町山智浩 映画『福田村事件』を語る

町山智浩 映画『福田村事件』を語る こねくと

町山智浩さんが2023年8月29日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『福田村事件』について話していました。

(町山智浩)で、今日はですね、今週の金曜日。9月1日になるんですけれども。関東大震災からちょうど100年目なんですね。それで、ちょうどその9月1日に日本公開になる日本映画なんですが。『福田村事件』という関東大震災についての映画を紹介します。これはね、僕の知り合いも出てまして。水道橋博士が出ています。

(でか美ちゃん)俳優として?

(町山智浩)はい。博士が参議院議員に当選した後に撮影してるんですけど。

(でか美ちゃん)ああ、そうなんですか?

(町山智浩)そうなんですよ。で、彼の俳優がとして……今まで、何本かやってきてるんですけど。今回は一番いいですね。

(でか美ちゃん)へー! YouTubeもね、町山さんのに出られたりしてましたよね。水道橋博士。

(町山智浩)はい。なんか今、だんだんリハビリしてますから。で、この映画は実際に関東大震災の後にあった事件をもとにしてるんですけれども。監督はですね、森達也さんという人で。この人はずっとドキュメンタリーを撮ってきた人なんですね。オウムとか、佐村河内さんについてのドキュメンタリーとか、そういうのを撮ってきた人なんですけど。今回、初めて劇映画の演出をしました。で、この福田村というのは実際にあった村で、現在はないんですが。千葉県の野田市のあたりにあった、ちっちゃな村なんですけれども。そこで本当に凄惨な事件が起こりまして。それをちゃんと記録しておこうということで作られました。

で、時系列順にお話をしますと……関東大震災というのは1923年9月1日のちょうどお昼頃に起こったんですよね。で、この話はそのちょっと前から始まるんですけど。主人公にあたるのが、井浦新さんですね。彼と、その奥さんの田中麗奈さんが朝鮮にいたんですけれども。そこから千葉の井浦さんの実家のある福田村に帰ってくるんですね。で、韓国というのは1910年……だからこの関東大震災の13年前に日本に占領されるという形で。「占領」というと怒る人がいるんですが、実際には占領なんですが。韓国が日本の植民地化されたんですね。

で、そこに井村さんは朝鮮と日本の人たちの架け橋になろうということで行ったインテリで、韓国語を教えたりしていた人なんですけれども。で、田中麗奈さんはその韓国でビジネスをしていた大金持ちの娘さんなんですね。で、その夫婦が帰ってくるんですが、非常に打ちひしがれて帰ってくるんですよ。で、それは何があったか?っていうと、その3年ぐらい前に韓国で独立運動があったんですね。で、特にキリスト教徒の人たちが日本に対して独立運動をしたんですが。これは単なるデモで、別に暴力とか何もなかったんですが。これが1919年で、三・一運動という運動だったんですが。それに対して、そのデモの参加者、キリスト教徒たち23人を日本の軍隊は教会に監禁をして。そこに火をつけて教会ごと焼き殺したんですよ。

これ、実際にあった事件なんですけども。それに関わっていた井浦さんは挫折して日本に帰ってくるんですね。で、その村にはですね、東出さんがいるんですよ。いろいろありましたね。彼も。で、彼はその村の村外れに暮らす、船の船頭さんなんですね。で、彼が村でいろいろ村八分みたいになってるのは、まあ人妻とエッチしてるからなんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、なんかちょっとリンクするっていうとあれだけど……(笑)。

(町山智浩)なんかすげえなっていう、ギリギリのことをやってるわけですけど。

(石山蓮華)でもね、なんかやっぱり魅力のある方ですからね。

(町山智浩)そう。すごくセクシーだからね。俺ね、100年前の千葉の田舎にあんなのいないだろうと思いましたよ(笑)。

(でか美ちゃん)いや、いたかもしれないですよ? ああいうような、いわゆるねセクシーな男性ってのは、いつの時代もいる。きっと(笑)。

(町山智浩)あんなのがいたら、大変なことになっちゃうんじゃないの?(笑)。

(石山蓮華)どこにいても、ねえ。

(でか美ちゃん)どの時代にいても、ああいう人はモテちゃうの。

(町山智浩)もう、とんでもない危険な男がいるわけですよ。で、そこにですね、讃岐……だから香川県の方から薬の行商に来たその人たちがいて。それが永山瑛太さん率いる薬売りなんですね。で、その頃は薬屋さんっていうのはそんなになくて。薬とかは行商していたんですけどね。で、この人たちがどう絡んでいくか?ってことなんですけども。あ、そうそう。あともう1人ね、忘れちゃいけないのはコムアイさん。

(石山蓮華)ああ、あの元水曜日のカンパネラの。

(町山智浩)そう。彼女が福田村の奥さんなんですけれども。旦那さんが軍隊に行っていて、その間に東出さんとできてしまうんですね。で、それがバレて村にいづらくなっているという、そういう人間模様があって。あと、ピエール瀧さんも出ていますよ。

(石山蓮華)瀧さんも!

