町山智浩 『ミッション:インポッシブル フォールアウト』を語る

町山智浩 『ミッション:インポッシブル フォールアウト』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でトム・クルーズ主演のアクション大作『ミッション:インポッシブル フォールアウト』を紹介していました。

(町山智浩)今日はもう音楽、行ってみましょう!

(『ミッション:インポッシブル』のテーマが流れる)

(山里亮太)聞いたらもうすぐにわかりますね。

(赤江珠緒)ねえ!

(町山智浩)ということで、トム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル』シリーズ6作目の『フォールアウト』の紹介をします。この音楽、いいでしょう?

(赤江珠緒)いいですね! なんかワクワクしてきますね。

(山里亮太)聞くと頭に想像しますね。トム・クルーズの顔が出てきますから。

(町山智浩)ねえ。これは僕が子供の頃にやっていた『スパイ大作戦』というテレビ番組のテーマなんですね。60年代の。それの映画化ということでトム・クルーズがやっているんですけど。僕、この音楽は携帯に入れていつも持っているんですよ。これ、この音楽を聞いているともうつまらない日常が全部楽しいスパイの世界になりますからね。

(赤江珠緒)アハハハハハッ! ああ、なるほどね! ちょっと買い物に行く時とかでも、それを流すと。

(山里亮太)もうとんでもないミッションを背負っているようなね。

(町山智浩)そうそう。だから空港に行く時とか、まあ電車に乗っている時とかでも「俺はすごい世界を救うミッションをやっているんだ」っていう気持ちになりますね。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(山里亮太)急に窓ガラスをガシャーン!って割って誰か入ってきそうですけどね(笑)。

(町山智浩)そうでしょう? 「あそこにいるサラリーマンみたいなやつは実はスパイなんだ」とかそういうことを思いながら生きていくという。非常に人生が楽しくなりますので。でね、今回はトム・クルーズ56才でシリーズ史上最高のヒットをアメリカでいま、飛ばしていますね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、なにがすごいか?っていうと、とにかくこの『ミッション:インポッシブル』の6作目、スタントを全部トム・クルーズ本人がやっているっていうのが売りになっているんですよ。

(赤江珠緒)なんですってね。56才で。

(町山智浩)56才ですよ。あの、同い年です。

(赤江珠緒)うわっ! 町山さん、トム・クルーズと同い年!?

(町山智浩)同い年ですよ。2人とも『サザエさん』の波平よりも2つ年上です。

(赤江・山里)フハハハハッ!

(山里亮太)逆に波平さんって見た目、結構行ってるんだね、じゃあ。

(町山智浩)波平よりも……だからはるかに、黒澤明の『生きる』の志村喬よりも上なんですから。もう。

(赤江珠緒)ああ、そうかー!

(町山智浩)志村喬とトム・クルーズを比べて考えてみてくださいよ、これ。

(赤江珠緒)フフフ、同じ土俵に入れられないんだけど(笑)。

(町山智浩)ねえ。すごいですよ。トム・クルーズ。で、今回はもう話がわけわかんないです。

(山里亮太)わけがわからない?

(町山智浩)話が全然頭に入ってこない映画なんですよ。今回の『ミッション:インポッシブル』って。

(赤江珠緒)あらあら、はい。

(町山智浩)っていうのは、まずアクションありきで撮影が開始されているんです。この映画。

(赤江珠緒)フフフ、ええっ?

(町山智浩)「どういうアクションをするか?」が優先なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? そっちから作る?

(町山智浩)だから撮影段階ではシナリオがなかったんですよ。「だいたいこんな感じ」っていうのでもう撮影に入っちゃいっているんです。で、撮影をしながら少しずつセリフとかを書いていったりして辻褄を合わせていくっていうやり方を取っていますね。

(赤江珠緒)ええっ?

アクションありきで作品を作る

(町山智浩)だから今回ね、トム・クルーズはいちばん最初のアクションは「HALO(ヘイロー)」というんですけども。ものすごい高いところを飛ぶ飛行機から酸素マスクをつけて降下、ダイビングをしてものすごく低いところでパラシュートを開くという非常に危険なことをしているんですよ。それはいわゆるスポーツのスカイダイビングとは違って、これはネイビーシールズとかの特殊部隊が戦争をしている敵の領域内に発見されないように密かに入るためのテクニックなんですね。だからものすごい高いところから飛び降りて、ものすごい低いところでパラシュートを開くっていう技術なんですが、これをトム・クルーズは実際に自分でやっています。

(赤江珠緒)ええっ?

(山里亮太)これなんですよね。自分でやるんですよね。基本。

(赤江珠緒)その高さっていうのはどのぐらいなんですか?

