町山智浩 映画『リメンバー・ミー』を語る

町山智浩 映画『リメンバー・ミー』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、ピクサーのアニメーション映画『リメンバー・ミー』を紹介していました。

リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック

(山里亮太)アカデミー賞が……。

(町山智浩)そう。アカデミー賞で来ているんですよ。アカデミー賞のノミネート作品を紹介する番組の撮りにいま、来ているんですけども。今回、ご紹介する映画もアカデミー賞候補の中で最有力と言われているもので。アニメーション部門ですね。長編アニメーション部門の最有力候補の『リメンバー・ミー(原題:『Coco』)というタイトルの映画なんですけども。ちょっと音楽をどうぞ。

(町山智浩)はい。いま『リメンバー・ミー』の主題歌がかかっていますけども。これ、あれですよ。『アナと雪の女王』のスタッフが作った歌ですね。

(山里亮太)あ、へー!

(町山智浩)ロペス夫妻の曲なんですけども。

(山里亮太)また違った感じの。

(町山智浩)違った感じでしょう? これ、メキシコの音楽ですよ。

(山里亮太)そうですね。そんな感じですよね、なんか。

(海保知里)この明るい感じ。

(町山智浩)メキシカンな感じですけど。で、これはメキシコが舞台のアニメですね。主人公はミゲルくんっていう、写真がそこにあるんですけども。12才野男の子で。ギターの絵がポスターにあるように、音楽家になりたいんですよ。作詞・作曲でシンガー、歌手になりたいんですけども。彼の家、リヴェラ家っていうんですけども、音楽が禁止なんですよ。

主人公・ミゲル

Meet Miguel from Disney?Pixar's #Coco, in theatres November 2017!

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(海保知里)一切?

(町山智浩)一切音楽が禁止っていう、メキシコでは珍しいんですよ。音楽ばっかりですからね(笑)。

(山里亮太)ねえ。そういうイメージですもんね。

(町山智浩)そう。で、どうしてか?っていうと、ひいひいおじいさんが音楽家になりたくて、家を、奥さんと子供を捨てて出て行っちゃって帰ってこないからっていうことで、音楽はリヴェラ家の呪いなんだと。で、「音楽はやっちゃいけない」って言われているんですけど、このミゲルくんはどうしても歌が歌いたくて、屋根裏でこっそり隠れて、自作のギターを弾いていたりするんですね。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、そこがすごいなと思ったのは、CGなんですけども。これ、『トイ・ストーリー』のピクサーの映画なんですよ。『トイ・ストーリー3』のリー・アンクリッチ監督が監督をしているんですけど。これ、ギターを弾くところでちゃんと左手で弦を押さえて右手で弾くのとその音が完全に画面とシンクロしているんですね。

(山里亮太)へー!

(海保知里)ああ、適当じゃなくて、ちゃんと合わせて?

(町山智浩)適当じゃなくて、ちゃんとギターが、指の動きとかとちゃんとシンクロしていて。そこもすごいんですけども。さすがピクサーっていう感じなんですが。で、街でコンテストがあるんですよ。素人演芸コンテストみたいなのに出て歌手になりたいと思うんですけど、ギターがないんですね。壊されてしまって。というのは、この家、おばあちゃんがいまして。ひいおばあちゃんと普通のおばあちゃんがいるんですけど、おばあちゃんは「音楽なんてやるの、とんでもない!」みたいなことで、ダメなんですよ。禁止されて。で、こっそりとギターを手に入れようと思ったら、メキシコってすっごい大きいお墓があるんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)ほら、沖縄のお墓って家みたいなお墓じゃないですか。メキシコのお墓もお家みたいになっているんですよ。で、そこで彼が憧れている歌手がいるんですね。エルネスト・デラクルスという歌手がいて。その歌手のお墓に彼が持っていたギターが飾ってあるんですよ。で、お墓に忍び込んでそのギターを盗んでコンテストに出ようとするっていう話なんですよ。

(山里亮太)へー! うんうんうん。

(町山智浩)で、それはバチあたりでしょう? だから、地獄に落ちちゃうんですよ。ミゲルくんは。まあ、地獄っていうか死者の国に落っこちちゃう。あの世に落っこちちゃう。行きているのに落っこちちゃって、さあどうする?っていう話なんですよ。

(山里亮太)もう面白そうです!

