町山智浩 2018年アカデミー賞授賞式を振り返る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で2018年アカデミー賞の授賞式を振り返り。日本人にはわかりづらいようなスピーチのネタなどについて解説していました。

(山里亮太)町山さん、「おめでとうございます」でよろしいですか?

(海保知里)フフフ(笑)。

(町山智浩)なにももらってませんよ、僕は(笑)。

(山里亮太)いやー、でも『シェイプ・オブ・ウォーター』。

(町山智浩)僕、とってほしかったんですけど。いろんなところで言っていたんですけど、いちばんとってほしかったんですけど、逆にとると思っていなかったんですよ。

(山里亮太)おっしゃってましたよね。怪獣とかああいう特撮系のは……って。

(町山智浩)アカデミー賞の長い歴史を見ても、ホラー映画は『羊たちの沈黙』しかとっていないですね。ファンタジーとかのそういう、お化けとか怪獣が出てくる映画は『ロード・オブ・ザ・リング』しかとっていなくて。今回の場合は怪獣でホラーで、しかもエッチでグロいという(笑)。アカデミー賞がとれないような要素が全部『シェイプ・オブ・ウォーター』にはブチ込んであるんで。これはとれないようなのが四段ぐらい重なっているから、ダメだろうと思っていたんですね。

(山里亮太)それでもとれたということが……。

(町山智浩)とれたんですよ。だから、とったギレルモ・デル・トロ監督も「本当かな?」っつって(笑)。

(海保知里)確認してましたよね(笑)。

(町山智浩)確認してて(笑)。「これ、中身間違いじゃないかな?」って(笑)。本人もあまり信じてないというところが。

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カードを確認するギレルモ・デル・トロ監督

(山里亮太)1回、間違いがあっただけにね。(2017年アカデミー賞で作品賞を間違って『ラ・ラ・ランド』と発表した間違いのこと)。

(町山智浩)そうそうそう(笑)。全然素直に喜んでいないところがおかしかったですけどね(笑)。

(山里亮太)いやー、町山さんは「自分がとったわけじゃない」っておっしゃりますけども。でもほら、怪獣というものを愛する人からすると、はじめて勝ち取った賞みたいなね。

(町山智浩)そうですね。だからスピルバーグ監督がデル・トロ監督に「もし、これでとったらこれは大変な遺産なんだよ」という風に言ったらしいんですけども。それは、スピルバーグも怪獣オタクで、話すともう『ゴジラ』とか『サンダ対ガイラ』の話をしているような人ですけども。でも、『宇宙戦争』とか『ジュラシック・パーク』とか『E.T.』とか『未知との遭遇』とかの怪獣とか宇宙人映画ではとれていないんですよ。アカデミー賞は。

(海保知里)へー!

(町山智浩)やっぱりそれは、子供向けのものというか、オタクの大きいお友達向けのものっていう風に思われていて、差別されていたわけですけども。だからスピルバーグは「これでとってくれ!」っていう気持ちだったんです。彼もアカデミー賞をとるためには大人向けの映画を撮らざるを得なかったんです。怪獣とかが出てこないやつを。だから今回のはすごいことかなと思っていて。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)それで、ギレルモ・デル・トロ監督が受賞した後にまず言っていたのが、「私はメキシコからの移民です」っていう風に言っていて。それがどうして移民と怪獣と関係するのか?っていうことなんですけど……これは『シェイプ・オブ・ウォーター』には半魚人が出てくるんですけど、あの半魚人は中南米出身の人なんですよ。

(海保知里)ああーっ!

