モーリー・ロバートソンとプチ鹿島 徴用工訴訟問題を語る

モーリー・ロバートソンとプチ鹿島 徴用工訴訟問題を語る 水曜日のニュース・ロバートソン

モーリー・ロバートソンさんとプチ鹿島さんがBSスカパー!『水曜日のニュース・ロバートソン』の中で第2次大戦中に動員された朝鮮人徴用工への個別補償を命じる判決を韓国最高裁が下した件について、BBCの大井真理子さんと共に話していました。

(モーリー)それとは別に私が気になったのは徴用工訴訟。

(プチ鹿島)これ、お願いします。どう受け取ればいいんですか? どう考えれば?

(モーリー)遡って韓国の前の政権、朴槿恵政権の時にたしか慰安婦像を日本大使館前に設置するとか、あとは釜山の総領事館の前に設置するというのを市民団体がやった時、本当はそれを国と国の日韓合意があったから、どけるという話だったのが「いやいや、市民の気持ちにも配慮して……」って。政治が最後は市民の熱烈な感情に押し切られるということがすでにあったんですよ。で、そういうパターンと、今回、韓国の裁判所が徴用工への個別の賠償命令を出したという。

(プチ鹿島)個人補償を。

(モーリー)で、国のレベルではどうなっていたんでしたっけ?

(プチ鹿島)国のレベルでは「1965年に話し合って、それで解決済みでしょう?」っていう。それが日本の立場ですよね。

(モーリー)つまり「韓国政府が個人の補償も引き受けます」っていう理解でいいよね? それをいま、「いや、別に個別補償がある」っていう風になった。で、どうしてこういう……よく韓国では「恨(ハン)」って言われるんですけど。どうして日本……かつて「日帝」っていう風に言われていた植民地時代、そしてその後も反米・反日っていうのは繰り返し韓国社会で――ある種私はポピュリズムのひとつの形態だと思うんですけど――政治の小道具として何度でも燃えるんですよ。何度噛んでもまだ味が出るっていう感じなんですよね。なんでなのか?っていうのをいろんな角度から考えるんですけど、ひとつ、最近ワシントン・ポストで読んだある記事と関連付けました。

(プチ鹿島)ほう。

(モーリー)私の見解です。ワシントン・ポストはサウジの王室がこれまでどんな暴虐をやっても西側世界はサウジが使える道具であったから……いわゆるサウジの民衆に民主主義を任せると怖い結果になる。原理主義になる。だから王様が絶対的に抑えて、多少暴力を使っても欧米にとって都合がいいし、イランと戦ってくれるから使える独裁者だった。そして我々欧米の人間はかつて、どれぐらい多くの「使える独裁者」を利用してきたのだろう?っていう振り返りの記事だったんですよ。つまり、アメリカ人としての自省を込めた記事だったのね。で、起点はサウジだったんだけど、その中にはカダフィ大佐(リビア)だとか、あとはマルコス(フィリピン)。そしてその中に朴正煕。韓国の戦後最初の軍事独裁ですね。

(プチ鹿島)うん。

「使える独裁者」朴正煕

(モーリー)で、その方のことを考えると、その方は朴槿恵大統領のお父さんでもあった人なんですけど。韓国の庶民からすると、日本の植民地支配から戦争が終わって解放された。と、思ったら、あっという間に軍事独裁になり、自分たちは虐げられまくったわけですよ。三代に渡る軍事政権が続き、本当に息苦しく、拷問される韓国人も多かった。そしてそこからベネフィット(恩恵)を受けていたのは神武景気の日本。そしてそれを後ろ盾して軍事支援したアメリカ。そこに韓国庶民の反日・反米のルーツがあるのではないか? つまり庶民から見た時、敵は38度線の向こうにいる北朝鮮ではなくて、むしろ自分たちを直接的に圧迫した人たちをいろんな偽の正義、大義名分で支援したアメリカ。そして戦争に負けえたのにまだ韓国人からベネフィットを抜き取っていった日本という風に、腑に落ちない。それが、歳をとった世代の方にとっても強いんじゃないか?っていうことを考えたんです。

(プチ鹿島)だから、結局いま、国と国の争いみたいになって。「なんで韓国はまたひっくり返すんだ?」とか、そういう見方が多いじゃないですか。でも一方で、庶民というか、いちばん弱い立場を考えると、いちばん弱い立場=徴用工の人たちは「韓国にしろ日本にしろ、俺の人生の時間をどうしてくれるの?」っていう恨みは変わっていないっていうことですよね?

(モーリー)たとえば日韓でやったとしても、それをやったのは朴正煕なわけじゃない? そして彼は日本にはいい顔をして、いろいろと自分の個人的な経済支援はもらったけど、一般庶民のことは圧迫し続けたんですよ。恩恵は財閥(チェボル)の方ばっかりに行って、格差が拡大したわけじゃない? 庶民は割を食いつづけたわけよ。だから「なにが国家の枠組みだ!」ってなるわけ。その心情を理解した方が、なぜ……。

(プチ鹿島)徴用工の個人としての。

(モーリー)だから「国際法上も歴史的な清算も済んでいる」と日本の教科書に書いてあることが、いまさらひっくり返されるわけですよ。

(プチ鹿島)大井さん、どうですか? この徴用工のニュースなんですけども。どうご覧になっていますか?

