん分かってくるんですけど。それも完全に今、アメリカで起こっている現状そのものなんですよ。

(宇多丸)なるほどね。そうかそうか。そういう構図もあるか。

(町山智浩)ここが一番の軸になってるんで。それに対抗する、そのボーイズの人たちがある意味、はっきり言ってアナーキストに近い人たちで。完全にアンダーグラウンド、地下に潜って非合法的に戦うしかないんですね。スーパーヒーローたちが体制側をコントロールしてるから。それも今のANTIFAみたいなBlack Lives Matterに対抗する人たちが闇のネットワーク化してるっていう部分とも繋がってくるんですよ。

(宇多丸)ちょっとANTIFAの説明もいるかもしれないですね、町山さん。

(町山智浩)ANTIFAっていうのは「Anti-Fascist」というものなんですが。アメリカで2017年にトランプ大統領を支持する白人至上主義者たちがたくさん集まって、集会を繰り返すっていうことが起こったんですね。で、これに対抗して反トランプの人たちもある程度武装しなきゃなんないということで始めたのがそのトランプに対抗する人たちの過激派運動、ANTIFAなんですけども。

特徴は完全に地下に潜ってることなんですよ。つまり、名前とか顔が知れると、顔がちょっと映っているだけで全部今って認識しちゃうじゃないですか。警察側は。だから顔を完全に隠して、マスクをして戦うっていう点で、一緒のだから『ウォッチメン』的な、スーパーヒーロー的なこともしてるわけなんですよ。マスクをしなきゃいけないっていうことで。

(宇多丸)お互いにマスクをかぶって。さっきの『ウォッチメン』ともかぶりますね。本当にね。

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(町山智浩)そうなんですよ。だから、そのANTIFAみたいなものも『ザ・ボーイズ』に影響しているので。ある程度、非常に汚いやり方でしか戦えないという部分とかね。

(宇多丸)まあ、しょうがないよね。だってアングラ化しないと押さえつけられちゃうだけだし。

(町山智浩)そうなんですよ。だから怪物に対抗するために怪物になってしまった人たちの話なんですけども。で、もうひとつすごくこの『ザ・ボーイズ』の中でアメリカ人にとっては「リアルだな!」っていうところは、このホームランダーという正義のスーパーヒーローなんですよ。

ホームランダー

(宇多丸)タチの悪いスーパーマンっていうかね。

(町山智浩)はい。で、彼は愛国者なんですよ。

(宇多丸)背中にだってね、あんな星条旗チックなマントをして。

(町山智浩)そう。星条旗を背負って。それで「私のすることはテロリストからアメリカを守ることだ」っていう。

(宇多丸)あの「世界を守る」っていう標語をわざわざ「アメリカを守る」に変えさせていましたもんね。

(町山智浩)そうそう。「世界を守ろう」とか「世界のために」って言うと「いや、そんなことはない。アメリカだけでいいんだ!」っていう。

(宇多丸)「アメリカファースト」ですよ。うん。

(町山智浩)そう。その通り。トランプ大統領が言った「アメリカファースト(アメリカ第一主義)」ですね。トランプ大統領はこの間、国連総会で「みんなも自国第一主義にした方がいいよ」って演説をしたんですよ。国連で。国連は「自国第一主義だと戦争になるからやめようね」っていうことで始めた団体なのに……。

(宇多丸)なんのための集まりなんだ?っていう(笑)。

(町山智浩)だから町内会とかに行って「町内会とか、やめた方がいいよ」って言っているのと同じなんですよ。トランプ大統領。まあ、完全にトランプ大統領の演説を元にした演説をそのホームランダーはするんですけど。それで彼自身がだんだんその国内のテロリストに対して攻撃をするようになって。そのへんもトランプ大統領がポートランドであったデモにね、国土安全保障省という本来、海外からのテロリストと戦うべき武装部隊を送り込んで、国内の反トランプの人たちを攻撃したっていう点と全く重なるんですよ。あのホームランダーのやったことは。

(宇多丸)はいはい。

(町山智浩)国土安全保障省っていうのはあの「ホームランダー(Homelander)」っていう名前の元なんですよね。「Department of Homeland Security」っていうのが国土安全保障省なので。

(宇多丸)へー! じゃあすでに名前の中に何のメタファーであるかみたいなところがちょっと埋め込まれている?

