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高橋芳朗と宇多丸 2019年グラミー賞を振り返る

高橋芳朗と宇多丸 2019年グラミー賞を振り返る アフター6ジャンクション
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(高橋芳朗)じゃあ、今度は後半に行ってみましょう。後半はセレモニーを彩ったパフォーマンスを3つ、選びました。

(宇多丸)いろいろとね、モータウンの60周年もありましたし。

(高橋芳朗)で、これはパフォーマンスの内容はもちろんなんですけど、さっきから言っているウーマンパワーとか多様性と包括性っていうテーマの方を重視して選びました。まずはカーディ・Bの『Money』です。カーディ・Bはニューヨーク出身の26歳の女性ラッパーですね。

(宇多丸)これは結構この番組が始まった最初の方から渡辺志保さんもずーっと紹介していましたし。あとは去年の頭にNHKでやった『今日は一日”RAP”三昧』の中で、最後にこれからの注目アーティストということでカーディ・Bを。

(高橋芳朗)トリを飾った。

(宇多丸)ヒップホップの歴史の最後に、ヒップホップ発祥の地ブロンクスに登場した爆裂シンデレラガールを(笑)。

(高橋芳朗)そうですね。元ストリッパーですね。

(宇多丸)だからそういう意味ではカーディ・Bの受賞、これはこれですごく僕も嬉しく思うし。

(高橋芳朗)もうね、ヒップホップっていうよりかはいま、いちばん勢いのある女性アーティストと言ってもいいんじゃないですかね。ポップミュージック全体で見ても。で、カーディ・Bは今回のグラミー賞で主要部門、最優秀レコード賞とか最優秀アルバム賞でもノミネートされていたんですけど、受賞は最優秀ラップアルバム賞。で、これは女性ラッパーとしては史上初の快挙です。で、カーディ・Bはセレモニーで『Money』っていう曲をパフォーマンスしたんですけど、これ普通に考えれば全米1位になった『I Like It』という曲をやった方がいいと思うんですよね。いま、後ろでかかっているんですけども。

(宇多丸)うんうん。

(高橋芳朗)これ、最優秀レコード賞にもノミネートされた曲だし。かつ、このラテン調でお祭り感覚があるから、この曲をやればいいのになって思っていたんですけども。この『Money』を選んだのにもちょっと理由がありそうだなと。

(宇多丸)なるほど。

(高橋芳朗)ウーマンパワー的な観点からの選曲なのかなって僕は思っています。

(宇多丸)歌詞の内容がね。

(高橋芳朗)これ、タイトル通り「この世でいちばん好きなのはお金」っていう、まあヒップホップお決まりの拝金主義的な曲なんですけども。

(宇多丸)「Money」ってついた曲、何曲あるのか?っていうね。

(高橋芳朗)でもこれ、拝金主義的な曲に見せかけた働くママ、ワーキングマザーの曲とも解釈できるなっていう。

(宇多丸)へー!

(高橋芳朗)この曲ね、カーディ・Bがヒップホップグループ、ミーゴスのオフセットっていうメンバーと結婚して、それで2人の間に生まれた女の子、カルチャーちゃんっていう子なんですけど。その子を出産してからリリースした最初のシングル曲なんですね。で、歌詞の中に「子供が生まれたからお金が必要なの(I got a baby, I need some money, yeah)」っていうラインがあったり。ずっとずっと「お金が好き、お金が好き」って言っているんだけど、最後は「でも、この世でいちばん大好きなのは娘のカルチャー(But nothing in this world that I like more than Kulture)」「クールな女に必要なのはK.K.C(All a bad bitch need is the K.K.C)」。この「K.K.C」は娘のカルチャーのスペルなんですよね。

(宇多丸)なるほど。

(高橋芳朗)で、ミュージックビデオの最後には娘に授乳しているシーンとかも差し込まれていたりしてるんですね。だからそういうのを考えると、ウーマンパワーに則った選曲でもあるのかなっていう気もします。あとね、サードバースの途中には「Wakanda forever」っていう一節が入っていて。

