映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』に出演。2014年アカデミー賞で作品賞を受賞した『それでも夜は明ける』の受賞理由について、このように語っていました。
(赤江珠緒)ということで、なんといっても今回はね、アカデミー賞でございますよ。
(町山智浩)あ、はいはい。
(赤江珠緒)昨日ですよ。
(山里亮太)『あ、はいはい』って(笑)。
(赤江珠緒)なんで急にテンション、下がるんですか!?
(町山智浩)いい加減な。はい。いや、もう大変ですよ。時差があるからね。朝5時に起きて、ずっとスタジオ入りですよ。アカデミー賞の中継。で、終わったらもうね、午後3時で。だから9時間ぶっ続けぐらい?で、いちばん困ったのがね、お腹が鳴り始めて(笑)。
(山里亮太)食べる暇もないから。
(町山智浩)そうそう。で、向こうの、アカデミー賞のアメリカの方がコマーシャルの時にこっちが解説が入るから、全く休みがないんですよ。もうマイクがお腹のグーグーを拾いそうで、すごい困ったですけどね!
(山里亮太)(笑)
(赤江珠緒)スルメとか、置いてないんですか?
(町山智浩)スルメとか、置いてなかったですね(笑)。
(山里亮太)スルメを置いたらね、世界に向けてああいう下ネタを言っちゃうからダメだよ。町山さんは(笑)。
(町山智浩)そうそう。
予想的中
(山里亮太)ただ、町山さんの言った作品と、その言った方々が受賞してましたね。
(赤江珠緒)そうですよ。
(町山智浩)そうでしょ?だからいままでだと、『なんの映画かわかんない』ってなって。そうすると中継見ても面白くないと思ったんですけど。
(山里亮太)『この映画、とったけど有名な人、出てないじゃん』って思っていたのが、理由がわかりますからね。
(町山智浩)ねえ。だから事前に紹介しないとなんないなと思ったのは、たいていアカデミー賞の時っていうのはアカデミー賞までにその映画って公開されてない場合が多いんですよ。日本では。アカデミー賞見て、賞を取ったらこういう風に宣伝して公開しようってするから。
(山里亮太)『アカデミー賞受賞作!』って。
(町山智浩)そうそう。だからね、賞がね日本で見るとあんまり面白くないっていう問題がすごくあるんです。
(赤江珠緒)ああ、そうですね。
(町山智浩)そう。だから。でもずっとね、紹介したから・・・
(山里亮太)これも知ってる、これも知ってるって。監督が出てきたら、『あ、この人が撮ってたんだ。あの作品』みたいな感じで。ちょっと。
(赤江珠緒)今回、だってほぼ全部紹介していただいてたんじゃないですか?候補になっていたの。
(町山智浩)主要作はそうですよ。マシュー・マコノヒーとかね。『ダラス・バイヤーズクラブ』はもう、公開してるのかな?もう。
(山里亮太)したばっかり。
(町山智浩)したばっかりじゃないかな?
(赤江珠緒)そうですね。2月22日からですね。
(町山智浩)はい。もうね、賞を取る気で彼はもう、最初からぜんぜん自信満々で。マシュー・マコノヒーはね。今回、結構みんな取ると思った人たちが取ってるんで、あんまり意外なところってなかったですね。
(山里亮太)だって、全部が超有力候補っていう。激戦だったって言ってましたもんね。
(町山智浩)そうそうそうそう。だって、マシュー・マコノヒーとこの間紹介した『ブルージャスミン』のケイト・ブランシェットなんかも、落ち着いて。『はい、私、知ってました』って感じで。ステージあがってましたね。
(赤江珠緒)『私!?』みたいなの、なかったですね。
(町山智浩)ぜんぜんなかったですね。1人だけ、『それでも夜は明ける』っていう、12年間の奴隷のヒロインの女の子が、ちょっとびっくりした、『ええっ!?』みたいになってましたけど。
(山里亮太)それ以外は順当っていう感じですか?
(町山智浩)順当ですね。あの、ルピタ・ニョンゴちゃんっていう女の子がデビュー作でいきなり助演女優賞を取ってるんですけども。で、まあ150年前の、奴隷としてものすごい虐待をされて。もう凄まじい虐待をされる映画なんですけども。で、今回賞を取って。『よかったね!』とか三谷幸喜さんが言ってるわけですよ。中継番組で。で、僕が『いや、彼女はものすごいケニヤのお金持ちのお嬢さんで、名門イェール大学の演劇科出てて。ファッションモデルで・・・』って言ったら、『うーん・・・同情して損した』って(笑)。
(赤江・山里)(笑)
(町山智浩)『お嬢じゃねーか!』って言ってましたけど(笑)。
(山里亮太)サクセスストーリーの一歩目だと思ったらね。もうサクセスしてたっていう。
(町山智浩)『もう、あげるのは早い!そんなお嬢さんに!』って言ってましたけど(笑)。
(山里亮太)(笑)。それはそれで問題だけど。
(町山智浩)そう。でも大変だと思いますよ。デビュー作でいきなりアカデミー賞を取っちゃったら。この後、大変だと思うよ。
(山里亮太)だってすごいハードル高いところからスタートしていくわけですからね。『あの助演女優だ』って。
(町山智浩)だからすごくね、逆に不幸だと僕は思ったんですけどね。
(山里亮太)でも、やっぱりそれを取るだけのすごい演技があったわけですか?
(町山智浩)映画見るとわかるんですけど、とにかく凄まじい虐待で。それでも夜は明けるって、奴隷を拷問するシーンが多いんですけど。拷問した側もされた側も、撮影現場で気絶したりするぐらい。すっごい大変だったみたいですね。
(赤江珠緒)えっ、撮影現場で?撮影なのに?