(町山智浩)7000メートル以上です。

(赤江珠緒)7000メートル!?

(町山智浩)しかも、撮影のためにこれを100回繰り返しています。

(赤江・山里)ええーっ!?

(町山智浩)で、これはアブダビかなんかで撮っているんですけど、映画の中ではパリのグラン・パレという美術館があるんですが。そこでパーティーをやっているところに行くためにこの超高高度降下をします。

(赤江珠緒)えっ、パーティーに行くために? 7000メートルから飛ぶ?

(町山智浩)なんの意味もないです!

(赤江・山里)フハハハハッ!

(町山智浩)普通に行けばいいんですよ。パーティーなんだから。全く意味がないんですよ。このシーン! これは、このアクションがあるということで、撮影をして後から話を作っているからそういうシーンが多いんですよ。

(山里亮太)その違和感とかを楽しむのも面白そうですね、これ。

(町山智浩)これね、昔の香港映画がそういう方式で撮っていたんですね。シナリオが書かれて文章となってたり台本になっていたりすると、盗まれることが香港映画では多かったんです。先にそのシナリオで作られちゃったりするんですよ。だからシナリオなしでとりあえず撮り始めるんで、香港映画って昔のジャッキー・チェンの映画とかを見ると話がめちゃくちゃで。どこに転がっていくのかわからないんですけど、そういう面白さがあったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だから今回の『ミッション:インポッシブル』もいったい誰が悪くて誰が悪くないのか、全然わからないっていう(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)それって、ちょっと聞くと見づらいんじゃないかな?って思っちゃうんですけども。

(町山智浩)あのね、だからやっている方も大変だったみたいですよ。演じている人たちも「私は本当はいい人なのか、悪い人なのか」ってわからないで演じているんです。

(赤江珠緒)そんな手探り? すごい!

本編未収録のアクションも多数

(町山智浩)すごいんです。大変だったらしいです。だからいくつかのシーンはものすごくお金をかけて撮っているにもかかわらず、このシーンがいいからって撮っただけなんだけど、ストーリー上どうしても辻褄が合わないんで使われていないっていうシーンがたくさんあります!

(赤江珠緒)もったいない(笑)。

(山里亮太)DVDとかだったら特典映像になるんじゃない?

(町山智浩)これ、予告編でトム・クルーズがグラン・パレっていう美術館のガラス天井からロープでぶら下がって潜入するっていうシーンがあるんですよ。本編にはそれ、ないです。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)ないんですよ。で、予告編でトム・クルーズがヘリコプターに乗って、ヘリコプターで崖っぷちみたいなところにある狭い道路を走っていくと、向こうから走ってくるトラックと激突する寸前っていうシーンが予告編にはあるんですよ。これも、ないです。

(赤江珠緒)えっ? そんな大技がない?

(町山智浩)大技がないんですよ(笑)。話の中に入らないから、取っちゃったんですよ。すごい映画ですよ、これ。

(山里亮太)それももちろん、ご本人がやっているんですよね?

(町山智浩)本人がやっていますよ。だからこれ、インタビューとかで監督のクリストファー・マッカリーが言っているんですけど、とりあえずトム・クルーズが「こういうアクションをやりたい」って言ったからそういうのを撮っているんだけど、それに合わせた話を作っているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)その制作過程とかも映画にしたらめちゃくちゃ面白そうな……。

(町山智浩)めちゃくちゃ面白いと思いますよ。これ、メイキングが死ぬほど面白いと思うんですよ。

(赤江珠緒)ですよね。監督が「トムさん、もういっぱいいっぱいですわ……」みたいな。

(町山智浩)「トムさん、それやらないでいいですから!」とかってことになっていると思うんですよ。「いや、俺にやらせろ!」とか言っていたと思うんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)会議、しているんでしょうね。「どうするんだよ? あの7000メートルのシーン、どこで使うんだよ?」っつって(笑)。

(町山智浩)ねえ。とりあえずやりたいっていうことで撮っているんですけど、それで結局そういうことをやっているうちにトム・クルーズ、撮影中に大怪我をしましたね。

(山里亮太)ニュースになりましたね。

(町山智浩)ロンドンで建物にビルからビルに飛び移るところで、向こう側のビルに飛び移ったところで……そこに写真があると思うんですけども。つま先からビルの壁面に激突して、足首を砕いちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ええっ! この時……本当だ。ぶつかっているね。

(町山智浩)この時なんです。これね、予告編だとね、この足が折れる瞬間が映っているんですけども。これ、映画ではさすがにマズいと思ったので。どう見ても折れているから、折れないように作り替えてますけどね。折れていたら、その後に歩いていくのはおかしいじゃないですか。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)ただ、折れた後にそのビルをよじ登っているシーンはそのまま使っています。

(赤江珠緒)すごいですね、トム・クルーズ!

