モーリー・ロバートソン 米中貿易交渉と追加関税発動の影響を語る

モーリー・ロバートソン 米中貿易交渉と追加関税発動の影響を語る 水曜日のニュース・ロバートソン

モーリー・ロバートソンさんがBSスカパー!『水曜日のニュース・ロバートソン』の中でアメリカと中国の貿易戦争についてトーク。交渉が難航して追加関税が発動した影響について話していました。

(モーリー)アメリカ帰りの私が今日紹介するのは前回に引き続きトランプ大統領の10日のツイート。

(モーリー)はい。非常に面白い言い回しがあるので、翻訳を出す前にいくつかポイントを出しましょう。「これはオバマ政権ではない(This is not the Obama Administration)」。もうなんでも、悪いことはオバマ政権っていうことね。で、「または、眠たげなジョーの政権でもない(or the Administration of Sleepy Joe)」。ここでの「Joe」はジョー・バイデンのことを言います。ジョー・バイデン、この前に紹介しましたけども、アメリカの労働組合が一斉に組織票で(2020年大統領選挙、民主党の有力候補の)バイデン候補に流れてしまうんではないか?っていうのがトランプさんの泣き所だっていう観測が出ているんですけども。

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(モーリー)その人を「眠たげな、寝ぼけたジョー(Sleepy Joe)」っていう風に言っているんですよ。ヒラリーさんに対しては「ウソつきヒラリー」ですよね。だからそれと同じで「スリーピー・ジョー」って……ここ、天才(笑)。

(プチ鹿島)天才ですね(笑)。これ、悪いことを言わせたら本当に日本一って言ったらおかしいですけども。世界一(笑)。

(モーリー)それでアメリカの言い回しで、スリーピー・ジョーならチャイナが「murder(殺人)」を犯しても逃れさせてしまいそうだっていう。で、「get away with murder」っていう慣用句があるんですけども、これは「罰せられない、咎められない、やりおおせた」っていうようなことを言うんですね。だからそういう風に「中国に対して甘すぎた民主党と私は違うぞ!」っていうことで「MUCH STRONGER」。「俺の方がもっと強く出ているぞ!」っていうことを言っているわけですね。じゃあ、ここで日本語の翻訳を入れてみましょう。

「(追加の)関税は我々の国をより強固にするのであって、弱くするのではない。リラックスしてこの状況を見守っていればいい」という。みんな、家でこのエンターテイメントを見ていなさいっていうようなことですね。「……一方、中国は合意寸前で貿易交渉のやり直しをしようとしてはいけない」。これは直前になってトランプさんが中国に対して「追加関税を発動するぞ!」って脅しをかけたんで、中国がドン引きしたんですよ。それを「お前ら、うろたえただろ?」って、中国に対してさらなる挑発をしたんですね。

(プチ鹿島)フハハハハハハハハッ! なるほど(笑)。

(モーリー)自分でやっておきながら、「おい、なんだ? 逃げるのかよ?」っていう。まさにこれ、トランプ節です。そして「……中国に好き放題にさせていたオバマやスリーピー・ジョーとは訳が違うんだ!」と言っているわけですよ。で、簡単にこの背景を解説しますと、アメリカと中国の貿易摩擦。交渉を続けてきて、米中通商協議が折り合わなかった。まあ、トランプさんがいろいろとブラフをかけた。そして2000億ドルの取引に関する追加関税を10%から25%にまで引き上げてしまった。

そして協議で訪米していた中国の副首相は「中国はかならず報復する。原則では決して譲らない」と。「原則」っていうのは中国の国家的な核心となる利益のことを差しています。そして「内政政策や金融政策の余地は十分にある」と。つまり、「アメリカはちゃんとやれるのに、アメリカが自分でルールを破っているじゃないか!」っていう風にいわば多少正論で中国は返しているという状態なんですね。

