漫画家の井上三太さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』にゲスト出演。松尾潔さんと選曲をした曲を聞きながら、メロウな音楽対談をしていました。
このあと23時からは『松尾潔のメロウな夜』。今夜はゲストに漫画家・井上三太さんをお迎えします。昨年末に新たな表現活動を求めてLAに移住した三太さん。2014年9月以来、2回目のご出演です。元祖ニュージャック世代?な50歳コンビのメロウトーキングをお楽しみに!#nhkfm #メロ夜 #radiru #radiko pic.twitter.com/aM8Fbpy7XD
— 松尾潔 (@kiyoshimatsuo) 2018年4月16日
(松尾潔)今夜は漫画家の井上三太さんをお迎えして、昨年の暮れにロサンゼルスに移住された三太さんの新生活、そしてメロウな音楽の話。いろんな余談、雑談ができればという風に思っておりますが。お久しぶりです。こんばんは。
(井上三太)こんばんは。
(松尾潔)三太くん、今日は2回目のゲスト出演ですけどもね。あれは何年前でしたっけ?
(井上三太)結構なりますね。
(松尾潔)その時のね、フランス語を披露してくれたというのはいまだに語り草になっていますよ。
(井上三太)本当ですか?(笑)。
(松尾潔)今日はなんかフランス語でまたもう一発、どうですか? 女性ファンが増えますよ。
(井上三太)いやいや、この前言ったことしか言えないので。僕は。フフフ(笑)。
(松尾潔)いや、それは松本さんスタイルですべらない話は何度やってもいいんじゃないですか?
(井上三太)じゃあまあ、手短に。「Bonjour Monsieur et Mademoiselle. Je m’appelle Santa Inoue. Dans la voiture, il y a des gros caca.(?)」。すいません……(笑)。
(松尾潔)いや、本当にこれさ……ハッタリがきくよね、三太くんね(笑)。
(井上三太)フフフ(笑)。なんの役にも立たなかったんですけどね。
(松尾潔)いやいや、けど三太くんね、このたび『グイグイ力』っていうね、漫画ではないはじめての単行本を出されたんですが。この中に、もしかしたらこういうきっちりと語ったのははじめてかもしれない、フランス生まれフランス育ちだっていうこととか。その時のね、まあ自分にいちばん大きな芸術の扉を開いてくれたお父さんの話とかをされていますけども。ここに来てなんか三太くんさ、「芸術とは……」みたいな話っていうのはポチポチするようになったじゃない?
井上三太『グイグイ力』
(井上三太)そうですね。
(松尾潔)そういうのはやっぱり、フランスでの人生のはじめの10年弱ぐらいっていうのは大きいですか?
(井上三太)そうですね。その後に父と、まあ仲直りっていうのかな? いろんな青春時代のケンカっぽいのもあった後に……。
(松尾潔)そりゃあ、あるよね。男の子とお父さんってあるよね。
(井上三太)自分もそのプロの漫画家になって。で、いろんなことを教えてくれたんで。父は漫画は詳しいわけじゃなかったけど、絵のいろんな言語っていうか……。
(松尾潔)シルクスクリーンっていうのかな?
(井上三太)そうですね。画家でしたね。
(松尾潔)その使い方とかっていうのは、やっぱりお父さんのやってらっしゃることっていうのはちっちゃい時はわかんないじゃない。
(井上三太)わかんないですね。ええ。
(松尾潔)いまになってみると、たとえばそのスペースの使い方とか、そういうなんか今回の本の中で、割とそういう方法論的なこととかも話していたから結構僕、びっくりしたの。
(井上三太)ああ、本当ですか。フフフ(笑)。
(松尾潔)あの、普段話してる時ね、三太くんとプライベートで会ったりする時は、割とそういう話を硬軟取り混ぜて話してくれる人だけど、なんかマイクに向かったらやっぱり圧倒的に下ネタとかが多い人じゃない?
(井上三太)いやいや、前回ちょっと反省があって、今日はちょっと大人しめでスタートしてんですけど。フフフ(笑)。
(松尾潔)そうですか(笑)。今日はたっぷりとお話をお伺いしたいんですけどね。まずね、ちょっとリスナーの方からね、こういうご指摘をいただきまして。これは番組じゃなくて、Twitterの方でご指摘いただきまして。先週、僕がカサンドラ・ルーカスっていう女性シンガーの『Name On It』っていう曲をご紹介したんですけど。三太くん、カサンドラ・ルーカスって人、知ってる?
