町山智浩 『アトミック・ブロンド』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でシャーリーズ・セロン主演映画『アトミック・ブロンド』を紹介していました。


(町山智浩)ということで今日はですね、あのシャーリーズ・セロンが主演のすごい映画『アトミック・ブロンド』を。

(山里亮太)インタビューしたこと、あるらしいじゃないですか。

(町山智浩)ああ、本当に?

(海保知里)うん。すっごい怖かった。「早く終わらせろ」空気がムンムンしていて、すっごい怖かった。

(町山智浩)怖いんですよ。優しくないんですよ。

(海保知里)あ、やっぱり?

(町山智浩)あの人、怖いんですよ。

(海保知里)やっぱり怖いですよね。

(町山智浩)低い声でね。デカいし。

(海保知里)それで顔が全然動かない。表情も変わらない。

(町山智浩)すごい怖いです。姉御だから、すごいですよ。

(海保知里)それで私、『はなまるマーケット』で行っているから、もう「好きな食べ物は?」とか聞かなくちゃいけないプレッシャー……。

(町山智浩)ああ、チャラチャラした話を聞くと、「フンッ!」っていう感じで鼻で笑われるんですよ。「そんなこと聞いてるんじゃないわよ」みたいな感じでしょう?

(海保知里)「I’m sorry」ってずっと謝りながらインタビューしていましたよ。もう本当、「ごめんね、ごめんね。聞きたくないよ。私もね、聞かなきゃいけないのよ……」とか言いながらのインタビューで。

(町山智浩)これ、『アトミック・ブロンド』はシャーリーズ・セロンの最終兵器ぶりが爆発しているすごい映画なんですけど。ちょっと音楽を聞いていただけますか?

Eurythmics『Sweet Dreams』



(町山智浩)(曲に合わせて歌う)

(海保知里)町山さん、上手いですね(笑)。

(町山智浩)知ってますよね、これ?

(海保知里)はい。聞いたことあります。

(町山智浩)「聞いたことある」程度?

(山里亮太)僕はいま、はじめて聞きました。

(町山智浩)はじめて聞いた? これは知っておいた方がいいです。歌詞を覚えておいた方がいいですよ。これは、だいたい世界中の人が歌える歌。

(海保知里)へー!

(町山智浩)僕はちなみに20年ぐらい前、昔歌舞伎町にストリップバーがありまして。そこに友達とみんなで行った時に、そこにイスラエルの子たちがストリッパーとしてバイトしていたんですね。イスラエルの人たちっていうのはある一定の年齢になると世界中を回ってバイトしなきゃなんないんです。それが卒業というか……。だから、かならずそれを、行商とかしたりする義務があるんですよ。通過儀礼なんですけど。そこで彼女たちはなぜかそのストリップバーで働いていて。そこで盛り上がったんで二次会に行ったんですけど、二次会でこれをみんなで歌って。

(海保知里)ええーっ!(笑)。盛り上がる曲なんだ。

(町山智浩)これ、僕ぐらいの世代だと日本人でも普通にポップスを聞いている人だと1番は結構歌えちゃうんです。英語が簡単だから。だからこれは「甘い夢(Sweet Dreams)っていうのは何でできているのか、知っているかい?」っていう歌なんです。それは非常に政治的な内容で、「人々はみんな何かを求めている。人々を支配しようとしている人もいるし、支配されたがっている人もいる」みたいな、非常に政治的な、ファシズムとかそういったものの構造を歌っている歌なんですよ。

(海保知里)ふーん! 知らなかった。

(町山智浩)で、これはユーリズミックスっていうバンドが歌っていて、当時これが非常にヒットした理由っていうのは、1980年代っていうのは世界中の政治状況がものすごく大きく変わる状況だったからなんですよ。で、まあ具体的にはソ連が崩壊するわけですよ。1989年に。それで東ヨーロッパの方が全部、ルーマニアとか次々と独裁政権が崩壊していって。で、ベルリンの壁が崩壊する。要するに、東ドイツ・西ドイツに分かれていてその東ドイツ側が共産主義でソ連の影響を受けていたのが、その間に建っていた壁が崩壊する。人民たちがハンマーを持って破壊したんですね。ということがあった時なんで、この手の歌がすごくヒットして。

(海保知里)ふーん。

(町山智浩)で、特にドイツ周辺、ヨーロッパにおけるポップス市場が非常に政治的になった時代があるんですよ。それを背景にしているのが、今回の『アトミック・ブロンド』っていう映画なんですね。これは1989年の東西に分かれていた頃のベルリンが舞台で。イギリスの秘密諜報員……だから『007』と同じのシャーリーズ・セロンが東ベルリンに潜入して秘密を持っているロシア人を奪い取って。彼を助けて西ベルリンに脱出できるか?っていうスパイアクションです。

(海保知里)救出作戦ですか?