(でか美ちゃん)すごいますよね。出演者のラインナップが。

(町山智浩)いろいろと問題のあるラインナップですが、素晴らしいですよ(笑)。

(でか美ちゃん)素敵な俳優さんが。

(石山蓮華)柄本明さんも出てらっしゃいますね。

(町山智浩)そう。瀧くんは地元の新聞社の編集主幹なんです。部長なんですが。過去にですね、自由民権運動に関わっていて挫折して、もう政府の言いなりになって記事を載せている挫折組なんですね。そういった人たちがいる中で、関東大震災が起こるんですよ。そうすると都心の方でですね、その頃、韓国・朝鮮の人たちが労働者として働いていたんですね。仕事を求めてこっちに来ていて。で、「その人たちが暴動している」という噂が流れるんですよ。それは、その4年前に独立運動があったからで。それで彼らが関東大震災の災害に乗じて何かをするんじゃないか?っていう恐怖で、そういう噂が起こっちゃうんですね。で、それが千葉の方にも流れてくるんですが……さらにひどいのは、当時の新聞がそれに加担しちゃうんですよ。

(石山蓮華)えっ、メディアがデマを広めちゃうってことなんですか?

(町山智浩)そうなんですよ。で、これ瀧さん扮する新聞記者のところにもそれが来るんですけども。それは内務省という、今はない機関なんですが。政府の方がやはり、その独立運動があったんで政治的な意図で、そのデマを広めちゃうんですよ。

(石山蓮華)うわあ……。

当時の新聞がデマ拡散に加担してしまう

(町山智浩)で、これは大変なことで。日本の新聞はみんな、それに関わったんですよ。で、その福田村というのは田舎なんで。野田市っていうのは結構、大きい産業があるんで。醤油とかね。なのでそこには朝鮮の人もいたんですけど、福田村には全然いないわけですよ。彼らは全く朝鮮人、韓国人っていうものを知らないんですよ。

(でか美ちゃん)そうか。そもそもわかってがないんだ。

(町山智浩)そう。見たこともないんですよ。ほとんど。でも、そういう恐怖だけが来て。しかも通達があるわけだから。そこで水道橋博士扮する在郷軍人が、軍人だということで自警団の団長をやらされて。で、またあんまり気の強い男ではなくて、虚勢ばかり張っている男なんで。その重責でパニックを起こしていくんですよ。水道橋博士が。

(でか美ちゃん)ああ、軍人というだけでちょっと大きな役を押し付けられちゃったんですね。

(町山智浩)押し付けられて。でも、あんまり自分に自信のない人でね。非常に焦って、パニックになって。「朝鮮人が来たらどうしよう?」みたいになるんですけど。でも、誰だかわからない。どういう人だかもわからない。朝鮮語なんか、聞いたこともないんですよね。彼らは。で、そこに香川県から来た行商人が出くわしちゃうんですよ。で、その頃の日本っていうのは、東京だといろんな地方の人が来ていたんですけども。田舎の人たちは香川どころか、関西弁も聞いたことがないんですよ。千葉の田舎の人は。

(石山蓮華)すごく閉鎖的な環境でずっとやってきたってことですね?

(町山智浩)そうなんです。今、関西弁ってテレビやラジオで芸人さんがいっぱいしゃべっているから、聞くでしょう?

(石山蓮華)聞きます、聞きます。

(町山智浩)でもその頃、ラジオはないんですよ。

(でか美ちゃん)そうか。なんか本当に自分の生活圏内のことしか、文化として入ってこないから。

(町山智浩)当時は入ってこないんですよ。だからもう関西弁だろうが、香川弁だろうが、朝鮮語だろうが、とにかく自分たちも聞いたこともない言葉なんですよ。

(でか美ちゃん)そうか。なまってると「日本語じゃないかも?」みたいなぐらいなんですね。

(石山蓮華)自分が知っていることのすべてが「日本」になってるってことですもんね?

