町山智浩・水道橋博士・青柳拓『選挙と鬱』を語る

町山智浩・水道橋博士・青柳拓『選挙と鬱』を語る こねくと

町山智浩さん、水道橋博士さん、青柳拓さんが2025年6月24日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『選挙と鬱』について話していました。

(町山智浩)今日はゲストをスタジオに急にお呼びしました。いらっしゃってますね。水道橋博士と映画監督の青柳拓監督です。この2人が作った映画が今週土曜日公開です。『選挙と鬱』というドキュメンタリー映画なんですが。それを今日はご紹介します。博士と監督、よろしくお願いします。

(博士・青柳)よろしくお願いします。

(石山・でか美)よろしくお願いいたします!

(町山智浩)今日、青柳監督はTBSに入ること自体が生まれて初めてなんですって。

(青柳拓)お城みたいですごいですね!

(でか美ちゃん)そんなきらびやかではないですが(笑)。

(石山蓮華)水道橋博士にはですね、青柳監督にも『こねくと』宛てにコメントを頂戴したことがあるんですが。こうしてスタジオで顔を合わせてお話しさせてもらうのは初めてということで。

(町山智浩)蓮華さんは僕、初めてなんですけど。でか美ちゃんは2代目水道橋博士として、僕のキャリアを全部追っかけてきているという。

(でか美ちゃん)違う、違う。「やめて、やめて」って本人の前で言うのもあれですけど。私はですね、BS12トゥエルビという局でやっている『BOOKSTAND.TV』という本をご紹介する番組の2代目MCで。初代が博士なんですよ。で、なぜ私が2代目になったかというと、博士が政治家になったからという理由で。すごく私的にも『選挙と鬱』という作品はつながりを感じるもので。その『BOOKSTAND.TV』にも青柳監督に来ていただいたことあるので、私はお2人ともお会いしたことがあるという形で。ありがとうございます。

(町山智浩)で、その『選挙と鬱』っていう映画を作るきっかけになっているのは町山さんからなんですね。

(青柳拓)ねえ。

(石山蓮華)町山さん、そもそもなんですが私もね、『選挙と鬱』を実は試写で拝見したんですけれども。映画の話が出るきっかけが町山さんでしたね。

(町山智浩)そうですね。これ、何年前ですか? 2022年ですか。ちょうど今ぐらい? 6月ですよね。

(町山智浩)しかもまた、その3年後の今、参院選が始まるところですからね。

(町山智浩)そうですよね。で、参院選の選挙の時にね、博士が立候補することになって。博士と話をしていて。その時、月に1回ぐらい雑談してたんで。博士とZoomでね。で、「これはやっぱり全部、ドキュメンタリーを撮った方がいいんじゃないか。カメラを入れて全部、記録した方がいいんじゃないか」と僕が言って。で、青柳監督に直接、僕がお願いしたという。

(町山智浩)公募しておいて、指名しているんですよ。

(でか美ちゃん)その流れを見ていて「これはありなのか?」って思いましたけども。

(青柳拓)前作の『東京自転車節』っていう映画を見てくださってたんですよね。それで声をかけてくれる経緯があったということで。ありがとうございます。

(町山智浩)その時、まだ29歳だったから。で、一応制作会社がついてYouTubeをやっていたので、テレビのスタッフもいるんですよ。そしたら、その制作会社に乗り込んで「ファイナルカット権をください。制作費も全部、出します」って青柳さんが……。

(青柳拓)もう、そこはがっつり言わせていただきましたけど。それを受け入れてくださって。

(町山智浩)20代の子はこういうのを言うと、その制作会社の社長もちょうど60。僕も町山さんも60で。「その言やよし」ってなって。「それを待っていた!」っていうぐらいな感じで。

(青柳拓)普通はね、怒られるかもしれないんですけど。でも、やっぱり町山さんと博士ですからそこは分かってくださって。

(町山智浩)町山さん、しかも作品を見てたから、ちゃんとしたものができるっていうのは分かっていて。僕はまだ、見ていなかったから。でもそのうちに次第に彼が……俺、制作会社を持っている映画監督だと思っていたら、東中野の4畳半・風呂なしに住んでるっていうのが分かって。「なんちゅう大胆なことをしたんだ!」って。

(でか美ちゃん)そこのね、その選挙というものに対する興味について「奨学金を返さなきゃいけない」っていうその青柳監督の立場から始まるっていうのもすごくて。だからその4畳半っていうのも「そうか」って今、思いました。私からしたら、あんまり意外ではなかったです。

「550万円の奨学金を返さなきゃいけない」

(石山蓮華)奨学金が550万円あったっていう。今もそれ、ありますか?