(町山智浩)ブラジルのアマゾンから来たんです。だから、実は彼が象徴しているものは、中南米からの移民なんですよ。それで不法入国者と同じように刑務所に入れられているわけですよ。

(山里亮太)ひどい扱いを受けて。僕もちょうど昨日、見てきたんです。

(町山智浩)ああ、そうなんですか。殴られて蹴られますよね。そういうのを象徴しているし。受賞した後のコメントとかで言っているのは、「とにかくこの映画というのはなかなか企画が通らなかった」という話で。まあ、デル・トロ監督自身がかなり自腹を切っているんですけども。それはやっぱり半魚人と口の聞けない身体障害者の女性のラブロマンス。これでもうハリウッドはお金を出さないです。

(山里亮太)うーん……。

(町山智浩)しかも、それを50年代のハリウッド製のメロドラマとミュージカルとホラーをミックスさせるって、もうわけがわからないからそんなものにはお金は出さないよってなってくる状態だけども、よく作れたなと。

(山里亮太)全然そこらへん、違和感はなかったですよ。

(町山智浩)違和感ないですよね。だからジャンルに当てはめて考えるっていうこと自体が壁を作って考えているんで。だから、受賞した時にデル・トロ監督が言っていたのは「映画とか芸術とか音楽とかの素晴らしいところは地面に書かれた線を消す仕事なんです」と。これ、国境のことですよ。彼は、ドナルド・トランプによってメキシコに壁が作られようとしているということで、直接的に関係している人ですね。メキシコからの移民で。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)「国境をなくしたり、ジャンルをなくしたり、壁を壊していくことがアートの力なんだ」と。だから音楽って関係がないじゃないですか。世界中の音楽をどこで聞いても楽しいし、映画だって全部楽しいし。絵画もそうですよね。葛飾北斎の絵が『シェイプ・オブ・ウォーター』の壁に描かれているんですよ。

(海保知里)えっ、そうでした?

(町山智浩)よくみると、描かれています。

(山里亮太)友達がいろんな絵を描いてるあそこのアトリエのところですか?

(町山智浩)壁にね、壁紙は全部葛飾北斎の波の絵になっているんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)あと、半魚人のウロコのタッチはいわゆる日本の和彫りの入れ墨のウロコの表現を真似しているんですよね。だから、「日本だから……」っていうのは関係ないんです。アートっていうのはいいものは全部吸収するから。だから、国境とか人種とかそういったもの。ジャンルも全部超えていくものが芸術の力なんですということを言っていて。その後、ギレルモ・デル・トロが言ったのがね、「世界がその境界線をもっと深く刻むように我々に命じる時こそ、我々はその境界線を消していかなければいけません」って言っているんですよ。それはもちろんいま、全世界で起こっている移民排斥だったり難民排除みたいなことと非常に関係していることを監督は言っているんですね。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)だから今回のアカデミー賞って最初からずっとその話なんですよ。たぶんね、これはアカデミー賞の中継を見た人も、彼らが言っていることはほとんどわからなかったと思う。アメリカに住んでいないとわからないことばっかり言っていて。いちばん最初にサルマ・ハエックさんが出てきた時に「彼女はメキシコから来ました。トランプ大統領が言うところの『シット・ホール』です」っていうところからアカデミー賞授賞式は始まるんです。

(山里亮太)ああーっ!

(町山智浩)それはトランプ大統領が「中南米の国からの移民なんてほしくないよ。あそこはウンコ溜め(シット・ホール)だから」って言ったことを揶揄していて。その後、今度はジミー・キンメルっていうコメディアンの司会者が出てきて。「いま、すごくセクハラ問題が起こっていますけども。このオスカーのトロフィーを見てください。チンコがついてないから安全ですね!」って言って(笑)。

(山里亮太)アハハハハッ!

(町山智浩)言ってましたけど。俺、それを生放送で言ったら高島彩さんにめちゃくちゃ怒られましたけども(笑)。

(山里亮太)SNSでも話題でしたよ。町山さんが下ネタを言いすぎて高島さんに怒られているって(笑)。

(町山智浩)そう。めちゃくちゃ怒られてましたけど。

(海保知里)訂正されて(笑)。

(町山智浩)あと、だからいま『ブラックパンサー』が大当たりしていて。去年は『ワンダーウーマン』が大当たりしましたね。それに対してジミー・キンメルが「『女性が主人公のスーパーヒーロー物とか黒人のスーパーヒーローなんて、そんな映画当たらない』って言われてましたね。大昔……去年ですけども」って言っていて(笑)。この間まで、「そんなのは絶対に当たらない。黒人しか出てこない黒人スタッフの映画なんて絶対に大ヒットしない」って言われていたのが、大当たりなんですよ。

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(海保知里)うん!