1989年東ベルリンが舞台のスパイアクション

(町山智浩)救出作戦です。救出というか、その頃は要人を西側に逃げ出させるのがかなり、スパイの仕事だったんですよ。実際に。まあ、中国の方でもやっていましたけども。で、これがすごいのが、シャーリーズ・セロンは女性のスパイなんですけども、素手でわらわらと襲ってくる東ドイツの敵を片っ端からやっつけるんですよ。

(海保知里)ええっ、シャーリーズ・セロンが!?

(町山智浩)シャーリーズ・セロンが。で、これがすごいのが、そういう映画って結構あるわけですよ。女性がカンフーを使ったりしてやっつけるって。でも、大抵は「こりゃないよ」って思うんですよ。

(海保知里)ああ、たまにそれはありますよね。

(町山智浩)ですよね。で、どうしてないか?っていうと、腕が細くてパンチ力がそんなに女性はないですよね。だからジーナ・カラーノとか何人かのMMAっていう総合格闘技系のに出ている人たちは実際はこんな腕してますから。

(山里亮太)ムキムキなね。

(町山智浩)ムキムキだから。あれだったら倒せるけど。それこそ、『エクスペンダブルズ』に出ていた彼女(ロンダ・ラウジー)とか、そういう人たちは本当にこんな腕だからやれますけども。



(町山智浩)じゃあ、シャーリーズ・セロンはモデル出身の人だから、そんなにすごい筋肉じゃないですから。まあ、実際はすごいですけどね。そういう、それこそ海保さんみたいな女性でも男たちをやっつけられるかどうか?っていうことで、作った側がシミュレーションしているんですよ。で、監督はもともとスタントマン出身の人なんで。で、その人たちが倒すには、まず股間を攻撃する。

(海保知里)ああ、それは絶対に言いますよ。股間ですよね。

(町山智浩)股間ですね。あと、足の甲とか手の甲とか、あとこめかみとかの弱点を徹底的に攻撃する。で、パンチ力がなかったら一撃じゃなくて二撃、三撃、四撃とかましていくという(笑)。

(海保知里)股間を何度も(笑)。

(町山智浩)そうそうそう。で、武器があったら……たとえばフライパンとかあったら、フライパンでバーン!って殴るとコメディーになっちゃうんだけど、フライパンのへりのところで水平に振ってこめかみを叩けば、まあ脳天が砕けるわけですけど。そういうような、技術的にリアルな格闘技がこの中で描かれているんです。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、シャーリーズ・セロンはそれを体得して、スタントマンなしで演じています。

(海保知里)やっているんですか!

(町山智浩)スタントマンなしでやっていますね。で、これがまあすごいんですよ。全編ずーっとシャーリーズ・セロンが戦い続ける映画。あの、『ジョン・ウィック』っていう映画、ありましたけども。ご覧になりました?

(山里亮太)僕は『1』の方だけ、この間Netflixで見ました。

(町山智浩)『ジョン・ウィック』の共同監督の1人なんですよ。この監督は。

(海保知里)だから武術が結構すごいんですね。

(町山智浩)はいはいはい。で、『ジョン・ウィック』ってストーリー、はっきり言ってなかったじゃないですか。最初から最後までずっと……。

(海保知里)だって、犬を殺された復讐のために……みたいなね。

(山里亮太)ひたすら戦い続けて。

(町山智浩)ずーっとキアヌ(・リーブス)が戦い続けているだけじゃないですか。それの女性版ですよ。今回の『アトミック・ブロンド』は。

(山里亮太)ただ、見ていて面白いですけどね。見ていてずっと戦っていて、「すげーな!」って。

(町山智浩)すごいですよ、これ。で、しかもね、シャーリーズ・セロンはこの人自身が結構怖い人ですから。

(海保知里)いや、本当に。

(町山智浩)この人、ショーン・ペンと付き合っていたんですけど。アカデミー主演男優賞の。そのショーン・ペンを捨てた人ですよ。で、ショーン・ペンがすがりついたりして大変だったんですよ。

(山里亮太)へー!