(青柳拓)今もありますね。返していって。で、本当に大学生の2人に1人は奨学金を借りているという状況で。

(石山蓮華)私も借りています。

(町山智浩)僕も借りていました(笑)。

(青柳拓)結構、これは社会的な状況ですから。平均でだいたい300万ぐらい、借りてるっていう。

(石山蓮華)そうですね。私もだいたい300万円くらい、大学を卒業したタイミングで奨学金という借金を負っていたんですけれども。まあ、今ね、たまたま返せましたが。監督は町山さんからこうやって、そのきっかけでお話をいただいて。「撮るぞ!」ってなった時にどういう気持ちだったんですか?

(青柳拓)いや、だから僕は初めての選挙っていうか。選挙には興味という意識はなかったんです。そんなにね。

(町山智浩)あんまりポリティカルな人じゃなかったから。もちろん福祉とか、その辺のことはすごく作品としてテーマに挙げていたけど。政治とか政局とか、そういうことに興味のある人じゃなかったから。

(青柳拓)でもまあ、僕にとっては初めてのことだったけど。選挙ってそもそもね、どんな人でも当事者ですから。自分ごとに持ってこれれば絶対に面白い映画になるんだろうなっていうのはわかっていたので。もう自分に必然性があると思ってガッツンと行っていけば、その過程の獲得の姿が面白い映画になるんじゃないかなという風に思って決めました。

(町山智浩)『東京自転車節』っていう前作が疾走感のある映画、ロードムービーだったんですけど。そのカメラを持つスピードとか、ストーリーを転がしていく力っていうのがあるんだっていうのは見て分かってたから。あとはお任せで完全に24時間体制で1ヶ月半、チームの中にいましたね。

(石山蓮華)で、その青柳監督の溶け込む力というか。今ね、こうやってラジオでお話しされていてもニコニコとして。

(でか美ちゃん)口角がキュッと上がってね。笑顔以外の顔、見たことなくて私、逆に怖いんですよ。青柳監督(笑)。

(石山蓮華)私もね、この映画を試写で拝見して「ちょっと怖いな」と思ったのが、青柳さんがその人の良さというか、人当たりの柔らかさとこの真っすぐな視点っていうものでどこまでも真っすぐに入っていくっていうのがすごいなって。これ、トイレのシーンもあるんですよね。

(青柳拓)ええ、そうですね。それは本当に博士さんがやっぱり開いてくれたからですね。最初に本当に「24時間、誰でも、いつでも撮っていいよ。著作権フリーだから」って言ってくれたんですよ。僕、見ず知らずの人間ですよ? なのに、こうやって声をかけてくれて開いてくれたっていう。そこにやっぱり感謝というか、希望を持ってそこに貫いていったら最後、トイレのシーンというのがなんか、関係性の結実っていう感じで。それはかなり良かったなと。

(町山智浩)僕も「博士」っていう名前と、また鬱のイメージもあるからすごい気難しい人に見られるかもしれないけど。本当に僕、結構オープンなんですよ。人が泊まるのもいい。外国人が来るのもいい。どういう風にしても……自分のプライベートはいらないぐらいな感じなので。だから全然そこはね、「来るなら24時間、回して」っていう感じで。一緒に飲み食いし、最後はお風呂に行くっていうね。

(でか美ちゃん)でも私もコメントを寄せさせてもらいまして。映画を見てるんですけど。やっぱりドキュメンタリーとしてずっと追っていく中で、正直まさか当選するとはとか、その後の鬱の展開とかって、もう映画のネタバレというよりはちょっと皆さんね、博士のことを追っていたらご存知のことかと思うんですけど。

(町山智浩)タイトルを見ても分かるしね。

(でか美ちゃん)そのままですし。青柳監督からしたらちょっと、そのカメラ回しづらい状況っていうのが続いた気がしたんですよ。正直、本当に失礼だけど落選の方がオチがつく映画だったじゃないですか。最初の頃を考えたら。

(町山智浩)そうだと思っていましたね。

(でか美ちゃん)どうだったんですか?