(町山智浩)で、これね、死者の国というか、ちょうどその時がメキシコではお盆なんですよ。メキシコにもお盆があるんですね。

(海保知里)お盆ってアメリカにはないですよね? 感覚として、どうなんでしょう?

(町山智浩)あのね、お盆があるのは、だからアジアはありますよね。中国も日本も韓国もあるんですけど。まあ祖先崇拝っていうのがあるんで。祖先がお盆の時に帰ってくる。それでみんなでお祝いをしてお迎えするっていうのがあるじゃないですか。あれね、メキシコっていうか、いわゆる先住民の人たちにはあるんですって。

(海保知里)ああ、そうなんですね。

(町山智浩)やっぱりアジア系だからでしょうね。モンゴロイドだからだと思うんですけど。昔からあって。で、メキシコではそれを「死者の日」って言っているんですね。「ディア・デ・ロス・ムエルトス(Dia de Muertos)」という日があるんです。英語では「Day of the Dead」って言いますけども。で、ちょうどその時に日本とかと同じで、お墓にお花を供えて、おまんじゅうじゃなくてメキシコの食べ物をお供えして。で、迎え火を日本だと焚いたりするじゃないですか。お盆の日に。それと同じように、火じゃないんですけど……あ、お迎えのロウソクは焚くんですよ。で、お家には仏壇があるんですよ。

(海保知里)日本ですね(笑)。

(町山智浩)フフフ(笑)。ほとんど同じなんですけども。仏壇じゃないんですけども。仏教じゃないから。オフレンダって言って、亡くなった方の写真を飾って、まあお仏壇ですよね。

オフレンダ

(山里亮太)そうですね!

(町山智浩)そこにお迎えして。ただ、ちょっと違うのは、お墓から自分の家まで、お花の花びらを撒くんですよ。道に迷わないようにということで、マリーゴールドというお花の黄色い花びらを撒いて祖先を自分の家までお迎えするということをやるんで、ほとんど同じですよね。

(山里亮太)そうですよね。へー!

(町山智浩)だからすごいやっぱりアジア人なんだなっていう気がしますけども。先住民って。

(山里亮太)そうなるとまたより一層シンクロして見れるというか。話も入ってきやすいですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。で、死者の日っていまでも11月の頭にやるんですね。アメリカに住んでいるメキシコ系の人たちも。その時、ドクロをいっぱい飾るんですよ。お砂糖でできているお菓子のドクロを。食べられるですよ。それをもう街中に飾って死者をお迎えするんですけど。で、そのミゲルくんが死者の国に落ちると、みんなドクロになっていて。で、自分も死者の国でだんだんドクロ化していっちゃう。だから、このままだと彼が死んじゃうんですよ。

だから要するに仮死状態みたいな感じになっているから、そのまま帰れないと、そのまま永遠に戻ってこれない。なんとか戻るためには、その呪いを解いてもらわないとならないんですね。その呪いは要するに音楽をやっちゃった呪いだから、祖先の人に会って、「呪いが解けたよ」って言ってもらえなければ生きて地上に戻れないという話で、さあ、どうなる?っていう話なんですよ。

(山里亮太)うん!

(町山智浩)でね、これはその写真に出てくるんですけど。そこでヘクターっていう陽気な死者に会うんですが。この人ですね。

(山里亮太)はい。いまポスターの中央にいますけども。

(町山智浩)この人、明石家さんまさんにそっくりですよね!

(山里亮太)アハハハハッ! さんまさんとか、あとハリセンボンの箕輪はるかちゃんに似ていますね。

(海保知里)似てますね(笑)。

ヘクター

(町山智浩)そう。2人とも存命中なのに!(笑)。死者のような、ドクロなんですけども。そっくりなんですけども。彼、このヘクターはお盆に生きているところに帰りたいんですよ。でも、彼は帰れないんですよ。どうしてか?っていうと、死者の国と生きている人の国の間には入管があるんですよ。入管って、わかります? 空港にあるじゃないですか。そこでパスポートチェックをするじゃないですか。彼はパスポートを持っていないんですよ。