(町山智浩)そうそう。自分たちの近所のものしか「日本」じゃないから。で、その行商人の一団を朝鮮人だと思い込んで、みんなで武器を持って取り囲むんですね。農具とか、竹槍とか、鍬とか、そういったものを持ってね。で、「どうしよう?」ってことになるんですよね。で、「日本人だったらこういう言葉がしゃべれるはずだ」って言うんですけど、彼らはなまっているから「これは違うんじゃないか?」ってなるわけですけど。

で、その100人以上のその村人に囲まれた永山瑛太さんたちは全部で9人なんですが。そのうち女の人が3人かな? あとちっちゃい子が3人いて。しかも女の人の1人は瑛太さんのお子さんを妊娠してるんですね。しかも1歳ぐらいの乳飲み子も抱えているんですよ。それを村人が囲むんですけども。もう、何だかわからないわけですよ。村人はパニックになっちゃっていて。で、大変なことが起こっていくという、まあ悲惨な悲惨な事件ですね。

(石山蓮華)しかも、実際の事件なんですもんね?

(町山智浩)そうなんですよ。そこで一番大きいのは、彼らが何人だかわからない。日本人なのか、朝鮮人なのかもわからない。で、「もし日本人だったら、殺したら大変なことになるぞ!」って言ってるんですけど……そこで「じゃあ、朝鮮人なら殺してもいいのか?」っていう。

(でか美ちゃん)いや、そうですよね。そもそも。

(石山蓮華)そうなんですよ。その自分と文化が違う、言葉が違うって言ったって、やっぱり人は人。人間で。やっぱり私と、あるいはあなたと同じような……まあ、別の言葉とか文化を持っているけれど同じ生き物だから、相手を尊重しなきゃいけないけれども。でも、パニックとか、デマとかって本当に……。

(でか美ちゃん)冷静じゃなくなっちゃうというか。ねえ。

(石山蓮華)で、メディアがそこに加担してるんだっていうのもなんか、すごくいろいろと考えちゃいますね。

(町山智浩)新聞社はね、そのくらいの頃からだんだんだんだん政府の言う通りの記事を書くようになっていっちゃうんですよね。日本はね。で、関東大震災が起こるまでっていうのは実は日本って、すごく自由な国だったんですよ。「大正デモクラシー」っていうのがあって。本当にもう、いろんな政治的な意見が飛び交っていて。文化的にもね、非常に自由な花が開いた時期があったんですけど。この関東大震災から一気に日本はもう政府の下での全体主義的な国になり始まるんですけど。それは、これがきっかけなんですよね。で、この映画を撮るということはすごく重要なことで。というのは、今でも「関東大震災の時の朝鮮人虐殺はなかった」って言ってる人たちがいっぱいいるんですよ。

(でか美ちゃん)うん。いますよね。

(石山蓮華)Webとかだと、ねえ。

(町山智浩)そうなんですよ。で、実は1980年代ぐらいまでは、あんまりそのことは語られなくて。この福田村事件も1980年代に徹底的な調査が進んで。全部、事実関係がはっきりしたんですけど。で、東京のあちこちにも、そういう虐殺事件があったところに慰霊碑とかが建てられたんですね。でも今、それを否定してその慰霊碑を撤廃しようとする右翼の人たちもいるし。あとはずっと、これまでの東京都の都知事は「そういうことを繰り返さないように」っていうことで、毎年ずっと関東大震災の時に追悼をしていたんですね。ところが今現在の小池百合子都知事はいくら言われても、関東大震災の虐殺の被害者に対する追悼を個別に行わないという。

(石山蓮華)これ、本当に毎年ニュースになってますけど。「どうして?」って思いますね。

(でか美ちゃん)「どうして?」っていうのも思うし。私は……すごい言葉を選ばなきゃいけないとは思うんですけど。どの層に支持されたくて、頑なに追悼文を送らないんだろうとは思いますね。

(町山智浩)やっぱり、そういう層に支持されたいんだと思うんですけど。そういうことを否定したいっていう人たちが、いるんですよね。

(でか美ちゃん)たしかに、信じたくない事件ではありますよ。100年前とはいえ、こんなことが起きたんだっていうのは。でも、ねえ。

(町山智浩)それはやっぱり「日本人はこういうことをしないんだ」っていう風に思い込みたいんでしょうけど。でも、どんな人たちでもします。

(でか美ちゃん)そうなんですよね。一度、パニックに陥ったら……。

誰にでも起こりうる話

(町山智浩)どんな人たちにも、差別意識があるし。パニックになると自分たちと違う人たちを敵視するんですよ。別に何人だっていう問題じゃないんですよ。誰でもやることなんで。だから「◯人だからしない」とか、それはないんです。そんなことは絶対にない。だから、それを絶対に防がなきゃいけないんでこの映画が作られる必要があるんです。あと、その否定をしてる人たち……「こんなものはなかった。デマだ」って言っている人がいるんですけど。じゃあ、ここで殺された日本人たち9人はいったい何だったんだ?っていうことになるんですよ。