(町山智浩)やる前から「大ヒットしない」っていう風な決めつけがおかしいんだと。で、今回作品賞とか脚本賞に並んだのって、たとえば『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』っていう、僕がここでも紹介した映画。

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(海保知里)はい。

(町山智浩)パキスタン出身のコメディアンのラブ・コメディーですね。パキスタン人の主人公のラブ・コメディーってハリウッドが当たると思わない映画でしょう? でも、大当たりなんですよ。

(山里亮太)たしかにそうですよね。

(町山智浩)ねえ。たとえば日本だと、日本にもたくさんいるじゃないですか。外国人労働者が。その人が主人公のラブコメを、それこそフジテレビとかTBSとかなんでもいいけど、そこでやるのか?って言ったら、「そんなもんやらないよ! 誰も見ないよ!」ってなるでしょう? そんなの、誰が決めたんだよ?っていうことですよ。やってみろ! で、ダメだったらダメでまた、それでもいいじゃない。ねえ。

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)それとか、『ゲット・アウト』が脚本賞をとって。あれもすごかったんですけども。人種差別コメディーホラー(笑)。

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(海保知里)フフフ(笑)。そうですよね(笑)。

(町山智浩)それ、やらないですよ。普通。でも、やったら大当たりですよ。製作費の30倍加なんかですよ。利益が。

(山里亮太)へー! ここ最近、やっとそういうのが認められるようになったんですね。

(町山智浩)認められるようになったというか、それこそジミー・キンメルが言ったみたいに去年までは認められていなかった。それが今年、爆裂した感じなんですよ。

(山里亮太)増えたというか、たくさん見れるようになりましたよね。

(町山智浩)だから、この間まで、『ブロークバック・マウンテン』っていう映画があって。カウボーイのゲイの映画だったんですけど。あれもだからすごい大問題になったのが10年ぐらい前なんですけども。いまはもう、そうじゃないですよね。で、この間『君の名前で僕を呼んで』。いわゆるBL美少年物なんですけど、全然スキャンダルにも何にもなっていないんですよ。

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(山里亮太)作品として普通にみんなが楽しんで。

(町山智浩)そう。大騒ぎにもなんにもなっていないんですよ。現在。だからジミー・キンメルが言っていたのは、「ハリウッドはお金儲けのためだけに映画を作ると言われていましたけども、そうじゃないです。『君の名前で僕を呼んで』を見てください。あれはマイク・ペンス副大統領を怒らせるためだけに作られました」って言っていて(笑)。

(海保知里)アハハハハッ!

(町山智浩)マイク・ペンスっていう人は、この間の平昌冬季オリンピックの時にフィギュアスケーターのアダム・リッポンくんが「あいつと一緒になんかオリンピックは出たくない」って言った話で。マイク・ペンスっていう人はキリスト教保守の人で、カトリック保守なんですけども。「ゲイは病気だから治せる」って言っていた人なんですよ。で、そこ(ゲイ矯正)にお金を出したいって言ったことが過去にあって。で、問題になっている人なんですけど。

ペンス副大統領は、かつて同性愛者の矯正治療を支援する考えだった。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)だから、「そのマイク・ペンスを怒らせるためだけに映画を作ることもあります」って言っていたんですよ(笑)。そのへんってたぶん、日本でアカデミー賞の中継を見ていた人は全然わからないと思うんですよ。「これはなにを言っているんだろう?」っていう。たとえばね、コービー・ブライアントっていうNBAの、元レイカーズのスターが出てきましたけども。彼が、引退に際して書いた「拝啓、バスケットボール様(Dear Basketball)」っていう詩がありまして。それがアニメ化されて、短編アニメーション賞を今回、とったんです。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)で、コービーがオスカーをもらいに行ったんですけど、受け取った時に彼は「我々バスケットボール選手は『お前らは黙ってドリブルだけしてろ』ってよく言われるんですけどね」って言ったんですよ。