(宇多丸)おっ、これはいわゆる『ブラックパンサー』のね。

(高橋芳朗)そうです。で、パフォーマンスの時にもこれ(ハンドサイン)をやっていましたよ。こうやってクロスして。じゃあ、そんな背景がある曲ですけども。聞いてもらいましょう。カーディ・Bで『Money』です。

Cardi B『Money』

(宇多丸)はい。カーディ・B『Money』を聞いていただきました。まあ、でもそのいまいちばん勢いがあるっていう意味でカーディ・Bは納得感がありますね。

(高橋芳朗)そうですね。じゃあ、セレモニーを彩ったパフォーマンス3選、2曲目はブランディ・カーライルの『The Joke』という曲を紹介したいと思います。この人はワシントン州出身の38歳の女性シンガーソングライターで。カントリーみたいなアメリカンルーツミュージックを現代的に解釈したアメリカーナって呼ばれるジャンルの人気アーティストでございます。で、この人は主要3部門を含む6部門にノミネートされていまして、結構台風の目になるんじゃないかと言われていたんですけど、結局主要部門は逃して。最優秀アメリカーナアルバム賞など3部門を受賞しています。

このブランディ・カーライルもウーマンパワーと多様性と包括性、この両方のテーマに当てはまるアーティストかなと思います。で、授賞式のパフォーマーの中には今回、ジャネル・モネイとかセイント・ヴィンセントとか、LGBTQに該当するアーティストが何人かいたんですけども。このブランディ・カーライルもそのうちの1人で、15歳の時に自分がレズビアンであることをカムアウトしている人なんですね。

(宇多丸)うんうん。

(高橋芳朗)で、彼女は授賞式のスピーチでこんな風にコメントをしています。「私は完全にはみ出し者だけど、アメリカーナミュージックが私を救ってくれた。高校の時にカミングアウトしてそれ以来、パーティーには一度も呼ばれなかったけど、いまのアメリカーナミュージックのコミュニティーが私にとってパーティーのような存在です」という、非常に感動的なスピーチを披露しているんですけども。で、このこれから聞いてもらう『The Joke』っていう曲はまさにはみ出し者に捧げたヒーリングソングみたいなところがあって。1番はおそらくゲイの男の子。2番は男性社会で疲弊しきった女性に向けられた歌詞だと思います。

で、サビはこんな内容になっています。「笑わせておけばいい。いまのうちだけよ。好きに言わせておけばいい。私はたくさんの映画を見てきたから、どんな幕切れになるかわかっている。笑いものになるのはあの人たちだよ(Let ’em laugh while they can Let ’em spin, let ’em scatter in the wind I have been to the movies, I’ve seen how it ends)」っていう歌詞で。これがね、本当に感動的なバラードで。YouTubeのワーナーミュージックの公式チャンネルに歌詞対訳つきのミュージックビデオもアップされているので。そちらとあわせてぜひみなさん、チェックしてみてください。じゃあ、聞いてもらいましょうかね。ブランディ・カーライルで『The Joke』です。

Brandi Carlile『The Joke』

(宇多丸)はい。ブランディ・カーライル『The Joke』を聞いていただいております。

(高橋芳朗)迂闊に夜中に聞くと号泣するので、はい。では、セレモニーを彩った印象的なパフォーマンス、最後の3曲目はこれ、今回のグラミー賞授賞式を締めくくる最後のパフォーマンスだったんですけど。ファンテイジア、アンドラ・デイ、ヨランダ・アダムス。この3人の女性ソウル歌手、ゴスペル歌手による『(You Make Me Feel Like) A Natural Woman』。これ、去年の8月16日に亡くなりましたソウルの女王のアレサ・フランクリンのトリビュートパフォーマンスだったんですけども。

