宇多丸さんがTBSラジオ『タマフル』の中でNHK FMで放送され、自身がホストを務めた番組『今日は一日”RAP”三昧』についてトーク。高橋芳朗さん、古川耕さんとともに番組を振り返っていました。
(宇多丸)で、その(お正月の)超ヒマなところから急に、先週の放送が始まって翌日、島根県松江。ライムスターとしてはライブ初上陸となりましたが、島根県松江でライブをやり、その翌日に東京に帰ってきて、すいませんね。他局の話ですけども成人の日、NHK FMでお昼の12時15分から10時間ほど、『今日は一日○○三昧』っていう……まあ『アイドル三昧』とか『プログレ三昧』とかもあるんですか? 『メタル三昧』とかね、人気企画があるらしいですけど、それの『”RAP”三昧』。その10時間の生放送を司会として私、朝からやってきた。
要するに、一生でいちばんヒマなところから、ここ数年の中でもこんなに忙しかったことがないなんていう、そういう数日になっちゃって。すごい体調が悪くなってしまったぐらいだったということで。さあ、そういうことで本日は11時台、ゲストにも登場していただきます高橋芳朗さん。この『”RAP”三昧』を手伝っていただきましたので、この時間からお話に参加していただきたいと思おいます。
(高橋芳朗)こんばんは。高橋芳朗です。よろしくお願いします。
(宇多丸)TBSラジオお聞きの方には説明不要。『HAPPY SAD』もそうですし、『TOP5』もそうですし、『ジェーン・スー生活は踊る』もそうです。でも、『ウィークエンド・シャッフル』は久しぶりじゃないですか? これは。
(高橋芳朗)去年の夏ぐらい? ジェーン・スーと一緒に相談に答えて僕が選曲するやつ。あれ以来ですね。
(宇多丸)まあNHKではお世話になりました。メールをいただきまして。53才女性の方なんですけども、(メールを読む)「他局の感想で申し訳ないのですが、NHK FMのラップの10時間番組、本当に面白かったです。ノートに書きながら聞きました。ラップがどういうものなのかもはじめてわかりました。楽しくてあっという間の10時間でした。宇多丸さんにしかできませんね。芳朗さんもいて、TBSラジオ感が半端なかったです」と。まあ僕と、高橋芳朗くんと、あとDJ YANATAKE。ヤナタケくんがずーっと音出しをひっきりなしに。最初から最後までずーっと音出しを担当したりして。
(高橋芳朗)「日本ヒップホップ史のフィクサー」ですね。
(宇多丸)そして渡辺志保さん。本当は渡辺志保さんは途中のスラング解説で出てもらう予定だったんですけど、やっぱり最近のヒップホップはね。ここんところの近いヒップホップは志保さんがいちばん詳しいから。
(高橋芳朗)遊びに来ていたから、引きずり込んで。
(宇多丸)しゃべれるから。またNHK映えするじゃないですか。あのしゃべりが。ということで、お疲れ様でした。
(高橋芳朗)お疲れ様でした!
(宇多丸)ねえ。そしてそれを家で聞いていた構成作家の古川耕が向いにいます。
(古川耕)どうも。古川でーす。
(宇多丸)この僕とヨシくんと古川さんって、『Blast』っていうヒップホップ専門誌時代から一緒に仕事したりとか、キャッキャすることが多かったんですけども。古川さんから終わってすぐね、「よかったです」みたいなメールが入って。聞いていただいていたわけですね。
(古川耕)はい。仕事もあったんで全部、フルでは聞けていなかったんですけども。でも、予定していた仕事が半分もできなかったぐらい、あの日は持っていかれましたね。
(高橋芳朗)1回つけたら、ちょっと消せないね。
(宇多丸)だし、情報量がね、ながら聞きできるような……普段の『○○三昧』は1ジャンルで、要はリクエストに応えるっていう。
(高橋芳朗)基本はリクエスト番組なんですよ。
(宇多丸)なんだけど、もう俺に最初に依頼が来た時には「”RAP”三昧です」って言われて、「ああ、やります、やります」って。で、俺の中でこういう感じの構成でやるって、放送したやつに近いようなビジョンが浮かんだんだけど。最初は俺、英語のラップ中心だと思っていたんですよね。アメリカのラップ。そしたら、「いや、日本語ラップで……」「ええっ? 日本語ラップで10時間はキツくないっすか?」みたいな。まあ、別にできる。曲数はあるけど……まあ、聞くに堪えないようなことを言っている曲も多いんで(笑)。
(高橋・古川)フハハハハッ!