(町山智浩)でもこれで撮影が中断したんですよ。で、中断したからその間にストーリーを練り直したそうです。

(山里亮太)いや、もうとっくにクランクインしている状態で?

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)そう。「すごいな、この行き当たりばったりって」って思いますけども。

(山里亮太)でも、大ヒットになっているんだもんね。すごい。

(町山智浩)そうなんです。

(赤江珠緒)でもこのジャンプ力もビルとビルの間、すごい空いてますよ!

(町山智浩)これ、すごいですよ。このメイキングを見るとそのジャンプそのものはトム・クルーズ、自力で飛んでいるんですよ。命綱をつけているだけなんです。56才。波平の2つ年上。

(赤江珠緒)フハハハハッ!

(山里亮太)そう考えると波平はちょっと落ち着いちゃっているね。

(町山智浩)波平もがんばらなきゃダメだと思いましたね。あの最後の髪の毛一本を守ろうとしてね、危険なアクションに波平は挑んでいないんですよ!

(赤江珠緒)フハハハハッ!

(町山智浩)今後、『サザエさん』を立て直すためには波平のアクションが必要だと僕は思いますが……。

(山里亮太)7000メートルから落ちたら大変だ……。

(町山智浩)でね、これがもうひとつすごいなと思うのは、トム・クルーズね、今回はヘリコプターを自分で操縦していますね。

(赤江珠緒)うん。免許を取ったって聞きましたよ。

(山里亮太)すごい運転なんですよね。また、曲芸的な。

ヘリコプター・スタントも自分でやる

(町山智浩)そう。このためにトム・クルーズはわざわざ何十時間もかけてヘリコプターの操縦学校に通ってちゃんとライセンスを取っているんですよ。で、なぜそんなことをしたのか? まあいろいろと言っているんですけど、この人はこの前に『バリー・シール』っていう映画に出ているんですね。それはパイロットの実話を映画化したもので、非常に危険な飛行をして密輸をしている男の話だったので。その非常に危険なジャングルとか海ギリギリを飛ぶという撮影中にパイロットが激突して2人、死んでいます。

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(赤江珠緒)ええーっ? 実際に?

(町山智浩)そういう映画のパイロットのシーンで人が死んだら、普通自分で免許を取って飛ぼうと思わないよね?

(山里亮太)いや、怖いですよ。

(赤江珠緒)本当ですよ。

(町山智浩)これ、すごい。この人、逆ですよ。「えっ、なに? 危険な飛行スタントで人が死んだ? じゃあそれは人に任せられないな。俺がやる!」って。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)ニュージーランドの岸壁のところで岸壁ギリギリのところをトム・クルーズが操縦するヘリコプターが飛んでいって。しかもきりもみ墜落とか自分でやっていますよ。

(赤江珠緒)ええっ? きりもみ墜落?

(山里亮太)予告編かなんかで見たけど、これすごいっすよね。

(町山智浩)そう。ものすごいですよ。グルングルンに。今回、お話の方はなんだかよくわからないっていう展開になっていて。とりあえずね、核爆弾の燃料に使われるプルトニウムが盗まれて、それでテロが行われるっていう話なんですけど、非常にいろいろと雑な話になっていまして。まあ、撮影しながら作っているからしょうがないんですけども。プルトニウムを素手で持ったりとか、そういうことをしてたりするんですけど(笑)。まあ、そういうところは目をつぶるというか、まあとりあえずこれだけケガするほどがんばっているんだからお話とかはどうでもいいじゃねえかって思うわけですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でね、これはジャッキー・チェンが昔、やっていた映画に近いわけですね。さっき言ったみたいに。ただ、ジャッキー・チェンも56の時にこんなことはしていなかったですね。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)そう考えると、ジャッキー・チェンを超えているかな?っていう気がちょっとするんですよ。

(赤江珠緒)へー! なんなんでしょう、この方?

(町山智浩)なにがトム・クルーズにそんなことをさせるんだろう?って思いますよね。で、僕は同い年なんですよ。なぜ、俺がやらないのか?って思ったんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。うん。トムはやっているのに、なぜ町山さんは?って。

(町山智浩)そう。だからこの間ね、ハリウッドのスタントマン学校に入ってきたんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? 町山さんが?

(町山智浩)はい。BS朝日でやっている『町山智浩のアメリカの”いま”を知るTV』の撮影で、ハリウッドの本当のスタント学校、バンザイ・ヴィターレ(Banzai Vitale)っていう人がやっているスタント学校に入ってきました!