(山里亮太)ああー。

(町山智浩)で、パスポートって写真チェックをするじゃないですか。それはどういうことか?っていうと、このオフレンダっていうお仏壇に飾ってある写真がないと、通れないんですよ。

(海保知里)それがその写真になるんですね。

(町山智浩)写真になるんですよ。彼は家族から見捨てられてしまっていて。で、生きている人のところには帰れないんですよ。で、ミゲルくんと取引するんですよ。「俺が帰れるようにしてくれれば、お前を死者の国から助けてやるから」って言って、2人で冒険をするっていう話なんですよ。でね、この映画がアメリカでいま大ヒットしているだけじゃなくて、メキシコでも大ヒットしているんです。記録的なヒットをメキシコで飛ばしたということで。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)でね、この映画はかなりピクサーにとってはギャンブルだったんですよ。

(山里亮太)どういったところがですか?

(町山智浩)メキシコを舞台にして、メキシコ人の話だったということで。いままで、メキシコ系の人が撮った映画はあるんですよ。全くこの死者の国を扱った映画で『ブック・オブ・ライフ』っていう映画がアニメーションで3年ぐらい前に作られたんですけども。だからこれは、リー・アンクリッチ監督はドイツとユダヤ系の人なんですよ。で、アメリカ人の中で白人がやっぱりなんだかんだ言って50%以上いますから、その中で現在まだ30%にも達していないメキシコ系の人たちのドラマをやって、果たしてその30%を超えるお客さんが入るだろうか?っていうことでみんな心配だったんですけど、大ヒットしたんですね。

(山里亮太)ふーん!

(町山智浩)だから少数民族のことを描いても全然関係がないんだということですよ。だから、日本でやるなら、中国とか朝鮮系の人たちのドラマをやって当たるかどうか?っていうことなんですよ。全然当たったんで。一応ね、スーパーバイザーみたいな感じでメキシコ系の人たちがたくさん参加しているだけじゃなくて、ピクサーにエイドリアン・モリーナっていうメキシコ系の人がいて。その人が今回、共同監督をやってメキシコらしい……要するにこれ、白人の人たちが基本的に作るわけですね。あと、ピクサーだから中国、韓国、日本人もスタッフにいっぱいいるんで。そういう人たちがやって、でもメキシコ人の人から見たら「違うよ!」ってなったら、それはマズいと。

(海保知里)うん。

(町山智浩)で、ディズニーって昔から、結構そういうことをやっているんですよ。

(山里亮太)ああ、実際の人からしたら「これは違うよ」っていうのを。

(町山智浩)違うよっていうのが結構あるんですよ。だから『ムーラン』なんかそうですよ。中国を舞台にしているんですけど、やっぱりちょっと違うっていうのがあるわけですよ。そういうことを絶対にないようにするっていうことで、徹底的にメキシコの人たちの文化チェックを受けているんですけども。中でいちばんおかしいのは、この「音楽をやっちゃダメ!」っていうおばあちゃんがサンダルで人を攻撃するんですよ。

おばあちゃんのサンダルの意味

(山里亮太)はい(笑)。

(町山智浩)こう、ガンマンみたいにしてサンダルをここに入れていて、シュシュシュッ!ってサンダルをスピンさせてそれを投げたり。サンダルをこうやって突きつけたりとかして。ヌンチャクみたいにしてサンダルを使ったりして、サンダル使いの名手なんですよ。

(山里亮太)はいはいはい(笑)。

(町山智浩)これ、見ていてもなんだかわからないんですよ。なぜサンダルなのか?

(山里亮太)それにもちゃんと文化的な意味があるんですか?

(町山智浩)あるんですよ。これね、メキシコ系の人たちがスーパーバイザーで入って、「これはサンダルを使わせるべきだ!」って言ったんですよ。これね、スペイン語で「ラ・チャンクラ(la chancla)」っていうんですけども。メキシコ系の人たちは子供を躾けるのにサンダルを使うんです。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)そう。全然違うなと思って。サンダルを投げるとサンダルが回転して飛んでいって、子供にベシッ!って当たったりとか、サンダルで頭を叩いたりとか、ハリセンみたいにして使うらしいんですよ。

(海保知里)ハリセンですよね(笑)。

(町山智浩)そう。だからすごく知らなかったんですけど、メキシコ特有のそういった文化……サンダルで躾けるって僕も知らなかったですけども。

(山里亮太)細かいところまで、ちゃんと合わせてきているんですね。

(町山智浩)あとね、これ、色がすごいきれいでしょう?

