稲垣吾郎と宇多丸 銃と映画を語る

稲垣吾郎と宇多丸 銃と映画を語る 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

(稲垣吾郎)まあ、でもいまこの感覚で見直してみます。『十三人の刺客』のあの役をやった後に。

(宇多丸)たしかに、たしかに。あの役がいちばんひどいですからね(笑)。

(稲垣吾郎)ひどいですよ。でも、いまだにやっぱりあの役はそうやっていろいろと言っていただける方が多くて。

(宇多丸)僕は日本映画史に残ると。

(稲垣吾郎)でも、やっぱりあれは全て三池さんの指導というか演出だったので。

(宇多丸)ちなみに演技指導とかはどんな感じだったんですか?

(稲垣吾郎)でも、三池さんはあんまり細かいことを言わないので。

(宇多丸)これはちょうど三池崇史さんをこの番組にお招きしてインタビューをしたことがあって。その時に「あの稲垣さんの役柄は素晴らしかった!」「いや、本当にいいよね」って。で、稲垣さんをキャスティングして、これは成功だったと思った瞬間が、衣装合わせの時に稲垣さんがいらして、衣装を見ながらポツリと、ごく自然な感じで「ああ、やっぱりちょんまげなんだー」っておっしゃったのを三池さんは小耳に挟み、「これは……リアル殿様が来た!」と(笑)。

(稲垣吾郎)えっ、なんかおかしいですか? その僕のフレーズ、おかしくないですよね?

(宇多丸)いやいやいや、「ちょんまげに決まっているだろ!」ってことじゃないですか? 三池さん的には(笑)。

(稲垣吾郎)ああ、そういうこと(笑)。「僕をちょんまげにするの?」みたいな。殿様っぽく言うなら。

(宇多丸)だからそれをサラッと言う感じが、ハマった!って思ったらしいんですよね。

(稲垣吾郎)ああ。「僕、アイドルなのにちょんまげにしなきゃいけないの?」みたいな感じに聞こえたんですかね?

(宇多丸)嫌な感じじゃなくて、なんかね。「ああ、やっぱりちょんまげだ」って。

(稲垣吾郎)天然な感じかな?

(宇多丸)だって殿様はちょんまげに決まっているじゃないですか。

(稲垣吾郎)まあ、そうですけど(笑)。

(宇多丸)だからたぶんその感じなんだと思います。

(稲垣吾郎)僕、ちょんまげがはじめてだったんですよ。中剃りっていうやつが。

(宇多丸)ああ、そうか。

(稲垣吾郎)時代劇はあったけど、それこそ陰陽師とか、平安時代のお公家さんのあのカツラだったので。

(宇多丸)江戸時代のああいうのは。

(稲垣吾郎)中を剃っているのははじめてだったんで、衝撃的だったんです。

(宇多丸)ああ、そうか。だから稲垣さんとしては素直な感情の吐露だったんだけど。いや、でも本当にもう……。

(稲垣吾郎)でもよかったです。『十三人』は。またああいう役もやりたいなと。三池さんとも仕事をしたいですし。

(宇多丸)ぜひね。でもその三池さんに勝るとも劣らない鬼才監督とお仕事をしているわけですから。後ほどそのお話もうかがいたいと思います。ちなみに、その苦手なジャンル。ホラーとかは別として、お好きなジャンルってありますか?

(稲垣吾郎)そうですね。でも僕、いろんなジャンルを見ていて。好きなものも結構バラバラなんですよ。でもやっぱり、そこにちゃんと人間ドラマがあるというか。そこになんか人と人とのヒューマンがちゃんと描かれていないと好きになれないのかもしれないです。

(宇多丸)これってやっぱり役者として自分が……役者としての興味をそそられる部分がないと、みたいなこともあります?

(稲垣吾郎)そうですね。どうしても、なんかそこが気になっちゃう。なんだろうな? もちろん僕、だから『ジョン・ウィック』を見ましたよ。

(宇多丸)ああ、はいはい。

(稲垣吾郎)宇多丸さんが絶賛していたので。

『ジョン・ウィック』

(宇多丸)そう。銃流れでね。申し訳ございません。本当に。

(稲垣吾郎)そういうのでも、やっぱりドラマの部分が気になっちゃうんですよ。復讐に至るまでの。

(宇多丸)犬ちゃんがね。

(稲垣吾郎)うん。なんかそういうこととかでも、主人公の感情とかがやっぱり丁寧に描かれていないと。ラブストーリーでも「どこで好きになったの?」とか、「どこで心が動いたの?」とか。そういう心がちゃんと丁寧に描かれている。そういうものがいいですね。そこをないがしろにしないで。