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)これはだから本当にスタントマンの養成所としてハリウッドでやっているところなんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、バンザイ・ヴィターレさんっていう人はイタリア系なんですけど、「バンザイ」っていうのはこの人の本名なんですね。

(赤江珠緒)へー! 覚えやすい。

(町山智浩)両親が日本に憧れて「バンザイ」ってつけた人なんですけど。

(赤江珠緒)へー! そうなんですね。

町山智浩、スタント学校に入学

(町山智浩)この人、すごいですよ。もうね、テレビとかを含めると100本以上の作品でスタントをやっている人なんですよ。いま、50すぎなんですけども。で、『ザ・ワン』という映画ではジェット・リーと格闘したりとか、結構すごいスタントをやっている人ですね。で、特にこの人は落ちる、墜落スタントが上手くて。その彼の学校に墜落練習場っていうのがあるんですよ。で、すごく高いビルの10階ぐらいから飛び降りたりする練習をするところがありまして。で、やらせてもらいました。

(赤江珠緒)えっ? 町山さんが?

(町山智浩)はい。やっぱりね、トム・クルーズと同い年だから、こっちもやらなきゃならねえなと思いましてですね、やったんですけど……まあちょっと最初だから3階か4階ぐらいの高さにしたんですね。

(赤江珠緒)怖い! 3階、4階って……。

(町山智浩)すっごい怖かった。上から下を見ると、ものすごい怖かった。プールで飛び込みはそのぐらいのをやったことがあるんですけど、水じゃないと怖いんですよ。下はマットなんですけどね。すっごい怖いんですよ。ただね、スタッフは下から撮影したんですけど、下から撮影するとそんなに高く見えないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、でもわかる。11、2メートルぐらいがいちばん人間が上に上がってみた時に怖く感じるって。

(町山智浩)怖いですよ、これ。ねえ。でもね、やりましたよ!

(赤江珠緒)町山さん、飛びました?

(町山智浩)やりました。そしたらね……ものすごい快感なんですよ。やった後は。

(山里亮太)昔、企画で飛び込みとかやらされたけど、飛んだ後は解放感みたいなの、ありましたけどね。

(町山智浩)そう。こう、アドレナリンがブワーッと出てね、「やったー!」っていう感じになって。「もっと高いところからやりたい!」っていう気持ちになるんですよ。

(山里亮太)ええっ! そういうもんですか?

(町山智浩)これ、だからバンジージャンプとかもそうなんですけど。やっぱりね、すっごい快感があるんですね。中毒になるんですよ。たぶんプロレスとかもそうなんですけど、トム・クルーズさんも中毒になっていると思うんですよ。彼ね、やめられなくなっていると思いますよ。これね、誰か止めた方がいいですよ。

(赤江珠緒)そうですね。ここまでのレベルになると、誰も止めないのか。

(町山智浩)トム・クルーズさん、いまね、奥さんと別れて子供も取られちゃってね、もう自暴自棄になっていると思います、僕。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)だからこの映画ができあがったと(笑)。

(町山智浩)なにも守るものがない状態になっていると思うんですよ。これね、快楽があるからね、止められなくなるんですね、これね。

(山里亮太)トム・クルーズの快楽を満たすためにシリーズが(笑)。

(町山智浩)そう。だからジャッキー・チェンの映画みたいになっていくんだったら……ただね、今回見て思ったのは『ミッション:インポッシブル』ってひとつ足りないものがあるんですよ。それはNG集なんですよ。

(山里亮太)ああーっ! そうか。ジャッキー・チェンの映画だったら最後、エンドロールのところにNG集が流れていましたもん。

(町山智浩)ジャッキー・チェンの映画ってコメディーアクションでずっと楽しませてくれるじゃないですか。面白くて。で、「わあ、面白かったね! これからラブホテル行こう!」とか言っているとそこでエンドロールが始まるわけですよ。で、エンドロールが始まるともうジャッキー・チェンが本当に、映画本編では大したことがないようにやっているんですけど、本当に顔面にパンチとか食らって鼻血を出したりとかしていて。で、最後はなんか事故が起こって頭が割れて血だらけになったジャッキー・チェンが救急車で運ばれるところでジ・エンドになりますよね。

(赤江珠緒)はいはい。

(山里亮太)そういうの、ありますよね。エンディングで。

(町山智浩)そう。せっかくそれまで楽しんでいた気持ちが全部吹っ飛んで、どよーんとした気持ちで。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(山里亮太)心配しちゃうっていうね。

(町山智浩)そう。それで映画館を去るっていうのがジャッキー・チェン映画の醍醐味でしたよ。

(赤江珠緒)ふーん!