(海保知里)忘れられなかったっていうね。

(町山智浩)そう。で、結構映画祭みたいなやつでショーン・ペンと久しぶりにあった時に、かわいそうだからってこう、ショーン・ペンを抱いてあげてましたよ(笑)。

(山里亮太)逆に(笑)。

(町山智浩)「逆じゃん、それ!」っていう(笑)。

(海保知里)完全に男ですよね。シャーリーズ・セロンがね。

(町山智浩)そう。だからショーン・ペンもたぶん抱かれたんだろうと思うんですけど(笑)。完全に男とか女とかを超えていく人なんですよ。シャーリーズ・セロンって。

(海保知里)『マッドマックス』でかっこよかったですよね!

(町山智浩)そう。マッドマックスよりも強いんだもん(笑)。

(山里亮太)そうだ! 『マッドマックス』の方だ。

(町山智浩)そう。だから『マッドマックス』は彼女の方が大きかったから、彼女主演のシリーズに今度、なるんです。フュリオサのシリーズが今度、始まるんですよ。だからいま、最高のアクション女優になぜかなってしまっているシャーリーズ・セロンなんですけども。この人、普通の人じゃないんですよ。

(海保知里)どういうことですか?

(町山智浩)ものすごい地獄を実際にくぐり抜けている人なんで。

(海保知里)南アフリカ出身? 違いましたっけ?

(町山智浩)そうです。南アフリカ共和国出身で。この人、16才の時にお父さんがDVで、家庭内暴力をふるって夜中に酔っ払って暴れて、お母さんをバンバン殴ったりしていて。お母さんがそれに拳銃で対抗して、お父さんを射殺しているんですよ。

(山里亮太)へー!

(海保知里)すごい話……。

(町山智浩)その時、彼女は16才で、その家にいるんで。だから目撃者ですよ。第一目撃者になるのかな? それで裁判になって、南アフリカでものすごく有名人になっちゃったんで、いられなくなって。お母さんと2人で世界を流浪しながらモデルとして……まだ10代ですよ。彼女は。それでお母さんを食わせていくっていうことをしている人なんですね。

(海保知里)へー!

(町山智浩)で、この人、英語ができなかったんですよ。英語がネイティブじゃないから。アフリカーンスっていうオランダ系の言葉なんですよ。彼女は。だから、英語ができないままロサンゼルスでモデルを始めている時に、銀行で言葉が通じないから銀行の受け付けの人と怒鳴りあって。「ファックユー!」とか言っていたらしいんです。そしたら、そこにたまたまハリウッドのモデルクラブというかスカウトする人がいて。ものすげえ美人が「ファック!」とか言っているから「なんだろう?」って……。

(海保知里)まあ、それ以上は言わないでください。Fワードはそれぐらいで……(笑)。

(町山智浩)そうそう(笑)。それで、「ちょっと君、来てみな」っていうことで、映画界に入っていったというすごい人なんですよ。この人。

(海保知里)だから……。

(町山智浩)すごいんですよ。だから男には決して負けない。というか、男を捨てる側の女で。で、まあこの『アトミック・ブロンド』ではボッコボコにしてますから! 50人ぐらいの男を半殺しっていうか、殺したりしていますから。で、金玉をボコボコに蹴ってますから。もうね、たぶん何人かはあんな美人に蹴られているから、死ぬ瞬間にイッてると思います(笑)。

(山里亮太)(笑)

(町山智浩)最高の死に方だと思いますよ(笑)。

(山里亮太)ドMな要人がいたら。

(町山智浩)そう思いますよ。僕。いまね、だから金正恩暗殺計画を立てるとか言って。韓国がね。あれ、募集しているっていうか発表をしたじゃないですか。金正恩暗殺計画って。それ、「暗殺」って言わないよね?

(山里亮太)そうですね(笑)。

(町山智浩)正式に公表しているものは暗殺って言わないだろ?って思いますけどね。

(山里亮太)果し合いみたいになっちゃう。

(町山智浩)そう。どうなんだろう?って思いますけどもね、まあシャーリーズ・セロンを雇ってくれるといいかなと。そうすれば、成仏すると思います。はい。

(海保知里)(笑)

(町山智浩)決して苦しまないで、思いっきりイキながら死ぬと思うんでね。

(山里亮太)気持ちよく死ねる。

(町山智浩)気持ちよく死ねるんで、成仏すると思うんですけど。でね、これね、音楽がよくて。1989年の当時のベルリンでもう鳴っていたような曲が次々とかかるんですよ。で、たとえばネーナの『ロックバルーンは99』をかけてもらえますか?