(宇多丸)これ、『ジョン・ウィック』がそれに当たっているのかどうか。ちなみに『ジョン・ウィック』は『チャプター2』という続編が。これが一作目に輪をかけてすさまじくて。

(稲垣吾郎)そう。宇多丸さんがそれを絶賛しているのを聞きましたから。

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(宇多丸)はい。

(稲垣吾郎)とりあえず『1』から見ておこうと思って。「ガンの話をするから『ジョン・ウィック』を見なきゃ!」って思って。

(宇多丸)ああ、今日の予習としてね。それは申し訳ございませんでした。

(稲垣吾郎)そうなんですよ。あとでその話をしようと思ったのに。あまりにもそのガンアクションが刺激的だったので。ごめんなさい、いまフライングしちゃいました。

(宇多丸)いや、でもありがたいです。でも、あのガンアクションはすごい荒唐無稽に見えるけど、最先端のコンバットシューティング技術を本当に取り入れてやっていて。

(稲垣吾郎)そうですよね。「ガンフー」って言うんですよね。

(宇多丸)ガンフー的なところもそうだし。二作目だと、ショットガンとハンドガンとアサルトライフルを持ち替えていくガンアクションシーンがあるんですよ。で、これは実際にアメリカでそういうスリーウェイの競技があって。そのやり方をはじめて映画に持ち込んだっていうやつで。しかもそこで、キアヌ・リーブスが役者オリジナルの、ショットガンの弾の詰め方とかは彼オリジナルでやっていたりとか。現実とこう、ファンタジーの塩梅が絶妙なんですよ。

(稲垣吾郎)そうですね。腕時計を内側にしているのとかもわざとですかね?

(宇多丸)あれはね、海兵隊出身という設定みたいです。

(稲垣吾郎)ああ、そうなんですか! 単純にこういうところにぶつかっちゃいけないと思って、時計を……。

(宇多丸)ああ、もちろんそういうことです。元の発想はそういうことです。

(稲垣吾郎)文字盤を手首の方にしているという。

(宇多丸)あれなネイビーシールズだか海兵隊だか、とにかくそういう部隊の時計の付け方っていうのを示唆しているみたいですね。あと背中の入れ墨も海兵隊出身というのを示唆しているようです。

(稲垣吾郎)へー!

(宇多丸)でも、当然なぜ内側につけるか?って言ったら、たぶんぶつけないようにですから。でも、そういうところを見てらっしゃいますね! これ、内側とか。

(稲垣吾郎)そうですね。まあやっぱり、自分も演技をする立場だったりするので。そういう視点でやっぱり見たしまったりしますね。

(宇多丸)あと、薬室。チャンバーに弾が入っているかどうか、ちゃんと毎回物陰でかならず確認するアクションとか。

(稲垣吾郎)確認する。偉い!

(宇多丸)とかね、ああいうのがグッときませんか? ああいうのが1個、あるかないかで。

(稲垣吾郎)だいぶ違いますよね。

(宇多丸)これはまさに演技のメソッドのひとつですもんね。

(稲垣吾郎)そうですね。撃ち方とかもね。まあ、ある程度映画ですからね。まあ、フィクションですからこんななったりする撃ち方もいいんですけど。まあやっぱりある程度リアリティーというのは僕は気になりますね。

(宇多丸)これね、後ほどの最後の方でうかがおうかと思っていたんですけど、日本でガンアクションってなかなか難しいじゃないですか。設定上とか、リアリティー上とかも。そういったところで、ちょっと稲垣さんがこういうことをやってみたいな、みたいな希望なりビジョンなりがお有りになるんだったら、後ほど。置いておいて……。

(稲垣吾郎)考えておきます(笑)。すいませんね。『ジョン・ウィック』からちょっとフライングしちゃいましたね。映画の話でしたね。

(宇多丸)いいんです! あのね、稲垣さん。ここね、ラジオに見えるかもしれませんけども、ここは部室なんで大丈夫ですから。

(稲垣吾郎)部室!? なんの部室ですか?

(宇多丸)これ、普通のラジオ番組にエアガンをこんな、並べておかないでしょう?

(稲垣吾郎)ガンマニアの?

