宇多丸 千葉真一を追悼する

宇多丸 千葉真一を追悼する アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2021年8月20日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で亡くなった俳優の千葉真一さんを追悼していました。

(宇多丸)ということで、ちょっと今日はこのオープニングを使って訃報を2つ、お伝えしつつという感じで行きたいと思います。まずはこのメールから山本さん、お願いしてよろしいでしょうか。

(山本匠晃)「千葉真一さんがお亡くなりになったと知り、呆然としてしまいました。先月まで国立映画アーカイブで開催されていた写真展『SCREENを飾ったハリウッド・スターたち』を鑑賞した帰り道、近くのビルからお連れの男性と談笑をしながら出てきた千葉さんを目撃したばかりで。お声がけをしたわけではないのですが、がっしりとした体格と短く刈り込んだ頭の下に鋭く光る目は子供の頃に見た『戦国自衛隊』の伊庭三尉や『魔界転生』の柳生十兵衛のそれで、82歳とは思えない精悍さでした。奇しくも現在、国立映画アーカイブで開催中のこの2年で亡くなられた映画人を追悼する上映企画『逝ける映画人を偲んで2019-2020』にて、これも子供の頃に見た『宇宙からのメッセージ』の上映もあり、千葉さんを悼む意味も加わってしまい、大変に残念です。千葉真一 a.k.a サニー千葉さんのご冥福をお祈りします」というメールをいただきました。

(宇多丸)そうなんですよ。これはもうすでに様々なメディア等でも報道されているのでご存知の方も多いと思いますが。俳優の千葉真一さん。しかもコロナ感染が悪化してということなので。いやー、これはいよいよコロナ、憎いなっていう件ですね。千葉さんのまさに国際的と言っていい人気。これは掛け値なしなんですけども。アメリカのそういうポップカルチャーの中でサニー千葉ってもうめちゃめちゃ影響力が高くて。いろんな角度からもちろんお話ができる。いろんな功績がおありな方なので、ちょっとここは特集を組む級のことだろうということで。

アフター6ジャンクション 千葉真一追悼特集

(宇多丸)8月26日(木)に『低み』の単行本がオーディオブック化されたということで、低み特集というのを来週の木曜日に……これはこれで楽しみにしていましたし、やるんですけども。ちょっとこれを延期しまして。8月26日(木)は急遽、千葉真一さん、そしてJACの活動に非常に詳しく、愛情を持って追われてきたこの番組でもおなじみのビデオ考古学者、コンバットRECさんをお招きして。コンバットRECプレゼンツっていう感じかな? 千葉真一さんの功績を振り返る特集というのを8月26日に急遽、やろうと思っています。そこで詳しく話していこうと思っているんですね。そこは、コンバットRECは本当に詳しいので。どれだけすごい人だったのか、魅力的な方だったのかというようなお話を聞かせてくれると思うんですけども。

僕から、皆さんもたとえばこの週末、千葉さんを悼んでいろんな作品を見てみようという方もいらっしゃると思うんですけども。たとえば『仁義なき戦い』シリーズであるとか、『殺人拳』『地獄拳』シリーズ。関根勤さんのモノマネでもおなじみですけども。ああいうあたりを挙げる方も多いと思いますが。僕ね、もちろんそのへんのことは当然として、主演作じゃないんだけども、千葉真一さんが出ている映画で、千葉さんの演技が素晴らしいと思っていておすすめしたいのは『トラック野郎』シリーズの5作目『度胸一番星』という1977年の作品があって。これは『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』の中で原発問題というものに関連した映画を紹介しているところでご紹介しているんですね。

(山本匠晃)ええ。

(宇多丸)で、毎回主人公のライバルドライバーというのが出てきて。千葉真一さんはちょうどこの時、流行っていたのもあってジョーズというあだ名のライバルドライバーとして出てきて、菅原文太さんとかと最初は対立して。最終的には仲間になるという流れなんですけども。アクションなんかもまあ、千葉さんですから。他の『トラック野郎』に出てくるライバルと比べてもアクションのキレ、一際際立っていたりするわけなんですけども。

(宇多丸)このキャラクターは本当に味わい深くて。要は、高度経済成長の陰で故郷を喪失した男というか、そういうことなんですね。要は、原発……もちろん、東日本大震災のはるか前ですよ。あんなおおっぴらな原発事故が起きるはるか昔にそういう地方問題としての原子力発電所。発電所を誘致したことによって村のコミュニティーが崩壊してしまうというようなことがすでに、その1977年の時点でさすが鈴木則文監督、描かれていて。

で、彼が自分の生まれた家が結局、「原発反対」っていうような立て看板をしている家なんですけども。その家を自ら……「人に壊されるぐらいなら」っていうことで。立ち退かなきゃいけないみたいなので、泣きながら自ら家を破壊していくっていうシーンの切なさであるとか。あと、彼がジョーズ軍団っていうのを構成しているんだけども、その仲間たちもみんな、それぞれにそういう高度経済成長の陰で一種、地方にいろいろとしわ寄せがいく構造の犠牲者たち。それが身を寄せ合って擬似的な家族を構成しているような設定でそこも本当に鋭いんですけども。

なので、千葉さんのもちろんアクションもそうなんですけども、演技者の力量、技量のすごさも味わえる作品で。主人公の菅原文太さんと対決して、当然ライバルですから負けてしまうんですけども。その後にね、夏樹陽子さん演じる彼の恋人がいるわけです。その恋人と負けた後に2人で部屋にいて。で、そのベッドに寄りかかって、それまですごく男っぽい雰囲気を発散させていた千葉さんがその夏樹陽子さんの方に向かってなんとも言えない、悲しさと甘えと、なんか入り混じったような、なんともしれない絶品な表情、目線で見るんですね。ここもやっぱり千葉さんの演技が素晴らしくて。

なんかね、味わい深いんですよ。本当にいわく言い難いというか。なんかすごく大人な、この2人の間だけで共有されるなにか。「私はあなたのことをわかっている」「お前は俺が今、どういうことを思ってるか、わかるよな」っていうことが物言わずして共有されているような。なんかね、素敵なシーンなんですね。なので『トラック野郎 度胸一番星』を千葉さん主演ではないですけども。たとえば、こういうのがありますよということで、おすすめしておきたい。

(宇多丸)もちろんね、他の様々な、『戦国自衛隊』のこととか。コンバットRECね、『戦国自衛隊』の話をするの、大好きですから。『魔界転生』のこととか、いろいろとしてくれると思いますので。26日(木)の特集を聞いていただきたいなと思います。

「本当に悔しい」(宇多丸)

(宇多丸)千葉真一さん、本当にでもなんていうのかな。これ、コロナでっていうのが悔しいね。本来であれば、だって全然たしかにお元気な感じだったし。息子さんたちも俳優として活躍されて。なんなら、共演というのもいずれはみたいなというのもファンとしては思うところだったし。悔しいですね。本当に悔しい。それでこういうニュースを聞くにつけ、コロナ対策みたいなところでナメくさった態度を取っている場合じゃないぞと。

個々が気をつける……もちろん、いろいろとシステムを整えていくというのは当然ですけども。我々個々の暮らしの中でも、やっぱり人を伝染すということを考えれば、そういう意味でもちゃんとしていかなければっていうのはやっぱりこういう、直接の知り合いではないからこそ、こういう時に改めて襟を正そうという気持ちになるかなとも思いますね。悔しい。これは本当に。ということです。千葉真一さん、ご冥福をお祈りしたいと思います。

(山本匠晃)お悔やみ申し上げます。

<書き起こしおわり>

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