「Shut up and dribble」

(山里亮太)はい。

(町山智浩)これ、なにを言っているのか、分からないじゃないですか。これはその前に、レブロン・ジェームズというNBAクリーブランド・キャバリアーズのスーパースターが非常に政治的な発言をしていて。特に言っていたのが、NFL(アメリカンフットボール)の選手たちが最近、国歌斉唱の時に起立を拒否してひざまづいているんですよ。それは、いま黒人たちが白人警官によって殺されても、全く白人警官たちは罪に問われないので、それに対する抗議としてそれが始まって。いま、すごく広がっているんですけども。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)そのことに対してトランプ大統領が「あいつら、みんなクビにしろ!」って言ったんですよ。「国歌の時に起立しないやつは!」って。それに対してレブロン・ジェームズがずっと反対しているんですよ。「我々には権利があるだろう?」と。それに対して、アメリカの非常に保守系のコメンテーターがいまして。彼女が「あんたはスポーツ選手なんだから、政治のことなんか言わないで黙ってドリブルだけしていればいいのよ!」って言ったんです。

(山里亮太)ふーん!

(町山智浩)それに対してコービーが「そんな風に言われますけどもね……」っていう風に言ったんですよ。だからそれがわからないでしょう? 話すと長くて。

(山里亮太)でも、聞いたら「ああ、コービーかっこいいな!」って。

(町山智浩)コービー、かっこいいんですよ。話が長いからね。アカデミー賞はだから説明しないとわからないことがいっぱいあって。だから、結構「なに言ってるんだろう、これ?」っていうのがすごく多かったんですよ。

(山里亮太)アカデミー賞を受賞された人たちって、そのコメントにいろんな思いを込めてしゃべるから。

(町山智浩)そうそう。僕も1ヶ所、わからなかったところがあって。『スリー・ビルボード』という映画で怖い怖い西部のガンマンみたいなお母さんをやっていたフランシス・マクドーマンドさんが主演女優賞を受賞しまして。

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『スリー・ビルボード』を紹介していました。 (山里亮太)町山さん、私もついに『ゲット・アウト』を見てきまして。 ...

(山里亮太)はい。

(町山智浩)その時に彼女がまずやったのが、「この中で、アカデミー賞にノミネートされたことがある女性、受賞したことがある女性は起立してください」って言ったら、パラパラパラとしか起立しなくて。「これは、アカデミー会員の中でも完全な女性差別があるんだ。男女が半分ずつにならなきゃ、おかしいじゃないか」というようなことを言った後に……会場には女性が半分ぐらいいるんですよ。「この後、パーティーがどうこうとか、そんなことはどうでもいいんです。映画関係者のみなさん、彼女たちから話を聞いてください。私たち女性もたくさん映画のネタを持っているんです。作りたい企画がいっぱいあるんです。聞いてください」と。で、もう『ワンダーウーマン』にしろ何にしろ、当たっているんですから。

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(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)「その時、女性関係者の人たちはかならず、ひとつ条件を忘れないでください。それは『Inclusion Rider』です」って言ったんです。これ、辞書を引いても載っていない言葉なんです。この「Inclusion Rider」っていうのは業界用語なんですけど。僕も知らなかったのでわからなかったんですけど。これは、「脚本なり監督なり、製作者、女優などで私を雇うんだったら、条件としてスタッフとかキャストのメンバーを男女均等に近づけてください」っていう条件なんです。

「Inclusion Rider」

(山里・海保)へー!