(宇多丸)ガン部です。

(稲垣吾郎)ガン部!? わかりました。みんな『月刊Gun』を読んでいたんですね。

(宇多丸)『月刊Gun』『コンバットマガジン』『アームズマガジン』。こちらをね。

(稲垣吾郎)読んでたっていう世代ですね。

(宇多丸)僕、実家に帰ると『Gun』とかがズラッと並んでいたりしてね。じゃあ『Gun』とかも読まれるんですね。

(稲垣吾郎)そうですよ。そうやって育ってきたんで。

(宇多丸)ああっ、いいですね。じゃあ、ガンとの馴れ初めというかね。

(稲垣吾郎)馴れ初め(笑)。

(宇多丸)いや、稲垣さんがもちろん映画がお好きなのはみんな知っていても、ここも。ガンマニアである件とか、チラチラッとはね、小出しにはされていると思いますけども。なかなかイメージが合わない……。

(稲垣吾郎)ないと思います。そうですね。ガンって結構たくましく、マッチョなものなんで。もしかしたら僕のイメージにはないのかもしれないですけど。でも、まあやっぱり昔から好きですよ。

(宇多丸)これ、きっかけみたいなのはあったんですか?

(稲垣吾郎)きっかけはやっぱり、『ダーティハリー』。クリント・イーストウッド。

(宇多丸)『ダーティハリー』はやっぱり最初はテレビでしょうか?

(稲垣吾郎)最初は……テレビですね。でも、父親の影響が大きくて。父親もすごい好きだし、クリント・イーストウッドの西部劇とかも見ていたんで。そこから、父の影響でこの『ダーティハリー』というのを見た時に……。

(宇多丸)おいくつぐらいですか?

(稲垣吾郎)ええーっ、小学生ぐらいじゃないですかね?

(宇多丸)当時結構ね、テレビでもよくやっていたんですよね。

(稲垣吾郎)再放送して……吹き替えですよ。

(宇多丸)まさに、山田康雄さんの吹き替えで。実際のイーストウッドの声を聞いた時の違和感が半端ないっていう。

(稲垣吾郎)そうですね(笑)。結構渋い。全く違うっていう。やっぱりこの『ダーティハリー』パート1ですよね。この冒頭の……。

(宇多丸)狙撃のシーンですか?

(稲垣吾郎)44マグナムで。

(宇多丸)ああ、ホットドッグ屋でのね。

(稲垣吾郎)ホットドッグでね。ギャングの乗っている車のタイヤを撃って止めてしまうあのシーン。あれにやっぱり度肝を抜かれました。吾郎少年は。

(宇多丸)吾郎少年。

(稲垣吾郎)こっからですね、やっぱり。

(宇多丸)そこでやっぱり銃の説明もしますからね。「こいつは44マグナムで……」なんてね。

(稲垣吾郎)そうです、そうです(笑)。そもそもだって、熊とかを撃つ銃ですから。ハンティング用なんで。

(宇多丸)刑事が日常的にぶら下げて……しかも、あんな長い銃身の。

(稲垣吾郎)そう。ショルダーホルスターね!

(宇多丸)そんなわけはないんですけど……。

(稲垣吾郎)そんなわけはないんですけど……やっぱりまあ、少年の心でそれに刺激を受けてしまいました。

(宇多丸)これはもう、世界中の少年といわず、心に男の子を持つ人たちは夢中になった映画ですよ。

(稲垣吾郎)そうですね。シリーズ化してますもんね。この後、パート4ぐらいまでですか?

(宇多丸)5まで行ってますね。僕ももちろん『ダーティハリー』はめちゃめちゃ……たぶん同じぐらいの年頃に。ここが入り口の人も結構多いと思うんですけど。『ダーティハリー』ってでも、素晴らしい映画ですけども。ドン・シーゲル監督。ちょっと子供には怖い場面が多いじゃないですか。

(稲垣吾郎)そう。怖い。ラストシーン、怖かったです。ショッキングでした。

(宇多丸)ねえ。サソリという犯人側が。

(稲垣吾郎)あれ、スクールバスの中で銃撃戦をするのとか、やっぱり『ダーティハリー』がいちばん最初ですかね?

(宇多丸)バスジャック。そうかもしれないですけどね。「こーげ、こーげ、こーげよ、ボートこーげよ!」です。「歌うんだ!」ってね。

(稲垣吾郎)そう、ありましたね(笑)。よく出てきましたね、いま!

(宇多丸)これはもう、暗唱できるぐらいですね。「お前たちのお母さんも殺してしまうぞ! こーげ、こーげ、こーげよ♪」っつってね。あれとかね。でも、子供が泣いていたりとか、すごいショッキングで。

(稲垣吾郎)これ、ショッキングでした。

(宇多丸)その前のところでサソリが……。

(稲垣吾郎)よく覚えてますね(笑)。

(宇多丸)サソリがダーティ・ハリーに痛めつけられたっていうのを偽装するために、黒人の殴り屋のおじさんにお金を渡して殴られる場面っていうのが……。

(稲垣吾郎)あったあった! こんなこと、よくできるな!っていう。偽装のために。

(宇多丸)そう。偽装のために。

(稲垣吾郎)ショッキングでしたよ。子供の頃。

(宇多丸)絶対に子供の時は「これ、見ちゃいけないやつでしょ……」っていう。

(稲垣吾郎)ショッキングでした。パート2かパート3では今度、警官がワルなんですよね。

(宇多丸)これは2ですね!