(町山智浩)そう。役になりきってるから。特にマイケル・ファスベンダー演じる悪い白人の奴隷主は自分が本当に愛する黒人奴隷のルピタ・ニョンゴちゃんを、それを奥さんに知られているから。『あんた、本当はあの奴隷が好きでしょ?』って言われているから、『いや、そんなことはない!好きじゃないよ、俺は!じゃあ、証明してやる!あの女の子を死ぬまでムチで打ってやる!』ってムチで打つシーンなんて、全員がものすごい辛いわけですよね。役に入っていると。まあ、地獄のようなね。だから奴隷制度っていうのは、黒人にとっても酷いけど、それをやっていた白人の心も破壊してくっていう映画で。すごいシーンですよ。しかも長回しで。何分ぐらい?3分ぐらいの、ものすごい長回しで木に縛り付けた彼女をムチ打つシーンをずーっと映し続けるんですよ。
(赤江・山里)はー!
(町山智浩)すっごいんですよ。まあ強烈なんで、ぜひね。
(赤江珠緒)これもね、日本では3月7日。ですからもう間もなく公開です。
(町山智浩)今週だ。はいはいはい。
(赤江珠緒)それでも夜は明ける。
(山里亮太)受傷直後ですから、まあ混むでしょうな。
(町山智浩)でもね、大逆転ですよ。アカデミー賞、ずっと順番にいろんな賞を発表してくじゃないですか。全部『ゼロ・グラビティ』なんですよ。撮影賞、編集賞、視覚効果賞、音響効果賞、録音賞ってバンバンバン!って。もうゼロ・グラビティばっかり。
(赤江珠緒)宇宙で遭難する。
(町山智浩)そうそうそう。ガーッ!といって、最後に作品賞でバッとそれでも夜は明けるで大逆転っていう感じですよ。
(山里亮太)そんなね、優劣ないのかもしれないですけど、作品賞っていちばんうれしいとか、そういうのは?
(町山智浩)いや、うれしいでしょう。
(山里亮太)いちばんうれしいのは、作品賞ですか?
(町山智浩)やっぱり、うれしいと思いますよ。覚えてないですよ。監督賞とか、細かいの(笑)。作品賞しか覚えてないんでね。そう。そこで取ったんでね、みんなウワッ!っとなったですね。
(赤江珠緒)へー。
(町山智浩)面白かったですよ。結構。アカデミー賞の候補側が直前までですね、ちゃんと見ましたか?って連絡を入れるらしいんですよ。会員に。ハリウッドで働いている5800人の会員に、全員にDVDを送りつけるんですね。候補作の。で、ちゃんと見ました?って言わないと見ないから、投票日直前に電話して。『それでも夜は明ける、見ましたか?』って連絡したら、かなりの人が『ちょっとキツそうなんで見てないです・・・』って。
(赤江・山里)ええーっ!?
(町山智浩)『ちょっと辛そうなんで、見れないです』っていう答えだったって。
(赤江珠緒)あ、そうなんですか。そんなためらうほど。
(町山智浩)ためらうほど強烈で。だからアメリカ人にとっては見たくないものなんですよ。
(赤江珠緒)そりゃ、そうですよね。しかも現実にあって。
(町山智浩)そう。だからドイツ人にとって見たくないものって、やっぱりホロコーストでユダヤ人虐殺があったり。アメリカ人にとっては、たぶん原爆が見たくないものだと思うんですよね。で、各国それぞれ見たくない歴史っていうのがあって。日本だとやっぱり、日中戦争とか。見たくないものってあるわけじゃないですか。だからやっぱり、嫌だなという声で。それで候補の人はアカデミー賞の候補の人が、『見てる人がいないから、それでも夜は明けるはヤバい!』って向こうのマスコミに言って。
(赤江・山里)おお!
(町山智浩)で、ゼログラで行くんじゃないか?って言ってたら、やっぱりギリギリになってみんなヤバい!って思って見たんですね。
(赤江珠緒)そりゃあ、やっぱりね。
(町山智浩)はい。そうするとさ、投票直前に見てるから、インパクト、デカいから!行っちゃいますよ。ガーン!と。
(山里亮太)あ、そういうのもあるんですね!
(町山智浩)そう。それでも夜は明けるって劇場公開時ってほとんど誰も見てなかったんですよ。特に南部ではまともに公開すらしてないですよ。
(赤江珠緒)あ、そうなんですか?
(町山智浩)はい。みんな見たがらないから。自分たちがやってたことを。
(山里亮太)でも、町山さんがこれをご紹介していただいたのって、結構そんな直前っていう感じじゃない時期ですよね?
(町山智浩)僕が予想したやつですか?もう、任せて!アカデミー賞の予想、何年やってんだと・・・もう、80%ぐらいですよ。的中率は、いつも。常に。そりゃもう、癖わかってるから。彼らの。だから呼ばれてるんですよ、僕(笑)。予想屋ですから。だから、競馬場の前で『当たり屋』とか書いて、『次のレースはね・・・』って言ってるオヤジとおんなじですから。本当に。
(山里亮太)すっごい確率で当たりますから。
(町山智浩)そう。耳に鉛筆挟んでいるようなオヤジですよ。あれと基本的におんなじなんで。僕は。
(赤江珠緒)実績が違いますね。素晴らしい。でもあの監督もね、『まだまだ差別的なことが続いてるんだ』っておっしゃってました。
(町山智浩)だって奴隷は実際にいるっていう話をね。してましたけどね。まあ、本当にいますからね。
<書き起こしおわり>
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