まあ、多様性と包括性をテーマにして、ウーマンパワーを打ち出したセレモニーを締めくくる企画としてはこれ以上のものはないっていう。

(宇多丸)しかもずっとさ、亡くなられたいろんなアーティストの映像と歌がずーっと流れたその最後に大トリでアレサ・フランクリンの映像が出てきて「ワーッ!」って盛り上がったところでのこれだったからね。

(高橋芳朗)単純にアレサはポップミュージック史における最も偉大な女性シンガーだし、60年代当時のウーマンリブ運動のアンセムになった『Respect』っていう曲をはじめとして、音楽面からフェミニズムを推進したパイオニアのような存在なんで。まあ本当にもってこいの存在なのかなっていう感じがします。

(宇多丸)この3人のチョイスっていうのはどう?

(高橋芳朗)思いっきり、だからゴスペルシンガーだったりアレサの影響をモロに反映したようなシンガーですよね。だから僕は願わくばここにアリシア・キーズが入ってもよかったんじゃないかな?っていう気がしますね。彼女もすごいアレサの影響を受けた曲を何曲も出しているんで。はい。

(宇多丸)なるほどね。

(高橋芳朗)で、この『(You Make Me Feel Like) A Natural Woman』っていう曲は1967年に発表された女性賛歌みたいなところがあるんですけども。で、よくアレサって歌のパワーがすごすぎて、その歌本来の意味を変えてしまうみたいなことを言われるんですけども。この曲もそんなところがあって。これって作者がキャロル・キング&ジェリー・ゴフィンっていう夫婦のソングライターチームなんですけど。

たぶんこの2人は「あなたといるといつも素直な自分でいられる」っていうか、男性に寄り添う健気な女性をイメージして書いたところがあると思うんですけど、アレサが歌うとゴスペル的な意味を帯びてくるっていうか。「神様、あなたのおかげで私はありのままの女性でいられるんです」みたいな、そういう響き方になってくるんですね。

(宇多丸)とても生身の人間に歌いかけているとは思えない高み、スケール感に行っちゃうっていうね。

(高橋芳朗)で、ちょっと授賞式の音源はかけられないので、今日はアレサ・フランクリンのオリジナルバージョンを聞いてください。アレサ・フランクリンで『(You Make Me Feel Like) A Natural Woman』です。

『(You Make Me Feel Like) A Natural Woman』

(宇多丸)ねえ。歌のメッセージを強烈な磁場でグイッと曲げて高みにまで持っていってしまうというね。すごい歌です。

(高橋芳朗)アレサ・フランクリンで『(You Make Me Feel Like) A Natural Woman』。今年、このアレサのトリビュートの他にダニー・ハサウェイのトリビュートもあったり、あとはモータウン60周年記念を祝うパフォーマンスもあったり、ダイアナ・ロスのスペシャルステージもあったり。割とソウル色が強かったなって。

(宇多丸)そうですね。ということで、まあグラミー賞はこんな感じになりましたが。どうですかね。今日、曲をかけながら合間に雑談でも日比さんがポロッと言っていたけども。その多様性とかウーマンパワーっていうのがいろいろとあったから、今年のこの場限りのお題目で終わっちゃったらちょっとね……。

(日比麻音子)そう。それは意味がないですよね。いろいろとあったから、じゃあ申し訳でとりあえず……って。「とりあえず、これでいいでしょ?」ってなったら意味がないし。そもそもグラミー賞そのものの根幹を問いたださないといけない状況なんだなっていうのを今日、はじめて知りました。

(高橋芳朗)だから今回は最適解みたいなのを導き出しやすい状況だったと思うんですよ。だから僕は来年が正念場だと思いますね。

(宇多丸)ここから先ね。

(高橋芳朗)だから女性アーティストとかヒップホップ勢の不信感を払拭できるのかどうかは僕は来年にかかっているんじゃないかなって思いますね。

(宇多丸)なるほど。ということでいよいよ、また来年も楽しみになってくるという総括でございました。ヨシくん、ありがとうございます。

(高橋芳朗)ありがとうございます。

<書き起こしおわり>

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