高橋芳朗 Ariana Grande『positions』を語る

高橋芳朗 Ariana Grande『positions』を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんが2020年11月23日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でAriana Grande『positions』について話していました。

(宇多丸)はい。じゃあ最新洋楽情報を。

(高橋芳朗)まずはアメリカ大統領選に因んだヒット曲として、今週の全米シングルチャートで2位にランクインをしていますアリアナ・グランデの新曲『positions』を紹介したいと思います。この曲は先々週の全米チャートで初登場1位になって。先週、2位にランクダウンしてしまったんですけど、今週も2位をキープしているという感じですね。で、アリアナ・グランデ、改めてプロフィール紹介しておきますと、1993年生まれ。フロリダ出身のポップシンガー、R&Bシンガー。名実ともに現行ポップミュージックシーンのクイーン、女王と言っていいんじゃないかなと思います。

2013年にデビューして、いきなりブレークするんですけど、2017年に自分のマンチェスターで開催したコンサートがテロの標的にされて。22人が亡くなった事件があって。それを契機にちょっとアクティビティストとしても活動するようになって。女性の地位向上だったり、LGBTQの開放だったり。あとはBlack Lives Matterとか、あとは銃規制とか。そのへんの社会運動にも結局的に参加していて。

今回のアメリカ大統領選でも、民主党のサポーターとして若者たちに熱心に投票をうながしていたりしました。で、この『positions』という曲は一聴して歌詞をチェックする限りでは、セクシーなラブソングに聞こえるんですね。サビでは「Switchin’ them positions for you」……直訳すると「あなたのためにポジションを切り替える」みたいに歌っているんですけども。これ、ベッドの上でのポジションっていうか……。

(宇多丸)まあ、いわゆる体位的なことかな? 一義的にはそういう比喩かな?っていう風に取るけども。

(高橋芳朗)そうそう。で、10月23日にこの『positions』のミュージックビデオが公開されたことによって、アリアナ・グランデがこの曲に託した真意が明らかになるんですよね。この曲のミュージックビデオがまた、アメリカ大統領選の最後の討論会が終わった直後。本当に終わった直後に公開になったんですけど。そのミュージックビデオの内容がアリアナ・グランデがアメリカ大統領を演じてるという設定なんですね。彼女がいろんなさまざまな人種の女性で占められたスタッフを引き連れてホワイトハウスで職務に当たってるっていう、そういう様子を描いたミュージックビデオなんですけども。

「positions」の2つの意味

(高橋芳朗)要はこの『positions』には2つの意味が含まれていたということですね。「体位」を意味していたと思われていた『positions』が、実はミュージックビデオを踏まえて聞くと「地位」とか「立場」のことでもあったことに気づかされるわけです。だからサビの「Switchin’ them positions for you」。「ポジションを切り替える」のその「ポジション」は「女性の社会的地位」のことを言っていたんですよ。

だからラブソングを装った女性の地位向上と社会進出を歌ったエンパワーメントソングだったということなんですけども。で、現行のポップミュージックの頂点にいるようなシンガーがこの大統領選の投開票日の10日前ですよ。そのタイミングでこんなミュージックビデオの曲を出してきたということにめちゃくちゃ興奮したんですけど。でも、アリアナの本当の狙いはまさに大統領制の投開票日の週に分かることになるんですけど。

これ、曲をリリースしたのが10月23日なんです。で、この曲の最初のチャート結果が発表になったのがまさに大統領選の投開票日の当日。で、蓋を開けてみたら最初に触れた通り、もう余裕の初登場1位だったんですよ。それで皆さん、ご存知の通り今回は大統領選ではカマラ・ハリスがアメリカ初の女性副大統領就任を確実にしてるわけですけども。これ、アリアナは完全に狙ってたと思うんですよね。その、アメリカ初の女性副大統領誕生のタイミングで女性の地位向上をテーマにした曲がチャートの1位に立ってるっていうのを完全に狙ってリリースして。それを見事に達成してると思うんですね。

しかも、ここまではアリアナは考えてなかったと思うんですけど。今回、大統領選と同時に行なわれた連邦議会選挙でも、女性議員の当選が過去最多になってるんですよね。だからカマラ・ハリスの勝利も含めて、この時には『positions』っていう曲が完全に女性の地位向上を象徴するアンセムになった感があるなっていう気がしましたね。それでさらに言うと、カマラ・ハリスって次回の2024年のアメリカ大統領選に出馬することがもう今、確実視されていますから。そういう中でミュージックビデオでアリアナが女性大統領を演じてる『positions』という曲のメッセージがまた大きな意味を帯びてくるっていうところですよね。