農業への影響

それで、中国が報復をすると、アメリカはお互いに関税をかけ合うわけなんでダメージの出方が違うんですよ。たとえば農業の比率が大きいアイオワ州などでは、前回の大統領選挙ではトランプ大統領が勝利をしていて、その勝利に貢献している地域なんですが、もう一気に農産物は関税によってダメージを被ることになりますから、2020年の選挙ではどうなるかわからない。ところが、いろんな妙な循環があって、グルグルと回り回って。「中国からダメージを受けたから、次は民主党に投票をする」という心理にはならないんですね。

「中国からの攻撃を受けて立つ!」っていう愛国心に火がつく可能性もあって。トランプさんはどっちかって言うと愛国心に火がつく方に賭けているわけですね。で、まあこういう風にお互いの首の絞めあいもして。どっちが先に手を離すのか?っていうチキンレースの状態に米中は入ってしまっているんですが、いくつか興味深い点があります。ひとつはアメリカの企業も結構多様な、多くの種目で……大豆とかだけではなくて。たとえばアメリカ産のコンドーム、避妊具が中国で売られています。誰が買うのか? とかそういう議論には入りません。ただ、売っているんですよ。

ところがそれが、これは私の直感、勘ぐりで言わせてもらうんだけども、日本で作られているそういう製品、医療製品とかと同等にアメリカのものが中国のお店の棚に並んでいた場合、たぶんアメリカって多少安かろう、悪かろうに行くんですね。この前、アメリカで買った風邪薬が本当にすごかったんですよ。それはまた別の機会に紹介したいんですけども……(笑)。

(モーリー)そうなの。日本から持っていった風邪薬とアメリカでつなぎを買った時のこのパッケージングや質の落差に愕然として。だけど、杜撰ではあるけども、安かろう、悪かろうで売っていたアメリカ製品が中国の薬局の棚に並んでいたんですよね。でも、それの値段が急に、日本製品と同等になるんですよ。買うわけないじゃん? だからこれは実は日本にとっていろいろと、化粧品や薬品、医療製品とかいままでアメリカが多少安さで売っていたものが関税によって価格が上がってしまうので。実は日本にとって漁夫の利という側面も。

日本が漁夫の利を得る?

マクロで見ると世界経済が失速して日本の円の為替レートが……とか、そういう日経新聞的な観測もあります。でも、細かいセクター別で言うと、実はいろんな思わぬチャンスがあちこちに扉が開いている可能性がある。で、もうひとつ。部品調達、サプライチェーンでアメリカは中国に強く依存をしているので。たとえばiPhoneをアメリカ国内のみで作った場合の試算。UCバークレーの経済学者が出した試算だと1台あたりのコストが40ドル増えてしまう。で、これは多少心理的にはマイナスになりますよね。iPhoneを買う消費者心理は冷え込む。

そして、もっと劇的なのが電気自動車のテスラ。2019年の第1四半期の決算で赤字が7億ドル(約770億円)。すごい赤字を出したんだけども。いろいろと新車の開発が遅れている。で、先ほどAIの話がちょっと出ましたが、AIなどを使った完全自動運転の新しい車のシステムをハードウェアから作ろうとしている。ところが、そのコアとなる部分は上海の会社が請け負っているんですよ。で、そこに対して関税をかけてしまって調達ができなくなると、それを全部テスラはアメリカで開発しなおすことになると何年かかるのか? 人件費がどれだけかかるのか?っていう話になって、お話にならない。

ということで、すでに赤字を出しているテスラはアメリカの通商代表部(USTR)に嘆願書を出して。「うちはアメリカに貢献をしているので、うちだけはこれ、免除をしてください」って言った。ところがUSTRは「ダメ!」って。なぜかっていうと、テスラの技術は「中国製造2025」につながっているから。これは軍事も含めた中国の製造技術の革新につながりすぎているので、それにも制裁を課すということで。だからアメリカのオウンゴールは特にテスラに強くあたっている。このままテスラが脱落してしまうと、誰がその隙間を埋めるんだ?っていう話になって。で、先ほどの話の流れだと、実は日本にもチャンスが巡ってくるということになるんですね。

こういう風に米中の貿易戦争、日本にとっては思わぬ扉が開くという視点も面白いかもしれません。以上でした。

<書き起こしおわり>

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