『ミッション:インポッシブル』にもNG集を入れるべき

(町山智浩)もう腹の中になんか重いものを投げ込まれたような気持ちになって。これでラブホは行けねえだろう……っていうね。あのジャッキー・チェン映画の醍醐味をいま、トム・クルーズに『ミッション:インポッシブル』で蘇らせてもらいたいですね。

(赤江珠緒)これ、でもトム・クルーズの方はまたね、スケールがすごいことになっていますから。

(町山智浩)ねえ。足を本当に折れているからね、すごいんですけど。でもね、さっきのスタントマンの話に戻りますけど、ジャッキー・チェンはハリウッドで一時アクション映画に出ていたんですけど、やめちゃったんですね。で、なんでやめたか?っていうのを僕、直接ジャッキー・チェンに『タキシード』っていう映画の時にインタビューで聞いたんですけど、「僕はハリウッドでは一切スタントのアクションをやっていないんだ。それは契約上、出来ないんだ」って。保険があってジャッキー・チェンは主演だから途中でケガしたら撮影が中断したり映画が流れてしまう。そうすると莫大な損害になって保険会社がそれを支払わなきゃならない。だから保険会社との条項で「スタントは主演俳優は一切やってはいけない」というものにサインをしているんですって。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからジャッキー・チェンはハリウッドでスタントができなかったんで、「つまんねー」って香港に帰っちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でも、トム・クルーズは自分でアクションをしているでしょう?

(赤江珠緒)なぜだ? トムは。

(町山智浩)なぜだと思います?

(赤江珠緒)トムはなんか、自分で払う?

(町山智浩)そう。ヒントはね、俳優でもう1人スタントを自分でやっている人がいるんですよ。それは、シャーリーズ・セロンさんです。あの人は『アトミック・ブロンド』でアクションを2シーンを除いて全部自分でやっているんですよ。

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(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、歯を折ったりしているんですけど。その2人がなぜ……他の人は誰もスタントを主演俳優は実際にやっちゃいけないのに、主演でやっているかっていうと、さっきおっしゃった通り自分でお金を払っているからなんですよ。

(赤江珠緒)すごい!

(町山智浩)保険料を払っているんですよ。払っているから保険会社がOKを出しているんですよ。もしそれでケガしなかったら、保険会社が儲かりますからね。まあ「払う」って言っても億単位ですけどね。数億円、払っているんですよ。

(赤江珠緒)ほー!

自腹で保険料を支払ってスタントをやる

(町山智浩)2人ともその映画のプロデューサーだから。社長だから。これ、すごいなと思ったのはそのスタントマンのバンザイさんに直接その話を聞いたんですよ。「そういう事情だから、彼らはできるんだよ」っていう話を。で、これがすごいのは、そのバンザイさんとかはお金をもらって危険なことをしているわけじゃないですか。トム・クルーズは自分で何億円か払って危険なことをしているんですよ!

(赤江珠緒)本当ですね!

(町山智浩)どうかしているんですよ。「これ、危険だからやめた方がいいっすよ、トムさん!」とか言われると、「バカヤロー! 俺にやらせろ! 3億払うぜ!」みたいな話なんですよ。「3億払うから、俺にやらせろ!」っていうね。どうかしているよっていうかね。ちょっと誰かと付き合ったりして、誰かに止めてもらった方がいいよって思いました。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)ちなみに彼の奥さんだった人(ケイティ・ホームズ)は彼の友達といま、付き合っていたりするですね。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)ジェイミー・フォックスさんと付き合っているんですね。だからいろいろと自暴自棄になっていると思いますよ(笑)。「ムシャクシャしてるからやってんだよ!」とか言いそうな感じがするんですけども(笑)。という感じでね、もう本当にこれは映画を超えたとんでもないものですね。『ミッション:インポッシブル フォールアウト』。

(赤江珠緒)じゃあこれは違う意味で見応えがね。ストーリーというよりも、そのトムの熱意を。

(山里亮太)「ここは意味がつながっていない」とか、そんなの考えなくていいんですね?

(町山智浩)考えない方がいいですよ。「これ、ちょっとおかしいんじゃね?」とか考えない方がいいですよ。そういう映画じゃねえから!

(赤江珠緒)たしかにね。CGでできる時代に子、生身で。

(町山智浩)56才の男のヤケクソ魂を見よ!っていう映画でしたね。

(赤江珠緒)アハハハハハッ! わかりました。いやー、びっくりしましたね。聞いていた以上にすごかったですね。今日は『ミッション:インポッシブル フォールアウト』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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