高橋芳朗 The Weeknd『Out of Time』と日本シティポップサンプリングの流れを語る

高橋芳朗 The Weeknd『Out of Time』と日本シティポップサンプリングの流れを語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんが2022年1月25日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。The Weekndの最新アルバム『Dawn FM』の楽曲『Out of Time』が亜蘭知子さんの『Midnight Pretenders』をサンプリングしている件についてトーク。欧米圏のアーティストによる日本シティポップ楽曲のサンプリングやカバーの流れを紹介していました。

(高橋芳朗)ここからは日本のシティポップとその周辺の音楽がアメリカのメインストリームで活躍しているアーティストにサンプリングされたり、カバーされたりしたような曲を中心に紹介していきたいと思います。

(宇多丸)サンプリングならともかく、カバーまで行けばもう、そりゃあ……。

(高橋芳朗)カバーもありますね。じゃあ、まず早速その話題のウィークエンドの曲を聞いてもらいたいと思うんですけど。これは新作『Dawn FM』に収録されている『Out of Time』っていう曲なんですけど。この曲で亜蘭知子さんの1983年の『浮遊空間』というアルバムに収録されている『Midnight Pretenders』をサンプリングしてるんですね。これ、作詞は亜蘭知子さん自身で、作曲は織田哲郎さんです。亜蘭知子さんは1981年にデビューしたシンガーソングライターで、作詞家としても活躍していてTUBEの『シーズン・イン・ザ・サン』とかが彼女の代表作ですね。

で、この亜蘭知子さんの『Midnight Pretenders』ってここ数年のそのシティポップブームを受けて、数年前からもう再評価の機運はすごい高まっていた曲なんですね。で、去年の秋には日本でアナログの7インチでシングル化されてたり。

(高橋芳朗)それで今、YouTubeの『Midnight Pretenders』の再生回数がもう780万回、行ってるんですよね。で、コメント欄もほぼ英語で占められている状況なんですけど。じゃあ、ちょっとその曲を聞いてもらえますでしょうか。亜蘭知子さんで『Midnight Pretenders』です。

(高橋芳朗)亜蘭知子さんの1983年の曲ですね。『Midnight Pretenders』を聞いていただいております。

(宇多丸)めっちゃかっこいいね。後の織田哲郎さんの楽曲のイメージとは全然違うっていうか。

(高橋芳朗)本当にその当時のブラコンモードっていう感じですかね。じゃあ、続けて聞いてもらいましょうか。この曲をサンプリングしてる曲ですね。ザ・ウィークエンドで『Out of Time』です。

The Weeknd『Out Of Time』


(高橋芳朗)はい。亜蘭知子さんの『Midnight Pretenders』をサンプリングしてます。ザ・ウィークエンドで『Out of Time』です。

(宇多丸)ちょっとさ、びっくりするよね。

(高橋芳朗)カバーですよ(笑)。

(宇垣美里)まんまちゃう?(笑)。

(宇多丸)そう。「サンプリングでネタに使います」みたいなのもあるけど、あくまでもそれはさ、素材として使って、いろいろ組み替えたりとかするっていうのがある時代から先のやり方だけどさ。これは完全にモロ使いだし、なんならビートとかもそんなに足してないよね。要するに、ほとんどまんまで。まあ、ミックスの今の感じでたぶん厚みを出してはいるけど、でももうほとんどそのまま。だから要するに90年代ならいざ知らず、今こういうタイプのサンプリングってあんまりないじゃない?

(高橋芳朗)そうね。だからそれはやっぱり欧米の曲はもう、使い尽くされたから、こうやってモロ使いできる曲がこういう他の国のポップスに求めるしかなくなってきたということなんですよね。

(宇多丸)でも、やっぱりこの1本ネタ使いならではの良さってあるから、本当はみんなやりたかったけど、できなかった時に「ああ、もう全然遜色ないやつ、あるじゃん!」みたいな。そういうところもあるのかな?

(高橋芳朗)本当、やっぱり歌謡感みたいなのも出てますよね。

(宇多丸)いや、バリバリ。本当に。

(高橋芳朗)この曲がそのニューアルバム『Dawn FM』からのもう3枚目のシングルに選ばれているんですよ。で、既に今週の全米チャートで32位に入っていて、チャートを上昇中なので。

(宇多丸)これ、織田哲郎さん、ちょっとチャリンチャリン、いくらなんだろう?