(山里亮太)ポスターの色を見ても、すっごいきれい。

(町山智浩)死者の街がね。これも、ちゃんと調べて。メキシコには「アレブリヘ」っていう独特な人形文化みたいなのがあって。いろんな動物をまだらに塗ったり、色鮮やかに塗って飾り付けるんですよ。その色彩感覚でやっていて。

#mexico #メキシコ #artesaniamexicana #アルテサニア #alebrije #アレブリヘ

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だからここに、ミゲルくんと一緒にね、犬が死者の国に落ちちゃうんですけど。彼もそのアレブリヘみたいに色鮮やかな怪物に変化していくんですよ。だからすごいね、メキシコの人でなければできないような、すごく文化を反映させた、勘違いしていないものに一生懸命しているんですね。

(山里亮太)ふーん!

(町山智浩)だからやっぱりね、この間日本で公開された、日本を舞台にした『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』っていうね。

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(山里亮太)はいはい。ピエール瀧さんが声をやっていた。

(町山智浩)そうそう。ピエール瀧さんが。『アナ雪』でもやっていましたけども。ねえ。あれもすごい徹底的に調べて、日本の人が見ても「これは違うよ!」って言うところがないようにしたという。だからそれまでは、結構ひどかったんですよ。アメリカ映画とか、日本を舞台にしたものとかってね。忍者がいたりするんですよね。

(山里亮太)ああ、現代の話なのに(笑)。

(町山智浩)現代の話なのに。新幹線を忍者が襲ったりするっていうね。あと、『ウルヴァリン:SAMURAI』なんかそうですけど。ヤクザがものすごく強くて、新幹線の屋根の上のところをヤクザがやってきて。ミュータントよりも強いヤクザっていう(笑)。そういうバカげたところがあったりするわけですけども。

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(山里亮太)はいはい(笑)。

(町山智浩)そういうところはないんですよね。いまは、ものすごくみんな一生懸命調べて、もう誰も怒らないものになっているんですけど。ただね、この映画は結構怖いんですよ。これ、要するに死者の国にいるわけでしょう? 死者も、死ぬんですよ。

(山里亮太)えっ?

(海保知里)おかしくないですか?

死者の2度目の死

(町山智浩)死者、死ぬんですよ。で、具合が悪い人がいて。死者なのにもうすぐ死ぬっていう。あのね、死よりもさらにもう一段階下の死があるんです。で、それはどうも完全に消えちゃうらしいんですよ。お盆に帰ってこれなくなっちゃう。で、それはその人を生者、生きている人たちが誰も顧みなくなって。「あの人に会いたいな」とか「あの人、死んで悲しいな」とか思ってくれなくなったら、存在を完全に誰も覚えていなくなったら、死者も死ぬんです。

(海保知里)キツいな、その2回目の死。

(町山智浩)キツいですよ!

(山里亮太)本当に死ぬ時は人から忘れ去られた時だっていう。

(町山智浩)そう。それはキツいなと思って。逆に有名人は……この中に出てくる有名な歌手のデラクルスとか、あとフリーダ・カーロっていう実在のすごい画家がいるんですけども。それはすごく昔に亡くなったんですけど、元気なんですよ。死者の国の中で。

みんなが偉大な芸術家として賞賛し続けているから、いつまでも死者の国でも元気なんですけども、誰も身寄りがなくなった人とか、子孫がいない人とかもう忘れられた人が消えていく話で、すっげー怖くて。

