松尾潔と井上三太 メロウな音楽対談

松尾潔と井上三太 メロウな音楽対談 松尾潔のメロウな夜

(松尾潔)さて、お話は続きますけども、続いてもう1曲、聞いていただきます。これもまた曲に関しての話っていうのは後で聞きましょうか。曲紹介をお願いします。これは新曲ですね。

(井上三太)これはレ・ヴェル(Le Velle)って読むんでしょうかね? Le Velleの『Incredible Woman』。

Le Velle『Incredible Woman』

(松尾潔)井上三太さんの選曲でレ・ヴェルって言うんですかね? 恰幅のいい男性シンガーですね。『Incredible Woman』をお届けいたしました。これはちょっと三太くんにしてはいなたいというかこう、ちょっと土臭い感じのセレクションですね。

(井上三太)もう大人になったんでね、ちゃんと『メロ夜』リスナーのことを……この曲を『メロ夜』リスナー、好きですよね?

(松尾潔)まあ、かかっておかしくないですよね。違和感ないですよね。うんうん。

(井上三太)これがね、2018年の曲なんですって。

(松尾潔)そうね。これ、新譜なんだよね。

(井上三太)これをストリーミング系音楽配信サービスで、たまさか知ったわけなんですよ(笑)。使いすぎかな?

(松尾潔)フフフ(笑)。固い表現でしたけども。ストリーミング系音楽配信開始サービス。

(井上三太)そのAIがね、俺にすすめてくれるの。

(松尾潔)登録商標を使わずにしゃべったらそうなるんだっていう感じでしたけども。はい。AIがすすめてくれた。

(井上三太)気を遣いながらしゃべってますけども。「あなた、これ聞いたからこれ好きでしょ?」っていうのがあるんですよ。

(松尾潔)あるね。しかも、あれだいたいさ、「俺がこんなものを好きだと思ってんのか!」っていうのはないよね。

(井上三太)うん、すごい。大したもんだっていう。で、いまタワーレコードに行ってきたんです。久々にそのCDを買うっていう行為をしてね。松尾さんもそうだと思うんですけど、ずっとレコード、CD、カセットテープを買ってきてね、部屋の中にたくさんあると思うんだけど。僕、今回引越しする時にかなり整理したの。その……そんな日が来ると思わなかったの。増えていく一方で、それをどっか部屋にどんどんどんどんCDラックを増やしていけばいいと思っていたのに。だからニュージャックスイング系の、たとえば男性ボーカルグループは俺はほとんど持ってるはずだとかっていう、そういう自負みたいのがあったんだけど、このコレクションがね、2、3枚欠けちゃうともう意味合いが急に……。

(松尾潔)そうか。コンプリートっていうつもりで持ってたのに。

(井上三太)で、後で言うの嫌じゃないですか。「ああ、あれ持っていたんですけどね」みたいな(笑)。だけどクラウド上に音楽あるっていうのは便利なんだけども、今月聞いてるアルバムをね、5年後に思い出せるか?って言うとね、先月聞いていたアルバムももう思い出せないですよ。

(松尾潔)そうだよね。「思い出すためにも物があった方がいい」ってことも『グイグイ力』に書いてありましたね。聞いた証として、触れた証っていう。

(井上三太)DJってそういう仕事だと思うの。どんどんレコードを買っていったりとかして、それで人が忘れていった音楽をタイミングで……まあ、このラジオ番組もまさにその「かけ時」とかね。芳醇なワインの開け時みたいな感じで……。

(松尾潔)番組に寄ってくれてありがとう。「芳醇」っていう言葉使いたかっただけでしょう、いま?

(井上三太)「芳醇」でそれはもう「色っぽい」しね。

(松尾潔)フフフ(笑)。

(井上三太)我々は「マチュア」だしね。

(松尾潔)まあ、そうでありたいですしね。

(井上三太)実に「滋味深い」……滋味深い&テリー・ルイスみたいな感じが(笑)。

(松尾潔)フフフ(笑)。乗ってきたね!

滋味深い&テリー・ルイス

(井上三太)今日はこれさえ言えれば家に帰れるっていう。滋味深い&テリー・ルイスはね、フフフ(笑)。

(松尾潔)2回言いましたね(笑)。

(井上三太)重ねちゃった。2枚使いみたいな感じで言っちゃいましたけども(笑)。でも、まさにそれがね、記憶っていうかね。その『ブレードランナー』の最初の映画ですよ。自分がレプリカントか人間とか分かんないっていうのは、その自分のアイデンティティーの、なんて言うか「本当に俺は人間なんだろうか? 何をもって人間たらしめるのか?」って言ったら、子供の頃からあるその記憶だけだっていう。で、そのもの自体が嘘の植え付けられた記憶だとしたら、もう自分はもはや人間じゃないかもしれないっていうのが映画『ブレードランナー』及びその原作小説のテーマなんだけど。

(松尾さん)うんうん。

(井上三太)これが山田太一の『岸辺のアルバム』になると、死んじゃうかもしれないけど家に行ってそのアルバムだけ取りに行かせてくれっていうのは「家族がそこにあった」っていう証がね、アルバムにあるという。

(松尾潔)福島でも、やっぱりそういう話は聞きましたよね。あの、限られた時間だけ家に戻っていいですよっていう時に、まず真っ先にアルバムを。生きてきた証だから。まあ、メモリーっていうことですよね。

(井上三太)そうですね。まさに、この番組がそういう番組だと思うんですよね。松尾さんも音楽を作る仕事をやっていて、僕も漫画を書いていて。やっぱり忘れ去られた時が第二の死っていう。松尾さんがね、最近おっしゃっていますけども。

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