(町山智浩)その条件を出さなければ、男女均等にならないから。

(海保知里)それぐらい、女性の割合が少ないっていうことですね。

(町山智浩)まあ、日本よりもはるかにマシですよ(笑)。ただ、これはこういう形で我々が仕事をする際に……特に彼女が言っていたのはすごい強い女優さんたちですよ。「彼女を出すことによってその映画が作れるという力を持っている女優さんたちは、かならず男女均等に近づけるよう、雇用する条件を出してください」とフランシス・マクドーマンドは言ったんですよ。それはただ単にイメージ的に、「こうした方がいいですよ」じゃなくて、契約条件を出すという、すっごい具体的な社会改革の一歩なんで。これはすごいなと思いましたね。

(山里亮太)そっか。そこからもう変わっていくということですね。

(町山智浩)具体的に変わっていくだろうという。

(山里亮太)すごいですね。政府とかが動くよりもはるかに早いスピードで。

(町山智浩)そうそうそう。早く、自分で動くんだよってことを言ったんで。すごい強烈だったですよ。あと、よく見ないとわからないところが多くて。隠しネタが多かったんです。今回のアカデミー賞は。

(海保知里)えっ、そうなんですか?

(町山智浩)ヒュー・ジャックマンがこの間出た、『グレイテスト・ショーマン』っていう映画があって。その主題歌で『This Is Me』っていう歌があって、それを歌うシーンがあったんですね。で、『This Is Me』っていうのは、『グレイテスト・ショーマン』って、身体に障害がある人たちを見世物にしている興行師の話なんで、いろいろと問題になっている話なんですけども。その中で、ヒゲ女っていうヒゲの生えた女の人の役を演じている人が『This Is Me』を歌ったんですね。「どんなに差別されようと、これが私だから」っていう素晴らしい歌なんですけども。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)あの時、彼女が歌っているその後ろでバックコーラスとかダンサーで歌っている人たち、ほとんどライトが当たっていないんですけど。よく見ると、いわゆる普通だったらダンサーでいっぱいいる白人のきれいな男女はいないんですよ。

(山里亮太)ほう。

(町山智浩)アジア人、黒人、ラテン系、ヒジャブっていうヴェールをつけたイスラム系の人。髪の毛をレインボーカラー(虹色)にしたゲイらしい人とか。そういった、普通だったらダンサーとしてオーディションを受けた時に弾かれちゃうような人だけを集めているんですよ。

『This Is Me』

(山里亮太)へー!

(町山智浩)ものすごく太った人とか。でも、なにも言わないからわからないんです。よく見るとわかるっていう。

(山里亮太)へー! そうか。ボーカルの方、1回朝の情報番組に来て生で見ているから、「あの人だ!」ってそこばっかり見ちゃっていました。お会いしたんで。すごい気さくないい方でした。

(町山智浩)はいはいはい。あの人が歌っている後ろをよく見ると、そうなっていて。それは要するに弾かれちゃう人たち。除け者の人たちなんで。だから、ギレルモ・デル・トロが「怪獣、怪獣」って言っているんですけども、彼自身が怪獣を好きになった理由というのは、いじれらっ子だったからだってはっきり言っているわけですよ。直接的にいじめられたかどうかはわからないですけど、「居場所がなかった」って言っていて。メキシコ系なんだけど色が白くてちょっと太っていた。そうすると、やっぱりメキシコの人は精悍な人が好きだから。たくましくて、歌が上手くて、踊りが上手くて。それでスポーツができてって。でも、逆なんですよ。彼は。

(山里亮太)ああ、なるほど。

(町山智浩)引きこもって、日焼けもせずに怪獣とアニメばっかり見ているわけですから。「お前、なに?」って。居場所がない感じなんですよ。彼は。その中で彼は、「友達はテレビの中の怪獣だけだった」って言っていて。だから、怪獣というのは具体的な怪獣というよりは、やっぱり差別された者の象徴なんですよね。だから、『シェイプ・オブ・ウォーター』ではその半魚人の味方をする人たちは声が出ない人とゲイのおじいさんとか、黒人の女性の清掃員の人とか、そういう社会の中では見ないふりをされている人たちですよね。たとえば、廊下で掃除をしている女性に会った時、ちゃんとみんな挨拶をするか?って、挨拶をしないでみんな通りすぎるわけじゃないですか。そういう人たち。だから、デル・トロ監督はそれを「The Others」って。他所に外されている人たちっていう意味で言っていたんで、「そういった弾かれた人たちに対するラブレターとしてこの『シェイプ・オブ・ウォーター』という映画を作ったんだ」と言っているんで、今回全体がアカデミー賞はそういったことになっていて。