(青柳拓)最初、そうでした。本当に博士……わかりますかね? あのミッキー・ロークの『レスラー』っていう映画があるんですけど。過去の栄光を極めたレスラーがもう一度、立ち上がって。ボロボロになりながらもリングに立つみたいな。それでラストは結構、悲しいラストというか、希望があるラストというか。結構、負けのラストっぽいんですよ。それをイメージしてたんですよね。博士の姿に。それでやっていたら、だんだん博士が本気になっていくっていうのが分かってきて。有権者の人たちと触れ合って。その過程を見ていくと「あれ、わからないぞ? これ、いけるんじゃないか?」みたいな。

(町山智浩)僕、比例区で出たんで地方の惨状を見るわけですよ。で、そこで話し合いが必ずあるので、そこをやっていくうちに本気スイッチが入りましたね。だから東京にいると……東京にももちろん、つらい立場の人も苦しい人もいるんだけど。もっともっとそれが広く見えて。しかも、こんなに惨状が広がっていて。それに対して政治家っていうのは何ができるのか?っていうことで、自分の中に使命を抱くようになって。それは途中からなっていますね。

(石山蓮華)じゃあ、最初は出馬はそのあるきっかけでしか?

(町山智浩)僕が裁判があったんで。その裁判、松井一郎さんとの裁判がスラップ裁判だということで。その裁判も可視化されてないので、それを絶対に多くの人に知ってほしいからっていう動機だけでした。

(石山蓮華)このスラップ裁判についての話が出ましたけど。町山さん、スラップ裁判を……反スラップ訴訟法っていうような法律っていうのは、アメリカにはあるんですか?

(町山智浩)アメリカが始まりなんで。「スラップ」っていう言葉自体がアメリカから出てきたんで。それは、だから大企業とか政治家をジャーナリストが批判した時に、そのジャーナリストを名誉毀損で訴えて黙らせるということを禁じる法律なんですね。で、連邦ではないんですけど、各州ごとにあって。だいたい、ほとんどの州で禁止されているんですけども、日本ではその法律がないので政治家がちょっとネットとかで批判されると、それを訴えて黙らせちゃうんですね。あと、大企業とかがね。で、「これはダメだ」っていう風にできないだろうか?っていう話をまず、ずいぶん前に博士としていたんですよ。「これは立法化するしかないよ」みたいな話があって。

(でか美ちゃん)あまりにも、権力とか何かを得ている人に偏っちゃいますもんね。それがまかり通るんだとしたらね。

(町山智浩)そうなんですよ。裁判って勝とうが負けようが、訴えること自体で……普通の人は訴えられたことでもうダメになっちゃうんですよ。

(石山蓮華)そうですね、裁判ってまあ、初めのタイミングってすごく勢いがあるというか。「絶対にこの相手に勝つんだ!」っていう気持ちがあっても、長期化していくとだんだんだんだんやっぱり気持ちの面でもお金の面でも、削げていく部分があると思うんですよね。

(町山智浩)あと、タレントだったら訴えられたことによって「番組に出ることを自粛してください」とか、なるんですね。しかも、権力者に対してやってる時は「これは政治的な問題になってますから」っていうのでレギュラーを打ち切られるっていうこともあったし。まあ、それも続くから弁護士費用なんかもすごくかかるし。これ、ごく一般の普通の人が急にこういうことをやられるようになったら……その可能性もあったんですね。僕のツイートをリツイートした人、「その4000人の人も訴える」っていうような脅しもあったので。それはダメだっていうことで、そのことを知らしめたいっていうのが最初の動機ですね。

(石山蓮華)でもこうどんどんどんどん変わっていった様子をこの青柳さんがカメラに収めて。で、その完成した映画っていうのをご覧になって、町山さんはどういう感想を持ちましたか?

(町山智浩)2年前に一度、完成しましたからね。

(青柳拓)でも町山さん、出演者ですからね。

(町山智浩)しかもハッピーエンドで終わっていたんですよ。

2年前に一度、完成していた

(町山智浩)だから選挙が……最初、要するに撮っているわけじゃないですか。で、最初は勝ち目がなかったんだけども「勝てる!」っていう方向が出てきたわけですよ。いろいろと。で、「これはいける!」と思って。それで開票の時に僕、博士と話してるんですよ。それを回しているんですよ。青柳監督がその現場を。で、当確が出た瞬間、僕は博士と話しているんですよ。

(石山蓮華)映画で見ましたよ。

(町山智浩)その超クライマックスにいたんでね、「奇跡ってあるな」と思いましたね。本当に。

(町山智浩)それで大ハッピーエンドで終わるはずだったんですよ。

(町山智浩)で、この映画は1回、完成してるんです。実は。

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