(山里亮太)うわー……。

(町山智浩)うわっ、怖ええ!って思ったですけどね。

(山里亮太)たしかに……本当の死ってやつですね。

(町山智浩)本当の死が訪れるんだ、みたいなね。そのへんは結構論争を呼ぶところだなと思いましたね。

(山里亮太)いや、でもめちゃくちゃ日本人の僕らに馴染みが深いというか。

(町山智浩)そうなんですよ。だからお盆文化とかがあるところの人たちはすごくわかりやすい映画なんですよね。ただ、逆にキリスト教文化の人で、カトリックでもそうですけど、あんまり祖先崇拝ってしないんですよ。あんまりしないんですよ。だからすごく、なぜお墓参りをしなきゃいけないのか? とか、なぜお仏壇に祖先の霊をお祈りしなきゃいけないのかとかがわかる映画なんですよ。

(山里亮太)そうですよね。

(町山智浩)そう。君がそこにいるのは祖先がいたおかげだよ、みたいなね。だから、すごくアメリカ人にとっては異文化を知る映画で、あんまりそんなことを考えたことがない人たちも考えるようになっているという

(山里亮太)アメリカの方が全然、自分たちの文化じゃないから見ないとかじゃなくて、アメリカでもちゃんとそれは?

(町山智浩)だからそれはすごく危険だったんですよ。関係ない話だから。それこそ、前に芥川賞だか直木賞だかで日本に住んでいる難民の人のことを書いたら、審査員の1人が「そんなこと、知ったこっちゃねえ」って審査して。もうバカみたいなことを言った人がいましたけども。そうじゃなくて、映画というのは知らない人たちにも自分たちと同じ人間性があるんだということを知るための道具なんだということで。これは『セールスマン』という去年のアカデミー外国映画賞をとった作品の監督(アスガー・ファルハディ)が去年のアカデミー賞の授賞式で声明を出したんですよ。「映画というのは全然知ったこっちゃないような国の人も、実は我々と全く同じような考えを持っているんだっていうことを知るためのものなんですよ」と言ったんですけど、まさにそういう映画として非常にギャンブルだったんですけど、大当たりしましたね。

(山里亮太)うん! 捨てたもんじゃないですね。みんな。

(町山智浩)で、これは監督がインタビューで繰り返し言っているんですけども。「これはトランプ大統領に見てほしい」と。

(山里亮太)まあ、まさにいまメキシコの方々をね。入ってこないように壁を作るとか。

(町山智浩)壁を作るとか、あと「メキシコ人はレイプ魔とドラッグの売人ばっかりだ!」って言って。そうじゃないんだ!っていう。

(海保知里)ひどいことを……。

(山里亮太)ちゃんとご先祖さまのことを思い。

(町山智浩)そう! もう本当に誰とでも同じ、普通の優しい人たちがいっぱいいるんだってことを知ってほしいって、当たり前のことなんだよね。言わなきゃいけないのは。なんでそれをいちいち言わなきゃいけないの?っていう。

(山里亮太)大統領がディズニーとかピクサーに学ばなきゃいけないっていう(笑)。

(海保知里)フフフ(笑)。

(町山智浩)そう! そういうことをね、アニメーションの映画監督に説教されているという、どういう世の中なんだ?って思いますけどもね。

(山里亮太)トランプさん、見ますかね?

(町山智浩)まあ見ないでしょう。でもね、本当にそれはアメリカの、トランプに投票したような人たちも見たっていうことですよ。映画が当たったっていうことは。

(山里亮太)そうか!

(町山智浩)そう。それは素晴らしいなと思いますね。で、これ日本語タイトル『リメンバー・ミー』っていうのは「覚えていてほしい。僕を忘れないでいてほしい」っていう。でも、原題は『Coco』ってついています。「Coco」っていうのはこれ、ひいひいおばあちゃんの名前なんですよ。このミゲルくんの。で、これはアメリカの方の原題は『Coco』がメインタイトルになっているんですね。これを日本は『リメンバー・ミー』にしたんですけど……日本の方が正解だと僕は思います。

(海保知里)へー!

(山里亮太)そうなんですか。よく日本のタイトルをつけると、だいたい「違う、なんか違和感があるな」みたいなことが多い中。

(町山智浩)なんでひいひいおばあちゃんの名前「Coco」がタイトルなんだ?っていうヒントを与えちゃうから……(笑)。

(山里亮太)あっ、なるほど!

(町山智浩)これね、後半にあっと驚くどんでん返しがダンダンダンッ!って続いていくんですよ。

(山里亮太)わーっ! たまらん!