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)それは、無理やりやっているんじゃなくて、去年ヒットした映画がそんな映画ばっかりだったっていうことなんですよ。『ビック・シック』にしても『ゲット・アウト』にしてもそうだし。『ワンダーウーマン』も『ブラックパンサー』もそうだし。みんなそういう、いままでハリウッドが「ああ、その人は黒人だから出さないよ」とか「その人、太っているからダメ」とか。そうやって弾かれていた人たちを……「パキスタン人だから」とかね。「パキスタン人は絶対にヒーローになれないよ」って弾かれていた人たちを主役にした映画がバーン!ってヒットしたっていうことと重なっているんですよ。無理やりやっていないんです。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)それがヒットしたということは、それを客が求めていたという。『リメンバー・ミー』っていうアニメーションもメキシコ人しか出てこない。声の出演も全部メキシコ系の人たちの映画も大ヒットして。あれだって、大ギャンブルだったんです。「メキシコ人の映画なんてやって、ウケるのかよ? 当たるのかよ?」って言われていて。ところが、大当たりですよ。

町山智浩 映画『リメンバー・ミー』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、ピクサーのアニメーション映画『リメンバー・ミー』を紹介していました。 (山里亮太)アカデミー賞が……。 (町山智...

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、アカデミー賞をとったリー・アンクリッチという監督が言っていたのは、「世界中、どんな子供たちも映画とかテレビとかアニメを見ていて、自分が似ている人がいる社会にしようよ。どこかにいるようにしよう。だから、こういうメキシコ系の人を主役にするのはものすごく大事なことなんだ。それは代表だから。そういう子たちを象徴するものだから大事なんだ」と。「Representation」って言ったんですけど。ポリティカリー・コレクトとかとは別に、そういう子たちに「ここにいてもいいんだよ」っていうことを教えるためのものなんだって言っていましたね。

「Representation Matters」

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)あとは、『ビック・シック』のクメイルくんと『ブラックパンサー』のルピタ・ニョンゴちゃんがプレゼンターをやった時、「私たちはドリーマーを支持します」っていう。あれはアメリカでいま、「ドリーマー」と言われている、赤ちゃんの頃に親に連れられてアメリカに不法入国した人たちが80万人いるんですよ。その人たちが9月にトランプ大統領が「全員追い出す!」って言っているんですね。ところが、彼らは「ドリーマー(夢見る人)」というシステムに入ると、毎年仕事をしたり勉強をしたりしている内容や犯罪をしてないか?っていうのをチェックして、優秀な人だけドリーマーとしてアメリカにいられるという条件なのにもかかわらず、それをトランプ大統領は追い出そうとしているんです。

(海保知里)うーん。

(町山智浩)意味がないんですよ そんなことをしても何の意味もない。それに対して「我々はドリーマーを支持します」と(ルピタ・ニョンゴとクメイル・ナンジアニが)言って。その時に言っていたのは「なぜなら、ハリウッドというのは夢によって作られている。ドリームによってハリウッドがある。アメリカもドリーム(夢)の上に作られた国なんだ」って言っているんですよ。アメリカはアメリカンドリームという、一文なしで来た移民の人たちがアメリカで働けば、家を持てるぐらい豊かになれるという、そんな夢を持って来た移民の人たちの国なのに、それを壊すなよということで言っていたんですよね。