Nena『99 Luftballons』



(町山智浩)これね、当時ドイツから出てきて世界的にヒットしたネーナっていう女の子が作った歌なんですけど。これ、『ロックバルーンは99』っていうちょっとかわいい感じに聞こえるじゃないですか。これ、実は核戦争のことを歌っているんですよ。

(海保知里)ええっ?

(町山智浩)そうなんですよ。その頃、東西がものすごく緊張していたんで。核戦争が起こるかもしれない状況っていうのが80年代にあったんですよ。だから、わかんないかな? 僕らは「いつ核戦争が起こるかわからない」っていう感じの青春時代だったんです。80年代って。

(山里亮太)ギリギリだったんですよね。

(町山智浩)ギリギリだったんですよ。本当にいつ起こるかわからなかったんです。だからそのことを歌っている歌なんですね。そういう世界状況の中で作られた歌がいっぱい出てくる映画で。だから僕のような50代の人にとっては本当に超懐かしい曲ばっかりですよ。ニューオーダーの『Blue Monday』とか、いまの『ロックバルーン』とか。あと、ジョージ・マイケルの『Father Figure』っていう歌も流れるんですけど。

George Michael『Father Figure』



(海保知里)ええ。

(町山智浩)この歌はね、「父親代わりになるよ」っていう歌なんですけど。この頃、ジョージ・マイケルはゲイだっていうことを知られてなかったんですよ。

(海保知里)ああー。

(町山智浩)だからこの「父親代わりになるよ」っていうのはいろんな意味があって。たとえば女の子に「好き」って言われた時に、「いや、恋人にはなれないんだけど、父親代わりになるよ」って言ったのか、それともゲイの恋人にそう言ったのか。いろんな意味がいま、論じられているのがジョージ・マイケルの『Father Figure』っていう歌なんですけど。この映画『アトミック・ブロンド』の中でのシャーリーズ・セロンはバイセクシャルなんですよ。

(海保知里)そういう設定なんですね。

(町山智浩)設定なんですよ。これ、いろいろと面白くて。ティル・チューズデーの『Voices Carry』っていう歌もその当時、ヒットしたんですけど。この歌、『Voices Carry』っていうのは「聞こえちゃうよ。声が届くから気をつけて」っていう歌なんですよ。

‘Til Tuesday『Voices Carry』



(海保知里)うん。

(町山智浩)これは、レズビアンの女の子同士がイチャイチャしていると、「他の人が聞いているからやめて!」っていう歌なんですよ。歌詞が。すごく画期的な歌なんですよ。当時としては。ところがこれは、その当時アメリカでもそのままの形では放送できなかったので、プロモーションビデオでは男の子と女の子の恋人同士で、女の子が文句ばっかり言っているから、「ほら、静かにして」って男が言う内容に変えられているんですよ。いまだったらOKなんだけど、まだその時代はレズビアンの歌はダメだったんですね。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)これがティル・チューズデーの『Voices Carry』だったり。で、それがまた、レズビアンのシーンにかかったりするんですよ。

(山里亮太)なるほど!

(町山智浩)すごいいいですよ、これ。シャーリーズ・セロンだと男も女も抱かれるというね。シャーリーズ・セロンを抱ける人っていうのは一体誰なのか? 誰なんだ?っていう。

(海保・山里)(笑)

(町山智浩)いないんじゃないか?って思うんですよね。もうほとんど。もう三船敏郎ぐらいじゃないとダメなんじゃないかと思いますよ。シャーリーズ・セロンに対して男になれるのは三船ぐらいしかいないんじゃないか? と。スタローンでも抱かれそうだもん。

(海保知里)ああー!

(町山智浩)そのぐらいだもん。この人は。もう、すごいですよ。というね、抱かれたい女、シャーリーズ・セロンの『アトミック・ブロンド』。最高でしたね、もうね。

(海保知里)こちらは10月20日公開になるということで。みなさん、どうぞお楽しみに。今日は『アトミック・ブロンド』についてうかがいました。町山さん、どうもありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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