(高橋芳朗)まず、そこに行くよね(笑)。

(宇垣美里)もちろん、ご存知ではいらっしゃるんですよね?

(高橋芳朗)もちろん。

(宇多丸)500パーセント、ご存知。クリアランスを取らないともう……ウィークエンドがダマでやりました、なんつったらもう大変だから(笑)。

(高橋芳朗)亜蘭知子さんと織田哲郎さんの名前、クレジットされています。

(宇多丸)だからあるところから先はね、クリアランスを取る時代になって……っていうことはあるけど。いやー、それにしても、びっくり。

(高橋芳朗)だからこれがトップテンヒットとかになった日にはもうね、シティポップ熱が俄然、盛り上がってくるかなって。

(宇多丸)シティポップ使いっていうこと以前に、だからその大ネタ1本使いっていうところに驚いちゃうよね。この感じでやるんだ、みたいな。でも、それはウィークエンドの余裕だよね。90年代にサンプリングで初めてトラック作りました、みたいなさ。そういう人じゃないからさ。参った、参った。でも、いい曲はいい曲だからね。

(高橋芳朗)めちゃくちゃいい曲ですね。で、こうやって日本のシティポップとその周辺の音楽がアメリカのアーティストにサンプリングされるようになったのって、2010年代以降……たぶんYouTubeの普及によって簡単に日本のポップスにアクセスできるようになったことが要因なんじゃないかなと思うんですけども。で、アメリカのメインストリームで意味で活躍するアーティストによってそのシティポップがクローズアップされたケースとして結構衝撃だったのが、2014年にアメリカの現行ヒップホップシーンを代表する実力派ラッパーのJ・コール。

彼がアルバム『2014 Forest Hills Drive』収録の『January 28th』……「1月28日」っていう曲でハイ・ファイ・セットの『スカイレストラン』をサンプリングしてるんですね。ハイ・ファイ・セットは1975年にデビューしたコーラスグループで、『スカイレストラン』はデビュー直後の1975年にリリースした4枚目のシングルです。作詞が荒井由実さん……松任谷由実さん。作曲が村井邦彦さんで、編曲が松任谷正隆さんという布陣で。

(宇多丸)我々から見れば、超大御所っていう感じですけども。

(高橋芳朗)クレイジーケンバンドもカバーしている曲なんですけれども。ちょっとじゃあこれ、聞いてもらえますか? ハイ・ファイ・セットで『スカイレストラン』です。

(高橋芳朗)はい。ハイ・ファイ・セット『スカイレストラン』を聞いていただいております。

(宇多丸)やっぱりCKBバージョンがすごく耳になじんでいたりしますね。

(高橋芳朗)じゃあ、この曲をサンプリングしている曲を聞いてもらいましょう。J・コールで『January 28th』です。

J. Cole『January 28th』

(高橋芳朗)はい。J・コールで『January 28th』。

(宇多丸)はい。これもループで。

(宇垣美里)「パパパヤパー♪」が。

(宇多丸)でも、これに比べるとさっきのウィークエンド、いかに思い切りがよかったかがよくわかる(笑)。でも、これもかっこいいね。

(高橋芳朗)で、非常に興味深いのはですね、このJ・コールは同じアルバムでもう1曲、日本のシティポップ周りの曲をサンプリングしてるんですよ。『03′ Adolescence』という曲で大野雄二さんがプロデュースを手がけたソニア・ローザさんの1974年の曲『『Here’s That Rainy Day』をサンプリングしてるんですよ。大野雄二さんは『ルパン3世』シリーズでおなじみの作曲家で、ソニア・ローザさんはブラジル生まれで1969年に日本に移住してきたシンガーで、DJ TAROさんのお母さんですよね。お二人はコンビで数々の名曲を残しておりますけれども。じゃあ、ちょっとこの曲を聞いてください。ソニア・ローザ with 大野雄二で『Here’s That Rainy Day』。

(高橋芳朗)はい。ソニア・ローザ with 大野雄二で『Here’s That Rainy Day』。こんな感じの曲なんですけど。

(宇多丸)ちょっとね、『007』のテーマ曲っぽいですね。

(宇垣美里)ああ、たしかに!