(大井真理子)そうですね。まあさっきおっしゃっていた通り、反日感情って北朝鮮と韓国の問題をやっている時とかにも同じ民族同士だから、まあいまだに戦争中とはいっても嫌いあわない。しかし日本に対してはそういう反日感情っていうのは炎上させやすいっていうようなことは専門家の方からもお話をうかがっていて。でもそれってたぶん韓国だけではないですよね。日本と中国もそうですし。先週、ちょうど安倍首相が中国に行かれた時のことも報道をしていて。でも、数年前に反日デモでトヨタの車を燃やしていた時と比べて尖閣諸島問題も歴史問題もあまり何も解決していないけども、やはり中国としていまトランプ大統領と貿易でいろいろある中で「日本とお友達になろう」っていう動きが……。

(モーリー)アハハハハハッ! 上の都合ですよね(笑)。そのたびに何百万、何億という人たちが振り回されるっていうのは何なんですかね?

(大井真理子)うんうん。っていうのはすごく思いますよね。

(プチ鹿島)で、一方で上の日本対韓国っていう戦いに夢中になっちゃっている外野もいるじゃないですか。もっと個人のことを考えれば……。

(モーリー)うん。むしろそういう……たぶん高齢者が多いんじゃないかと僕は推理しているんですけど。韓国の庶民的な、とにかく反米・反日が抜けない方。どういう決着があっても、個人的にお詫びを……「日本の天皇が俺にお詫びするまではこの話は終わらないぞ!」っていうような人もいるわけですよ。その人の気持ちっていうものを「矛盾してますよね?」って言いながら。まさにBBCの『HARDtalk』みたいに。そういう方と話し合う場面があると僕はいいなと思うんですけど。

(大井真理子)うん。あと、私がすごくこういうニュースを見ていて思うのは、私結構歴史問題ってすごく昔から興味があって。まあ書くたびに炎上をするんですけど。実際に慰安婦の時にも思ったし。日本の若者はどれだけ知っているんだろうな?っていうのはすごく考えますね。やはり、日本って歴史をホモサピエンスからいまに至るまで、1年でバーッて学んで。その中で第2次大戦のことももちろん学ぶけど、そこまで詳しく知らないみたいな。

(プチ鹿島)なんか慌てて駆け足で……みたいな。いちばん重要な部分を。

(大井真理子)そうですね。それをオーストラリアにはじめて留学した時、近隣諸国の人たちもみんな留学生として来ていて。他の日本人の学生とかと「慰安婦、どう思う?」とか「南京のこと、どう思う?」ってなった時、私は結構興味があったので調べていたんですけど、他の日本人のお友達とかで「ああ、なんか聞いたことあるけどあんまり知らない」っていう風に言うと、まあ意見が違って議論になるのはともかくとして「知らない」っていう風に言われるのがいちばん腹が立つとか。まあ、シンガポールとかでもいっぱい華僑の方が戦争中に殺されているのに、そのモニュメントの前でピースサインで写真を撮っている日本人観光客がいたりっていうのが、やはり歴史を次の世代に伝えていかないと、こういうニュースになるたびに理解ができていない中で、ただニュースだけを読んで「腹が立つね」とかそういう反応になってしまうのが、さらに揉めていく原因になるんじゃないのかなって思いますね。

(モーリー)さらに大井さんのユニークな立場っていうのは、BBCというのはイギリス独立党(UKIP)。非常に白人至上主義的で外国人排斥なんですけど。その人たちが近い存在が白人至上主義で「Holocaust denial(ホロコースト否認)」っていって歴史を書き換えちゃう。「ホロコーストはなかった」っていう修正主義。この恐ろしさっていうのにBBCはずっと注目されているわけですよね。だから、それを日本人の歴史が風化してピースサインしてしまう人は本当に純粋な無知で「そんなひどいことがあったんだ……」って涙を流しちゃうような人たちなんですよ。全然悪意はないの。

ところがUKIP系の、いわゆる英語で「Sinister(陰険)」なのは、それを知っていて歴史を変えるんですよ。わかっているのに、それを言ってみたら引っかかる人がいるから、その陰謀論を拡げるということで得票する。そういうポピュリズムがイギリスにはあるんですよね。だから、そういうのをご覧になっていると、ますますヒリヒリするんじゃないですか?

(大井真理子)そうですね。やっぱりその、私自身が中国の記者と一緒に番組を作ったりしたこともあって。最初は私は日本の歴史教育の問題点とかも書いていたんですけど、正直話しをしていて、全く噛み合わなくて。本当に同い年ぐらいで、彼女もイギリスの大学院も出ているような子だったので。もう少し、2週間一緒にいたら分かりあえるかな?って思っていたのに、結局分かりあえないとか。そういうのがやっぱり、「草の根からお友達になって、みんなで話し合えばきっと将来は仲良くなれるよ」っていう風に前向きに考えられないなとすごく感じで。ヨーロッパでもそういうナチスのこととかっていうのは話題になりますし。やっぱりどうしても、イギリスの方でもエディターとかはこういう日中間の問題って重なる部分があるというか。かなり、常に言われますよね。「なんでドイツは謝るのに、日本は謝らないの?」とかね。

(モーリー)ああ、そうですね。

(大井真理子)なので、深い問題だなっていう風には思いますね。

<書き起こしおわり>

タイトルとURLをコピーしました