(宇多丸)「NHKでかけるのには……」とか。あと、僕的には日本のヒップホップとアメリカのヒップホップはやっぱりパラレルで進化してきたものだし。「最初のなんで、やっぱり歴史の説明とかをするにあたって、どちらかと言うとアメリカのラップの歴史の説明からしたいんですけど」みたいなことを言って。そこで、「じゃあよろしくお願いします。それでいいです。ぜひぜひ」なんてなって。そこでもう、「っつっても俺、よくわかんないんで。この2人を連れてくればもう番組ができるんで」っていうので、高橋芳朗くんとヤナタケさんにお声がけして。もう実際にそうでしたよ。ヤナタケ、ヨシくん、そして志保ちゃんがいたら、もう俺ははっきり言って座って「ほうほう! そうですよね! ありました、ありました! 来ました、来ました! 出ました!」って(笑)。
(高橋芳朗)フフフ(笑)。たまにね、「2パックとは実際に会っています」とかね。
(宇多丸)たまに、「本人に聞いた話なんだけど……」って。ちょいちょいそういうのが入るという。
(古川耕)前半のその連発、ヤバかったっすね(笑)。
(宇多丸)うん。前半はね、僕、外タレに直でインタビューとか、昔いっぱいしていたんでね。まあそんなこんなで、でもよかったですよね。あれね、なかなかね。自分らで言うのも何ですけども。
(高橋芳朗)そうね。まあでも、いろいろ発見も多かったですよ。NHKのね、でっかいスタジオでやって。ちょっと体育館みたいな広さなんだよね。
(宇多丸)そう。ちょっとやそっとの広さじゃないね。ちょっとした演奏会っていうか、たぶんオーケストレーションがそれなりに入ってもできるような、そんぐらいの広さがあって。そこにパーテーションを立ててDJブースを作ってやったんですけど。
(高橋芳朗)で、バカデカいスピーカーでシュガーヒル・ギャングからミーゴスまで聞いていくわけですよ。
(宇多丸)っていうか、シュガーヒル・ギャングどころじゃないよ。その前の要は1973年8月11日、ウエストブロンクス、セジウィック通り1520番地の……って。もうヒップホップの誕生日からはじめて。で、インクレディブル・ボンゴ・バンドの『Apache』。ヒップホップの国家と言われている曲の(DJ YANATAKEによる)2枚使いから。そっからですからね!
Incredible Bongo Band『Apache』
(高橋芳朗)ブレイクの誕生からやっていますから。
(宇多丸)たぶんそんへんの半可通のクソトーシロがやるヒップホップ特集とかは『Rapper’s Delight』とかそういうところから始めるんだけどね。そういうわけにはいかないじゃない?
(高橋芳朗)フフフ(笑)。
(宇多丸)だからクール・ハークからミーゴスまでですよ。
(古川耕)44年ぐらいの歴史を一気にズバッと行ったというね。
(宇多丸)『咲坂と桃内のごきげんいかが1・2・3』からBAD HOPまでですよ。というね。
(高橋芳朗)ねえ。
(宇多丸)まあということで、10時間はあっという間っちゃああっという間だったんですけど。特にやっぱり2000年代以降のヒップホップの一大激変があって。ラップ・ヒップホップの音楽像の。そこを改めて……もちろん僕らもリアルタイムで聞いているし、親しんできてはいるけど、改めてマップを書くというか。
(高橋芳朗)あのへんはまだちょっと整理されきっていないところがあるし。もう『Blast』とかも休刊になっちゃったから。メディアがなかったからね。
改めてマップを書く
(宇多丸)専門誌がなくなっちゃったから。そうなのよ。まあちょいちょいディスクガイドみたいなのはあって、そういうのを読めばわかるんだけど。改めてキャッチーなというか、僕ら自身も勉強しながら、初心者というかラップを聞いてない人にもなんとかわかるような形で……ってやっていったことで。僕もね、改めてマップを書いたら、たとえばいまのトラップ的なサウンドが、なんでこういうことになっていったか?っていうのがちゃんと順序だてて見ると、「ああ、まあそうだよね」っていう。ちゃんと進化の系統図の流れで。しかも割と、トラップは突然出てきたわけじゃなくて、結構さ、ここ10何年かの一連の流れの必然としてなっているっていう感じだからね。
(高橋芳朗)最近よくね、「ベテランと若手が断絶している」とか言われているけど、流れで聞くと全然そんなことはないんですよ。
(宇多丸)そんなことはないですし。売れ方の構造とかも、もちろんインターネット以降の「新しい」売れ方ってあるけど。でもそれって、主戦場がインターネットに変わったというだけで、構造そのものは「ああ、やっぱりでも昔ながらでもあるよね」とかさ。要するに、古くて新しいし、新しいけど古いし。両方っていうのがあって。僕もだから改めて飲み込めて、大変良かったです。
(高橋芳朗)あのへんはでもね、まとめ甲斐があったというか。話していてもすごい楽しかったですね。
(宇多丸)あとやっぱりね、最後にBAD HOPがスタジオライブをドーン! とか。あと、NHKのスタジオに漢くんが来るとピリッとするなとかね。
あと、基本的にはヤナタケががんばって、アメリカのラップのクリーンバージョン(放送禁止用語抜きバージョン)を買い集めてくれたんですよね。買い集めてくれたんだけど、やっぱりリクエストに応えていく過程とかでちょいちょい、「思いっきり出とるやないけ! Fワード、ビンビンやないか!」みたいな瞬間があったりとか(笑)。あと、日本語ラップもさ、さっき「聞くに堪えないフレーズ」って言ったけどさ。『人間発電所』とかさ、結構デミさん(NIPPS)のバースの……。
(高橋芳朗)そのまま行っちゃったもんね(笑)。
(宇多丸)「そっちの方がよっぽど問題だろ?」みたいな(笑)。
(古川耕)MS CRUも「この曲(『宿ノ斜塔』)、かけるんだ?」って驚きもありましたね(笑)。
(高橋芳朗)いやー、緊張しましたね!