(町山智浩)そうなんです。国土安全保障省っていうのは911テロの時にブッシュ政権が作った対テロ組織、機関なんですけどもも。ホームランダーっていうのはそれを体現化した人物なんですよ。

(宇多丸)なるほどね。そうか、そうか。そういうことなんだ。

(町山智浩)だからアメリカ人が見ると「ああ、これはDepartment of Homeland Securityだな」ってわかるっていうね。やっていることが。

(宇多丸)なるほど。わかりやすい文字りだし、やってることもそのままだし……っていう。

(町山智浩)そうなんですよ。で、彼自身がキリスト教原理主義者なんですよね。ホームランダーが。それでキリスト教原理主義の集会に行くと、「ゲイは罪だ!」とか言っているスーパーヒーローがいて。でも、実は彼がゲイだったっていうのも実際にあったことですよね。『ある少年の告白』っていう映画でそのキリスト教原理主義によるゲイ治療の実態が暴かれてましたけど。あれで「ゲイは罪だ!」とか言ってた人は実際にゲイだったんですよ。

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(宇多丸)うんうん。なんかフーバーとかもそうだけどさ、自分が抑圧したそういうのがあると、人に攻撃性が向くみたいなね。

(町山智浩)そうなんですよ。自分がゲイなんだけども、それが認められない人は他のゲイの人を攻撃するようになるんですけど。で、ホームランダー自身がね、バプタイズっていうんですけども。人を水の中に浸してもう1回、生まれ変わりさせるっていう儀式をやるんですね。

(宇多丸)洗礼式というか。

(町山智浩)そうですね。浸礼式っていうんですけども。あれはアメリカで本当に今、行われている福音派の人たちがやってることなんですよ。で、これなんかもすごくリアルで。トランプ大統領はそのキリスト教福音派の人たちの支持を得て大統領になっていて。今回もその福音派の人たちの支持を得るために、最高裁判事を指名したりとかしてるんで。そのリアルさですよね。

(宇多丸)なるほど。

(町山智浩)トランプ大統領は全然神とか信じてないんで。

(宇多丸)お金ならともかく……っていう。

(町山智浩)そこもホームランダー的でリアルなんですけども。

(宇多丸)なるほどね。そう。ホームランダー自身は別にそういうの信じてるタイプじゃないですもんね。自分だけだもんね。

(町山智浩)自分だけなんですよ。そう。そのへんもすごくリアルで。あとホームランダーって明らかに金髪、染めている感じなんかもリアルなんですよね。

(宇多丸)ああー、そうか! なるほどね。トランプのあの不自然な頭と……たしかに!

(町山智浩)あの不自然な髪の感じとかと。

(宇多丸)なるほど、なるほど。

(町山智浩)あと、ディープっていうのが出てくるでしょう? あのイチローにそっくりな。

(宇多丸)まあ、演じている俳優さんがね(笑)。キャラとしてはアクアマン的な……。

ディープ

(町山智浩)あのね、全然イチローさんと性格とか全く違うんですけど。顔が瓜二つなんですよ(笑)。まあ、顔だけですけども(笑)。彼がさ、セクハラをするじゃないですか。あのへんもだから今、起こってるそのMeTooのムーブメントですよね。それで、セクハラをしてセブンをクビになった後にディープがある宗教団体……共同教会という宗教団体によって、セクハラをリハビリするんですよ。あれ、サイエントロジーのことですよ。

(宇多丸)ああ、なるほど! そうかそうかそうか。そうなんだ。なるほどね。それでだから、「こういう風にやれば復帰できますよ」みたいな。「こうすれば外面もよく見えますよ」みたいなことを全部お膳立てしてあげるけど。そういう……なるほどね。

(町山智浩)あのね、リハビリをするんです。だからトム・クルーズがサイエントロジーに入ったのは彼、読書障害があって。台本とか読めなかったんですよね。で、今は読めるんですけど。それを直してあげたのがサイエントロジーなんですよ。

(宇多丸)なるほど。

(町山智浩)そういうとこから入り込んでくるんですよ。

(宇多丸)その人の弱点としている部分というか。それを補ってあげることで。

(町山智浩)はい。あそこでそのディープが、その代わりに奥さんを決められちゃうっていう。見合いをしてね。あれもトム・クルーズがやった見合いなんですよ。

(宇多丸)ああ、そうなの?

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