吉川きっちょむさんが2023年12月11日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の「アトロク漫画部が選ぶベスト漫画2023」の中で平井大橋先生の『ダイヤモンドの功罪』を紹介していました。
(宇多丸)続きまして、吉川きっちょむさんに今年のすごかった漫画をご紹介いただきたいと思います。何でしょうか?
(吉川きっちょむ)はい。平井大橋『ダイヤモンドの功罪』!
(宇多丸)これはもう、一貫して?
(吉川きっちょむ)そうですね。アトロクでも僕、何回かこれを紹介しているんですよ。
(宇垣美里)カルチャートークの時と、あと上半期のこの漫画がすごい面白いでもご紹介いただきました。
(吉川きっちょむ)なのでこれが3回目の紹介っていうことで。もうリスナーさんはみんな、読んでるんじゃないか?っていう気持ちにもなってしまうんですけど。
(宇多丸)これ、『このマンガがすごい!2024』オトコ編の1位にもなっていて。
(吉川きっちょむ)そうですね。これはね、自分的にも熱いっていうか。「みんな、やっぱり読んだよね! 面白いよね!」っていう気持ちで。「みんなに刺さったんだな!」っていう嬉しさがありますね。
(宇多丸)きっちょむさん、だって本当に一番最初の段階ですもんね。
(宇垣美里)最初はまだ本になってなかったですもんね。
(吉川きっちょむ)そうですね。たしか2月頃にヤングジャンプで連載が始まったんですけど。僕はこれを話したのが3月21日っていう(笑)。まだ4話、5話ぐらいしか出てない状態でたぶんお話させていただいて。
(宇多丸)改めて、まだ知らない人にちょっとその魅力を伝えるとしたら、なんでしょうか?
(吉川きっちょむ)まあ最近、結構他人にはわからない孤独みたいな部分が裏テーマの作品というのが増えてきてるんじゃないかなって思うんですけど。まさにこれは、そのまた一風変わったというか、天才の話なんですよね。才能を持つ苦悩と、その残酷さとか。そしてその周りへの影響力ですよね。その両方の視点から、えぐり出すように描き出すっていう、新しいタイプの野球漫画という。で、野球漫画って今まではスポーツの爽快さとか、試合の面白さとか、戦略性とか、ルールとかね、そういう部分を描いていたと思うんですけども。ここはもう、あくまで人間ドラマ。そこにスポットライトを当てていて、その才能を巡る……これ、主人公が小学5年生なんで、周りの大人たちもどんどん巻き込まれていくし。もう本当に才能って罪だなっていう。ダイヤの原石でありつつも、それを追い求める……その価値の高さでみんながみんな、取り合うようなるっていう。で、「こうあってほしい」みたいな自分の願いを投影されていて。で、「自分自身はこうしたい」っていう気持ちもあるのに、それを無視されてしまうっていう。
(宇垣美里)できるばっかりに。
(トミヤマユキコ)これ、怖い話なんですよ。
(宇垣美里)ホラーですよね!
(吉川きっちょむ)ぞっとしますよ?
ほとんどホラーな怖い話
(トミヤマユキコ)死ぬほど才能のある小学5年生という。これが大人だったら、もうちょっと自分で自分の才能をたとえばコントロールするとか、プロデュースするっていうことができるんだけど。小5じゃ、無理なのよ。だからこそ、怖いのよ!
(宇多丸)自分を超えたものを、自分からとにかく……周りが来て、「いやいやいや!」ってなっているわけだもんね。
(トミヤマユキコ)で、同い年ぐらいの子もそうだし。大人たちもなんか瞳孔が開き始めているみたいな。
(宇垣美里)そう! あれね! もう……。
(吉川きっちょむ)大人たちの目に光がなくなっていくっていう。
(宇垣美里)狂わされていくっていう感じですね。まさに。
(吉川きっちょむ)だからいろんな絶望と……その、強すぎるがゆえに、みんな希望を抱いてしまうけれど、その希望の逆側には絶望があるっていう。それの行ったり来たりの繰り返し。心がもう波立って波立って。
(宇垣美里)これ、絶対に近くに行きたくないですよね? 絶対に行きたくない!って思いながら読んでました。
(吉川きっちょむ)だから大谷翔平選手の近くにいたら、どんな気持ちになってたのかな?っていう。
(宇多丸)本当だよね。リトルリーグで一緒にやってる人も、いるもんね。絶対ね。
(吉川きっちょむ)でも大谷さんはまだ、自分がやりたくて、計画をしっかり立てて頑張って、それに向けてやったじゃないですか。でも、この主人公は違うわけですよ。楽しくやりたいだけ。みんなでただ、楽しくスポーツをやりたいだけだったのが、自分の持ってた才能ゆえに、おかしくなってしまうという。残酷。
(宇垣美里)澤部さんも読まれました?
(澤部渡)読みました。僕、入り方がすごい得特徴的だなと思って。野球漫画って、野球で始まるじゃないですか。でも最初は水泳をやっていて……みたいな。で、そこから。だから要は、野球を知らないで野球の中に飛び込んでいくっていう悲劇もあるじゃないですか。なんかそこがやっぱり、上手いなと思って。
(吉川きっちょむ)これ、一点、もしかしたらいろんな野球漫画を踏襲してるのかな?っていう。あの『ドカベン』って最初は……。
(宇多丸)ねえ。柔道だったから。
(吉川きっちょむ)とかもあったり。でも、他の漫画は野球から始まるのが多いので。
(澤部渡)そうですよね。めったにないですよね。だから、野球の才能じゃなくて、スポーツの才能っていうね。
(トミヤマユキコ)なんでもできちゃう……怖い!(笑)。
(澤部渡)怖い。
(宇垣美里)つづ井さんはいかがですか?
(つづ井)私、この作品、実は最初の1巻分ぐらいしか、まだ読めていなくて。というのも、最初に話題になった時に読んで、もう食らいすぎちゃって。
(宇垣美里)ああー、わかるかも!
食らいすぎてしまう漫画
(つづ井)つらくって。もう、圧倒的な光が存在してしまうことの罪っていうか。それが周りにもたらす、強すぎる影みたいなテーマが、私は食らいすぎてしまって。「これは体力のある時に読もう」って思って、大切に置いている作品ではあるんですけども。今、お話を聞いていて「そろそろ向き合わないとな……」って(笑)。
(宇多丸)いや、わかりますよ(笑)。僕もね、最初の方しかまだ読んでないですけども。今、どこまで行っているんですか?
(吉川きっちょむ)これは言えないっていうか。でも、それなりに時間は進んでいて。連載だと、学年が進んだりっていう。
(宇多丸)今、単行本が3巻?
(吉川きっちょむ)で、12月19日に4巻が出ますね。ちょうどいいタイミングです。
(宇垣美里)もう、ねえ……っていう感じ(笑)。
(宇多丸)ということで、『ダイヤモンドの功罪』。これからねまた更に注目も集まるかもしれませんね。
<書き起こしおわり>