(宇多丸)とかね、石田さん(ECD)も『Pico Curie』だったりとかね。
(高橋芳朗)うんうん。
(宇多丸)でもやっぱりあえてそこは、要はもうね、二度やれるとも思ってませんというかね。もう出禁覚悟でやれることはやり切るという。でもまあ、大変ご好評を頂いていて。情報量もめちゃめちゃ詰まっていて、聞き返せないというか、「アーカイブ化してほしい」なんて声もあるぐらいなですけど……本にするの、しないのっていう話もちょっとね。
(高橋芳朗)そういう話もいただいていますよね。
(古川耕)台本がだって、すごい文字数だったんでしょう?
(高橋芳朗)もう僕の言うアメリカのヒップホップパートだけでも、台本が2万字とか……。
(古川耕)台本の文字量じゃないもん。
(宇多丸)でもね、この2人の台本 a.k.a ヒップホップ歴史本が台本だから、まあもう楽なもんですよ。だからまあ、なんて言うの? 「座組みの勝利」っていうの? まあ、その座を組んだのは俺なわけで……(笑)。
(高橋芳朗)そこに着地するのかよ(笑)。
(宇多丸)ねえ。そんなこんなで、非常に楽しい回でございまして。
(高橋芳朗)(放送日 1月8日は)成人の日で、トレンド1位になりましたからね。「#zanmai」が。
(古川耕)だから我々の番組でもまあ、歴史を通史として語るには、逆に言うとあのぐらいのボリューム感が必要だったんだね。
(宇多丸)10時間なんか、めちゃくちゃ忙しかったっていうかさ。
(高橋芳朗)駆け足、駆け足で。
とにかく駆け足の10時間
(古川耕)始まって1時間で、「今日は時間がないから」って言っていたから(笑)。ずーっと言っていたから、「なに、これ?」って思って。
(宇多丸)アハハハハッ! しょうがないよ。だって計算上、ヒップホップが生まれて、アメリカのヒップホップはもう45年たっているんですよ。で、日本のヒップホップもまあ30年としましょう。そしたら75年あるわけだから、1時間に7.5年進まなきゃいけないわけじゃない? 1時間に7.5年ですよ。んなもん、10分に(1年分の)1曲じゃあ足りないわけですから。
(古川耕)やる側の意識としては。
(高橋芳朗)グランドマスター・フラッシュの『The Message』がかかっている中で、「時間ねえ! 時間ねえ!」って言っていたから(笑)。
(古川耕)そうそうそう(笑)。こっち側からしたら、キョトーンですよ。「なにしようとしてんの、これ?」っていう(笑)。
(宇多丸)だから最初のパートのところとか、まあラップ、ヒップホップのレコードがないという問題もあるけど、ほぼほぼ俺がずーっと、ずーっと立て板に水で切れ目なしで歴史の解説をするみたいなくだりがあってね。たぶん聞いている人は何事かと思ったと思うんだけど……ああするしかないっていうことなんですよね。
(高橋芳朗)でも、コマーシャルがないっていうことがこんなに辛いことか!っていうね。
(宇多丸)そう! あのね、NHKは容赦ねえよ。こうやって、「ああ、パートが終わった。続いて、その頃90年代はどうだったか?」「(ジングル音・シュワーン)」「はい、その頃……」って……マジか!