(高橋芳朗)なんかもうね、どんな風に使われているか、イメージできると思うんですが。聞いてみましょう。J・コールで『03′ Adolescence』。

J.Cole『03′ Adolescence』

(高橋芳朗)はい。J・コールで『03′ Adolescence』を聞いていただいております。

(宇多丸)針音も生かした感じですね。

(高橋芳朗)この2曲が収録されているそのJ・コールの『2014 Forest Hills Drive』って、グラミー賞の最優秀ラップアルバム賞にノミネートされてるんですよ。プラス、全米チャートで1位になっていて、アメリカだけで300万枚売れている大ヒットアルバムなんですね。しかも、最初に紹介した『January 28th』はアルバムの1曲目なんですよ。だから曲の引用の仕方からしても結構これ、インパクトがあったんじゃないかなっていう風に思うんですよね。で、さらに面白いのがJ・コールの次のアルバム。2016年にリリースした『4 Your Eyez Only』のタイトル曲で、また大野雄二さんの曲をサンプリングしてるんですよ。

(宇多丸)もう明らかに、わかって掘ってるね。「Yuji Ohnoはヤバいぞ!」って。

(高橋芳朗)で、これは大野雄二さんがYou & Explosion Bandバンド名義で1978年にリリースした『ルパン三世 オリジナルサウンドトラック2』収録の『オアシスへ』という曲なんですけども。こちら、聞いてください。You & Explosion Bandバンドで『オアシスへ』。

(高橋芳朗)はい。まあ、こんな感じですね。いかにも『ルパン三世』、いかにも大野雄二さんっていう感じなんですけども。じゃあ、この曲をサンプリングしているJ・コールの『4 Your Eyez Only』をお聞きください。

J.Cole『4 Your Eyez Only』


(高橋芳朗)はい。J・コールで『4 Your Eyez Only』です。

(宇多丸)これはグッとBPMを落として。渋いですね。かっこいいな。

(高橋芳朗)で、問題はこのJ・コールが日本のシティポップ周辺の曲のサンプリングが3曲も続いたのが偶然なのか?っていうことなんですよ。

(宇多丸)ねえ。古川耕さん、「J・コールのJってひょっとして……」って、そんなことまで言い出してますから(笑)。

(高橋芳朗)アハハハハハハハハッ!

(宇多丸)でも、日本のこういうお皿がいいなっていう感じで掘ってるのは間違いないね?

(高橋芳朗)ただ3曲ともね、プロデューサーが違うんですよ。だからまあ、偶然なのかもしれないですけど。でも、日本のポップスがサンプリングソースとして注目を集め始めたっていうのは間違いないですね。

(宇多丸)要は、その欧米圏のものは本当にディガーたちによってもう掘り尽くされていて。もう新しいものもなかなか難しいっていう中で、同じように技術と洗練っていうのがあって……っていうところで。やっぱり、たしかにね、あってもおかしくないですよね。

(高橋芳朗)で、J・コールクラスのアーティストが立て続けにこれだけ日本の曲をサンプリングすると、現地のプロデューサーとかアーティストとか関係者の日本の音楽に対する認識もちょっと変わってくるかなって気もするんですよね。

(宇多丸)ある意味、だからそのシティポップ評価みたいなところの素地は既にあったっていうことですね。

(高橋芳朗)そう。で、この2014年から2016年のJ・コールのケースは、いわゆる今のシティポップブーム以前の出来事なんですよ。で、今に至るシティポップブームのひとつの起点になってるのって、2017年だと思うんですね。この年に、たとえばイギリスの再発レーベルから日本のディスコとかファンクをコンパイルした『LOVIN’ MIGHTY FIRE』っていうアルバムがリリースされたり。これが2月かな? あと、シティポップの象徴になってる竹内まりやさんの『プラスティック・ラヴ』が非公式にYouTubeにアップロードされたのが2017年7月。あと、テレビ東京の『Youは何しに日本へ?』でアメリカからはるばる、大貫妙子さんの『SUNSHOWER』を買いに来たアメリカ人男性が紹介されたのが2017年8月。このへんで「海の向こうでなんか起こってるぞ?」みたいなムードが生まれてきたタイミングだなと思いますね。

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