(町山智浩)ちょっとね、もうあとね、みんなボロボロ。ボロ泣き。もうずっと、涙を流すポイントが最低でも5回はあります。結構全身の水分を残らず絞ってくる映画ですね。

(海保知里)もうそれだけ泣けちゃう(笑)。

(町山智浩)すごい泣けちゃう。

(山里亮太)ここで紹介していただいたディズニー・ピクサー系の映画で事前に町山さんの話を聞いて見たやつは本当に、倍楽しめるから。

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(町山智浩)本当にね、これは日本の人は特に。

(山里亮太)刺さりますね。

(町山智浩)そう思います。「お墓参り、行こう」とか思いますよね。待ってくれている人がいるんだから……っていうね。

(山里亮太)本当ですね。想像しやすいですもんね。ああ、僕らが全然ばあちゃんのことを思わなかったら、向こうの死の世界でばあちゃんがどんどん弱っていってるんだっていう。

(町山智浩)そう。弱っていくんですよ。

(山里亮太)俺たちが思い出して、「会いたいな。ばあちゃん」ってならないと……。

(町山智浩)誰も思い出さないと、消えていっちゃうんですよ。

(山里亮太)いや、わかりやすい。子供とかにもお墓参りの意味がわかりますもんね。子供にもわかるようにできているんで、トランプさんもぜひ!

(海保知里)ぜひ(笑)。

(町山智浩)あと、やっぱりね、生きる上でみんなに死んだ後に覚えておいてもらえるように生きなきゃっていう気持ちにもなるんですよね。

(山里亮太)なるほど。生きる人にはそれを気づかせてくれる。

(町山智浩)そう。たった1人で生きているって、それは死んだ後悲しいぞという。まあ、死んだ後はよくわかんないですけども(笑)。

(山里亮太)いや、仏の道をわかりやすく教えていただけるという。ディズニーに、まさか。

(町山智浩)まあ、仏教の映画じゃないんですけども(笑)。という映画が『リメンバー・ミー(Coco)』でした。公開は……。

(海保知里)3月16日だそうです。

(町山智浩)みなさんでご覧になってください。

(海保知里)ありがとうございます。今日は『リメンバー・ミー』を紹介していただきました。町山さん、よかったらこのままエンディングまでよろしいですか?

(町山智浩)はい。わかりました。

(中略)

(海保知里)ということで、いまもコマーシャル中に町山さんからいろいろとお話をね。こうやって聞けるっていうのが至福ですよね。やまちゃんね。

(山里亮太)いや、でも見たいわ。この映画!

(町山智浩)泣けるんですよ。

(山里亮太)ねえ! 泣けると思う!

(町山智浩)もう、言えないですよね。もうブワーッ!って涙が出てきますから。

(山里亮太)あともう1個だけ、泣けるかもしれないけど、さんまさんに似てるっていうのを今日、事前に聞いちゃったから。さんまさんに見えちゃうっていうね(笑)。

(町山智浩)生きてるんですけどね(笑)。だからこれね、ミゲルくんが死者の国に行った時、生きている人だと間違われたら困るから、顔をドクロに塗るんですよ。でも、さんまさんは塗らなくてもたぶん間違われません!

(山里亮太)フハハハハッ!

(町山智浩)間違われない。「よく死んでるな!」って言われると思いますよ。

(山里亮太)アハハハハッ!

(町山智浩)よくわかんないですけども。

(山里亮太)いやー、一生元気だろうな。死の国に行っても、さんまさんなら。

(海保知里)そして絶対に一生、みんなから忘れられないという。そこもまた考えさせられましたが。

『リメンバー・ミー』感想トーク

山里亮太さんと町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で日本公開がスタートした『リメンバー・ミー』の感想トークをしていました。

(山里亮太)町山さん、『リメンバー・ミー』、見てきましたよ。よかったー。

(町山智浩)見ましたか?

(山里亮太)よかった。めちゃくちゃよかったです。本当に面白かった。

(町山智浩)どのぐらい泣いた?