「We are Dreamers」

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)で、いま流れている歌も説明する時間がないんですけど。これ、『マーシャル 法廷を変えた男』っていう映画がありまして。その主題歌をコモンという人が歌っていて。これは『Stand Up For Something(立ち上がれ)』っていう歌なんですけども。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)これは初めての黒人の最高裁判事になったサーグッド・マーシャルの映画なんですが。主演は『ブラックパンサー』のチャドウィック・ボーズマンなんですけども。これを歌いながら、コモンというラッパーは「みんな、立ち上がれ! 移民のために立ち上がれ! 女性のために立ち上がれ!」って歌っていたんですけども、その後ろにずーっと並んでいた人たちは、たとえば子供を銃撃事件で殺されたお母さんで、銃の規制をやろうとしている人だとか。あと、アメリカ先住民の土地にトランプ大統領が石油のパイプラインを通そうとしているんですけど、それに反対してダコタからワシントンまで2400キロを歩いて行進した14才の女の子とか。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)シリアでロシア軍や政府軍による爆撃を食らって、ひどい惨状をツイッターで世界に知らせた8才の子とか。そういった人たちを後ろに呼んでいたんですけども、なんの説明もないからたぶん日本でアカデミー賞を見ていた人たちはまったく彼らが何なのか、わからなかったでしょう。彼らは戦っている人たちなんですよ。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)「この人たちはみんな、立ち上がっているんだ!」ってコモンは呼びかけたんです。というね、ちょっと話しきれなかったですけども、そんな感じです(笑)。もうとても時間がなかったです。すいませんでした。

(山里亮太)映画から変えられることってあるんですね。

(町山智浩)変えられないかもしれないけど、でも心の何処かに刻み込まれるだろうという。

(山里亮太)ですよね。特に今回はそれが多かった。象徴されるものが。

(海保知里)まだお話をうかがいたいところもあるので、エンディングまでお付き合いいただいてよろしいでしょうか?

(町山智浩)はい(笑)。

(中略)

(海保知里)私、WOWOWで授賞式を見ていたんですけども。町山さん、『シェイプ・オブ・ウォーター』が受賞した瞬間、ちょっとグググッと目頭が熱くなって?

(町山智浩)ひとごとなのに(笑)。自分はなにももらえないのに(笑)。

(海保知里)あの時ってどういう思いが駆け巡ったんですか?

(町山智浩)僕、その前に中島春雄さんの追悼があったんで。涙がこのぐらい、目のすぐ下まで上がっていたんで。あと1ミリで出るところだったんで、しょうがなかったですね。

(山里亮太)そこにさらに重なって。

(町山智浩)中島春雄さん、ゴジラの着ぐるみに入っていた方なんですけど、それをハリウッドがちゃんと追悼したというのは大変なことですよ。日本ではあまり認められてないですけど、ハリウッドではいま、モーションキャプチャーによる怪獣の動きが、アンディ・サーキスの『猿の惑星』であるとか、ダグ・ジョーンズの『シェイプ・オブ・ウォーター』とか。それの先駆者が中島春雄さんなんですから。世界で最初の怪獣着ぐるみアクターですよ。『ゴジラ』が世界最初の怪獣なんで、当たり前ですけども(笑)。

(海保知里)じゃあ、昨日の夜はかなりな宴が?

(町山智浩)もう怪獣酒場に行きたかったんですけど。それで、ピグモンとかカネゴンと一緒に酒が飲みたかったんですけど……俺が行くとまたいろいろと問題がありそうなんで、行けませんでしたね。

怪獣酒場

(海保知里)ああ、そうだったんですね!

(町山智浩)やっぱりね、行きたかったですね。怪獣酒場でバルタン星人と一緒に祝杯を交わしたかったですけどね。

(山里亮太)コップ、バルタン星人は持ちにくそうですね(笑)。

(町山智浩)コップ、バルタン星人はどうやって持つのかわからないですね(笑)。

(海保知里)はい。『たまむすび』、海保知里と……

(山里亮太)山里亮太と……

(海保知里)そして……

(町山智浩)町山でした。

(海保知里)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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