(高橋芳朗)5秒ぐらいのジングルを挟んだだけみたいな(笑)。
(古川耕)ラジオ好きな人からすると、ジングルの短さにいちばん鬼を感じるんですよね。「もうちょっとゆとり、一息つける長さのジングルってあるんじゃないの?」って思いながら聞いていて。
(宇多丸)いやー、まあでもいろんな意味でね、長年……もちろんラジオをやってきたこともそうですし、『Front/Blast』時代からいろいろと、ヒップホップというかこういう音楽や文化の啓蒙に我々、みな努めてきたわけじゃないですか。それのひとつのまた、マイルストーンになったかな? という感じです。
(高橋芳朗)金字塔ですよ。
(宇多丸)金字塔。金字塔? 言っちゃいますか? 自分で「金字塔」って。
(高橋芳朗)はい。あ、自分で言っちゃったね。金字塔。
(古川耕)金字塔だと思いますよ。
(宇多丸)金字塔だろ、バカヤロー! んなもんね、ギャラクシー賞……あれ? ギャラクシー賞ってあれは民放なんだっけ? NHKは入っていないんだっけ?
(古川耕)民放だけという話もありますね。
(高橋芳朗)あ、番組としてもらおうとしてる?
(宇多丸)そういうところはやっぱ……ねえ。俺がもしこれ、TBSとかでやっていたらギャラクシー賞。もう、ものすごい鼻息。めっちゃ鼻息荒いですよね。もうそれは、権威がほしい!
(高橋芳朗)フハハハハッ!
(宇多丸)だって、しょうがねえじゃん。金ねえ、数字ねえ、あとは権威しかねえんだから。こんなもんは! 金ねえ、数字ねえ、人気ねえ。こんなもん、しょうがねえから。
(高橋芳朗)こんな話に来るとは。着地するとは思わなかった。
(古川耕)うちの番組としてもだから、あれを踏まえた上でさらに先に行くような特集とかね、やれたらいいなとは思っているんですけどね。さすがにあの歴史をもう1回、おさらいするっていうことは……。
(高橋芳朗)毎年やればいいんですよ。
(宇多丸)まあね。「いろんな切り口、他にもあるよね」って話もしていましたけども。まあ、この番組のリスナーの方、あんまりヒップホップ・ラップに興味なくても、とは言え、まあちょっと入ってきちゃっているというか。だいぶ高い方だと思いますよ。最初、リクエストをいっぱいいただいてさ。「気がきいたリクエストを……」ってあったけど、最初とかさ、いろんな方のリクエストを見てさ。申し訳ないんだけど、「……こういうことじゃねえんだよな」って(笑)。
(古川耕)パーソナリティーが厳しすぎるからね。審美眼がね。
(宇多丸)「そういうトーシロの浅い選曲とかさ……」みたいな。アハハハハッ! それがリクエストってもんだろ!っていうね。
(高橋芳朗)極端なんだよね。かと思えば、Tall Dark And Handsomeとか来たりね。
Tall Dark And Handsome『Tall Dark And Handsome』
(宇多丸)ねえ! Tall Dark And Handsome。「Tall Dark And Handsomeのトールの身長、何センチか知ってますか?」って入ってきたのがDJ JINっていう男ですから。
(高橋芳朗)フハハハハッ!
(宇多丸)大学1年生の時に。で、それを言われた俺は、答える前に「てめえ、見てきたのかよ! なにから得た知識なんだよ、それは!」っていうね、こういうのもありましたけどね。
(高橋芳朗)ちなみにギャラクシー賞はNHKでも受賞できるということで。
(宇多丸)あっ!
(高橋芳朗)キタッ!
(宇多丸)じゃあちょっとNHK……来たでしょう。これはよろしくお願いします(笑)。
(古川耕)赤坂側の人間としては、なかなか心中複雑なところ、ございますけどね。
(宇多丸)いやいや、ほら、社会的意義みたいなのが入ると取りやすいとか、あるじゃないですか。ギャラクシー賞。
(古川耕)やめようよ。「ギャラクシー賞はこうすると取りやすい」とか……。
(高橋・宇多丸)フハハハハッ!
(古川耕)そんなことばっかしてるよ!
(宇多丸)こういうことを言ってるから、10年間も縁がなかったという問題がありますけどね。ということで、高橋芳朗さんも後ほど。だいぶテンションが変わりまして、『ブラスト公論』の面々と一緒に「塾と恋特集」を。まあ、ある意味あなたは「恋」ですからね。「恋」の本領でしょう?
(高橋芳朗)まあ、ケタケタ笑っていればいいんでしょ? これは(笑)。
(宇多丸)いやいや、前原猛さんを御するというあなた、重要な役目がありますから。お願いしますよ。
(高橋芳朗)はい……。
(宇多丸)なんで黙ってるの? フフフ(笑)。よろしくお願いします。
(高橋芳朗)いや、楽しみだなと思って。よろしくお願いします。
<書き起こしおわり>