(井上三太)いや、松尾さんのTwitterで知りました。はい(笑)。
(松尾潔)「松尾さん、この人を『日本では知られていないけど、いいシンガーですよ』みたいな感じで話していたけど、この人は90年代に活躍したチェンジング・フェイシズの人じゃないですか?」って言われて、「ああ、その通りだ」と。僕、「あれ? もしかしてチェンジング・フェイシズって昔、会っていないかな?」って思ったら、一緒に食事している写真とか出てきたりして(笑)。
(井上三太)フフフ(笑)。
(松尾潔)そこまでの時間を過ごしても忘れるんだっていうね、改めてね、自分の人生の分母みたいなものもいま、考えたりしているんですけども(笑)。罪滅ぼしの意味も込めて、僕も三太くんも大好きなヘビー・Dがプロデュースしたこちらをお聞きいただきたいと思います。チェンジング・フェイシズで『Baby your love』。
Changing Faces『Baby your love』
(松尾潔)はい。先週「この人、知りません」っていう顔をしてしまったことの罪滅ぼしでご紹介しました。カサンドラ・ルーカスのチェンジング・フェイシズ時代の1曲、『Baby your love』。1994年の彼女たちのデビューアルバム『Changing Faces』に収められていた、まあこのアルバムの中を代表する1曲ではないかもしれませんけども、90年代のヒップホップが好きな人にとってはたまらない、ヘビー・Dがサウンドプロダクションした曲。ヘビー・Dが作ったR&Bってさ、いいじゃない?
(井上三太)いいですね。
(松尾潔)いま、ぱっと思い浮かぶだけでもソウル・フォー・リアルの『Candy Rain』とかさ、モニファーの『I Miss You』とかありますけども。アップタウンレコード。ヘビー・Dもいましたアップタウンレコードのあの世界観……ガイとかも含めてですけど、あれを日本でビジュアルにした人は唯一、井上三太くんだよね。
(井上三太)いやいやいや……(笑)。いや、それを松尾さんにいっていただけると。
(松尾潔)いや、だって実際ね、その後テディ・ライリーが好きすぎて私たち、出会ったわけじゃないですか。
(井上三太)本当ですよね。
(松尾潔)テディ・ライリーがプロデュースしたハイ・ファイブのライブで出会って。どっちかが女の子だったら結婚してもおかしくないような、そんな出会い方でしたけども。で、その後に三太くんはね、テディ・ライリーと直接仲良くなって。オフィシャルで彼のTシャツを作ったりとかもしたわけじゃない?
(井上三太)しましたね、はい。
(松尾潔)そういうなんかこう、夢を手繰り寄せて、いい意味で夢を夢で終わらせずにビジネスにするっていうことをやってきた三太くん。その三太くんがアメリカに移住するっていうのはね、僕はこれ、同い年でしかも20代の頃から仲良くしてきて。応援したい気持ちももちろんあるし、それがいちばん大きいんですけど、「寂しいなあ」っていうね(笑)。
(井上三太)フフフ(笑)。
(松尾潔)「本気だったんだ!」って思って。「行きたい」っていう話は前から言っていたけど。それこそ90年代のお割ぐらいに一緒にアトランタに行ってさ。
(井上三太)行きましたね。
(松尾潔)アトランタのあのモアハウス大学っていうところの日本の漫画が大好きな大学生に三太くんはなんか、目の前でサラサラッと絵を描いたりとかさ。彼は後になって「あの時の日本のカートゥーンアーティスト。あれは『TOKYO TRIBE2』のサンタ・イノウエだったのか!」って絶対に気づいたと思うわけ。
(井上三太)ああ、どこかの時点で。
(松尾潔)うん。気づくでしょう。あれだけあの時点でマニアなんだから。なんかだんだん、その時にまいた種とかが実を結ぶタイミングなのかなと思っていたんだけど。
(井上三太)ああ、まあそうなるといいなと思ってるんですけどね。
(松尾潔)そもそも、LAに行こうっていうのはどういう経緯、どういう目的でこの50を目前にしての移住っていうことになったんですか?
LA移住の経緯
(井上三太)15年ぐらい前に、そのサンセット大通りのコミックショップがあって。そこの店主と仲良くなったんですよね。
(松尾潔)うんうん。かなり前の話だね。
(井上三太)そうですね。で、彼が「三太がアメリカで仕事をしたいんであれば、こっち(LA)にいなきゃダメだよ」って言ったんですよね。
(松尾潔)「アメリカで仕事したいんだったら、アメリカに来いよ」と。
(井上三太)そうですね。「来週、会議があるっていう時にお前を呼べるけども、こっちにいないんだったらその話は流れちゃうよ」って言われて、それがずっと頭に残っていて。ただ、やっぱりね、松尾さんと僕は同い年ですけど、どんどんこの背中に背負ってるリュックサックがデカくなっていくんだよね。
(松尾潔)その背中のリュックの中にいろんな物が入っていくっていう話も今回の『グイグイ力』っていう本の中に書いてありましたけど、三太くんの場合はアパレルの方も展開して、まあ人気ブランドに育ったしね。お店も、だってこれだけ渋谷の洋服の店とか移り変わりの多い中で15年間続けているんだもんね。それは急にやめるって言った時にスタッフどうすんの? とかってあるよね。
(井上三太)そういうね、責任があるんだよね。自分が「行きたい」って言ってパッと行けるわけじゃないっていうのがね、大人っていうか……(笑)。
(松尾潔)でも、行くことにしたんだよね?
(井上三太)後悔をしちゃうなと思ったんですよね。やっぱり、やめちゃったら。それがやっぱり人生に対する……「死」っていうのは誰でも訪れるから。ただ唯一怖くなくなる方法ってのは、全部自分で責任とって、人のせいにしなかった場合に若干、突然死が訪れた時も受け入れられるかな、みたいな。全然『メロ夜』っぽくない話ですけど(笑)。