(宇多丸)またアリアナ・グランデがやればっていうか、これだけ大きな話をしても、それをコントロールできるというか、ハンドルしきれるっていうかさ。大統領役っていうものがアリアナ・グランデであれば務まるっていうかさ。

(高橋芳朗)そう。ハマっちゃうんだよね。

(宇多丸)なんかもう、それ級の話ができる人っていうところに行っちゃっているっていうかさ。その感じだよね。

(高橋芳朗)それで去年から、カマラ・ハリスとも結構対談とかもしてるんですね。で、この一連の動きにちょっとそのアメリカのエンターテイメントのダイナミズムみたいなものをまざまざと見せつけられたというか。自分がどれだけすごいシンガーかっていうのを誇示しながら、社会貢献みたいなものも果たして。かつ、それをエンターテイメントとして見せているっていうのはすごいなと思ったんですけど。だからこれからのポップアイコンと言われるような人たちはエンターテイナーとかトレンドセッター的な要素はもちろんとして、社会の利益に資する姿勢だったり、アクティビティスト的な資質みたいなものが必要不可欠になってくるのかなって感じがすごいしてますね。

(宇多丸)これ、でもその逆サイドの動きとかも当然ね、あるわけでしょう? 要は、これはバイデン&カマラ・ハリスサイドだけではなくて、トランプサイドとかからも……そういうアクティビズムも活発化しうるってことじゃない? 逆に言えば。

(高橋芳朗)そうですね。今後はありかもしれないですね。

(宇多丸)それこそ、ほら。ラッパーたちが次々にトランピストに転向していく……「トランピスト」とまで言っていいかはわからないけど。みんなそれぞれ動機は違うけど……っていうのもあったりして。だから、その「影響力を与える」っていうのが僕らは今、そのポジティブな面を見てるけど。そうじゃないこともあり得るなとも思ったりして。

(高橋芳朗)たしかに。そういう展開もあるかもしれないですね。

(宇多丸)だからたぶん、前回の……この後の話にも通じるかもしれないけど。K-POPアーティストの進出っていう時に、じゃあそこでどうするんだ?っていうのはひとつ、次の段階にステップアップする時に問われてくるかなって。

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(高橋芳朗)そうですね。BTSはそういう意味では国連でスピーチしたりとか、Black Lives Matterに寄付をしたりとか。そういったところで存在感を発揮しているのが彼らの強さでもあったのかなっていう気もしますけどね。じゃあ、聞いてください。アリアナ・グランデで『positions』です。

Ariana Grande『positions』

(高橋芳朗)はい。アリアナ・グランデで『positions』を聞いていただいております。

(宇多丸)すごいね。ビデオはもう文句なしのクオリティーとかっこよさで。

(高橋芳朗)しかもこれ、曲の出だしがこういう歌詞なんですね。「Heaven sent you to me I’m just hopin’ I don’t repeat history(天国があなたを遣わした 歴史を繰り返さないことを願っている)」という。だからまあ、「トランプの再選が阻まれることを願っている」っていう風に解釈をしてもいいのかなっていう。

(宇多丸)今ね、曲の間に話していた、僕が「『強い政治的メッセージを伝える』っていうことがトップアーティストのあり方として、もちろんそれは全然いいことというか、普通のことだとは思うんだけども。ということは、逆サイドのバックラッシュもあるんじゃないか」って言っていたんだけども。ポップチャート、歴史上見ていっても不思議とそういう、たとえばすごいゴリゴリの保守とか。ゴリゴリの、我々から見ても眉をひそめるような人がめっちゃ売れるっていうことも実はそんなにないという。

(高橋芳朗)ないんですよね。チャートの上位に上がってきたりとか、ランクインしてくるっていうことはないんですよね。

(宇多丸)だから、実際に選挙の結果が非常に拮抗している状態とは全然違うっていうのはこれ、なんでなのかね?っていうね。

(高橋芳朗)反映されていないですよね。

(宇多丸)だから、それは音楽とか表現の本質と関わることなのか……たとえば、そういういわゆるリベラルなメッセージの方がオープンだから。いろんな人を入れやすいっていうのはあるのかもしれない。排他的でないからとかね。

(高橋芳朗)でも、ちょっとそのへんも掘り下げないといけませんね。

(宇多丸)バックラッシュ的なものも……まあ、ひとつ、端緒として。

<書き起こしおわり>

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