(でか美ちゃん)「日本というものを守りたい」っていう一心でそういう風に思いたいのかもしれないですけど。でも実際に、日本の人も亡くなってるわけだから。

(町山智浩)そうなんですよ。日本人が60人ぐらい、亡くなってるんですよ。で、だからこれがまたね、60人が亡くなってるっていうことは、それよりももっと遥かに多く、何百人もの人たちが「お前、朝鮮人だろ?」って言われて殺されそうになっているんですよ。これは有名な話で、千田是也さんという俳優さんは本当に殺される寸前までいったんですよ。

「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑」に込めた演出家・千田是也の思い (加藤直樹)
■私も加害者になったかもしれない 東野英治郎の名前は、30代以上の方なら覚えているだろう。テレビ時代劇「水戸黄門」で主人公を演じていた俳優だ。では、その東野英治郎と共に若き日に「俳優座」を結成して以来

(町山智浩)それ以外にも、たとえば沖縄の人ね。沖縄も人も「言葉が違う」っていうことで、かなり殺されてますね。で、中国の人も殺されています。だからもう、めちゃくちゃなことがあって。ただね、実際に200人以上300人近くの人たちが殺された件はその後、ちゃんと起訴されています。で、逮捕されて罪を問われて刑に服したりしてるんですけど。その後、昭和天皇が天皇になる時に恩赦をされてはいるんですけれども。だから、警察に全部資料があるわけですよ。で、実際に起訴されてる刑事事件であるにもかかわらず、それを「なかった」って言う人たちがいるんで。

(石山蓮華)それって、その自分自身が信じる国家であったり、政府だったりっていうのをすごく恣意的なところで区切ってしまうっていうのは、自分自身の……なんだろうな? その踏んでいる地面とか、その思想的な地面についても、やっぱりなんか関わってくるところなのかなと思う部分がありますね。

(町山智浩)やっぱりね、怖いのはこれ、100年前のことなんですけれども。当時、ラジオもない時代ですよ。「じゃあ、もう二度とこんなことをしないのか?」っていうと、今はもっと怖いことになっている。ネットがあるから。

(でか美ちゃん)デマも広まりやすいですよね。

(町山智浩)デマが広まりやすい。

(石山蓮華)最近になっても、何かがね起こる時に私はWebでデマを見かけることがあって。そこに通報の機能とかがあったら、通報するようにはしてるんですけども。「ええっ? 今も?」って思うようなものが……。

(町山智浩)今、怖いですよ。だって、AIとかでいくらでも作れちゃうから。

(でか美ちゃん)たしかにそうなんだよな。証拠的なものがね、作りやすかったり。

(石山蓮華)写真とか動画であっても。

(町山智浩)全部、作れちゃうんで。

(でか美ちゃん)なんか、すごいちっちゃな話とかでも、たとえばテレビに出させてもらったりして。それが自分が思った感じの発言の放送内容になってなかったみたいな時に私が「これはこういうニュアンスでしゃべったんです」みたいなのをSNSに書いたりするじゃないですか。訂正。デマほどじゃないけど。「これはこういうニュアンスでした」っていう訂正は、本当に広まらないんですよ。訂正ってマジで広まらないなっていうのは身をもって感じてたりしたんで。もうガッツリデマとか、これだけ社会的影響力ある話だと、余計にその差はあるでしょうね。

(町山智浩)そうなんです。だから今こそ、本当に怖いことになっているんで。本当にこういう問題を繰り返さないように、ぜひこの『福田村事件』を見ていただきたいなと思います。

(町山智浩)今日は今週、9月1日金曜日に公開される映画『福田村事件』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(でか美ちゃん)ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

映画『福田村事件』予告

<書き起こしおわり>

宇多丸 関東大震災と朝鮮人虐殺を語る(2022年9月1日)
宇多丸さんが2022年9月1日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で関東大震災の際に発生した朝鮮人虐殺についてトーク。『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』『TRICK トリック 朝鮮人虐殺をなかったことにしたい人たち』『証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人』などの本を紹介しながら話していました。
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