(稲垣吾郎)ハイウェイパトロールをやっている。

(宇多丸)パイソン持ってますよ!

(稲垣吾郎)コルトパイソン!

(宇多丸)4インチですよ!

(稲垣吾郎)4インチでしたっけ……ちょっと、僕より早く言わないで!

(宇多丸)あ、すいません。ごめんなさい(笑)。これ、悪い癖。

(稲垣吾郎)僕だって4インチってわかってましたよ(笑)。先に言わないでくださいよ。

(宇多丸)フハハハハハッ! ですよね、ですよね。これ、悪い癖(笑)。

(稲垣吾郎)6インチじゃないことぐらい、わかってますよ!

(宇多丸)ホストなの、忘れてました(笑)。部活、部活。そうそう、2ね。

(稲垣吾郎)警官がね……実は悪人が警官のフリをしているっていうのが。あれはやっぱり子供ながらにショックでしたね。

(宇多丸)そうですよね。

(稲垣吾郎)「っていうことはお巡りさんとかも、もしかしたら、犯罪者がいるの?」って思っちゃいましたね。

(宇多丸)そうですね。だから一作目の『ダーティハリー』のちょっとアンチテーゼというか。法を越えて裁くというのがありだったら、どうなっちゃうの?っていうのに対する、すごい批判も受けたみたいで。それに対する回答みたいなところがあったり。

(稲垣吾郎)そう。やっぱり話していると、子供ながらにショッキングなことが多かったんでしょうね。それがなんか、急に「好き」に変わっちゃったのかもしれないし。

(宇多丸)まあ、でも『ダーティハリー』はやっぱり文句なしの大傑作だと思います。『ダーティハリー』に銃絡みで文句をつけているのはTBSアナウンサー、まもなくフリーになりますけども、安東弘樹。

(稲垣吾郎)なんでですか?

(宇多丸)通称アンディーが、「あれのリボルバーはおかしいからクソ映画だ!」っていう(笑)。

(稲垣吾郎)ちょっと待ってください。なんでですか? なんか、おかしいところありました?

(宇多丸)なんかね、あのリボルバーの弾倉の回転のあれとかを考えると、諸々あそこでやっていること……「まさに銀行強盗の場面とか、あれはおかしいから。ねえ、宇多丸さん、ねえ。クソ映画ですよね?」って。

(稲垣吾郎)いや、違うの! 『ダーティハリー』の頃はまだそういうのはリアリティーは関係ないの。

(宇多丸)あ、よくおっしゃっていただきました。

(稲垣吾郎)別にコルトガバメントから弾が15発出たっていいんですよ。マガジンを変えなくて。

(宇多丸)当時のリアリズムはね、まだそんな感じで。

(稲垣吾郎)僕は全然いいと思います。『ダーティハリー』の時代だったら。逆にそういうことを言う方がおかしい。

(宇多丸)いや、よく言ってくださいました。これはね、安東弘樹はぶっちゃけおかしい人なんでね。よく喝破していただきました(笑)。

(稲垣吾郎)まあ、僕はそこは多めに見ても……。

(宇多丸)その、マガジンチェンジとか、弾替えみたいなのをリアルにやりだすのって、もうちょっと後ですからね。だからその荒唐無稽の良さもあるし。

(稲垣吾郎)そうです、そうです。

(宇多丸)『ダーティハリー』以降、じゃあどんどん……あ、ちょっと待ってください。稲垣さん、ちょっとね、話が盛り上がりすぎたので1回CMに行って、クールダウンしろみたいな。

(稲垣吾郎)クールダウン?……わかりました。ちょっとすいませんね。僕、熱くなっちゃって。

(宇多丸)いや、いいんですよ。僕もちょっと、すいません。

(稲垣吾郎)生放送ですか、これ?

(宇多丸)生放送ですよ。

(稲垣吾郎)いまんところ、大丈夫ですか?

(宇多丸)大丈夫、大丈夫! ダメなことなんかないんですよ、稲垣さん。

(稲垣吾郎)わかりました。

(宇多丸)部活ですからね!

(稲垣吾郎)部活ですか(笑)。

(宇多丸)ラジオに見えるけど、部活ですから。

(稲垣吾郎)じゃあいったん、コマーシャルに行きましょうか。

(宇多丸)行ってみましょう(笑)。

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