(山里亮太)いや、僕ね、最後はずーっと泣きっぱなしです。最後。もう。

(町山智浩)ねえ。あれはでも、あの最後はどういうのが来るのかわかっていたけど。話の流れから、あれしかないじゃないですか。

(山里亮太)あれしかないですよね。けど……。

(町山智浩)わかっているのにね。

(山里亮太)で、それが来てくれたっていう涙もあるんですよ。「そうなのよ!」ってボロボロボロッて。

(町山智浩)ああ、そうそう。来た!っていう感じですよね。

(山里亮太)あれはいいよ。面白かった!

(海保知里)ちょっとこれは、早く見ないと。

(町山智浩)いや、でも面白いんだけど、僕はちょっと怖かったんですよ。

(山里亮太)怖い?

(町山智浩)紹介した時にも言ったんですけど、あの世界の中ではフリーダ・カーロさんとか有名人っていうか、みんなに歌が愛されていたり、芸術が愛されていたりする人ってずっと死の世界でも生き続けているじゃないですか。みんなが覚えているから。それと、子供たちがすごく多かったり、孫とかがずっとおじいちゃんの話をしてくれるような人たちはずっと生きているじゃないですか。

(山里亮太)はい。死の国でね。

(町山智浩)死者の世界では、生きているわけですよね。忘れられていない人たちが。でも、身寄りがない人とか、友達がいなかった人とか、なにも成し遂げなかった人たちはあの世界って二度死ぬんですよね。

(山里亮太)本当の死が待っているんですよね。その後に。

(海保知里)二度目の死。辛い……。

(町山智浩)あれはものすごい残酷な話だなと思って。

(山里亮太)いや、本当に僕も思いました。

(町山智浩)ゾッとしましたよ、僕。

(山里亮太)帰り道にずっとじいちゃんとかばあちゃんのことを思い出しましたから。僕。

(町山智浩)ああ、そうなんですよね。僕もやっぱり思い出しましたよ。

(山里亮太)本当にあの、町山さんもおっしゃってましたけども。我々、日本人にはドンピシャなというか。

(町山智浩)はい。あのね、メキシコの人たちの死者崇拝というか、祖先崇拝っていうのはアメリカ人、プロテスタントの人からはよくわからないものなんですよ。そういう習慣がないので。ところが、これがアメリカで大当たりして。アメリカ人の大半のプロテスタントの人は30%以上いるわけですけど、それには理解されないだろうと思ったら、すごく当たったんですよ。これが、アメリカで。

(山里亮太)すごいですよね。

(町山智浩)で、中国で大当たりですよ! お盆がある国だから(笑)。「お盆」じゃないけど、祖先崇拝の国ですよね。先祖を祀る棚があってね。だから、たぶん日本でも韓国とかでも大当たりすると思うんですよ。東南アジア全般は先祖を崇拝する風習があるんでね。だから面白いなと思いましたよ。アメリカ人ははじめてそれで「あっ!」って思ったんだと思います。

(山里亮太)なるほど。自分たちもご先祖さまをちょっと崇拝しようかなと。

(町山智浩)そう。あのね、宗教が強いと、死んだ人たちをみんな、神様に預けちゃうんですよ。「もう神様のところに行ったから、放っておく」みたいな感じになるんですけど。

(山里亮太)はいはい。たしかに。

(町山智浩)でも、そうじゃないところがね、面白いなと思いますね。

(山里亮太)いやー、ありがとうございます。楽しかったです。

(町山智浩)いやー、僕はいろいろと、やっぱり死んでからも忘れられないように生きなきゃならないのかとか、いろいろと考えますよね。

(山里亮太)いや、覚えてますよ。町山さんのことを。

(町山智浩)悪い意味でね!

(山里亮太)いやいや、どっちでも覚えてもらえて(笑)。

(町山智浩)悪い意味でね(笑)。たぶん地獄に行けっていうことだなって思いました(笑)。

(山里亮太)アハハハハハッ!

(町山智浩)まあ、地獄の方が楽しいかもしれないですね。もうやりたい放題で。悪い人ばっかりだから。

(山里亮太)アハハハハハッ! それこそ『マッドマックス』みたいな世界になっているんじゃないですか?

(町山智浩)『マッドマックス』みたいな世界かもしれないですね。そっちの方が楽しい人もいるでしょう。はい(笑)。

(海保知里)フフフ(笑)。

<書き起こしおわり>

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